ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
7月7日(火)
「どうだ、山岸?」
「……もう少し待って下さい」
4Fの作戦室で風花のペルソナのルキアが発動し、大型シャドウの反応を探す。
彼女の周りには幾月さんを含めた特別課外活動部のメンバーが揃っている。皆の顔からは緊張が読み取れる。
「わかりました。場所は白河通りです!」
「……ビンゴだ」
「「「はぁ……」」」
「ふむ、どうやら結城の推測通り……って、どうしたんだ?」
桐条先輩は感心したように称賛しようとしたが、私たちとしてはその推測が外れていてほしかった。
場所が確定してしまった以上は腹を括っていくしかないと思い、気合いを入れる為に両手で頬をパチンと叩く。
「じゃあ、行きましょうか!」
風花がペルソナで調べた大型シャドウがいるとされるホテルに近づくにつれて、普通のシャドウも増えて来た。戦闘を避けられないことも多くなって、メンバーの中には露骨に舌打ちをする者もいる。
本当であれば大型シャドウと戦闘するまで、出来るだけ消耗はしたくないのだが、安全を確保するためだと思えば苦にならない。こちらには戦えるメンバーが6人いるのだから、戦闘の疲労が1人に集中しないようにローテーションを組む。
「山岸先輩、大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。優ちゃん」
「気にすることはないぞ、山岸。君のおかげでこうやって、大型シャドウがいる所までの最短距離をいくことができるのだからな」
そんな会話をしつつ、目的地であるホテルの前についた。その時、風花が小さく呟いた。
「あれ?このホテルの名前、どこかで聞いたことがあるような気が……」
「うぅ……入りたくないなぁ」
「そうですか?私はちょっと興味ありますけど。回るベッドとかおっきいお風呂とかあるんですよね?」
「優ちゃん、何でソレをオレっちに聞いちゃうの?知らないよ!?入ったことねーし!!」
ゆかりは露骨に嫌そうな表情を浮かべたが、対照的に明るいのは優ちゃんだ。興味津津といったところか。
確かに彼女の言うとおり、一種のアミューズメントパークだと思えば……いや、やっぱり今のナシで。
「しゃべっていないでいくぞ!先月の二の舞にならないように、全員で行くのだろう?」
「真田サンは、いつでも真田サンすね」
「ん、どういう意味だ?」
順平の呟きに首を傾げる真田先輩。そのやり取りを見ていた桐条先輩は大きくため息をついた後、控えていた風花に注意喚起する。
「山岸、君は安全な所から指示を。明彦、伊織、いい加減にしろ!ここはすでにシャドウのテリトリーだ。油断するな!」
風花が頷き、順平と真田先輩がばつが悪そうにした所で私たちはホテル内に足を踏み入れる。
目指すのは最上階の法王の間と呼ばれる場所。
行く手を阻むシャドウを蹴散らしつつ、目的地への最短ルートを突き進む。
『階段を上がって右に行くとシャドウの群れがいますが、その奥の部屋が目的地です!』
風花のナビゲートを聞いた優ちゃんがギアを上げた先頭に躍り出る。
「一番体力がありそうなシャドウに“連鎖の雷刃”を当てておきます!」
そう言って優ちゃんは、ペルソナによって大幅に上昇している身体能力を駆使して、階段を使わずに壁を蹴って、メンバーの誰よりも早く最上階に辿りつくと同時に召喚器を使ってペルソナを呼び出す。
連鎖の雷刃
これは優ちゃんの今夜だけのスペシャルスキル。
総司くんが最近ハマって作っていた新種のナスを使った『対大型シャドウ戦スペシャル料理』と名付けられた豪勢な料理を食べた私たちであったが、いつものようなステータスの恩恵が感じられず首を傾げた。が、喜びの声をあげて立ち上がった優ちゃんによって、その謎が瓦解。
私たちが最上階につくと、敵シャドウの群れの内の一体である金剛虫の身体に、紫色の電撃がまとわりついていた。
残りのシャドウの群れの構成は疾風属性が弱点のファントムメイジが3体と風属性を無効化するが氷結属性が弱点な嫉妬のクピド1体。
「ゆかり!」
「うん、イオ!“マハガルーラ”!!」
私の指示でゆかりが風属性の全体攻撃スキル「マハガル」の上位スキルを放った。
元々風属性を無効化する嫉妬のクピドはびくともしないが、風属性を弱点とするファントムメイジたちは抵抗する間もなく消滅。風属性に耐性を持つ金剛虫も耐え切ったが、身体にまとわりついていた電撃が活性化し金剛虫にダメージを与える。シャドウはダウンするように崩れ落ち、その衝撃で消滅する。
「よしっ!」
優ちゃんがガッツポーズを取る。
彼女は今まで物理攻撃スキルしかなく、相手をダウンさせるにはクリティカルを取るか道具を使う他に方法がなかった。
「嫉妬のクピドは任せてもらおう。ペンテシレア、“ブフダイン”!!」
嫉妬のクピドの周囲が急激に冷やされたと思ったら、氷の棺が形成される。その棺に閉じ込められることになった嫉妬のクピドは指一本動かすことなく、棺の中で消滅した。
「うはぁ、ゆかりっちも桐条先輩もぱねぇ」
元々、魔力の高い2人のペルソナに、上位スキルは私も反則クラスだと思う。
「そういうな順平。大型シャドウは体力が多い。その時こそ、俺たちの出番だろ?」
真田先輩は拳を鳴らして、口の端を釣り上げる。それを見た順平も帽子を被りなおし、武器を構える。
「皆、準備はいい?」
私が法王の間に続く扉の取っ手を握って確認するように声を掛けると、
「当然!」
「いつでも大丈夫」
「行きましょう、先輩!」
「力を見せてやる」
私は頷いて、扉を開け放って部屋に踏み入れる。すると風花の見立て通り、一体の大型シャドウの姿があった。
「風花、アナライズをお願い」
「はい……。名前はハイエロファント、アルカナは法王。電撃の技が得意のようです。詳しい分析はもう少しかかります」
「電撃か……。岳羽、敵の射程距離には極力はいらないようにするんだ。明彦、分かっているな」
桐条先輩が言い終わらない内に、真田先輩はゆかりの前に移動し終えた。
「すみません、真田先輩」
「フッ、気にするな」
私はそれを見届けた後、ペルソナを入れ替える。電撃無効の能力を持つタケミカヅチへと。そして、私の斜め後ろにいた順平に目配せする。
「行くよ、順平!」
「おうよ、ヘルメス!“ミリオンシュート”」
順平のペルソナであるヘルメスの姿が一瞬ぶれる。そして攻撃する瞬間、3体に分身したヘルメスが、ハイエロファントに3連続でダメージを与えた。
「ちぇっ、“今回”は3回か」
順平が舌打ちした理由は、このミリオンシュートというスキルは敵単体に2~4回のダメージを与えるというスキルなのだ。
「順平にばかりイイ格好はさせん!ポリデュークス、ギガンフィスト!」
「あっ……」
真田先輩が召喚したペルソナがもの凄い勢いでハイエロファントに突撃していき、大きく振りかぶった拳が当る。その瞬間に大型シャドウは大きくはね飛ばされ、壁にめり込むことで止まる。
それと同時に真田先輩が膝をついた。
目の前に誰かがいると思って、彼が顔を上げると頭を叩かれる。叩いたのは桐条先輩で、見下ろす形で真田先輩に向かって冷笑していた。
「何をしている、明彦。それは使うなと言っただろう?岳羽、回復を」
「真田先輩ダメですよ。ディアラマ」
「す、すまん。つい……」
ギガンフィストというスキルは敵単体に大ダメージを与える代わりに、ものすごく体力を奪う諸刃の剣のようなスキルだ。
順平は順当なスキルを得たのに、どうして真田先輩はあんなリスキーなスキルが出たんだろう。
謎だ……。
その後、ハイエロファントは終末の予言というスキルを使って、皆を恐怖状態にして全体攻撃をする戦法を取ってきたが、それ以外に特筆するようなことはなく。私たちは勝利することが出来た。
「なんか、呆気なかったよね」
ゆかりが桐条先輩たちと話をしていると優ちゃんが首を傾げていた。近づいて声を掛けると
「結城先輩、これって何かおかしくないですか?」
そう言われ私がそれを見ようとした瞬間、目の前が真っ白になって気を失ってしまった。