ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 6月ー⑦

6月22日(月)

 

午後の授業は流暢な英語を話す寺内先生の授業。

 

この寺内先生、外国人の旦那さんがいて、隙を見ては私たちに惚気話をしようとするのが玉に瑕。そんな彼女が教科書を読み進めながら、私たちに語りかけて来た。

 

「この挿絵のタコ、バッドガイな顔をしているでしょう?欧米では、タコは“デビルフィッシュ”と呼んで、食べない国が多いのです」

 

そう言った寺内先生は教壇に教科書を置くと、両手を頬に添えていやんいやんとラブ臭を振りまきながら惚気話を語る。

 

「もちろん、私のダーリンも絶対に食べないの。この間も私が作ったパスタをね……」

 

彼女は一瞬だけ苦虫を噛んだような表情を見せたがすぐに惚気話を再開させ、ダーリンとやらに作ってあげているタコ料理に関して話す。クラスの皆が惚気話を聞き流していると、寺内先生は計ったように話題を変え、問題を出してきた。

 

「タコ以外にも“デビルフィッシュ”と呼ばれる生物は多いのです。では、アトランダム・チョイス……イオーリ?」

 

後ろの席の男子と会話していた順平に。

 

指名された順平は眼を白黒させながら立ち上がって寺内先生を見る。

 

「エイ、イカ、クラゲ……。“デビルフィッシュ”に含まれない生物を、ウィッチワン!」

 

普段の順平ならば分からずに周囲の人に助けを求めるのだが、今日は生憎その限りではない様子だ。何せ、昨日の晩ご飯にて話題に上がっている“デビルフィッシュ”を使った料理が出されたばっかりだから。

 

「えっと……。って、昨日総司が言ってた奴じゃん。はいはいはーい!クラゲっスよね!」

 

「グッジョブ、ジュンペ!クラゲは“ゼリーフィッシュ”!その名の通り、食後のデザートにするの」

 

「それも知っているっスよ。梨とかクコの実を使って甘いデザートにしたりして食べるんすよね?確か美肌にイイとか」

 

「エクセレント!その通りです。ふふ、私はジョークのつもりだったのですが、中々やりますね、ジュンペ」

 

寺内先生は上機嫌な様子で黒板の方へ向き直り、教壇に置いていた教科書を取って授業を再開する。順平は席に座り、小さくガッツポーズを取った。

 

彼は周囲の男子から凄く褒め称えられて緩んだ表情を見せているが、

 

「はぁ……順平。それ全部、昨日総司くんが教えてくれたこと、そのまんまじゃない」

 

ゆかりが大きなため息をついている。私も苦笑いを浮かべながら同意するように肩をすくめたのだった。

 

 

今日は部活をして過ごそうとテニスコートに向かうも、いたのは理緒だけで、他の部員は見当たらない。どうしたものかと悩んでいると、中等科の子たちがぞろぞろとコートに入ってくる。

 

「そういえば、中等科のコートで陥没している箇所があって、工事をするからしばらくの間、高等科のコートを使うって言っていたっけ」

 

と、理緒が今思い出したと言わんばかりに話す。

 

いつもは真面目な彼女がこんな風になるとは、先日のことが結構響いている様子。よし、ここは私が一肌脱ぎますか!

 

「岩崎先輩!今日からお世話になります」

 

中等科のテニス部の部長らしい女の子が理緒に近寄ってきて頭を下げる。その彼女の後ろできっちり整列した部員達も一斉に頭を下げて、それぞれ『お願いしまーす!』と言っていく。その光景を目の当たりにして私が思ったことはただひとつ。

 

「……理緒。来年からはきっと大丈夫だよ」

 

「そうね。……よしっ!湊、私たちも練習しよう」

 

「うん!」

 

「あれ、結城先輩ってテニス部だったんですね?」

 

「ふぇ?……って、総司くん!?」

 

不意に声を掛けられて振り向くと、中等科のジャージを着た総司くんが立っていた。手にプラスチックの容器を持って。

 

何が入っているのか気になったが、その容器は中等科の部長に手渡される。

 

「ありがとう、鳴上くん。いつも助かるよ」

 

部長の子は総司くんを見て、咲いたばかりの花のような笑顔を向け謝辞を述べると部員たちに見える様に容器を掲げる。

 

「みんなー、『月中で嫁にしたい人ランキング』3期連続1位の鳴上くんが作った『はちみつレモン』が食べたいかー!!」

 

「「「たべたーい!!」」」

 

「ストレッチ後、いつも通り試合形式で対戦して勝った人だけが食べる権利があるからね。負けても文句を言わないように」

 

「「「はーい!!」」」

 

部長の号令?で部員達はテキパキとストレッチをしたり、コートを準備したり、バックから道具を取りだしたりする子に別れていく。

 

私と理緒は唖然としながらその光景を眺める。

 

総司くんは甚だ遺憾だと言いたげに、不満げな表情を浮かべているけれど……。

 

「僕は男なんだから、そこは“夫”じゃないの?」

 

「ツッコムべきところはそこじゃないよ、総司くん」

 

本当に何をやらせても、ある意味で完璧にこなすんだなぁ。総司くんって。

 

 

 

寮に帰る途中、ポートアイランド駅にて珍しい組み合わせの2人を見つけた。

 

優ちゃんと荒垣さんである。

 

2人はポートアイランド駅のベンチに座って何やら会話しているけれど、あれはどういう状態なのだろうか?

 

「あれって、真田先輩の知り合いの荒垣先輩よね?」

 

「……ゆかりも今、帰りなの?」

 

「うん。湊に気付いたのはさっきだけれど、ほほぅ……。優ちゃんは年上好きなのかな?」

 

荒垣真次郎先輩。

 

真田先輩や桐条先輩の同期で、学校は現在休学中。優ちゃんとは5月の大型シャドウがモノレールを乗っ取った際に即席パーティを組んで戦った仲。それ以外の接点はないと思っていたけれど……。うーん?

 

「優ちゃんが荒垣さんに恋しているって感じじゃないね」

 

「うん、そうだね。なんというか、荒垣先輩に教えを請う感じ?」

 

確かにゆかりの言うとおりのような気がする。荒垣さんは何だか面倒くさそうにしながらも優ちゃんの質問に丁寧に答え、優ちゃんは言われたことを一生懸命、メモか何かに記しているようだ。

 

「もしかして、ペルソナの扱い方とか?」

 

「うーん、分かんないなぁ……」

 

私とゆかりはそうやって茂みに身体を隠しながら2人の動向を観察し続け、優ちゃんが荒垣さんと別れ、駅のホームに入ったのを見計らって彼女の後を追った。

 

そして、優ちゃんが乗った電車の別車両から乗り込んで、彼女の元へ近づいて行く。

 

すると、席に座った優ちゃんが先ほどのメモを集中して読んでいた。タイミングを見て、私たちは声を掛ける。

 

「優ちゃんも同じ電車だったんだね?」

 

「あ、結城先輩に岳羽先輩」

 

優ちゃんは声を掛けられて初めて私たちに気付いたようで、少し驚いた表情を見せる。

 

肝心のメモだが、優ちゃんは隠すような素振りを見せたりすることはせずに膝の上に置いたままだ。ゆかりの視線に気付いた優ちゃんは、私たちにそのメモを差し出す。

 

「これ、兄さんの師匠である荒垣先輩から学んだ鍋の作り方なんですけれど、見ますか?」

 

おっと……まさかの単語が出て来たよ。

 

総司くんの師匠で、習ったのが鍋の作り方っていうことは……。

 

「湊……。私、泣いていいかなぁ」

 

ゆかりはひとつの吊革に両手をかけて俯いている。気持ちはすごく分かるから、ゆかり諦めちゃダメ。

 

優ちゃんは私たちの様子を見て首を傾げていたけれど、特に何か言及するようなことはせずに再度メモに視線を落とす。優ちゃんは総司くんに追いつこうと必死な様子だ。

 

「ねぇ、優ちゃん。その鍋を作る時、私も手伝っていいかな?」

 

「はい、勿論!……岳羽先輩も手伝ってくれますか?」

 

優ちゃんは、ちょっとだけ間を置いてゆかりに尋ねる。その“間”が現在のゆかりと優ちゃんの関係を物語っているような気がする。

 

ゆかりもまた私と同様、幼いころに父親を亡くしている。母親との関係は冷え切っているらしく、優ちゃんにとっての総司くんのような存在がゆかりにはいない。

 

そういうこともあってか、ゆかりは優ちゃんに対して少し冷たいというか、棘のある言葉を使う。そんな風に壁を作る相手に態々自分から踏み出す必要もないので、優ちゃんも積極的にはゆかりと関わろうとしなかった。

 

そう今までは。

 

こうやって今、優ちゃんはゆかりと向き合おうとしている。総司くんに頼られるという高い目標を持ったことによって、色んな事に目を向け向き合う勇気をつけつつあるのだと私は思う。

 

「……別にいいけど」

 

「はい!お願いします」

 

ゆかりはまっすぐに自分を見てくる優ちゃんの視線に根負けしたように、渋々了承する。その答えを聞いた優ちゃんは笑顔で答えた。

 

「そんなに大げさに言わなくていいよ。……って、湊!何、にやにやしてんの!」

 

「えへへ、何でもないよ。何でもね」

 

ゆかりは私に突っかかってくる。優ちゃんは席に座ったまま、私たちのやりとりを見つめつつ、安堵のため息をついた。うん、今のままだとゆかりの方が子供っぽいかもと思っていたら、

 

「ひにゃいよ、ゆふぁり~」

 

「うるさい!さっきは何で笑っていたの?そして、今何を思ったの?さぁ、きりきり吐きなさい」

 

そういうところが子供っぽいんだよ、ゆかり。

 

「はにゃにゃにゃ、いふぁいいふぁい~」

 

「このっ、このっ、このー」

 

私たちのやり取りは巌戸台駅に着くまで続くのだった。

 

 

 

 

 

6月28日(日)

 

今日は学校が休みだ。

 

朝ごはんを食べた後、私は部屋に戻ってテレビをつけた。時価ネットたなかでチャンピオングラブが出されていたので注文を入れる。これで真田先輩の戦力を強化出来る。

 

あとは何をしようかを迷っていると風花からメールが来た。なになに……

 

『件名:たすけてリーダー(>人<;)

総司くんにある質問されているんだけれど、私だけじゃどうにも出来ないの。

お願い、ラウンジに来て』

 

外出するにしても結局はラウンジを通らないといけないんだから、その時にでも声を掛けてくれればいいのに。と、私はそんなことを思いながら外行き用の準備を終え、部屋を出て階段を降りる。

 

するとラウンジのソファの所に顔を赤くして『あわあわ』と慌てている風花と、『キリッ』とした表情の総司くんが向かい合って座っていた。何だろう、この状況。

 

「あ、湊ちゃん」

 

私に気付いた風花が立ち上がって手招きする。私は何の話だろうかと首を傾げながら風花の隣に座る。妙に真面目な顔をしている総司くんに視線を向けると、彼はすぐに口を開いた。

 

「結城先輩。『同性愛』ってどう思います?」

 

うん、なんぞこれ?

 

 

 

その後、私は風花を連れてポロニアンモールを通り過ぎ、喫茶店『一期一会』に来ていた。

 

マスターの淹れるコーヒーを飲んで心を落ち着ける。

 

結局、総司くんの質問には「愛は、人それぞれ」ということで納得してもらったが、朝からひどく疲れてしまった。

 

「へぇ~。シャガールとは違って、なんだか落ち着く良い雰囲気のお店だね。コーヒーも丁度いい苦さで、結構好きかも」

 

風花は目を細めて堪能してくれている。気に行ってくれたようだ。

 

これで私がこのお店を紹介したのは風花で2人目。

 

ここに来るとなんだか落ち着くんだよね……。

 

「所で、どうしてああいう質問をされる展開になったの?風花」

 

「うぅ……。別に大したことじゃないよ。ただ単に総司くんと話をしている内に、最近の影人間が出ているところの話題になって」

 

風花はコーヒーにミルクを入れ、スプーンでかき混ぜつつ事情を説明していく。

 

 

・友達の家に行くために近道をしようとしたら、如何わしいホテルの前の道だった

 

・急いで通り抜けようとしたら、丁度ホテルから出て来た人たちとぶつかってしまった

 

・ぶつかった相手は、ボディビルダーのように鍛え上げられた肉体を持つマッチョな男性と線が細く可憐な雰囲気を持つ男性の同性カップル

 

・すぐに謝ったためお咎めなしだったが、その後に出てきたカップルたちに目を離せなくなり、観察することにした

 

・青いツナギを着た中年男性と可愛い系の月光館学園の制服ではない男子制服を着た男の子のカップル、クールビューティなお姉さま系の女性と甘えん坊な妹系の女性のカップル、劇団で男装して同性に夢を見せていそうな女性とどこかのお嬢様を思わせる服装の女性のカップル、とにかく同性ばかりのお客で賑わうホテル

 

・を中心に影人間になる人が増加しているらしい

 

 

 

「ねぇ、風花。総司くんは何で、そこで観察しちゃうかなぁ?」

 

私はマッチョと線の細い男性同士のカップルと聞いた瞬間、口に含んでいたコーヒーを噴出していた。マスターが貸してくれた雑巾で汚れた所は拭いてしまったが、総司くんが何の目的があってそんなことを話したのか全然理解出来ない。

 

「私も分からないよ。話を聞いて唖然としていたら、いきなり『山岸先輩は同性愛ってどう思いますか?』だよ!ゆかりちゃんや順平くんにメールしたら2人揃って『ガンバレ』って返事が来て、もう泣きそうだったんだから」

 

私も質問の内容を知っていたらきっとそう書いて返事をしていたと思う。それを言ってしまうと風花の中の私の株が下がってしまうので言わないけれど。

 

「風花、今日はいやなことは全部忘れて遊ぼう。ね?」

 

「湊ちゃん。……うん」

 

私と風花はレジに向かう。そして会計を済ませるとポロニアンモールに向かう。

 

私はゲームセンターに入るのは初めてだという風花に、遊び方をレクチャーしながら私自身も楽しむ。

 

寮に帰る頃には、総司くんからなされた質問など頭の隅に追いやられ、思い返すこともなかった。

 

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