ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
7月7日(火)
恋愛のアルカナの大型シャドウの精神攻撃を受け、私は結城先輩と一緒の部屋に閉じ込められた。
そして、シャドウに洗脳されていたとはいえ、私は結城先輩の唇を奪った上に身体を弄るという暴挙まで犯した。
それにしても…
「先輩の胸、柔らかかったなぁ……はっ!?」
私は自身の控え目の胸を両手で揉みながら、結城先輩の張りがあって手に吸いつくような感触を思い返し、何を考えているんだと頭を抱える。
私はノーマルなはずなのに!
兄さんのように頭が良くて、運動も出来て、家事も完璧な男の人と結婚するのが夢な普通の女の子のはずなのに、結城先輩という憧れの女性とはいえ、こんなにドキドキするのはおかしいよ!!
「きっとシャドウの所為に決まっている。シャドウが支配している空間にいるからこんなことを考えるんだ。……そうだ、シャドウを消滅させれば、私は元に戻れるんだ」
私は法王の間を睨みつけ、武器である刀を手にする。
しかし、すぐに私は武器を手放した。
法王の間に結城先輩がいると思ったら、勝手に頬へ体中の熱が集まってくるような錯覚を覚えたから。
「あうううう……。無理だよ、今の状態で結城先輩に会ったら、確実に茹でダコになっちゃうよ……」
結城先輩の戦う後ろ姿を思い返しただけでこれなのだ。
本物を直視したら足腰が立たなくなる可能性がある。
むしろ、確実に立たなくなって足手まといになる。
私が駄目なら伊織先輩や真田先輩はどうなのかを考え、2人の様子を見る。
伊織先輩は胡坐を掻いて両手で顔を覆ってぶつぶつと念仏を唱える様に蹲っている。
真田先輩は四つ這いで落ち込んでいる。時折お尻を気にする素振りを見せている。
「……山岸先輩。現在の戦況はどうなんですか?」
『え、優ちゃん?正気に戻ったんだね。えっと、相手の名前はラヴァーズで火炎攻撃と状態異常攻撃で悩殺にしてくるんだけれど、3人ともヤケクソ状態だから悩殺にはかかっていなんだ。けれど、ラヴァーズには弱点がないから地道に体力を削る他にないんだけれど、3人とも頭に血が上っててペルソナを使用できないの』
「つまり、今から参戦しようと思ったら火炎属性と悩殺攻撃の2つに対して気をつけろってことですね」
私が確認するように山岸先輩に問うと、彼女は力なく笑ったような気がした。
『優ちゃん、気持ちだけもらっておくね。まだ相手シャドウの精神攻撃の後遺症から抜け出せてい何でしょう?無理はしないで』
「でも……。伊織先輩と真田先輩が使い物にならない以上、私が行くしか」
『優ちゃん、自分でも分かっているんでしょう?湊ちゃんを今、視界に入れてしまったら自分がどうなるのか』
山岸先輩の諭すような声かけに口を噤むことしか出来ない私。
確かに今の状態の私じゃ、結城先輩の顔を見た瞬間に記憶が跳んだみたいに動けなくなる可能性が高い。
むしろ、こんな不都合な記憶、無くなればいいのに……。
って、なるほどっ!
「山岸先輩、私は無理ですけれど伊織先輩と真田先輩を正気に戻す方法を思いつきました!」
『え!?本当なの、優ちゃん』
「はい!お任せ下さい!」
私は立ち上がるとぶつぶつと念仏を唱え続けている伊織先輩の背後に立つ。
そして、左手で彼の左肩を掴んで首筋をロックオン。
右手はシュッと伸ばし、さっと振り上げる。
振り下ろす角度はきっちり45度!
一撃で仕留める!!
『優ちゃん?え、ちょっ、正気に戻す方法って、まさか!?』
月光館学園中等科3年剣道部所属、特別課外活動部メンバーの鳴上優、いっきまーす!!
『優ちゃん、らめぇえええええええ!!』
法王の間前の廊下に男2名のくぐもった声と何かを叩くような打撃音が数回響き渡るのだった。
■■■
法王の間に再び突入して2体目の大型シャドウと戦い始めて、どのくらいの時間が過ぎただろうか。
風花のアナライズで相手に弱点らしい弱点がないので、地道に削るしかないと言われたため、怒りに身を任せて戦ってきたがそれも限界に近い。
ゆかりにも桐条先輩にも開戦当初ほどの怒りのボルテージはなく、幾分か冷静になってきているようだ。
ただ、こいつエンジェルアローと呼ばれる攻撃を受けた相手を悩殺する能力を持っている。
私たちをあんな目に合わせた奴に、悩殺されるなんて誰が認めるか!
その気持ちが強く、私たちはその攻撃が来ると撃ち落としたり、払いと落としたりしているが、結構ジリ貧になりつつある。さすがにアタッカーが欲しくなってきた。
けれど、その肝心のアタッカー2人は動揺と混乱で動けなかった。無理もない。
貫いた順平と貫かれた真田先輩、女の私が言うのもなんだけれど、ご愁傷様である。
正直、自分がした行為、された行為を受け入れるまで相当な時間を要するはずだ。
ここ2~3日でどうにかできる問題じゃない。
「優ちゃんも私がいる限り入ってこれなさそうだしなぁ…」
本当に許すまじ大型シャドウ。
アンタの所為で、私は何もしていないのに塔コミュがリバース状態になっているんだよ!
普通は怒り状態なのに、今回は悩殺状態でリバースってなんなの!!
ふざけんなっ!!
「くっ、正直、厳しいな」
私の隣まで下がってきた桐条先輩が呟く。
いくら総司くんの料理で上位スキルを得たからと云って、スキルを乱発できるほど今の私たちにそんな精神力は備わっていない。
それにコイツは桐条先輩が苦手な火炎攻撃を全体に向けて使ってくる。
彼女の損傷は見ない振りができないほど、ひどくなりつつある。
「はぁはぁ。どうする、湊?本格的に厳しくなってきたけど」
「ゆかりもちょっとは落ち着いた?」
「まぁね。本当は私たちだけでぶっ殺したかったけど、無理っぽい」
いまだに弱る兆しのない相手にちょっと苛立ちを見せるゆかりだが、背に腹は代えられない。ここは一旦引いて体勢を立て直s
「「待たせたな!!」」
派手な音を立てて扉が開け放たれる。
そこにいたのはニヒルな笑みを浮かべる真田先輩と、太刀を肩に載せて帽子のつばを握る順平の姿。2人はそれぞれ召喚器を構えると、すぐにペルソナを召喚する。
「ポリデュークス、ラクンダ!」
「ヘルメス、ミリオンシュート!」
真田先輩のペルソナのスキルによって防御力が下げられたラヴァーズに4体に分身したヘルメスの攻撃が決まる。不意をついた攻撃で思わずダウンした相手を見て、私たちの瞳に再度殺る気が満ちる。誤字じゃない。
「ゆかり、桐条先輩。総攻撃、行きます!」
「「おおっ!!」」
総攻撃を受けてもなお健在だった大型シャドウであったが、今までの戦いで相手の行動パターンを知り尽くした私たちと、今までの遅れを取り戻すように精力的に戦う男2人の活躍もあって、最大の能力を封じられたに等しい大型シャドウは、もはや為す術がなかった。
結局シャドウに止めを刺すことになったのは、鬼気迫るゆかりと桐条先輩、そして私。
それぞれの最大火力が同時に放たれ、巨大シャドウに止めを刺した。
『シャドウ反応、消滅。皆さん、お疲れさまでした』
風花のアナウンスが、夜空に響き渡り、今回も無事に試練を乗り越えることが出来たのだと確信した。
けれど試練を乗り越えても解決しない問題があった。
「あうぅ……」
ホテルから出ると先に出ていた風花と、彼女の背に隠れるようにして立つ優ちゃんの姿がった。
桐条先輩や真田先輩が近づいて声を掛けると顔を向けて返事をしているようだが、私が声を掛けると風花の顔が目の前に。
「あはは、湊ちゃん。怖い顔しないで、優ちゃんは恥ずかしがっているだけだよ」
「くっ……」
「あうあうあう……」
その後も何とか優ちゃんと話をしようと試みるが全て不発に終わり、巌戸台分寮につくと彼女は一目散に自室へ逃げ込んでいった。
私のこの怒りや憎しみは一体、誰にぶつければいいのだろうか……。
7月8日(水)
「ふわぁ……」
台所で朝ごはんを作る総司くんが不意に欠伸をする。夜更かしなど滅多にしない彼にしては珍しいこともあるものだと思い声をかける。
「総司くん、珍しいね?昨夜は何かやっていたの?」
「えーと……。3時くらいにですね、お泊まりセットを持ったパジャマ姿の優が突入してきまして、朝まで添い寝していたんですよ」
総司くんはまた大きな欠伸をひとつする。彼の様子を見るに、優ちゃんが突撃して以降は眠れていないようだ。するとラウンジの方にいた順平が話に混ざってきた。
「確かそういう行為をさせないために、優ちゃんは学生寮に入っていたんじゃなかったか、総司?」
「僕も最初は追い返そうとしたんですけれど」
「けれど?」
順平が総司くんの隣に行って、作っているものを覗き込みつつ尋ねる。総司くんはフライパンの蓋を取って、焼いているものの正体を見せつつ答えた。
「『このままじゃ女好きになっちゃう』なんて言われたら……ですね」
「……なんつーか、ドンマイ」
「本当ですよ。昨日、いったい何があったんだか。そこに関しては何度聞いても教えてくれないし。結城先輩は何か知りませんか?優がこんな行動を取る様になった理由」
「ワタシハナニモシラナイヨ。ウン、シラナイ」
「どうして片言なんですか!?」
私は昨日のことを思い出し、総司くんから視線を逸らす。
その行為に何か疑問に思ったのか、彼は順平にフライ返しとお玉を持たせると私の近くに来て真相を聞き出そうとしてくる。
答える訳にはいかないので耳を塞いで逃げ回る私と、何があったのかをしつこく聞いてくる総司くん。
私たちのやりとりは他の人たちが降りてくるまで続き……
「……なんだ、この炭は?」
「味噌汁、煮立っちゃって味濃い……」
「この浅漬けはうまいな。美鶴、岳羽、そちらは諦めて漬物で白飯を食え。中々イケるぞ」
「珍しいね、総司くんが料理を失敗するなんて……え?順平くんがやったの?」
桐条先輩が“焼き魚だったもの”を箸で掴みマジマジと見る。
ゆかりが啜った味噌汁は風味が消し飛ぶくらい煮られてしまい濃い味噌の味がする汁物になっている。
キャベツを塩昆布で浅漬け風にした漬物は上記の2つが駄目になってしまったので、急遽総司くんが即席で作ったもの。
順平は自分が仕出かしたことに責任を感じ、朝食を食べずに学校へ行った。
ちなみに優ちゃんは剣道部の朝練があるとのことにて、私が起きてくる前に出発してまったらしい。
本当のところはどうなのか分からないけれど。
「塔コミュニティ……ブロークン状態って何でさ」
私は人目憚らずに思い切り肩を落とすのだった。