ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 7月ー④

7月13日(月)

 

ホームルーム後、帰ろうとしている順平とゆかりを捕まえて、隣のクラスで風花を回収し皆でポロニアンモールのゲームセンターにやってきた。

 

そして、『渋々ついてきたんだ』って言わんばかりに不機嫌な様子だったゆかりをクイズゲームの解答席に座らせゲームを開始する。すると最初はやる気なかった彼女も、全国のライバルたちに刺激されたのかどんどんテンションが上がっていく。その姿を見ながら思う。

 

「ゆかりは言葉で言うよりも、こっちの方が気分転換になるかなって思ったんだけど……」

 

「モニターを叩いちゃ駄目だよ、ゆかりちゃん」

 

「ありゃあ、普通のゲームやっていたらコントローラーを投げるタイプだな」

 

若干ヒートアップしすぎたゆかりを見守りながら、私たちは周囲から向けられる奇異の視線に耐えるのであった。

 

寮に帰ってからも4人での勉強会は続く。優ちゃんは自室で追い込みをやっているらしく、晩ご飯は自室で取るとのこと。私たちは1階のラウンジにて行うことにする。総司くんが補充する和菓子を食べながら。

 

「あ、このおまんじゅう美味しい」

 

「いや、うまいんだけどさ。なんで和菓子?」

 

総司くんは台所で晩ご飯を作り終え、夜食の調理を行っている。材料を見るにサンドイッチのようだ。

 

「つか、総司は勉強しなくtいてて!?」

 

「はーい、順平は余所見しないの。総司くんは普段から、優ちゃんのためにテスト用のノートを作ったりするのと一緒に復習しているから、問題ないの」

 

私は余所見をしたり、話を逸らして勉強に集中しようとしない順平の耳を引っ張って無理やり問題に向き合わせる。数学なんて公式さえ覚えてしまえば、あとは数をこなして度胸をつければオーケーだ。順平はやる前から諦めている節があるので、徹底的に叩き込んでいく。

 

「ねぇ、湊。鳥海先生の授業でさ、夏目漱石の話題あったじゃない?」

 

「うん、確か読み方だったよね。ニューヨークはどんな漢字で書くでしょうって奴」

 

「“紐育”の書き方を覚えていればいいのかなぁ……」

 

「うーん、どうだろ。風花のクラスではどんなだった?」

 

「ニューヨークの話題は出なかったよ。普通に夏目漱石の作品の中のひとつを紹介されただけ」

 

そう言った風花は現代国語のノートを開き、『倫敦塔』と書かれているページを私たちに見せた。そういえばニューヨークはどんな漢字で書くのかっていう質問も、ロンドンを『倫敦』って書くことから派生して当てられたんだった。

 

月光館学園の先生たちは結構、授業中に話した雑学の中から問題を出すことが多い。しかも、素直に雑学で披露した通りのことを問題にする先生もいれば、雑学をするネタとなったものを問題にする天の邪鬼な先生もいるのだ。これは見直す必要があるかもしれない。

 

私は順平に勉強を教えながら、自分のノートを見返して今まで気にも留めていなかった雑学のところを見直すのだった。

 

 

7月14日(火) 期末テスト1日目

 

保健の問題:水脈探しとして発達した、探し物の自然魔術は?……ダウジング

 

 

7月15日(水) 期末テスト2日目

 

英語の問題:欧米でデビルフィッシュと呼ばれ、あまり食べる習慣のない生物は?……イカ

 

 

7月16日(木) 期末テスト3日目

 

歴史の問題:鎌倉幕府を創設した人物は?……源頼朝

 

 

7月17日(金) 期末テスト4日目

 

現国の問題:夏目漱石の作品の題名を選びなさい。……倫敦塔

 

 

7月18日(土) 期末テスト最終日

 

走り出したペンは止まらない♪

 

優ちゃんに中学生の問題を教えることで基礎を復習し、順平に勉強を教えることでテスト範囲の復習もして、その上ゆかりや風花たちと合同勉強会を実施した甲斐もあり、今回の期末テストはかなり手応えのあるものだった。ホームルームが終わると連休に入ることもあってか、クラスメイトの何名かはすぐに教室を飛び出していった。

 

「あーあ、やっと終わったね」

 

同意を求めるような声かけをしてきたのはゆかりであった。順平は机に座ったまま、何か自問自答を繰り返しているが、すぐにいつもの調子に戻ることだろう。私はゆかりの質問に同意するように頷きつつ、これからの予定を尋ねる。

 

「ゆかりはこれからどうするの?私は風花と一緒に旅行用の買い物に行くけど?」

 

「え、マジ!?聞いてないよ、私」

 

「今日の朝ごはんの時に約束したからね。ゆかり、テスト勉強するのに早めに学校に行ったじゃない」

 

「うっ……それはそうだけど」

 

「意地悪言っちゃったけど、問題ないよ。校門前で優ちゃんも待ち合わせしているし4人で行こっ♪」

 

私が鞄を持って立ち上がるとゆかりも机に置いていた鞄を持って追いかけてくる。廊下で待っていた風花と合流し、玄関に向かって歩く。

 

「湊ちゃん、今日の科学のテストで『カルシウムとマグネシウムの含有量の多い水は何ていう?』って問題あったでしょ。あれは何にした?」

 

「え、軟水じゃないの?」

 

風花の問いにゆかりが目を丸くして答える。こういうところがあるんだよね、ここの先生たちって。

 

「ゆかり、それは少ない方。多いのは硬水だよ」

 

「ええっ!?」

 

「やっぱりひっかけ問題だったんだね」

 

ゆかりは私と風花のやり取りを見て項垂れる。

 

「中間テストでは触れもしなかったのに、期末テストの問題にするあたり捻くれているよね、ウチの先生たちって」

 

「鳥海先生の現代国語の問題もね。ほら、ゆかりちゃん。勉強会の時に話題に上がったじゃない?」

 

「私、倫敦塔にしたけれど、何か問題があった?」

 

「たぶん正解だと思うけれど、あれはずるいよね、風花?」

 

「うん。本当は『夏目漱石の作品の題名“の正しい物”を選びなさい』って書かないといけないのにね」

 

あの問題で正解と思われる倫敦塔の他に書かれていた選択肢は次の物だ。

 

・ぼっちゃん……正しくは『“坊”っちゃん』

 

・虚美人草……正しくは『“虞”美人草』

 

・三四朗……正しくは『三四“郎”』

 

にわか仕込みでの解答はかなり引っ掛かる問題であったと思う。特に『ぼっちゃん』は卑怯だ。夏目漱石の著書で有名なのはやはり「吾輩は猫である」や「坊っちゃん」だろう。そこを平仮名で攻めてくるとは。

 

「あーもう、やめやめ!やっとテストが終わったんだし、旅行のことを考えようよ。湊は何を買う予定なの?」

 

「んーとね、まず水着でしょ。ウェットティッシュとか日焼け止めクリームとか……かな?」

 

私は指を折りながら確認しつつ風花を見る。実を言うと私、遊びで海に行くのは初めてなので、そのことを風花に相談したら一緒に買いに行こうという流れになったのだ。だから、詳しいことはキミに任せたって感じのアイコンタクトを行う。

 

「湊ちゃんみたいに髪が長い娘はひとつにまとめた方が楽だから、ヘアゴムは必須かな。それとビーチサンダル。桐条グループのプライベートビーチだとあまり必要ないかもしれないけれど、普通の海岸だと貝殻とかゴミとかあって危ないから履いていた方が安全なんだよ」

 

風花は苦笑いしながら私の意図に気付いてくれたようで、私の後を引き継いで説明してくれた。ゆかりは納得してくれたのか頷いている。

 

「湊先輩!岳羽先輩、山岸先輩!こっちですー!」

 

月光館学園高等科の校門前に優ちゃんがすでに待っていて、私たちに向かって大きく手を振っている。

 

「……そういえばさ、湊」

 

「うん?」

 

「湊と優ちゃんと桐条先輩に何かあった?呼び方、変わったでしょ」

 

「あ、それすごく気になりました。桐条先輩が優ちゃんのことを呼び捨てした時は本当に驚きましたもの」

 

「あははは……。えっと、それは追々話すよ。桐条先輩の戦う理由が絡んでるし……」

 

「「戦う理由?」」

 

2人から不穏な空気が発せられる。やばい、と私の脳内で誰かが警鐘を鳴らしている。このままだと根掘り葉掘り聞かれることになると。私は2人の不意をついて駆けだす。そして、優ちゃんの手を取ってポロニアンモール方面へ逃げる。

 

「あ、待て。こらぁ!」

 

「ずるいですよ、湊ちゃん!」

 

後方から何か文句を言う2人の声が聞こえてくるが気にせず走る。いきなり手を引かれ、引き摺られるように走っていた優ちゃんは事態を把握したようで、今は私と並走している。

 

「湊先輩、いきなりはヒドイですよ。言ってくれれば、すぐに走ったのに……」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

私は肩にかけていた鞄を掛け直しつつ、前を向いて走るのだった。

 

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