ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 6月ー⑥

6月20日(土)

 

1週間の入院となっていた優ちゃんたち3人だったが、体力もほぼ回復したとのことにて1日早く退院することになり、それに合わせ理事長の幾月さんも寮に来ると言うことで早めに帰ることにしたのだが、その途中でスーパーの買い物袋を両手に持った総司くんが白い毛並みのワンちゃんと並んで歩いているのを見かけた。

 

「総司くん、そのワンちゃんは?」

 

「ん、コロマルのことですか?」

 

総司くんとワンちゃんは立ち止まって、私の方へ振り向く。

 

「わんわんっ」

 

コロマルと呼ばれたワンちゃんは私の足元まで来るとお座りして、見上げる様に見つめてくる。うわぁ……こんなことされたら。

 

「優にも言っているんですけれど、程々にしてくださいね。それにもうちょっと行ったら寮に着くんですから、そこまで行きましょうよ」

 

コロマルを抱きかかえ頬ずりする私を引き摺る様にして総司くんが寮に向かって歩き出したのは、その5分後のことであった。

 

コロマルはゆかりや風花にも大人気だった。なんというか、人に可愛がられるにはどうすればいいのかを分かっているような気がしないでもないけれど、まぁ可愛いから許す!

 

今だってゆかりが戯れているが

 

「コロちゃーん、お手」

 

「わん」

 

お客(ゆかり)のニーズ(要望)に答えるお店の人(コロマル)という図式が出来上がっているように見える。

 

幾月さんが来るまで、まだ時間があるようなのでもうしばらく一緒に戯れていようと思ったら、コロマルに何かが飛びついてダイビング頬ずりをかました。

 

「うわぁーい。コロマル久しぶりだねー」

 

「く、くぅーん……」

 

その正体は病院帰りの優ちゃんだった。6日間の入院後ということで、ちょっと覇気がかけているよな気がするけれど、元気そうで何より。というかコロマルが苦しそうだからもうそろそろ解放してあげなさい。

 

 

日が傾き、ちょっと肌寒いなと感じ始めた頃、理事長である幾月さんが寮に来た。

 

彼は早速、用件に移ろうとしたのだが、総司くんが待ったをかける。

 

首を傾げた幾月さんだったが、テーブルを彩る食事を見て眼を輝かせた。

 

「今日は優や順平さんたちの退院祝いも兼ねて、ちょっと腕を奮ってみました。大事なお話があるっていうことは分かっていますけれど、まずは食事をどうぞ。というか、幾月氏が来るまで“お預け”だったので皆、眼が血走っていますけれど」

 

幾月さんから、「もうすぐ着く」という電話で連絡が来たのは30分前。

 

この30分、長かった。ホントに長かったよー。

 

ご馳走を前に手を出すことが出来ない、この辛さ。病院食を食べていた3人には拷問のように感じられたようで、途中からぶつぶつと独り言を呟くまでに追い込まれていた。

 

「ははは、それは悪いことをしたねぇ。それじゃあ、僕も席に着いたことだしいただこうかな」

 

そう幾月さんが話すと同時に枷を解かれた獣たちが一斉に料理を口にする。中でも順平は「うめぇよぉ。うめぇ……」と味を噛みしめる様に食べ、優ちゃんはもぐもぐとリスが頬袋にため込むように次々と料理を口に含み、真田先輩は豪快に肉に齧り付いて引きちぎる。

 

彼らが入院する原因となった風花はテーブルの端っこの方で、申し訳なさそうにスープを啜っていた。

 

「これは凄い。鳴上くんのお兄さんが作る料理は以前食べさせてもらったが、今回のモノはその時の料理の味を遥かに超えている。うん、“賄い料理は美味かない”」

 

「……」私

 

「……」ゆかり

 

「……」桐条先輩

 

「……」順平

 

「……」優ちゃん

 

「……」真田先輩

 

「げほっげほっ」風花

 

6人分の無言と運悪くスープを飲んでいて誤嚥してしまった風花がせき込む。クッ、美味しい料理が台無しだよ。なんでこの瞬間に駄洒落を言っちゃうかな。

 

と、幾月さんに恨みを籠めた視線を向けると、彼の隣に立つ総司くんがにこやかに笑っていて……

 

「幾月氏、それは出汁の“魚の差かな”と」

 

「おお、なるほど」

 

相槌を打つ幾月さんとは対照的に机に突っ伏する優ちゃん。ゆかりと桐条先輩は、幾月さんの駄洒落に対し普通に返答するように駄洒落を言う総司くんに驚愕している。順平と真田先輩は聞かなかった振りをして、一心不乱になって料理を貪る。

 

私は、天井を仰ぎ見る。この駄洒落の応酬はしばらく終わらないなぁと諦めの境地で。

 

 

 

 

「いやぁ、総司くんの料理は素晴らしいねぇ。君たちは毎日、あのレベルの料理を食べることができるんだろう?羨ましいね」

 

「理事長、今回私たちが集められた用件は何なのでしょうか」

 

4Fの作戦室へ移動した私たちと幾月さんはそれぞれ思い思いの席についている。幾月さんが話題に上げた総司くんは料理の後片付けをしていて不在であるが、今回のことも後で優ちゃんか順平が伝える予定である。

 

そんな中、幾月さんにもう駄洒落を言わせる訳にいかないと桐条先輩が話を切り出した。幾月さんも神妙な表情を浮かべ、腕を組んで話し始める。

 

「調べ物に答えが出そうなんで、いち早く伝えようと思ってね。例の満月に出るシャドウのことさ。ちょっと面倒だがしっかりと聞いてほしい」

 

「モノレールの時と山岸先輩救出の際にタルタロスに出た大型シャドウですよね」

 

優ちゃんが確認するような質問をすると、幾月さんはその通りだと頷く。

 

「実はそのシャドウは、その性質によって“12のカテゴリ”に分けられる。このことは大分前から分かっててね。生物学の“何科”や“何目”みたいなものさ」

 

幾月さんは眼鏡を指で押し上げた後、間をおいて話す。私たちはその話し方に引き込まれる。

 

「……で、これまで出現したシャドウを、これに分類してみると……実に興味深い!これまでのシャドウ4体は、現れた順にカテゴリのⅠからⅣだと分かったんだよ!」

 

優ちゃんと風花が4体?と首を傾げていたので、近くにいた真田先輩が4月に起きたことを小声で説明している。そうなんだと納得した2人は当事者である私とゆかりを見る。

 

「見た目はたいそう特別であったが、連中にもこの分類は当てはまるらしい」

 

「それって、なんか凄いことなんスか?」

 

順平が今までの幾月さんの話を聞いて首を傾げつつ質問する。そうか、普通の人はタロットカードの数や種類は知らないよね。私もペルソナ能力に目覚めなければ、きっと順平と同じくらいの知識しか持ち合わせなかったと思うし。

 

順平の疑問を解消することになったのは幾月さんではなく、私たちと一緒に話を聞いていた風花だった。

 

「そうか…つまり、“大きなシャドウは、全部で12体”いて、“残りが、あと8体”ってことですね」

 

風花が改めて言葉にしたことで理解できたのか順平が驚きで身体を奮わせつつ、椅子に座り直す。作戦室にいる面々も言葉には出していないが、表情が生き生きし出した。

 

「さすが、山岸君!飲み込みがはやいんだから」

 

幾月さんもそういいながらも嬉しそうに頷いている。

 

そんな中、順平が疑問を浮かべたような表情をして、素朴な疑問を打ち明ける。

 

「そもそも、シャドウの目的ってなんなんすかね?」

 

「いい質問だね。実は、目的についてはよく分かっていないんだよ。連中は獲物を殺さずに精神を喰らう。捕食には違いないが、生き物のように繁殖を目的としたものではない。シャドウは総体として何を目指す存在なのか……その辺は研究中なんだ」

 

幾月さんはそう締めくくると共に肩をすくめたが、今まで聞くことに徹していた真田先輩が身を乗り出す。

 

「……面白いですね。ただ、シャドウが何であっても、残りも全部倒すだけのことです」

 

「……そうだな。連中の目的が何であれ、全て倒すしか、今は対処のしようが無い」

 

「あと8体か……。相当だな、それ……」

 

桐条先輩もシャドウが何を考え、人を襲うのか気になるようだが、今は出来るコトするのだという意思がうかがえる。

 

それとは反対にゆかりは、これから訪れるシャドウとの戦いに不安を覚えているようだ。

 

それも仕方がないと思う。エンペラーとエンプレスに対し、最初はゆかりと桐条先輩は2人だけで挑んで、手も足も出なかったのだから。

 

そんなゆかりの不安を分かっているのかいないのか、風花が気になることを告げる。

 

「データでは、来るたびに強くなっています。こちらも力をつけないと……」

 

「なんとかするさ。……時間は充分にある」

 

そう真田先輩が締めくくると同時に優ちゃんが呟く。

 

「私たちが力をつけるといえば、タルタロスですけれど。何なんですかね、あれって」

 

優ちゃんの呟きにゆかりが同意するように頷く。すると、桐条先輩の表情に一瞬だけ陰りが出た。その様子を見たゆかりも首を傾げたが、深く追求することはなかった。

 

シャドウが何のために人を襲うのか、まだ謎が多いけど大型シャドウが残り8体ということを知り得たのは大きな前進だと思う。

 

まだ多いように感じるけれど、すでに3分の1は倒してしまっていると思えば気が楽になった気がする。

 

とは言っても風花の言うとおり相手はどんどん強くなっていく訳だから、私たちも力をつけていかないといけないなと気合いを入れ直したところで、

 

「失礼しまーす。デザートのティラミスをお持ちしました~。切り分けますので、食べられる方はどうぞ」

 

総司くんのその満面の笑顔が憎い!

 

彼が引っ越してきて2日しか経っていないけれど、君は私たちをどうするつもりなの!?

 

まさか毎晩、デザートを持ってくるつもりじゃないよね?

 

最近、体重計に乗るのが恐怖になってきているんだよ!?

 

「おお、旨そうじゃん。オレっちにもくれ、総司」

 

「どうぞ」

 

切り分けられたティラミスを食べ、合う飲み物として出された深入りのコーヒーを飲んだ順平や幾月さんたちが感嘆の声を上げる。黙りこくっている女性陣を見て、首を傾げた真田先輩が言う。「食べたければ食べればいいじゃないか」と。

 

「湊、タルタロス!今日にでもタルタロスに行こう!」

 

「そうです、それで万事解決ですよ!」

 

「うん!総司くん、大き目に切り分けたのを私にもちょうだい!」

 

「はーい」

 

ええい、だからそんな風に“にこやか”に笑うのはやめい!!

 

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