ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 7月ー③

7月12日(日)

 

いつもよりも遅めに起きて1階に降りると優ちゃんが1人ラウンジにいるだけで、他に人の影はない。昨日の今日だし仕方がないかと思って、優ちゃんに近づくと彼女はテスト勉強をしていた。前回同様、総司くんの参考書と見間違うようなノートを見ながら。

 

「あ、おはようございます。結城先輩」

 

「うん、おはよう。テスト勉強中だった?邪魔してごめんね」

 

「いえ、部屋にいると昨日のことが頭をよぎって集中できないので降りて来たんですけど……」

 

彼女の様子を鑑みるにあまりうまくいっていないようだ。確かに昨日の話は中々ショッキングで、当事者には見過ごせない問題であるが、私は総司くんの言葉を思い出す。齎された情報がすべて真実と限らないこと、言葉の裏にあるその人の心意を察することを。

 

「……ま、それは置いといて。お腹すいちゃった。優ちゃん、今日の朝は何かな?」

 

「朝ごはんのことでしたら、冷蔵庫の中にアジの開きが入っているので『身の方を5分焼いて、皮の方を3分焼いて食べてください』って兄さんが言っていました」

 

アジか……。確かに今が旬の魚だよね。

 

台所に移動するとホウレンソウの和え物とか味噌汁も用意してあった。それと底が深く大きなフライパンもあった。蓋を開けて覗き込むとひき肉と野菜がゴロゴロ入ったドライカレーが作り置きされていた。

 

私は自分の分の朝食を作り終えるとお盆に載せて優ちゃんの傍まで持っていく。アジの開きの匂いに気付いた優ちゃんが顔を上げる。

 

「結城先輩はうまくいったみたいですね。実は私、失敗しちゃったんです。もう身がぱさぱさになっちゃって、せっかくのアジの味が最悪に……はっ!?違いますよ、狙った訳じゃないです。本当ですよ」

 

私は何も言っていないよ、優ちゃん。可愛らしく慌てる姿を見せる優ちゃんを見ながら私はソファに腰を下ろすと両手を合唱させ、朝ごはんを食べ始める。

 

「うぅ……そんなつもりはなかったのに」

 

「ねぇ、優ちゃん。ドライカレーの作り置きがあるってことは、総司くんはどこかにでかけているの?」

 

「はい。青ひげファーマーシーの店長さんに誘われて、釣り船に乗って東京湾で旬の魚を釣りに行くそうです。というか4時過ぎには出発したみたいですよ」

 

「えぇ~……。総司くんは大丈夫なの?」

 

「兄さんは好きなことをしていると体力と気力が減らない体質らしくて、1日釣り竿を握って離さなかった時もあるらしいですよ」

 

私は視線を落としてアジの開きを見る。もしかしてこれも彼が釣ってきた魚なのではなかろうかと。私の視線に気付いた優ちゃんは、それはさすがにスーパーで買ってきたものだという。この寮が海の近くにあったならばやりかねなかっただろうなぁと遠い目で話す優ちゃんを見て、魚を干物にするスキルも持っている彼の実力に脱帽するしかない。

 

「ちなみに昼ご飯は『ドライカレー』じゃなくて、『タコスライス風』にして食べてくださいとのことです」

 

「蛸…スライス?」

 

「蛸は入っていないですよ、結城先輩。……兄さんの指摘通りのことを皆、言うんだなぁ」

 

優ちゃんが持つ総司くんのメモによると、タコスライスっていうのはメキシコ料理のタコスの具であるひき肉・チーズ・レタス・トマトをご飯に載せて食べる沖縄料理らしい。総司くんはアレンジしてひき肉の代わりにドライカレーを載せるとのこと。

 

そんな料理もあるんだと感心していると、階段を降りてくる音が聞こえて来た。優ちゃんと階段を見ていると桐条先輩が姿を現す。

 

「「おはようございます」」

 

「ん……ああ。おはよう」

 

桐条先輩は悩ましげに眉を寄せており、見るからに疲れているような雰囲気だった。

 

私は優ちゃんと顔を見合わせる。私の意図に気付いてくれた優ちゃんは立ちあがって桐条先輩の所へ。私は食べ終えた食器を洗い場に置くと、桐条先輩の分の朝食を準備する。振り返って様子を窺えば、優ちゃんが数学で分からないところを桐条先輩に質問して教えてもらっている。たぶん桐条先輩は昨日のことで気分が沈んでいるだろうから、優ちゃんの行動は正解だ。彼女の気分転換の一手となるだろう。

 

アジの開きを焼き終えて、用意しておいたごはんや味噌汁と一緒に彼女の元へ持っていくと、降りてきたよりも随分と表情を和らげた桐条先輩の姿があった。

 

 

 

朝食を終えた桐条先輩も交えて話す。

 

「すまなかったな、2人とも。心配をかけさせてしまって。特に結城はご両親のこともあるのに」

 

「いえ。私はあの後、総司くんに教えてもらいましたから」

 

「あ!結城先輩。その話は聞いていませんよ」

 

私は昨日の夜、屋上で総司くんと話をしたことを2人に告げた。桐条先輩は特に気にする様子はなかったけれど、総司くんが大好きな優ちゃんは食いついてきた。

 

「昨日の桐条先輩の話で、両親のことを思い出して屋上で風に当たっていたら先客がいたんだ。それが総司くんだったの。そしたらね、いきなり「胸を隠せ」って言うんだよ」

 

「えっと?」

 

状況がうまく飲み込めないのか優ちゃんと桐条先輩は首を傾げる。

 

「私は寝る時、ブラ着けない派だから」

 

「結城先輩、部屋の中はまだいいですけれど、寮内を動き回る時はちゃんとした方がいいですよ」

 

優ちゃんは私の後ろをちらっと確認すると今までよりもちょっと大きな声で語り始めた。

 

「相手がたまたま紳士な兄さんだったからよかったものの、肉食獣な真田先輩や伊織先輩だったらその場で押し倒されていてもおかしくな」

 

「そこまで節操なくないわ!!」

 

優ちゃんの態とらしい話し方にはやはり裏があった。起きぬけにこんな話をされて一気に目が覚めたらしい順平は台所から急いで戻ってきて優ちゃんの発言にツッコミを入れる。

 

「で、その後に何があったんですか?」

 

「ちょっ!?まさかのスルー!?今のツッコミだけでオレっちの役目は終わりなの!?」

 

順平が優ちゃんや私たちを見て目を白黒させる。優ちゃん、中々あくどいね。

 

「総司くんはこう言ったの。『得た情報が全て真実とは限らない。人の言葉の裏に隠された真意を知れ』って」

 

「中々、哲学的なことを言うんだな、総司」

 

順平は朝食を食べずにソファに手を置いて、私の話を聞くことに徹するようだ。

 

「昨日の桐条先輩の様子は普段とかけ離れていました。私は話を聞いていて、お祖父さんの罪滅ぼしのためなのかなって思って聞いていましたけれど、それは違うんですよね。桐条先輩が特別課外活動部を作り、日夜シャドウと戦っているのは、桐条先輩が大切に思っている人がそれを望んでいるから。例えば……お父さんのためとか?」

 

私が桐条先輩に視線を向けると優ちゃんや順平も彼女を見る。桐条先輩は呆然とした表情を浮かべた後、力なく笑って話し始める。

 

「まさか、あの会話でそこまで見抜かれるとは……。その通りだよ、結城。私はお父様のために戦っているようなものだ」

 

自分の弱い部分をさらけ出すように、力のない淡々とした口調で話す桐条先輩。

 

「祖父が起こした事故によって作り出された影時間。それを消すためにお父様は苦悩し続けている。桐条グループの膨大な日々の業務に加えて、影時間を消すために精力的に動かれ、心休まる時などない。私はそんな苦悩からお父様を解放させてあげたいんだ」

 

そう自らの気持ちを吐きだした桐条先輩の瞳には強い意志を感じた。

 

「……へへっ、桐条先輩も人の子だったってことですよね」

 

「伊織先輩、不謹慎です。割とおっちょこちょいな所がある桐条先輩のどこを見て、そんなこと言うんですか」

 

順平と優ちゃんの会話を聞いて苦笑いを浮かべる桐条先輩。朝、降りて来た時の様な危うさは感じられなくなっていた。その姿を見て、私は自然とほほ笑む。

 

総司くんのアドバイスで、ここまで暗い雰囲気を変えられるなんて思っていなかったから。

 

「というか、桐条先輩ってファザコンだったんですね。私が兄さんを大好きで周囲の人からブラコンって呼ばれているのと一緒ですね」

 

「優ちゃん、自覚あったんだ」

 

「ファザ……、なんだ?」

 

順平が呆れ、桐条先輩が何を言っているのか分からないと頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「桐条先輩の戦う意味って、そんなに難しくないんじゃないですか?先輩の話を聞いていると、こんな風に感じました。『事故が起きる前のお父さんに戻ってほしい。お父さんの安らいだ顔、いや笑顔が見たい』って」

 

「……結城」

 

桐条先輩は今まで胸に刺さっていた針が抜け落ちてしまったような、安心するような安堵の息をついた。そして天井を見上げ、私が告げた言葉を口の中でころがす。

 

「お父様の笑顔……。そうか、私はお父様に笑っていて欲しいから戦っているのか」

 

穏やかな表情を浮かべる桐条先輩の姿に思わず見惚れてしまった私たち。

 

「ありがとう、結城、鳴上、伊織。私は今まで、ずっと忘れていたよ。私がペルソナ能力に目覚めた頃に抱いた最初の、シャドウと戦うと決めた頃の気持ちを。再認識させてくれて、本当にありがとう」

 

そう言って頭を下げる桐条先輩を起こして私たちは顔を見合わせて言う。

 

「当たり前じゃないっすか、仲間ですよね。オレたち」

 

「桐条先輩がいたから、私たちはここに集ったんです」

 

「私たちはまだ何も失っていないんですから、そんな顔しないでください。解かないといけない謎はまだまだありますけれど、皆が力を合わせたらきっと立ち向かっていけます」

 

「……そう、だな。ふふっ、まさか君たちに慰められるとはな……。いや、これでいいのか。私ひとりで背負わずとも」

 

「私たちがいますよ、桐条先輩」

 

私がそう告げると優ちゃんや順平も力強く頷く。桐条先輩はそれを見て、静かに涙をこぼしたのだった。

 

その時、私の頭に響き渡る声が聞こえた。女帝コミュが開始されたようだ。

 

 

 

お昼時、さすがに部屋に閉じ籠もっていたゆかりや風花たちも降りて来た。昨日の今日のこともあって、彼女たちは桐条先輩の方へは視線を向けようとせず、タコスライスを口に含んでは美味しいのに美味しくないと言いたげな表情を浮かべていた。

 

皆が昼ごはんを食べ終え、それぞれ行動に移ろうとした頃合いを見計らうようにして幾月さんが寮にやってきた。メンバーを全員、ラウンジに集め話し始めた。

 

「昨日はすまなかったね。今日は詫びも兼ねて一つ提案をしにきたんだ」

 

桐条先輩とゆかりの間に微妙に重い空気が流れていて、間に座ることになった風花と優ちゃんが居心地悪そうにしている。

 

「明後日から期末試験だが、それが終わったら試験休みも合わせて4連休になる。そこでだ」

 

期末試験という単語が聞こえたとたん、忘れてたと表情を歪ませたのは順平ではなく、ゆかりと風花の2人だった。あれ、2人とも準備オッケーじゃなかったの?

 

「その4日間を利用して、屋久島に行かないかい?次の満月まで時間もあることだし、息抜きも必要だろう?」

 

「屋久島ですか!……えっと、どこですっけ?」

 

優ちゃんの発言に何人かが『がくっ』と体勢を崩す。順平は帽子のつばを触りながら、中々のボケだぜと感心しているがそうじゃなくて。

 

「“優”、屋久島は鹿児島からフェリーに乗って4時間行った所にある島だ。その屋久島には桐条の別荘がある。そして、私の父。桐条武治が休暇をそこで過ごすことになっているんだ」

 

「え、それじゃあ私たちお邪魔じゃ……?」

 

桐条武治とは、朝から“美鶴”先輩からも話にあったように、現桐条グループの総帥である。きっと貴重であろう家族団欒の時間を余計な人間でかき乱すのは気が引けることもあってか、ゆかりは遠慮の声をあげる。

 

「構わない。皆でお父様に会うことには、意味があるんだ」

 

「意味?」

 

「ああ、理事長は昨日、私に気を使って当時の関係者は全て死亡した、とおっしゃったが、1人だけ例外がいる。……私のお父様だ」

 

また一つ事実が明らかになった。そして、総司くんの『全員死亡したっていうのは嘘かもしれない』っていう推測もまた当り。

 

「総帥がいらっしゃるのは20日だそうだ。私の予定では滞在は3日、ということになるね。他の日はしっかりと羽を伸ばしてほしい」

 

「ということは常夏の海でバカンスが出来るってことッスね?いやっほーーい!!」

 

順平のモチベーションが天元突破する。その姿を見て女性陣は一様に引き気味である。

 

「順平、アンタ騒ぎ過ぎ」

 

「なんだよう。だって南国だぜ!青い海!輝くビーチ!はじける水着!楽しみになるってもんだろ」

 

「まあ、そうだけど」

 

確かに、屋久島を高校生の身分で堪能できる機会はそうそうに訪れない。期待してしまうのも道理だと思う。風花も似たようなことを考えたのか、小さく呟く。

 

「せっかくだから、私新しい水着買おうかな…」

 

「じゃあ、オレが選んで……」

 

「アホか!このエロ魔人!!」

 

「ぐはっ!?」

 

「ふむ、海か……。普段とは違う訓練メニューが組めるかもしれん」

 

「真田先輩、あくまで遊びに行くんですよ」

 

思い思いに騒ぐメンバー。その輪の中に美鶴先輩とゆかりもいる。それを見て満足そうに頷く幾月さんは話をまとめに掛る。

 

「まだ日にちはあるから、ゆっくり準備してくれ。総司くんにも伝えておいてくれよ、彼はタルタロス探索の肝なのだから、もしも置いて行ったら恐ろしい事態になってしまうかもしれないしね。それと、勉強は怠らないように」

 

「は~い!……って、なんでみんなそこでオレを見るのっ!?大丈夫だって、今回のオレっちには頼もしい先生がついているんだからな!」

 

そう言った順平が縋るような視線を私に向けてくる。

 

「じゃあ、今すぐ勉強道具持って来い!ここでやるぞー」

 

「あ、“湊”先輩。私もここで勉強していいですか?」

 

「いいよいいよ。ゆかりたちはどうする?」

 

2人は顔を見合わせると頷きあって合同勉強会に参加すると言ってくる。順平はすぐに道具を取りに上がっていて、調子がいいんだからとゆかりは苦笑いを浮かべる。

 

幾月さんは美鶴先輩と真田先輩に見送られ、寮から出ようとしたのだが、

 

「ただいま、戻りました!今日の晩ご飯は『ハモの天ぷら』です!!」

 

「それじゃあ、桐条君。僕はもう少し、ここにいさせてもらうよ。晩ご飯までご馳走になろうかな」

 

「……分かりました。鳴上、そのガタゴト揺れるクーラーボックスの中身はもしかして、生きているのか?」

 

「はい、今から捌きますけど?」

 

「「「…………」」」

 

ハモが美味しいのは知っているけれど、あまり生きた状態の物は見たくない。ということで勉強会の会場を2階のタラップに変更することに異論は出なかった。

 

もちろん、晩ご飯で出された今が旬のハモの天ぷらは大変美味でした。

 

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