ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
6月11日(木)
「改めて紹介しよう、山岸風花だ」
大型シャドウの討伐を終えて3日後、巌戸台分寮には1人の来客があった。
桐条先輩に紹介された山岸先輩は慌てて立ち上がってぺこりと頭を下げる。山岸先輩は大型シャドウ討伐後、すぐに気を失いそのまま病院へ運ばれた。
その後もしばらくの間、眼を覚まさず気付いたのは昨日のことだったらしい。無理もない10日近くタルタロスの中で過ごしていたのだから。
「ははっ、気楽にしてくれ。緊張すること無いよ」
幾月さんが優しい口調で宥める。
最近はめっきり巌戸台分寮を訪れることが少なくなっていたけれど、こういったことには顔を出すのだなぁとぼんやりと眺めていると、結城先輩や岳羽先輩たちも思ったようで何やら眉を顰めてヒソヒソと話をしている。
普段は月光館学園の理事長としての仕事をこなし、私たち特別課外活動部の裏方の仕事をこなすダンディーで優しい男性なのだが、彼の言うおやじギャグはちょっと理解できない。
「まずは山岸、君にあの特殊な経験について説明しておこうと思う」
桐条先輩が話を切り出すと、山岸先輩は椅子に座りなおして真剣な眼差しを向けている。
山岸先輩に順々に説明していく。
影時間の存在。
シャドウの存在。
タルタロスの存在。
そして、それらに対する特別課外活動部の活動。
山岸先輩は驚きながらも、一つ一つ噛みしめる様に受け入れていく。
桐条先輩から話される内容を私なりに考える。
タルタロスを昇る中で私たちが手に入れた「人工島計画文書」。
ナンバリングでは01と02しか手に入れていないけれど、丁寧な文章で見た者に何かを伝えようとしているのが分かる。ただ書かれている文章が難しすぎて私にはちょっと何の意図があるのか読みとれていない。
あれによればシャドウとは、来訪者ではなく「人間から取り出すことの出来るなにか」であるらしい。シャドウがヒトの形をしているのは、人間の精神を形にしたものなのかも。
私は周囲を見渡す。リーダーの結城先輩、ツッコミ役の岳羽先輩、私と同じ前線に立つ伊織先輩……はどうかな?
真田先輩と桐条先輩は私たちが仲間になるまでずっとシャドウと向き合ってきたのだから、たぶん私が考えていることもきっと承知の上なのだろうなぁ。
「先日の大型シャドウは、君がいなければ倒せなかったかもしれない。心から礼を言わせてもらう。そして、出来ることなら今後も部員として活動してくれないか?」
「別に、すぐに決めなくてもいいのよ。じっくり考えてからで」
桐条先輩の言葉を遮る様にして、岳羽先輩が山岸先輩を案じる様に言う。だけど、山岸先輩の返答は予想以上に早かった。
「やらせてください、お願いします」
「そうか、助かる。ではこの寮に入る手続きをしておこう。明日にでも引っ越しの準備を済ませておいてくれ」
少々強引にも思えるくらい矢継ぎ早に桐条先輩は話を進めていく。
その様子を見ていた岳羽先輩の表情が一瞬、曇る様に見えたけれど声を掛けると普段通りの顔をしていた。
こうして第7のペルソナ使い、後方支援特化型の山岸風花先輩の特別課外活動部の入部が決まったのだった。
■■■
「な~んか、納得いかないなぁ」
風花が帰宅し真田先輩と桐条先輩と優ちゃんが自室に戻った後、2年生3人はそのままリビングにてくつろいでいた。そんな中でゆかりがボソッと不満げに呟いた。
「ん、何か気になることでもあんの?」
手にしていた雑誌を置き座りなおした順平を見て、私も姿勢を正す。
それを見てゆかりの頬が引き攣る。
「そんな真剣な話じゃないから。……ちょっと私の愚痴に付き合ってもらいたいだけだから」
それを聞いた私と順平は顔を見合わせ、肩をすくめる。
「で、何が気になんの、ゆかりっち?」
「うぅ、最近の順平。順平じゃないみたいでやりにくいなぁ。……桐条先輩、ちょっと強引すぎない?風花の気が変わらないうちに寮に入れてしまおう、みたいなさ」
「確か優ちゃんの時も結構、強引にというよりも必死に頼み込んでいたんだよね、順平?」
「まぁ、あの時は部活とかしていない一般人なオレっちよりも、中学生とはいえ剣道部のエースな優ちゃんの方が戦力としては魅力的だったんだろうよ。それにあの時のオレっちは正直、ペルソナ能力という“特別”に夢中で浮ついていたからさ」
順平はここ2カ月で随分と心構えが変わったと思う。きっかけがあれだったのが残念だけれど。
「本当に、それだけなのかなぁ……」
ゆかりはそう言って、背伸びをしながら天井を眺めるのだった。
6月13日(土)
「あの結城先輩、今日は何かあるんですか?桐条先輩からの視線が背中に突き刺さるんですけれど……」
「ははは、今日も美味しいごはんをヨロシク」
台所で晩ご飯を作る総司くん。普段は月光館学園の制服姿か優ちゃんコーディネートの私服で作っていたので、タルタロスで取得した機能性エプロン(黒)を進呈した。
総司くんの料理の腕は、もはや主夫の領域を越しているのでいつか本物のコックの服を上げようと思う。
「…………(じ~)」
そんな総司くんの背中に熱い眼差しを向けているのは、なにも桐条先輩だけではない。
先日、私たちの仲間になった風花も彼を見ている。彼女は総司くんの料理の手つきを見て、そわそわしていることから手伝いたいと思っているようだ。しかし、
『すすっ』
『ギロリ』
縄張り争いする動物のように風花の台所への侵入を許さない総司くんの姿に私は笑いをこぼしてしまう。まさかあそこまでかたくなに拒否するとは。
分かっているよ、今日の台所は総司くんのテリトリーだからさ。
その日の影時間のタルタロス
前線復帰した桐条先輩と、機材の補正なしで万全な後方支援を行える風花のおかげでタルタロスの探索は思っていたよりもスムーズに進んでいく。
ただ全員でタルタロス内で戦うのは厳しいものになりつつある。
ペルソナを使えるので厳密ではないが、前衛5人に後衛1人というアンバランスな編成もまた問題ではあると思う。
しばらく探索を続けた所で真田先輩と優ちゃんが疲労を訴えたため、一度エントランスに戻った。
「どうした明彦。私はまだまだいけるぞ!」
「……先月の俺もあんな感じだったか?」
高笑いを続ける桐条先輩にちょっと気後れしている真田先輩という珍しい物をみることが出来た訳だが、ふむ丁度いいかもしれない。
「真田先輩、申し訳ないんですけれど、もう少し付き合ってもらっていいですか?」
「ああ。だが、今まで通りにはいかないと思うが」
「問題ありません!“お仕置き”を実行しようと思っただけです!」
「「「なにぃっ!?」」」
高笑いしながら今か今かと待ち続けていた桐条先輩。階段に腰掛けていたゆかり。私の近くでストレッチをしていた真田先輩。その3人が悲鳴のような叫びをあげる。
「ほら、前に言ったじゃないですか。桐条先輩が前線に復帰した時にするって」
私は持ってきていた荷物から袋を3つ取り出して、それぞれを桐条先輩たちに渡していく。もらった袋を抱えた3人の表情は青褪めている。
「結城先輩、顔が怖いです。その笑顔はまずいです」
優ちゃん。このお仕置きは執行しないといけないことなんだよ。
さて、この後何があったのかは皆さんの想像にお任せするが、
女として大事なものを失った2人とプライドをかなぐり捨てた男が1人、
タルタロス内を疾走する姿が月光館学園の高等科男子と中等科女子に目撃されたとだけ言っておこう。