ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 8月―⑦

8月15日(土)

 

1週間に及ぶ夏期講習から解放されたゆかり先輩たち高校2年生組は皆、ラウンジでだらけきっており美鶴先輩らに苦笑いされている。確かに夏休みに夏期講習と称して1週間も拘束されるのは私もちょっとパスしたい。

 

「ふわぁ……ねむ」

 

伊織先輩の横でテレビを見ていた兄さんが大きな欠伸をした。ここ最近、天田くんと一緒にコロマルの真夜中散歩に出かけているようだが、どういった意味があるのか分からない。確かに夏の日差しの真っただ中で散歩するよりはいいだろうけれどと、もう1人の当事者である天田くんを見れば、彼もまた兄さんの肩に凭れかかる様にして眠っている。

 

「…………」

 

まったく容姿は似てないのに、なんだか兄弟に見えるのは何でだろう。彼らから視線を逸らし、コロマルを見れば湊先輩が餌をあげていた。コロマルも何故だか、嬉しそうにしている。実際、アイギスさんがコロマルの心情を察し言葉に変換しているが、『裏が無くて安心する』ってどういうことなのだろう?

 

「そういや、明日は長鳴神社で夏祭りがあるんだっけか。ゆかりっちは行くのか?」

 

「うーん、どうしよう。風花―、それと湊は行くの?」

 

伊織先輩が振った話題を先輩らに振るゆかり先輩。山岸先輩はその問いに頷き、湊先輩は満面の笑みでサムズアップしている。どうやら2人とも行く気満々らしい。話を聞いているとアイギスさんも美鶴先輩と一緒にだが夏祭りに参加するそうだ。

 

「女性陣は全員参加か、華やかでいいねー。おっと、総司や天田少年はどうするって、……寝ちまっている」

 

先ほどまで手で目をこすりつつも起きていた兄さんも基礎体温の高い天田くんの体温が心地良かったのかソファでぐっすりと眠ってしまっている。

 

その様子を見に来た先輩たちはその微笑ましい光景にほっこりとしつつ、どうするべきか悩み始める。起こして部屋に行かせるべきか、それともタオルケットを持ってきて掛けておくか。多数決の結果、後者に決まり2人の膝の上に大きめのタオルケットが掛けられた。

 

「じゃあ、今日はこれくらいでお開きだな」

 

「そうだね。風花、明日の格好はどうする?」

 

「どうするって、私服じゃないの?」

 

そんな会話をしながら階段を上がって行く先輩らを見送った私は、今まで伊織先輩が座っていた兄さんの隣に座る。別にどうする訳でもないのだけれど、「私の定位置はここだよね」と兄さんのふとももを叩いて再確認しているとニマニマしながら様子を窺う湊先輩と視線が合った。私は見られていたことに気付いたと同時に、頬へ体中の熱が集まって行くのを感じとった。湊先輩は何も言わずに手を振ると階段を軽い足取りで上がって行く。

 

「もう、湊先輩ったら……」

 

「ふぁぁ……。結城先輩が何だって?」

 

「あれ、起きた?」

 

私が声を掛けると兄さんは慣れた手つきで天田くんをソファに横にするとお腹の上にタオルケットをかけ直し立ち上がった。そして、つけっぱなしになっていたテレビの音量を下げると周囲を見渡し、玄関横の受付に歩いて行く。そして、カウンターに置かれていたとあるものを手に取った。それは先日からずっと置き去りにされていた……

 

「あ、結城先輩の召喚器」

 

「渡しておいてって言ったじゃないか、優」

 

「てへへ……忘れてた」

 

「明日は夏祭りだろうから、タルタロスには行かないとは思うけれど、今の内に渡しに行っておくかな。優も来るでしょ?」

 

「うん。コロマル、天田くんのことをお願いね」

 

私がそういうとコロマルは耳をピンッと立たせ大きく頷く。私はそれを見た後、小さく欠伸をしつつ階段を上がって行く兄さんの後に続いて階段を上がって行く。2階を通り過ぎ3階の一番奥の部屋に向かって歩いて行く。そして、兄さんは控えめにドアをノックした。

 

「すいません、結城先輩。総司ですけど」

 

「はーい。ちょっと待ってね。ブラ着けるから」

 

「…………」

 

そういえば、湊先輩はつけない派でしたね。兄さんはどんなリアクションを取ればよかったのか分からないと言いたげに視線を右往左往させている。こんな風に狼狽する兄さんはすごく珍しい。そんなことを心の中で呟いていると施錠されていた鍵が開く音がしてすぐにドアが開かれる。

 

黄色のTシャツにジャージという色気も何もあったもんじゃない格好で現れた湊先輩の頬はちょっと紅く染まっている。そんな格好を見られたことに対する羞恥心かと思われたけれど、この様子だ違うみたい。するとやっぱりそういうことなのだろうか。実際問題、湊先輩なら兄さんを任せられるかなと思っているので、そっち方面には朴念仁な兄さんの尻を叩いた方がよいのかもしれない。

 

「結城先輩、貴女の召喚器ですよね。落ちていたので拾って受付に置いていたんですけど」

 

「え?……ああ、そっちか。総司くん、ありがと」

 

湊先輩はちょっとだけガッカリしたように俯く。兄さんは兄さんで差し出した召喚器を受け取らない湊先輩に首を傾げている。この女心が分からない奴め。私は無言で兄さんの横に移動して肘で小突き、小声で話しかけた。

 

「兄さん、明日は暇でしょ。夏祭りには行くよね」

 

「優、何故断言したし。そりゃあ、ちょっと様子を見に行くくらいは行こうと思っていたけれど」

 

「夏祭りの前日の夜、部屋に尋ねて来た異性。湊先輩が何を望んでいるか分かるでしょ」

 

「へ?……結城先輩が何を。……って、そういうこと?」

 

「そういうこと。じゃあ、私は部屋に戻るから後は兄さん1人でがんばって」

 

「ちょっ、待っ」

 

私は兄さんの呼び止める声を無視して自室に入った。これだけお膳立てすれば十分だろう。私はほくそ笑んで、ベッドにダイブする。結果は明日になってみないと分からないけれど、きっと明日のラウンジには蕾開いた花の様な笑顔を周囲に振りまく湊先輩がいるに違いない。

 

 

 

8月16日(日)

 

やっぱりと言うべきか、予定調和というべきか、ラウンジのソファに蕩け切っただらしない表情を浮かべた湊先輩が、両サイドに座ったゆかり先輩と山岸先輩から頬をぷにぷにつつかれている。しかし、そんな2人の攻撃などおかまいなしと云った感じで、湊先輩は声にならない歓声をあげている。

 

「えへへ~」

 

「何があったっていうのよ」

 

「完全に聞こえていないみたい」

 

2人が匙を投げるのも仕方が無いことだろう。きっと、私も昨日のあれを見ていなかったらきっと予想がつかなかったと思う。けれど、ああやって湊先輩が幸せの絶頂にいるっていうことは、兄さんはあの後にちゃんとやり遂げたっていうことであり、私としても満足のいく結果となり何よりである。

 

「さってと、ごはんごはん~」

 

踵を返しで台所に行こうとした私の肩に置かれる手。それは人の体温ではなく、そんなひんやりとした手を持つのはこの寮には1人しかいない。

 

「湊さんのあの状態について知っていることがあれば教えてほしいであります」

 

「アイギスさん、もう一目瞭然でしょ。意中の人に夏祭りの誘いを受けた、それだけよ」

 

「それは「ええっ!?あの後、そんなイベントがあったの!!」あう……」

 

蕩け切った湊先輩をいじっていたゆかり先輩が急に立ちあがって、私の所に素早く近寄ってきてアイギスさんを押しのけ迫ってくる。湊先輩の横に1人置き去りにされた山岸先輩も私の話に興味があるのか、少しずつ寄ってきている。

 

「元々兄さんは湊先輩の召喚器を部屋まで届けに行っただけだったんですけれど。ほら夏祭りの前日の夜、気になる異性が部屋を尋ねてくるシチュエーション。女として堪らないじゃないですか」

 

「「確かに!」」

 

うんうんと頷くゆかり先輩と山岸先輩。アイギスさんは私たちのやり取りを眺め、右手を顎に当て頷くと、「なるほどなー」と呟くのだった。

 

「というかゆかり先輩や山岸先輩は、同じ寮の男女が恋するのはオッケーなんですか?」

 

「うん、別に修羅場を起こさなければオールオッケーよ。というか優ちゃん、風花が泣きそうだからいい加減にしてあげなさい」

 

「え?」

 

ゆかり先輩に言われ山岸先輩を見ると、胸の前で両手の指先をつんつんとしながら私を見る彼女と目が合う。言われてみれば確かに、巌戸台分寮に住む女性の先輩で未だに名字で呼んでいるのは彼女だけだ。

 

「分かりました。次から風花先輩って呼びますね」

 

「うん、よかった。別に嫌われている訳じゃなかったんだね」

 

ほっと溜息をつく風花先輩を余所にゆかり先輩は湊先輩のところに戻って、兄さんからどんな言葉で誘われたのかを聞きだしていた。無論、垂れた湊先輩は夢心地で返事は期待できそうにないけれど。

 

 

その日の夕方、男性陣は天田くんとコロマルも含めて先に向かい、私たち女性陣は美鶴先輩の伝手で用意された浴衣に着替え長鳴神社に向かう。鼻歌交じりでスキップしながら先を行く湊先輩の後ろ姿を見ながら思うのはただひとつ。

 

「大丈夫かなぁ、兄さんはこういう時にヘタレるから。心配だ……」

 

私のこの懸念は当ることになる。

 

男性陣と合流し長鳴神社の夏祭りに参加することになったけれど、案の定兄さんの隣にはコロマルを連れた天田くんがいる。湊先輩が考えていた夏祭りデートではないこの事態に、すでに彼女の背後にダウナーな雰囲気が醸し出されている。

 

後で兄さんは〆ると誓いつつ私はその場から離れる。とりあえず約束していた剣道部の友達と合流して、湊先輩のフォローは後で考えようと思う。

 

夏祭りの終盤、剣道部の友人たちと別れた私は花火が見える所に移動してきた。すると特別課外活動部の先輩たちもその場所に来ており、私に気付いた彼らは私を呼んでくれる。

 

「おーい、優ちゃん。こっちこっち!」

 

「今、行きます。風花せんぱーい」

 

先輩たちに合流し花火が打ちあがるのを待つ間、周囲を見渡すと足りないメンバーがいるのに気付く。いないのは美鶴先輩とアイギスさん。それと湊先輩と兄さんだ。

 

「あの美鶴先輩たちは?」

 

「桐条先輩ならアイちゃんを連れて先に寮に戻ったよ。アイちゃんはもう少し居たかったみたいだけれどね。……優ちゃんが気になっているのは湊ちゃんたちでしょ」

 

風花先輩が私に身を寄せながら小声で話しかけてくる。私はすぐに頷き、状況の説明をお願いすると彼女は教えてくれた。私が剣道部の友人たちと過ごしている間のことを。

 

 

■■■

 

 

総司くんに「夏祭りを一緒に廻ろう」と誘ってもらったらしい湊ちゃんは本当に朝から嬉しそうにしていたけれど、現地について彼に話しかけた彼女に待ち受けていたのは残酷な現実。

 

総司くんは天田くんとコロマルを連れてさっさと出店の並ぶところへ走って行ってしまった。それを呆然とした様子で見送った湊ちゃんの姿に私とゆかりちゃんは思わず涙した。優ちゃんが言っていた“ヘタレ”の意味を理解せざるを得なかった。

 

シュンと項垂れた湊ちゃんを誘って私たちも夏祭りを楽しもうと盛り上がる。焼きそばや綿飴、リンゴ飴といったこういった時にしか食べられないものであったり、本当に当りくじはあるのか疑わしいくじ引き屋で遊んだりしていると、射的屋にて総司くんたちと合流した。その際、湊ちゃんの顔を真っ赤にした総司くんが全力で顔を逸らすという珍しい画を見て、私とゆかりちゃんは思わず噴き出し、湊ちゃんも目尻に涙を浮かべつつ苦笑いを浮かべた。

 

せっかく射的屋の前にいるのだからお金を払って挑戦してみるが、用意されたコルク銃の威力が絶妙に調整されていて的が倒れない。当ればぐらぐらと景品が揺れるので、射的屋の店主に文句も言えないので私とゆかりちゃんは諦めた。

 

天田くんはどうだろうと見てみると妙に堂々とした立ち振る舞いでしっかりと照準を合わせ、景品のお菓子をバシバシゲットしていた。

 

「これが特訓の成果です!」

 

と、大きな動作でガッツポーズを決めた天田くんの手には景品であるお菓子が山ほど入ったビニール袋があり、私はその姿に母性本能が刺激されいつのまにか彼を抱きしめ頭を撫でていた。私がはっと正気の戻った時には天田くんはコロマルをつれて遠くへ逃げ出していた。私が恐る恐る周囲を見渡すとゆかりちゃんが腕を組んで仁王立ちしていた。あ、デジャブ……。

 

「風花、ギルティ」

 

「あわわわ……。あれ?」

 

「ん、どうしたの風花?」

 

ゆかりちゃんの後ろ。射的屋の前には湊ちゃんと総司くんが残っていたのだが、様子がおかしかった。天田くんがゲットしたお菓子があった所にセットしなおされた景品に狙いを定めている湊ちゃんだけれど、息が荒く、両手で構えているコルク銃はガタガタと震え照準を定めるとかそういう問題じゃない。

 

隣にて挑戦していた総司くんは店の奥に並べられている景品であるゲームソフトを狙っていたがビクともしないので諦めコルク銃を置いた。そして、様子のおかしい湊ちゃんを見て首を傾げた後に声を掛ける。しかし、湊ちゃんはそれに気付かない。

 

「風花、何かおかしくない?」

 

「うん。湊ちゃ……あっ」

 

私は湊ちゃんに話し掛けようとしたのだが、その前に総司くんが湊ちゃんの背後に回り込んだ。そして、異常な程に震える彼女の手に添わせるように彼は自分の手を重ねた。湊ちゃんはキョトンとした表情で後ろにいる総司くんを見る。すると先ほどまでの震えは何だったのかと言いたくなるほど落ち着いた様子で狙っていた武者鎧を着たネコのぬいぐるみをコルク銃で倒しゲットしたのだった。

 

 

■■■

 

「結局、湊先輩は夏祭りを楽しめたってことでいいんですかね。けど、射的屋でそんなことがあったんだ」

 

風花先輩やゆかり先輩の2人から見ても異常なほど震えていたっていう湊先輩。兄さんが関わることで落ち着いたっていうのはいいけれど、これが何を意味するのか。

 

置き去りにされた召喚器。

 

兄さんが渡しに行った時、夏祭りのことがあったとはいえ中々受け取らなかった。

 

そして、銃を撃つ際に異常な震えが出る。

 

「まさか……」

 

「あ、2人のことには続きがあるの」

 

「え?」

 

風花先輩の声かけに私は考えを中断し、彼女の顔を見る。

 

「射的屋で得た景品を手に持ってご機嫌だった湊ちゃんがちょっとやばそうな不良さんたちにぶつかっちゃってね。いちゃもんをつけられそうになったんだけれど、その人たち総司くんを見て悲鳴を上げたの」

 

「……はい?」

 

「当然、周囲の視線が2人というか総司くんに集まろうとしたんだけれど、総司くんが機転を利かせて湊ちゃんの手を取って逃げ出したの。その場はそれで有耶無耶になったんだけれど、おかげで2人を見失っちゃった」

 

「ああ、それで湊先輩と兄さんもここにいないんですね」

 

「そういうこと。どうせ、花火はここじゃなくても見れるしいいんじゃない?事の顛末は寮に帰ってから聞けばいいしね」

 

私の言葉に返答したのは説明してくれていた風花先輩ではなく、リンゴ飴を食べながら夜空を眺めるゆかり先輩であった。彼女の手には携帯電話が握られており、時間を気にしている。彼女がその携帯電話を直した所を見て、花火を打ち上げる時間に近づいたらしい。

 

 

 

そして、しばらくすると夜空に鮮やかな光を放つ大輪の華が咲いたのだった。

 

 

 

「湊先輩の行動のいくつかがちょっとだけ気になるけれど、まあいっか」

 

 

 

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