ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 8月―⑧

8月17日(月)

 

久しぶりに訪れたタルタロスは相変わらず、月光館学園の敷地内にそびえ立っている。ここにはかつて美鶴先輩のお爺さんが主となって時間操作を目的とした研究を行う施設があった。その材料となったのがシャドウであり、こんなものが作りだされる要因となったもの。幾月さんの話が本当であれば、残りの大型シャドウは4体。そいつらを全部倒してしまえば、この影時間は消えるはず。

 

「おーい、優ちゃん!行くぞー」

 

「あ、はーい。今行きまーす」

 

私は武器である刀の柄を握り締めながら先輩たちの後を追う。そしてタルタロスに足を踏み入れようとタルタロスへ入るための大きな扉のドアノブに手を掛け、勢いよく振り返った。そして、じっと目を凝らす。

 

「……。気のせいかな」

 

誰かの視線を感じたような気がしたけれど、そこに“人”はいなかった。そこにあったのは影時間があることを知ることが出来ない普通の人が眠る棺桶。象徴化したモニュメントがぽつんと立っているだけであった。そのモニュメントの周囲にも目を凝らすが人はいないようなので私は向き直って大きな扉を潜りタルタロスの中へ入るのだった。

 

 

 

私が先輩たちに遅れてエントランスに行くと彼らはすでに準備を整え終わっていた。美鶴先輩と真田先輩はトランスポーターの方を見ながら会話しているが、2年生組とアイギスさんは私に向かって、こっちに来るようにジェスチャーしている。

 

「すみません、ちょっと遅れました」

 

「何かあったの、優ちゃん?」

 

「いえ、ちょっと視線を感じたので見て来たんですけど、私の杞憂だったみたいです」

 

風花先輩に尋ねられたので、何をしていたのか率直に答えると彼女は目を瞬かせた。すぐに召喚器を構え、風花先輩は自身のペルソナであるルキアを召喚する。そして、神経を研ぎ澄ますために目を瞑り深呼吸した。たぶん、タルタロスの周辺を探っているのだろうけれど……。

 

「ふぅ……。タルタロスの周辺に怪しい気配は感じられないよ」

 

「ま、優ちゃんも杞憂だったって言っていたし、問題ねぇーんじゃね?」

 

風花先輩がルキアを消しながらそう言うと、伊織先輩がその意見を肯定するように頷きながら言った。けれど、ゆかり先輩は不安そうにしている。

 

「けど、あいつらは風花の索敵に引っかからなかった。優ちゃんのようにある程度、気掛けるのは必要なんじゃない」

 

「そうですね。ストレガの方にも風花さんと同じような能力を持つペルソナ使いがいるとみて間違いありません」

 

ゆかり先輩が吐露した不安にアイギスさんは頷く。大型シャドウだけでもやっかいなのに私たちと同じペルソナ使いが敵に回るなんて思いもしなかった。不確定要素が多すぎて気が滅入りそうだと思いながら周囲の様子を窺うと、湊先輩が手に持った召喚器を眺めていた。ただし、その召喚器を握る手は震え、持っていない側の手で必死に震えを止めようとしているようにも見える。

 

「あの……湊先輩」

 

「え?……な、何かな優ちゃん」

 

湊先輩は召喚器を後ろ手に隠すと笑みを浮かべながら私に向き直った。私は彼女の行為に違和感を覚え、声を掛けようとしたのだが、

 

「おい、さっさと行くぞ。恐らく、先に進むことが出来るはずだ!」

 

「コロマル、今回はここで山岸と留守番していてくれ。次にタルタロスを訪れた時にお前を鍛えて戦えるようにする手順にするから」

 

「……クゥーン」

 

「『指示には従う』とのことです」

 

真田先輩がトランスポーターの前で声を張り上げた。その声を聞き湊先輩はそちらに向かってしまう。彼の傍にいたはずの美鶴先輩はコロマルの頭を撫でながら、本日の行動指針を話している。先ほどの会話は先に進むか、コロマルを鍛えるかの話しあいだったようだ。

 

その結果、コロマルは風花先輩とエントランスで留守番することになった。兄さんの分析ではコロマルの身体能力はともかく、ペルソナ能力は私たちがペルソナに目覚めた時と同じくらいなので、いきなり前線に連れて行くのは危険という判断を先輩たちは下した。

 

さぞかしコロマルはしょんぼりとしているだろうなと様子を窺うも、彼は風花先輩の足元に行くとタルタロスと外を繋ぐ大きな扉の方を見ながらその場で伏せの状態になった。その姿はまるで主人を守護する騎士のよう。

 

「優ちゃん、置いていかれっぞ」

 

「えっ?あ、ちょっと待ってくださーい」

 

伊織先輩の指摘で気付いた私は急いでトランスポーターへ向かう。そして伊織先輩の後を追ってトランスポーターを起動させ、今いける最高地点まで跳んだ。

 

 

 

 

タルタロスの89Fで私たちの進行を邪魔していたモニュメントが消えてなくなる。新しいフロアに足を踏み入れるということもあり、私たちは慎重に先に進む。少しずつ周囲を警戒しながら足を進めるが、フロアを徘徊していたシャドウたちは、私たちを見つけるとすぐに距離を詰め襲いかかって来た。

 

現れたのは淡い青い光を放つカンテラを持った鴉、大剣を持った腕だけのシャドウが合計6体。美鶴先輩がすぐに風花先輩に指示を出して、鴉の方のアナライズがされる。

 

『名前はアイスレイブン。氷と風に強いですが、火が弱点です』

 

「よっしゃー!ここはオレっちに任せとけ。ヘルメス、アギラオ!」

 

伊織先輩が召喚した魔術師のアルカナを持つヘルメスはアイスレイブンをスキルで焼き地に落とすが、ダメージを与えたようには見えない。元々伊織先輩のパラメーターは物理特化型である私やアイギスさん寄りなのでスキルの威力は期待できない。しかし、相手の動きを封じるという点ではそれで十分だ。

 

『もう片方は正義の剣という名前で雷に耐性を持ちますが、風が弱点です。ですからゆかりちゃん!』

 

「おっけー!総司くん特製アクセもあるから一発で決める!イオ、マハガルーラ!」

 

ゆかり先輩が召喚した牛の頭に腰掛けた少女の姿をしたイオが両手で大きく天を仰ぐと私たちが戦闘を行っている場所を中心に風が吹き荒れる。かまいたちのようなもので身体を切り裂かれた正義の剣と呼ばれたシャドウたちは消滅していった。残りは風耐性を持っているアイスレイブンだけだが、多勢に無勢という文字通り、反抗らしい反抗も出来ずに消滅するのであった。

 

「階層が上がって敵の強さも上がってはいるが、特に問題になりそうにないな」

 

「いやいや真田サン。S.E.E.S.のメンバー全員で掛って勝てない相手って、大型シャドウ以外にいる訳ないっすよ」

 

「ふっ……それもそうか」

 

男2人が肩を組んで盛り上がっている。ゆかり先輩や美鶴先輩はそんな2人を見て大きなため息をついている。そして、アイギスさんは……

 

「先の戦闘、湊さんは動かなかったであります」

 

「うん。今までは率先して戦っていたのに」

 

私と一緒に後方で俯いている湊先輩について話をしていた。内緒話をするつもりはないけれど、いつもの彼女の様子ではないことに不安を拭いさることが出来ない。私が視線を先に進んでいる先輩たちに向けると様子を窺っていた何人かと視線が合った。

 

「どうやら皆さんも湊さんの不調に気付いていて、あのような行動を取られているようですね」

 

「うん、そうみたい」

 

その後も何度かシャドウと戦闘になったけれど、風花先輩がアナライズして弱点スキルで攻めるという行動を繰り返し、特に問題なく先に進むことが出来た。先に進む中で場の雰囲気に慣れて来たのか湊先輩も戦闘に参加できるようになり、皆も肩の荷が下りたと言いたげな雰囲気を醸し出している時に起きた。

 

『皆さん、気を付けてください!このフロアにいるシャドウは強敵ばかりです!』

 

風花先輩の焦ったような言葉にその身を緊張させる私たちであったが、自分以外のメンバーの様子を見て皆が同時に笑った。

 

「全員で協力して戦えば何の問題もない」

 

「そうっすね、真田サン」

 

「確かによっぽどな相手じゃないとね」

 

「ふっ、頼もしいな。お前たちは」

 

『皆さん……。そうですね、皆さんなら大丈夫ですね』

 

声に焦りが感じられた風花先輩も落ちついた様子。彼女の言葉を聞いて湊先輩が身体を震わせたが、今はすでにチームの先頭に行って真田先輩らと言葉を交わしている。何も問題ない、私たちはそう思っていた。この時までは……。

 

 

 

 

タルタロスの床をそのまま踏み砕きそうな、激烈な踏み込みを伴う斬撃が私の脳天を襲う。

 

「……っ!!」

 

咄嗟に頭上に構えた武器と相手が振り下ろした武器が火花を散らしている。私は半歩だけ脇に動いてその斬撃を流そうとしたけれど、その動きに合わせるようにして、斬撃は途中から斜めに軌道を変える。速度を変えることなく、そのまま振り下ろされれば材質不明なタルタロスの床でも切り裂いても有り余る威力だった。

 

しかし振り終えたはずの刀は、私やタルタロスの床を斬ることなく、敵の側面にあった。

 

私がなんとか攻撃をいなし反撃に移ろうと行動を移した瞬間に、だ。私は下唇を噛みしめ敵の攻撃に備えるようにして神経を研ぎ澄まさせる。

 

私が相対している敵の名は『白狼の武者』。光と闇が弱点のシャドウであるが、攻撃力や防御力、素早さまでもが桁違いな上、私の攻撃は全て見切られる。かと言ってこんな化け物をゆかり先輩や美鶴先輩のところに連れて行ったら、確実にやられるイメージしか浮かばない。だから、他の戦況が動くまで、私がこいつをここに留まらせる必要がある。

 

「ふっ!!」

 

私は短く息を吐くと自ら敵に斬り掛る。避けようと思えば簡単に避けられるはずの敵も何故か避けることなく、攻撃を見切ることなく、私と剣戟を結ぶ。刀と刀が幾度と重なり合い、乾いた音が辺りに響き渡る。

 

しかし、私が息切れを起こし態勢を崩したその瞬間、敵は自分の刀を流れるような動作で納刀し、身を屈ませる。

 

『抜刀術』

 

あれが抜かれたら、確実に私の上半身と下半身は斬り裂かれ離れ離れになって絶命してしまう。そんなイメージが直接身体に叩き込まれ、私の身体は硬直してしまう。

 

 

逃げなきゃ。逃げられない。

 

 

避けなきゃ。避けられない。

 

 

死にたくない。死ぬ。

 

 

私の視界に映るすべての動きがスローモーションになる。しかし、敵はそんな中でも普通の速さで動いて刀を抜刀していく。あれが完全に鞘から抜き身になった時、私は……。

 

涙も流すことも出来ず、抵抗らしい抵抗をすることも出来ず、私は……。

 

だけど、敵の刀は私の身に届かなかった。

 

「……え?」

 

私は腰を抜かした状態で、タルタロスの床にペタンと尻もちを付きながら見上げる。そこにいたのは、無数の棺桶を鎖で繋いだオブジェを背負った、飾り気のない一振りの刀を構える処刑人。顔には鳥か獣の頭蓋骨を模した仮面をつけていて表情は読み取れない。

 

その処刑人は私の身体を切り裂くはずであった敵の刀をその手で掴んでいる。そして、反対側の手で握った無骨な刀を振り下ろし、敵を頭頂部から股にかけて切り裂いた。私が一撃も与える事の叶わなかった相手を一瞬で殺したのだ。

 

「死神……」

 

私がそう言うとそいつは顔だけ振り向かせ私を棺桶越しに見下ろす。

 

その瞬間、まるで心臓を鷲掴みされたような恐怖と共に、生きている実感からか私の眼から涙がこぼれ落ちる。

 

その処刑人は私に何をするでもなく、唐突に消え去った。

 

そして、誰かが崩れ落ちるような音が聞こえた。私が振り向いた先には両手で顔を覆って泣き崩れる湊先輩の姿があった。

 

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