ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 8月―⑥

銃の形をした召喚器が甲高い音を立てながら床に落ちた。

 

持ち主の顔色は青白く、下唇を噛みしめ涙を流しながら震えている。

 

兆しはあった。

 

寮のラウンジの机に置き去りにされた召喚器。それに気付いて部屋へ直接届けに行った兄さんに彼女はお礼を言いつつも中々受け取らなかった。

 

夏祭りに寮にいるメンバーで行き、それぞれ楽しむことになって訪れた射的の店にて、射的用の銃を手に取った瞬間、彼女は肩を震わせていた。

 

こうなることは容易に予想できたはずだ。彼女は満月の夜、あの陸軍の地下施設跡で戦った『チャリオッツ』と『ジャスティス』を倒すために自ら囮となって、2体の攻撃をその身に受けた。その衝撃と死の恐怖が湊先輩の心身に刻み込まれていると何故、考えなかった。

 

「病院でのことは偶然かと思っていたのだが、やはりか……。明彦、伊織!そいつらを倒したら、一旦エントランスへ戻るぞ!」

 

美鶴先輩が湊先輩の代わりに指示を出す。その後、ゆかり先輩と私に目配せしてきたので頷き、湊先輩の元へ駆け寄る。彼女はその場で蹲り、ただ懺悔するように『ごめんなさい』と繰り返し言い続けていた。

 

 

 

8月12日(水)

 

朝から部活で汗を流した後、寮に帰るとラウンジにて湊先輩と兄さんと天田くんがそれぞれ高校、中学、小学の夏休みの宿題をしているところであった。他の先輩方は夏期講習という名の補習授業に高校へ行っている。帰りは学校があっている時と同じ16時過ぎという過酷スケジュール。初日を無事に終えた先輩たち、特に伊織先輩は帰ってくると同時に玄関にうつ伏せに倒れ込んだ。

 

「こんなのが、土曜日まで続くのかよー……」

 

という嘆きの声が聞こえて来たが美鶴先輩と真田先輩はスル―して荷物を置きに階段を上がって行き、ゆかり先輩はラウンジのソファに座っていた湊先輩の隣に座って愚痴を聞いてもらっていて、彼の相手をすることになったのは必然的に兄さんと天田くんであった。

 

「お疲れさまです、順平さん。とりあえず栄養ドリンクをどうぞ」

 

「チョコレートはいかがですか?頭を使ったら糖分を摂った方がいいってテレビで言っていましたし」

 

「うぅ……2人ともサンキュな」

 

伊織先輩は男泣きしながら兄さんから栄養ドリンク、天田くんからチョコレートを受け取り、彼はその場で胡坐を組んで食べ始める。2人から貰ったものを全て平らげると右拳を天へと突き出し左手を腰に当てつつ立ち上がると、タルタロスで聞きなれた口上を述べる。

 

「テレッテッテー、順平は復活した~。よしっ、この調子で明日も頑張るぜ!」

 

「「おおー」」(パチパチ)

 

ポーズを決める伊織先輩の調子を上げようとしている兄さんと天田くんの心遣いを見て、湊先輩は苦笑いし、ゆかり先輩があからさまに大きなため息を吐いた。私も何かしらのアクションを取った方がいいかなと思ったら玄関に人影が見えた。湊先輩たちも気付いたらしく、皆揃って注視するとその人影は扉を開け入って来た。

 

「只今、帰ってきたであります」

 

「「アイギス!」」

 

人影の正体は6日の大型シャドウ戦にて先輩たちを守るために盾となって左腕を失くし中破して研究所にて修理を受けていたアイギスさんであった。彼女の後ろには、にこやかな笑みを携えた幾月理事長の姿もある。

 

「いやはや、今回は大変だったようだね。……っと、すまないけれど、今日は寮に泊まっていくので僕の分も用意してもらえるかな、鳴上くん」

 

「……分かりました。乾くん、手伝いをお願いしてもいいかな?」

 

「はい。で、晩ご飯は何を作るんですか、総司さん?」

 

「うーん。肉じゃが……かな」

 

兄さんは腕を組んで冷蔵庫の中身に首を傾げつつ、乾くんを連れて台所へ向かって歩いて行く。幾月さんが言葉を濁した瞬間、天田くんが何だか“苦笑い”したような気がしたけれど気のせいだろうか。彼は適正があるとはいえ、まだ私たちの事情は知らないはずだから、今の苦笑いは自分だけ仲間はずれにされていることへの苦笑い……なのだろうか。

 

「クゥーン……」

 

「優ちゃん、そろそろコロちゃんを放してあげなさい」

 

「え……はっ!?いつの間に!!」

 

私の腕の中で両耳をへたりと垂らしたコロマルがぐったりとしていた。私は慌てて床に降ろしたが、コロマルは床に降り立った瞬間、私から距離を取る。私は思わず、駆けて行くコロマルに向かって手を伸ばすが、彼?は振り返りもせずに晩ご飯を作る兄さんたちがいる台所へ駆けて行った。でもそのままの速度で料理している所に突っ込んだら……。

 

「うわっ、コロマル!?って、『バシャーン』あっつーーーー!!」

 

「総司さん!?コロマル何を、ってやめて今じゃがいもを切って、いったーーーー!!」

 

「きゃいん!きゅーん!!ぎゃいん!!!」

 

台所から聞こえてくる阿鼻叫喚から目を逸らそうとした私の両肩に『ぽんっ』と置かれる手。振り向くに振り向けない2人分のプレッシャーを後頭部に感じとった私は、がっくりと頭を垂れるのであった。

 

 

 

夕食後、作戦室へ移動した私たちの前に堂々と鎮座するコロマル。その傍らには修理を終えて巌戸台分寮に帰って来たばかりのアイギスさんの姿もある。

 

コロマルの首には昼間はつけていなかった首輪がある。しかも見慣れない変な機械がついたものだ。山岸先輩もそのことに気付いたのか、珍しそうに見ている。すると、その視線に気付いた美鶴先輩が口を開いた。

 

「その首輪は、ペルソナの制御を助ける物だ。言わば、犬用の召喚器といった所だな」

 

そう説明した美鶴先輩であったが、その表情は実に悩ましげであり彼女もまだ納得できていないところが多そうだ。というか桐条グループすごい。

 

「それ……コロマルも一緒に戦うってことですか?」

 

「正直、私もこうなるとは想像してなかったが、テストの結果、十分可能らしい。というか、理事長からの強い要望なんだ。……面倒もこの寮で見る事になる」

 

ゆかり先輩の質問に答えた美鶴先輩がジト目で睨む視線の先で、兄さんと天田くんが作った晩ご飯に舌鼓を打ちご機嫌だった幾月さんの肩がびくりと震える。

 

「いや僕個人のお願いではなくてだね。その……人間以外のペルソナ使いは“初”だから、研究用にデータが欲しいと桐条グループ系列の研究所からの依頼でもあるんだ。おっと、アイギスは別口だよ。彼女はそうなるように調整されて使えるのだからね」

 

幾月さんは私たちから向けられる視線にたじたじになりながらも話し終える。どう転んでも、コロマルが特別課外活動部に参加するのは覆らないということだろう。私は自然とコロマルへ視線を向ける、が凄い勢いで目を逸らされた。

 

「…………」

 

「『こっち見んな』と言っているであります」

 

アイギスさんが告げた言葉はまるで今のコロマルの心境を表しているようで、私はしょんぼりと肩を落とした。

 

その後、解散の流れになり湊先輩以外の先輩方は明日も夏期講習があるということで早めに自室へ帰っていく。私も部活の朝練があるので水分を摂ったら寝ようと思い1階に降りるとラウンジに兄さんとアイギスさんとコロマルがいた。何を話しているのかが気になり近づいて行くと私に気付いた兄さんが手招きしてくれたので、隣に座る。

 

「何を話していたの?」

 

「うん、コロマルがどんなペルソナを扱うのか気になってね。それに預かっていたアクセサリーの合成が大体済んだし、どれがどんな効果を持つのかをアイギスさんに説明していた所だよ」

 

「ワンッ!」

 

「大変参考になるであります。しかし、思い切ったことをしたものもあり、総司さんのその考え方は充分に感服するに値するであります」

 

「いやあ……ははは」

 

兄さんは照れるようにして頬を掻くと、コロマルのペルソナ能力と作成したアクセサリーの一覧を書いた紙を私に渡してきた。私は渡されたソレにゆっくりと目を通す。

 

コロマルのペルソナの名前は『ケルベロス』。使えるスキルは火と闇の即死魔法スキル。火と闇の無効耐性を持ち、弱点は光。武器は短剣を口に咥え、持ち前の素早さで敵を翻弄しつつ先制攻撃を仕掛ける。

 

「……うっ。コロマルのスタイルって、今まで私が担ってきた役目だ。つまり……私はリストラ?」

 

「何を言っているのさ、優?素早さはコロマルがダントツだろうけれど、優は力・耐・速の3つが特別課外活動部の中でも抜きんでているんだよ。それに物理攻撃に関しては全属性使えるんだから、考えるのをやめたらダメ!コロマルが戦線に加わった時に自分はどう動けばいいのかを考えなきゃ」

 

「……ちょっと弱気になっただけ。ちゃんとやるもん」

 

私がそう言うと兄さんは「ならいいけど」と言ってアイギスさんにアクセサリーの説明するのを再開させる。私はその兄さんの説明を聞きつつ、兄さんのコロマルの戦い方や能力についての考察を読み進める。

 

コロマルのペルソナ能力は目覚めたばかりで4月時点の私たちと同等らしいので、タルタロスでレベル上げもとい経験を積ませる必要があるとのこと。

 

この時、私たちがついていくと弱いシャドウが逃げ出してしまうので低階層を山岸先輩のサポートを受けながらコロマルだけで行かせるか、現在私たちが探索している階層に連れて行き実戦経験を積ませるかしなければならない。前者は単独での戦闘経験を段階的に積むことでペルソナ能力に慣れつつ力をつけることが出来るが時間がすごく掛り、後者は仲間がいる状態で戦うのがコロマルの基本になってしまい不測の事態に陥った時の不安が残ることになるという。

 

「ゲームでは経験値が多い最前線でレべリングすればいいけど、優たちは現実に戦っているからね。色んな経験を積んでいないと、いざという時にどうすればいいのか分かりませんじゃ話にならないでしょ」

 

「……兄さん、アイギスさんへの説明は終わったの?」

 

「うん、終わったよ。まだ身体のバランスの微調整もしないといけないから、部屋に戻っていったよ。先輩たちの夏期講習が終わらないことにはタルタロスは無理だろうから、明日はホームセンターについてきてもらう予定」

 

「ああ、コロマルの寝床を作ってあげるんだね」

 

「そういうこと。優は明日も朝練だよね、朝ごはん用にサンドイッチを用意しておくから適当に食べて行ってよ。僕はこれから青髭ファーマーズの店長さんと釣りだから」

 

「え……むぐ!?」

 

兄さんは私の口を左手で抑え声を出させないようにしつつ、右手の人差指だけを立てて口の前に持ってきて静かにするように告げてくる。現在夜の23時前だ。

 

「シッ……先輩たち、特に桐条先輩にばれたらどうするんだよ。コロマルには口止めとして、高級ドッグフードを晩ご飯に食べさしたから、何か聞かれても『朝早く出かけて行った』って証言してくれるんだ」

 

私はそっとコロマルを見てみる。すると尻尾を後ろ足で挟んでお腹の方へ入れている。確か犬がこうする時って、何かしら恐怖を抱いている時じゃなかったっけ?

 

「あ。そう言えば、たぶん結城先輩のだと思うんだけれどさ……」

 

兄さんが突然、思い出したように立ち上がり玄関すぐ横にある受付カウンターのところにいくと鈍色の光を放つ銃……召喚器を手に取った。

 

「結城先輩の座っていた席の下に落ちててさ、たぶん気付いて取りにくるだろうと思って分かりやすいところに置いていたんだけれど、一向にこなくて。明日でもいいけれど、結城先輩に渡しておいて。……じゃ、いってきまーす」

 

兄さんは召喚器をカウンターの上に置くと玄関脇に用意していた釣り道具を持って出かけて行った。その直後、寮の鍵が外側から掛けられる。私はカウンターに置かれた召喚器に一度、目を向ける。

 

「別に急がなくてもいいか。どうせ、土曜日まで夏期講習が続くし、それまでにはいくらなんでも気付くでしょ」

 

私は台所に向かってコップに麦茶を注ぐと腰に手を当て、喉を鳴らして一気に飲み干す。

 

「ぷはー」

 

麦茶をなおすために冷蔵庫をもう一度開け、兄さんの言っていたサンドイッチを見つけると、1個取り出して齧り付く。どうやらタマゴサンドだったらしく、外側のパンのふんわりとした食感をかんじつつ、しっとりとしたタマゴと一体となったマヨと塩コショウの絶妙な味加減に身悶えしつつ階段を上がろうとして、ラウンジに1匹取り残される形になったコロマルに声をかける。

 

「おやすみ、コロマル」

 

「ワンワンッ」

 

コロマルの返事を聞いた私は階段を駆け上がるのだった。

 

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