ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
5月4日(月) タルタロス14F
鳴上優は手に握る特別仕様の武器を構え、考えていた。
(相手はヒトじゃない。最初の一撃で相手との戦力差を見極める)
優の前にいるのは異形の存在。白銀に輝く体に馬のような強靭な足があるバスタードライブという名のシャドウ。共に戦う先輩たちの攻撃を受けてもびくともしない防御力を持つ強敵だ。
優は正眼に構えていた武器「長脇差」を剣先が地面と平行になるように構えなおし、踏み込む。
「やぁっ!」
攻撃し終え無防備状態となっている仲間の1人である伊織順平の横を通り、バスタードライブが振り下ろしてきた槍のような腕と優が下段から切り上げた武器が交差し火花を散らす。力負けしたのは優の方であり彼女は吹き飛ばされた挙句たたら踏んだが、バスタードライブはよろけることもなく無傷。
『そいつに物理攻撃が効かないようだ。各々魔法攻撃をするんだ』
「「はい!」」
共に戦っている仲間たちが返事をして、各々ホルダーにいれていた銃を取り出した。武器同様で特別な仕様が施された【召喚銃】。優にも渡されているが、彼女はそれに目もくれずバスタードライブに向き合うように立つ。
「優ちゃん!?」
後方から優の身を心配するような声が上がるものの、優はそれを無視して肩から下げていたショルダーバックに手を入れ目的の物をつかみ、おもむろにそれを投げた。放物線を描きバスタードライブに投げられたのは風車だった。
後方で優の心配をしていた仲間たちの目が点になる。バスタードライブも正面から飛んでくる物体が何なのか分からないといったように憮然と佇んだままだ。だが次の瞬間、風車が光ったと思ったら周囲を切り刻むような突風がバスタードライブを中心に吹き荒れる。突風が過ぎ去った後、バスタードライブは思っていたよりもダメージを受けたようで膝をついた。
「嘘っ!イオのガルと同等の威力」
岳羽ゆかりは両手で構えていた銃を下ろし驚愕の表情を浮かべ叫ぶ。
「はぁ!?そんなのアリかよ」
伊織順平は傷ついた体を癒そうと傷薬を飲もうとしているところだったが、それを床にこぼしながら慌てたように言う。
「あ。でも、優ちゃんも驚いているっぽいよ」
苦笑いを浮かべながら状況を冷静に解析するリーダーを任されている結城湊は、優を指差した。
指摘された本人も放り投げたものが風車と分かった瞬間に「どうしてこんな玩具が」と思って失望した。だが結果は、己の力ではよろめかせることもできなかった相手にダメージを与えた上に膝までつかせている。ショルダーバックに入っている道具をくれた人は太鼓判を押すように自信満々だったので何かの役に立つだろうとしか思っていなかった。そう、こうなるとまでは予想できていなかった。というか出来るはずがなかった。
これをくれたのは双子の兄であり、ただの一般人であるはずの鳴上総司その人なのだから。
4月6日(月)
私はコンビニエンスストアの袋を片手に下げ、反対側の方の竹刀袋を肩にかけ直し、真夜中の道を歩いていた。明日は中等科の始業式があり、早く家に帰って休みたいものだが、後ろを歩く少年がそれをさせてくれそうにない。
少年は手に持った巨大なぬいぐるみを掲げ、あらゆる角度からそれを眺め嬉しそうに頷いている。
「兄さんがこんな時間まで夜遊びするなんて、珍しいね」
時計を見れば23時30分を過ぎた辺り。普段であればこの時間の兄さんは風呂か自室で勉強をしているかの2択しかない。この時間にこんなところにいること自体が不自然かつ、異常でしかない。
「いやぁ、学校で難易度が高すぎて誰も獲得者のいないクレーンゲームがあると聞いて、『月中のクレーン達人』としての血が騒いじゃった。僕が1500円もつぎ込んじゃったよ」
と苦笑いしながらぬいぐるみを抱えなおした兄さん。
そのクレーンゲームは1回500円だから実質3回しかやっていないじゃないというツッコミは無駄。兄さんは基本見ただけでどこにどう動かせば取れるというのが判るらしく、兄さんが店の前に現れただけでシャッターを閉めるゲームセンターもあるらしい。
「巌戸台は盲点だったなー。ゲームセンターの景品もそうだけど、古本屋とか、タコの入っていないタコ焼き屋とか面白いものが一杯あって楽しいし。今度の休みはここの探索をしようかな」
「私、怒っているんだけど」
ごめんごめんと笑いながら謝罪をしてくる兄さんを横目に私は大きくため息をついた。
運動神経抜群で運動部からの勧誘はひっきりなし。学力はどの学校でも20番以内には入る実力と雑学知識。社会的で明るい性格で、絶妙な所でリーダーシップを発揮することから友好関係は広く、下は幼稚園児から上はお爺ちゃんお婆ちゃん世代まで網羅する交友関係。
ただし、異様なほどの収集癖がある。
これさえなければと思う反面、これがあるから兄さんも普通の人間なんだと思えるのだから不思議なもの。兄さんが収集する主なものは本とぬいぐるみとプラモデルと様々な小物。
ショーケースにぎゅうぎゅう詰めにされたフロスト人形の無機質で円らな瞳たちはトラウマである。
「というか優、どこに向かっているのさ」
「え、駅だけど?」
「タクシー拾った方が早かったんじゃないの」
「……あ」
時計を見れば0時近くバスもだけれど、電車もないかもしれない。
タクシーなんか使わない生活をしているので頭にその選択肢はなかった。兄さんは近くにあったバスの運行表を確認して首を横に振った。
もうここまできたら駅に行くしかないじゃない。
この時の私は忘れていた。この世界には普通の人では知覚することが出来ない不思議な時間があるのだということを。
収集癖以外は完ぺきな兄さんもまた“普通の人”であることを。
その不思議な時間に出会った高等科の先輩と会話してしまったことで、私の学生生活は瞬く間に変わってしまうなんて、この時の私は予想だにしていなかったのだ。