ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
6月30日(火)
自室で休んでいると、何かの気配を感じベッドで横になったまま目を開ける。
「やぁ」
感じた気配の持ち主はやはりファルロスくんだった。彼はベッドに腰掛けながら私を見て微笑む。
「……何を伝えに来たのか分かる?」
彼の言う試練である大型シャドウが来る満月の夜は来週だ。私は分かっていると返答するように大きく頷く。するとファルロスも頷き返してくる。
「フフ、そろそろ慣れて来たのかな。準備は出来ているかい?今回の試練は今までにない方法で君たちを攻め立てるよ。……“強く生きてね”」
ファルロスはそう告げると、最初からいなかったように突然姿を消した。私はゆっくりと瞼を閉じる。それにしても……
「強く生きて……って、なんで慰められたんだろう」
7月1日(水)
学校へ行く準備を終えて部屋から出ると、丁度総司くんが屋上へ向かっていく所を見かける。タラップから階段の上の方を見ると同時に、屋上へと続くドアがしまる音が聞こえた。
屋上に行って一声掛けようかと迷っていると準備を終えたゆかりや風花が顔を出す。私は2人と一緒に階段を降り朝食を食べた後、学校へ向かうのだった。
通学路にて、車から降りる桐条先輩と会った。挨拶すると彼女も返してくれる。どうやら朝からグループの方へ顔を出してきたらしい。色々と話をしたが結局話題は自然とあのことに。
「次の満月はそろそろだな……。準備は万端か?」
「バッチリです!道具類は問題ありません。あとは各々の調整とレベルアップするだけです」
「そうか、頼もしいな」
桐条先輩は感心するように頷く。私たちはその後も2人並んで歩いて行く。
月光館学園玄関前。
朝の学校ということで初夏の眩しい日差しに照らされ、活発な雰囲気と生徒の気だるさが妙に調和している。そんな中、気になる言葉が雑踏から聞こえてくる。
「ねぇ、聞いた?例の無気力症、最近増えているらしいよ」
「知ってる知ってる!最近のはカップルで見つかるって」
そんな噂話を私たちは立ち止まって聞いていた。
「カップル……ということは2人組でか」
「一応、私も情報を集めてみます」
「そうしてくれ。岳羽たちも何か知っているかもしれん。満月の前に情報交換を行い、作戦会議を開こう」
「りょーかいです」
私たちは学園内に入るため玄関に向かって歩き出した。
「……噂にならないはずだよ。場所が場所すぎる」
私は学校が終わった後、ここ最近の影人間の情報を聞き込みして集めていたのだが、中々目的に関する情報を得られず苦労した。
やっとのことで有力な情報を得た私は現場に急行したのだが、その場所は白河通り。そう簡単には足を踏み入れることを躊躇う場所だった。何せ、白河通りといえば、巌戸台にあるラブホ街。
つまり影人間になるカップルが多いのも頷ける。
大型シャドウの出現場所は、影人間が見つかる場所と深い関係にある。4月の時は分からないが、5月の時は駅周辺に、6月の時は学園の生徒が数人、影人間となった。
「幾月さんのカテゴリ順で大型シャドウが出るとすると、4月魔術師、5月女教皇、6月皇帝と女帝だったから。次にくるのは法王、恋愛、戦車……。場所を鑑みるに恋愛まで来そうな気がする」
私はそう呟いて、げんなりと肩を落とす。
正直な話、先月の様な戦いは命がいくつあっても足りない。できれば遠慮したいのだが、人間の都合なんてシャドウには関係ないしなぁ。
私はそんなことを考えながら、トボトボと寮に向け歩き出して、すぐに立ち止まった。
「今日は水曜日。よし!この嫌な気持ちを吹き飛ばすために、神社に行って舞子ちゃんと遊ぼう!」
私は長鳴神社を目指して走り出した。
7月3日(金)
机の上に置かれたカップラーメン。
人数分置かれたソレを見ていた桐条先輩が一言。
「このまま食べるのか?」
私たちが驚愕した表情を浮かべ、桐条先輩を見ているのに気付いた彼女は取り繕ってカップラーメンに手を伸ばした。
「ほう、沸騰させた湯を入れて5分待てば出来るのか」
「いや、そーじゃなくて。なんでカップラーメン?」
「兄さん、帰ってきてすぐに屋上で何やらやっているらしくて、あの調子だと明日いっぱいだめですね。さっき冷蔵庫見たんですけれど何も入っていなかったんです」
そう言って優ちゃんは山積みされたカップラーメンの中のひとつ、容量1.7倍のスーパーカップを手に取った。
「うわぁ、ガッツリ行くんだ」
「外が雨じゃなかったら、食べに行こうと思ったんですけれど、今晩はこれで我慢します。作戦会議するんですよね?」
その場にいたメンバーはそれぞれ顔を見合わせた後、思い思いのカップラーメンを手にとって準備していく。
「「「……ずるずる」」」
いつも総司くんが作る美味しい料理を食べている所為もあるのか、たまにこういうものを食べるのも悪くないかもしれない。
桐条先輩は初体験の味に、何やら面白い物を見つけたと言わんばかりに目を輝かせているが、桐条先輩はこういった庶民のものに興味を抱かないでいてほしい。
4Fの作戦室に集まった面々は順平の部屋から拝借してきたスナック菓子を肴にくつろぐ。
「で、今回はどこに影人間が出てんの?」
順平がどんどん消費されるポテチを眺めながら、気落ちしたように言う。
「巌戸台の白河通りだよ。で、今回影人間になるのは2人組のカップル」
「それはそれは、リア充なこって……」
順平は一気にやる気をなくした様子でソファに凭れかかった。風花は何か気になったような感じだったが、話題にあげるまでもないと判断した様子で、どう戦うかを提案する。
「先月は大型シャドウが皇帝と女帝の2体が現れました。今回はどうでしょうか?」
「……場所が場所だもんね。これで法王だけってことはない……よね」
ゆかりはうんざりした様子でこめかみに指をあてる。
桐条先輩も思うことがあるのか腕を組んでいる。
「下手に分散すると、先月の二の舞になる。戦いにくいのは承知の上で、全員で行くしかあるまい」
「でもその間の山岸先輩の安全はどうするんですか?」
真田先輩がゆかりと桐条先輩の様子を窺いながら告げると、優ちゃんが風花を見ながら疑問点を上げる。確かにバックアップの風花のペルソナ、ルキアには戦闘能力が備わっていない。そこをシャドウに襲われると……。
「たぶん、大丈夫だと思うよ。シャドウが寄ってこないセーフティーポイントみたいなのがあると思うし」
風花がそう言うと優ちゃんは目を丸くして、そうなんだぁと納得するように感嘆の声を上げた。それは私たちも知らなかった。風花のペルソナ能力の高さが窺えるエピソードだ。
「結局の所は行ってみないと分からないということか」
そう真田先輩が締めくくると同時に、順平の非常食も全部なくなった。
もう何もすることはないので解散することになったのだが、作戦室から出るとびしょ濡れになった総司くんと遭遇した。
「あれ、皆さん。こんな夜遅くまで作戦会議ですか?」
「総司、その言葉そっくりそのまま返すぜ。お前、何をやっているんだよ」
「ああ、知り合いから珍しいというか新種のナスの苗を貰ったので、色々と試しているんですよ。『キョウカナスビ』と『ジョウショウナスビ』っていうんですけれど……くしゅんっ」
「ああもう、そんな格好で作業すっから。湊っち、風呂沸かしてやってくれ。総司の着替えはオレっちが準備すっから」
「うん、分かった。総司くんは身体を冷やさないように待っててね」
「え、あ……はい」
総司くんは私たちの一連の動きを見て、困惑したように右往左往していたが、優ちゃんに引き摺られ階下に降りていく。私も2段飛ばしで階段を下りて風呂場に直行しお湯をためる。
「風邪なんかひかないでよ、総司くん」
私はそう呟いた。