ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 6月ー③

6月9日(火)

 

瞼が重い……。

 

そう思いながら私はアラームをセットしておいた携帯電話に手を伸ばした。

 

ベッドの上で座り窓の外を見ると朝日が差し込んでいるのがぼんやりと分かる。私はベッドに座った状態で部屋に備え付けてある鏡を見る、髪はあっちこっちに跳ねてしまっていて、セットするのに時間を要することが見て取れる。

 

しかし、今日の私にそのような作業は出来そうにない。

 

それほどまでに身体の疲労感がハンパない。

 

「学校に、行かなきゃ……。……でも、無理」

 

私はそう呟いてベッドに横になる。そしてアラームを止めるために手で握った携帯電話の電話帳から担任の鳥海先生の番号を探し出し電話を掛ける。

 

学校を休む旨を伝えるために。

 

 

 

それからしばらくの間、まどろみつつベッドでごろごろ転がりながら過ごしていたが、空腹に負け起きあがった。起きあがったものの疲労感は今朝とあまり変わっておらず、身体の調子は絶不調。

 

私は以前、通販で頼んだツカレトレールを服用して、しばらく待つ。

 

すると少し身体が軽くなった気がして、ベッドから足を下ろす。

 

「……あ、割と効いたかも」

 

そんなことを呟きながら私は立ち上がり、壁を伝いながら部屋の外に出る。廊下は静まり返っていて人の気配はない。私は手すりを使い、階段を一段一段ゆっくりと降りた。

 

想像していた通り、ラウンジに人影はなく、電気も消されており昼間とはいえ薄暗かった。いつもの調子であれば電気をつけにいくが、今日の私にそんな元気はなく台所へ足を向ける。

 

自分で調理する気力もないので、果物でもあればいいなぁと思いながら冷蔵庫を開ける。

 

すると、ちょっと深めの皿が寮にいる人数分用意されラップが掛けられていた。

 

その内のひとつを手に取って、手近の台に置いて冷蔵庫を閉じると、扉にメモ用紙が貼られていることに今更ながら気付く。

 

『リンゴのリゾットです。冷蔵庫に入っている粉チーズと用意してある黒コショウをお好みに合わせて乗せ、電子レンジでチンして食べてください。総司』

 

私の疲れでぼやけていた視界が、涙でさらにぼやけた。

 

 

 

しばらくの間、ラウンジにてテレビを見ながら過ごしていると、ゆかりや順平、優ちゃんが降りてきた。皆、学校に行っていた訳ではなく死んだように眠りについていただけのようだ。

 

「湊っち、タフだなー」

 

「まだ寝ていたかったんだけど、空腹には負けたわ。湊、何か食べる物ある?」

 

順平とゆかりがそれぞれ口にしながら私の向かいのソファに座る。

 

優ちゃんはふらふらとした足取りで私の隣まで来るとソファに倒れ込んだ。耳を澄ますと『きゅるきゅる』と可愛らしいお腹の虫が大合唱している。

 

「総司くんが作っていったリゾットが冷蔵庫に入っているよ。味は言わなくてもいいよね?」

 

 

大分、日が傾きかけた頃。寮の扉が開く音がしたためラウンジで思い思いに過ごしていた私たちが玄関を見ると、桐条先輩と真田先輩が立っていた。

 

「どうした?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして」

 

「明彦、彼らは私たちが学校に行っていたことを驚いているんだ」

 

桐条先輩の言うとおり、私たちは昨夜の激戦で心身ボロボロだったはず。

 

特に3年生の2人は寮に着いた途端、動けなくなった私たちをそれぞれの部屋まで運んでベッドに寝かすところまでしてくれたのだ。疲労度で言えば、私たちよりも辛いはずなのに。

 

「昨夜、お前たちを部屋に運び入れた後、鳴上兄が降りてきて、疲労回復に良いからと料理を作ってくれたんだ。出された料理に美鶴は終始、首を傾げていたが、これを見ろ」

 

そう言って真田先輩は鞄を床に置いて、その場でシャドーボクシングをして見せる。両手から繰り出されるパンチは空気を切るようなキレのあるパンチで……。

 

「って、真田サン!左手はもう大丈夫なんスか!?」

 

順平が驚愕の表情で立ち上がって叫ぶ。エンペラーの攻撃を受け、完全に使い物にならなくなっていたはずの真田先輩の左手。そんな事実はなかったかのように、真田先輩は元気な姿を私たちに見せつける。

 

「ああ、すこぶる快調だ。……とはいっても完全ではないがな」

 

「そうなんスか」

 

そう言って真田先輩は鞄を拾った後、階段を2段飛ばしで軽快に上がっていく。桐条先輩は玄関傍の受付台に鞄を置いた後、近くに来ていたゆかりの質問に答えていた。

 

「桐条先輩は、どうして首を傾げたんですか?」

 

「いや、何。大したことではないんだ。……ただ鳴上はどこからあの食材を持ってきたのかと思って」

 

「何かおかしなことでもあるんですか?」

 

「寮の冷蔵庫の中にはカニや豚肉は無かったはずなんだ。あれば、昨夜の夕食の際に使われているはずだから、それ以降に買いに行ったことになる。だが、それはありえないだろう?」

 

何もない所から食材が出てくることなどありえない。だから、先日の焼き魚定食の時も桐条先輩は首を傾げていたのか。私も2人と一緒に悩み始めたのだが、隣で話を聞いていた優ちゃんが意外な答えを出した。

 

「たぶん、兄さんがヘルプを出したんだと思いますよ。『食材がないので、何かありませんか』って」

 

「どういうこと?」

 

玄関近くで話し合っていた2人と、興味なさそうに耳を傾けていた順平も身を乗り出して優ちゃんの話しの続きを待つ。

 

「先輩方が思っている数倍、兄さんの交友関係は凄いってことです。漁業関係者に知り合いがいてもおかしくないんですよ、兄さんの場合。前聞いた時は、とある市議会議員秘書の人とこの国の未来について熱く語ったって言っていたし」

 

「その話、マジ?」

 

順平は驚きからか口を半開きにして、頬を引き攣らせている。

 

ゆかりは考えるのを放棄したようで、別の話題を桐条先輩に振っている。

 

桐条先輩も優ちゃんの説明で落とし所を見つけたのか、ゆかりから振られた話題について答え、また首を傾げている。ゆかりはファッション系のことを話しているようだが、桐条先輩の頭の上にクエスチョンマークが飛んでいるのを幻視できるくらい、彼女は困惑しているようだ。

 

視線を優ちゃんに戻すと順平と総司くんの知り合いについて盛り上がっている。

 

従妹の幼稚園児はともかく、アートと称して武器を作る鍛冶職人、神社に棲みついているキツネ、世捨て人の僧侶、二十代ながら会社を起業した額に十字の傷がある社長、こだわりの一杯を作る元不良のラーメン屋とか、バラエティに富んでいますなぁ。

 

「あとは……魚を上げると喜ぶ白い着物の幽霊さんかな。……えっと、この写真の」

 

そう言って優ちゃんが見せて来たのは、いつかの怪談話でゆかりを追い詰めた心霊写真だった。

 

「優ちゃん、生きている人の写真を『心霊写真』って偽ったら駄目じゃない」

 

「え、魚を上げると消えちゃうんですよ。人であるはずないじゃないですか」

 

「「え?」」

 

私と順平は顔を見合わせて、再度優ちゃんに顔を向けた。

 

「だから、この写真の人は正真正銘の幽霊さんなんですって。小さい頃に叔父さんの家へ遊びに行った時に兄さんに連れられて行った先の神社でこの幽霊さんと会って以降、その町で出来た友達を肝試しと称して紹介に行ったら、景気よく驚かせてくれるくらい仲いいですけど」

 

「いやいやいやいや!!普通はありえないっしょ!!」

 

「というか、その肝試しやめなさい!」

 

「そんなこと言ったって、兄さんと私の影響で知らない人はいないくらい、町の人に認知された幽霊さんってことで有名なんですよ」

 

胸を張って言うことじゃないとツッコミたかったけれど、私は踏みとどまった。

 

下手に追及したら、会いに行かせられるかもしれないと私の中の誰かが必死に警鐘を鳴らしているような気がしたから。

 

 

 

 

まさか、これがフラグだったなんて、思いもよらなかったけれど。

 

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