ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 7月ー①

7月8日(水)

 

朝から鳴上兄妹とのやり取りでげんなりした状態で学校へ行くと、来週の火曜日から期末テストがあることを告げられる。夏休み前で、今回は試験休みがあるとはいえ何も準備してきていない。

 

ゆかりや風花と要相談だなぁと思いつつ、疲労で瞼を閉じないようにしながら授業を聞く。目を閉じそうになる度、私に当ててくるんだよね鳥海先生って。

 

放課後は節制コミュであるベベくんと過ごした。

 

日本留学自体に否定的な叔父さんを納得させるために日本の文化である着物を作成すると意気込む彼を応援しつつ、私はマフラーを編む。カタチになれば、誰か知り合いに渡そうと思うけれど、不格好なものになったら部屋に飾っておこうと思う。

 

 

寮に帰るとラウンジにいたゆかりや風花に話しかけられる。何か調べものがあるらしい。

 

私も混ざろうとしたが、その調べ物自体が不確定なものであるらしく詳しいことが分かったら私も混ぜてくれるとのこと。

 

2人は期末テストに向けてちゃんと勉強しているのだろうか。となると、前回の成績に胡坐を掻いていた私だけがピンチなのかな……と台所の椅子に座っていた順平と目が合う。

 

テスト勉強について話そうと近づいたのだが、私が口を開こうとした瞬間、順平は耳を塞いで現実逃避をはじめる。要は話しかけるなってことか。

 

「どうしたんですか、結城先輩?……あ、またやってる。順平さん、僕はもう怒っていませんよ」

 

「…………」

 

順平は今朝の朝ごはんを駄目にしたことを気にしていたらしく、帰ってきて早々に総司くんに謝りにきたとのこと。目を離したのは自分だし、説明もせずに頼んでしまったこともあるし気にしていないと伝えたのだが、ゆかりや桐条先輩から向けられる視線に耐えられなかったとのこと。

 

何よりも風花から「私と一緒に…」って料理の練習を誘われたらしい。

 

「それにしても来週は期末テストですね。結城先輩はちゃんと勉強していますか?」

 

「うっ……。まさか総司くんから言われるとはね」

 

「僕はタルタロスとかシャドウの討伐とか関係ないので、皆さんがいない時は勉強しているか、読書していますから」

 

総司くんはそう告げると向き直って、鍋をお玉でひと混ぜする。今日の晩ご飯はビーフシチューのようだ。私は総司くんの隣に立ち、鍋の中をのぞき見る。

 

複雑なスープの中で煮込まれた、深い深いコクを持つ、肉と野菜のスープ。肉は圧力鍋で調理した後に加えられていることもあって、お玉でスープの中から持ち上げるとホロホロと今にも崩れてしまいそうだ。私は無意識の内に唾液を呑みこむ。相変わらず、人の胃袋をがっちりと掴んで離さない料理を作る男の子だと、私は感心し直す。

 

「結城先輩、鍋つかみをつけてオーブンの中を確認してもらっていいですか?ちょっと自家製の食パンを焼いてみたんですけれど」

 

「パンって、家庭でも作れるんだ」

 

私は彼から注意されたよう火傷しないように鍋つかみをきちんとつけて、オーブンを開ける。焼き立てのパン特有のいい匂いが寮の1階に広がり、ラウンジで思い思いに過ごしていたメンバーも台所に寄ってくる。その姿を見た総司くんは苦笑いを浮かべながら言う。

 

「真田先輩がまだ帰ってきていませんが、先に食べますか?」

 

晩ご飯の後、ゆかりと風花は言っていたように調べ物があるからと上がっていった。

 

順平は総司くんと一緒にバラエティ番組を見て笑っているが、本気では楽しめていないようだ。そう思うなら勉強すればいいのに。そんな風に彼らを見ていると総司くんの携帯電話が鳴った。メールだったらしく、それを見た総司くんはため息をつくと立ちあがって、台所へ向かう。そして、1人前の晩ご飯を用意するとお盆に載せて階段を上がっていく。

 

「たぶん、優ちゃんの所に持って行くんだな……」

 

「え?優ちゃん、もう帰ってきていたの?」

 

てっきり、部活か何かで遅れているのだと思っていたのに。

 

「いやいやテスト前だし、部活は休みだっつーの。……ちぇ、せっかく忘れていたのに」

 

「順平はしないの?ゆかりや風花は準備しているみたいだよ」

 

「げっ!?マジか……次、悲惨な点数だと“家庭教師”がつけられちまうんだよな。桐条先輩に」

 

そういえば中間テストの時にそんな話もあったかな。順平は中間テストでは『平均より下』ということもあってぎりぎりセーフだったのだと勝手に思っていたが、今回の成績も見て判断するつもりなのかとラウンジで紅茶を飲む桐条先輩を見る。

 

「桐条先輩と真田先輩はいつも通り勉強もそつなくこなしているだろうし、総司くんと優ちゃんは今回もセットで勉強するだろうしね。……順平、この1週間私と一緒のメニューで勉強してみる?」

 

「……いいのか?」

 

順平はばつが悪そうに私を見ている。中間テスト8位だった私は胸を張って言う。

 

「私は別に構わないよ。ただし、文句は言わないことが条件」

 

「なら頼むわ。藁にも縋る思いでやんねーと、マジやべーんだ」

 

順平が雨の中、段ボールに入れられ新たな飼い主を求める犬の様な瞳で私を見てくる。

 

「それじゃあ、早速。ポロニアンモールのゲームセンターに行こうか♪」

 

「って、いきなりゲーセンかよ!?」

 

順平が被っていた帽子を床にたたきつけた。

 

失敬な。

 

ポロニアンモールのゲームセンターにあるクイズゲームが目的なの!全国の猛者たちと競い合うことで頭の回転が速くなり、その後に長鳴神社でお参りして学業成就祈願して勉強すると効率がいいんだからね。ついでにコロマルの頭を撫でるとご利益アップ!

 

「さぁ、行くぞ!いざ決戦の地へ」

 

「湊っちに任せて、オレっちは本当に大丈夫なのか……」

 

順平が何かぼやいているが気にせず、私は駅に向かって歩き出した。

 

 

 

7月9日(木)

 

「ぶはっ……ナニアレ?」

 

学校へ行く準備を終えて、廊下でばったり会ったゆかりと一緒になって階段を降りると、台所にオペラ座の怪人(女)がトーストを頬張っていた。月光館学園中等科女子の制服を着ている所を見ると昨日は1日、姿を見ることが出来なかった優ちゃんのようだが、彼女は私の姿を視認すると駅の改札口のようにトーストを飲み込むように食べ、牛乳を一気に飲み干すと鞄を持って風のように出て行った。

 

その後ろ姿を見送った私は呟く。

 

「……そこまでいやか」

 

「うわっ、湊。落ち着いてよ、風花も言っていたじゃん。恥ずかしがっているだけって」

 

「それにしては、酷いと思わない」

 

「いや思わなくもないけれど、分からないこともないでしょ。私だって桐条先輩と……うがー!!あのエロシャドウめ、もっとぎったんぎったんにしてやるんだった!!」

 

ゆかりはあの夜のことを思い出したのか、その場で地団駄を踏む。私たちがいくら怒りや憎しみを滾らせようが、その原因となった大型シャドウはこの世から消滅しておりどうすることも出来ない。

 

「お前たち、階段で何をしているんだ?」

 

「あ、真田先輩」

 

トレーニング用のTシャツとズボンを着た真田先輩が下から見上げてくる。シャワーで汗を流してきた所なのか、所々がまだ濡れている。

 

「真田先輩、プロテインここに置いておきますね」

 

「ああ。すまんな、鳴上兄」

 

そう言った真田先輩は総司くんが用意した飲み物を右手に持ち、左手は腰に当てて一気に飲み干す。飲み干してしまった容器を総司くんに手渡すと、真田先輩は学校へ行く準備をするために上の階へ上がっていく。

 

私たちはそれを見届けて、総司くんが用意してくれた席へと向かう。今日の朝ごはんはトーストとハムエッグ、オニオンスープに牛乳という洋風テイストのメニューだ。

 

「ねえ、総司くん。さっきのは何?」

 

「僕が作った料理にプロテインを掛けさせないために、妥協案を真田先輩に提示したんです。プロテインの効果的な飲み方とかをちゃんと調べたりして。詳しいことは省きますが、『朝食後』『運動後45分以内』『就寝前』に真田先輩のプロテインを使ったスペシャルドリンクを作って提供するということで手を打ちました」

 

そうぶっきらぼうに答える総司くんに私とゆかりは顔を見合わせ、苦笑いする。

 

『そんなに嫌なのか』と。

 

「あと、結城先輩」

 

「ん、どうかしたの総司くん?」

 

私がフォークで目玉焼きの黄身をつつこうとした時に総司くんが話しかけて来た。彼はちぎったトーストをオニオンスープに浸したものを食べつつ告げる。

 

「優から伝言です。『あと2~3日、時間をください』だそうです。……優に何をしたんですか、結城先輩?」

 

「ちょっ、誤解だよ!?私は何もしていないからね」

 

「……そういうことにしておきますけれど、優を泣かせたりしたら絶対に許しませんよ」

 

そう言う総司くんの目は据わっていた。ペルソナの恩恵で身体能力とか色々と上昇はしているけれど、彼に本気で来られたら果たして私に勝ち目はあるのか……。

 

「ちなみにどういったことするの?」

 

ゆかりがトーストを口に含みつつ、質問すると総司くんは腕を組んで自信満々に告げる。

 

「他の皆さんは豪華なディナーの中、結城先輩だけメザシとご飯のみです」

 

やり方は微妙だったけど、効果的だった。皆が美味しそうなお肉を頬張る中、私だけしっかり味がしみ込んでいるとはいえ貧相な肉つきの魚を頬張る絵が脳裏に思い浮かぶ。やばい泣きそう。

 

「……結構、えげつないね。大丈夫、そんなことにはならないよ。ね、湊」

 

「ウン、ソンナコトシナイヨ。ゼッタイ、ヤクソクスルヨ」

 

「だから、なんで片言になるんですか?……冗談ですよ、世界を救うために戦っている人たちにそんな酷いことはしませんって」

 

総司くんは残っていたごはんを飲み込んでしまうと洗い場で、食器の後片付けを始める。その後ろ姿を見ながら私とゆかりは小声で話す。

 

「優ちゃんを泣かせたら絶対するよね」

 

「うん、総司くん。優ちゃんのこと大切にしているから、……するよ、確実に」

 

 

 

ん、あれ?総司くんって、今。何か重要なことを言わなかった?

 

気のせいかなぁ……。

 

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