ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 8月―⑪

私たちの誰もつけなかったはずの鳴上家のリビングに置かれたテレビが点いている。丁度、緊急速報でニュースの映像が流れているところだ。駅のホームには大勢の人がいて、前にも後ろにも行けないほどごった返している現在の様子が映し出されている。

 

『こちら人身事故のありましたポートアイランド駅です。帰宅ラッシュと重なり、混雑状態で動くことができません。目撃者によりますと被害者は13歳から15歳くらいの少年で、電車を待つために友人や弟らしき子どもとホームで待っていたところ、背中を押され構内に落下しそのまま急行の列車に轢かれたとのことです』

 

画面がポートアイランド駅を正面から撮ったものに変わる。制服を着た警察官数人に囲まれ、ジャンパーを頭に被せられた男がパトカーに乗せられていく様子が映し出された。

 

『加害者の40台後半の男はすぐに駅員に捕えられたとのことですが、【新しい世界には滅びが必要】【私は次の世界の皇になる】といった意味不明の言葉を発しており現在警察にて事情徴集が執り行われています』

 

また画面が変わり、ホームの映像が映し出される。しかし、今度の映像は有象無象の他人が入り乱れた光景ではなく、駅のどこかの壁を背にし憔悴した感じで自分の右手を眺める順平と膝を抱え蹲り嗚咽する天田くんの姿だった。

 

『被害者の身元が判明しました。月光館学園中等科3年の――――』

 

そして、ニュースキャスターから放たれた被害者の名前は私の大切な男の子の名前。

 

『「これも君が選択した結果さ。君の中に眠るデスは僕が貰って行くから安心して、……絶望するといいよ」』

 

今しがた告げられた青い髪の少年の言葉が脳裏をよぎる。それはまるで、彼が死ぬことになったのは私の所為だと言わんばかりのものであった。私はその場で蹲り頭を抱える。

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

「こんなのいやぁぁ……」

 

私が強く意識すると同時に世界は暗転した。

 

 

◆◆◆

 

 

「ねぇ、湊?聞いてるの?」

 

誰かに肩を揺すられていると思ったら、目の前にゆかりの顔があった。

 

「ほぇ?」

 

「ほんとに大丈夫なの?……って、湊が大丈夫じゃないから、遊ぶか総司くんの好みを探るんだった」

 

ゆかりは私の肩から手を離し、困ったように腕を組みながら俯く。周囲を見渡すと心配そうに私の様子を鑑みる風花と優ちゃんの姿があった。テレビの映像を見て取り乱した彼女たちの後の姿にはどう考えても見る事はできない。

 

「ねぇ、ゆかり。今日は何日だっけ?」

 

「8月18日よ。……って、どうしたの、湊?それ!」

 

「え?」

 

ゆかりに指摘されて気付いたが、両目から涙が後から後から溢れだして衣服を濡らしていた。風花がポケットからハンカチを取り出して、私の眼元に当ててくれる。

 

「え、何?プールか、他人の部屋を捜索するのに、何か抵抗あるの?なら、別の案を出すけど?」

 

風花からハンカチを貸してもらって、涙を拭き取っていると困惑した様子のゆかりがそう告げた。話を聞いていて思ったのは、時間が昨日の夜まで戻っているということだった。総司くんの寮と家の部屋を彼の好みを調べるために捜索し見てはならないものを見てしまったことで、彼が死ぬことになってしまった最悪の一日が無かったことになろうとしている。総司くんの部屋で見る事になったノートには重要なことが書かれていたみたいだが、その内容を私は覚えていない。だけど、それの所為であんな凄惨な光景を見るくらいなら、知らなくていい情報は知らないままでいい。

 

「プール……」

 

「え?」

 

「ゆかり!私は“プール”で総司くんを悩殺したい!だからみんな、力を貸して!!」

 

私は両拳を握り締めその場に立ち上がりながら力強く宣言した。周囲にいた風花や優ちゃん、提案者のゆかりまでもがポカーンとしながら私を見上げる。皆は勝算があるのかと言いたげに私を見てくる。なので、今まで座っていた椅子に手をかけて、オリジナル雌豹のポーズをする。

 

「どう?」

 

「いや、いきなりなんなの?」

 

「総司くんは胸(バスト)よりもお尻(ヒップ)が好きなんだよ!」

 

「「ぶふぅっ!?」」

 

私の突然のカミングアウトに風花と優ちゃんが同じタイミングで噴き出した。そんな中、ゆかりはすたすたと私の近くまで来て、ため息ひとつ吐いた後、『スパーンッ』といい音を鳴らしながら私の頭を叩いた。

 

「とりあえず、座んなさい」

 

「はい……」

 

雌豹のポーズをやめて粛々と椅子に座り直す私。ゆかりは元の席に戻ると、机の上にパンフレットを広げる。それはゆかりが提案した桐条グループが運営しているプールレジャー施設の全体の地図であった。

 

「湊の意思は分かったわね、風花、優。何が何でも湊と総司くんの仲を進展させる。それが今回の目的だからね」

 

「となると障害となるのは天田くんと順平くんだよね」

 

「いや、でもヘタレな兄さんが湊先輩をずっとエスコート出来るとは到底思えません。ここは兄さんの湊先輩のイメージを変える方向で行きませんか?」

 

風花と優ちゃんが真剣に提案をしてくれて、ゆかりはそんな2人の意見を紙に書いていく。風花の言うとおり、総司くんとこの寮で仲の良いのは歳の近い同性の順平と天田くんの2人である。いくら双子とはいえ、優ちゃんは異性であるから感性が違うだろう。

 

「兄さんの好みは一旦置いておきましょう。問題なのは、兄さんの湊先輩への扱い方が私と同レベルってことです。第三者である風花先輩の見立てでそう見える以上、何らかの対策を取って湊先輩が魅力的な女性であるっていうことを示さないと関係の発展はありえない」

 

「かといってあまり大っぴらにやっちゃうとマイナスのイメージがついちゃうから大変だよね。それに今回は屋久島の時の様な所じゃなくて、その他大勢がいっぱいいるところだから、総司くん以外にも影響がでちゃうし。……ナンパ男の対処は大変だよ?」

 

「それこそあまり考える必要はないでしょ。こっちにはクール系の真田先輩に、一匹狼系の荒垣先輩、王子様系の総司くんに、残念侍系の順平がいるから大丈夫でしょ」

 

前者3人は世間に出しても問題ないと思うけれど、どうしてそこで順平を混ぜたのか首を傾げていたら、息を切らして階段を上がって来た本人がツッコミを入れる。

 

「うおぉい!!ゆかりっち、俺をオチに使うんじゃねぇよ。悲しくなるだろ!!……な、何だよその目は。……見んなよ、そんな目で俺を見んなよ。って、こんなことをやっている場合じゃねーっ!!総司が倒れたんだ!!」

 

「「「「え?」」」」

 

 

□□□

 

 

ラウンジのソファに寝かされた総司くんの顔色は悪く、どこか魘されているようにも見える。彼は洗い物をしている最中、いきなり膝をついて吐き始めたらしい。あまりの当然のことで近くにいた面々は戸惑ったとのこと。その後、彼の身体は大量の冷や汗と高熱が出たらしいが、今は落ち着いているらしい。

 

美鶴先輩が連絡を入れた掛りつけ医がすぐに来て彼の具合を診たらしいが、肉体的にはどうということもなく、嘔吐したのは強いストレスからきているものだろうという診断が出たとのことだ。総司くんが倒れた時に先輩たちが揃っていて助かったとはアイギスの弁だ。

 

ただ私には気になることがひとつあった。私があの“最悪の明日”からこの時間軸に戻ったと自覚した時間と彼が倒れた時間がピッタリと重なっていること。私はニュース速報を聞いただけであったが、もし総司くんがあの事故を受けた直後に“戻った”のだとしたら、その瞬間まで何ともなかった彼が吐くのは当然なのではなかろうか。

 

そう思ったら私はなんだか居てもたってもいられなくなった。私がした選択の所為で総司くんは文字通り死ぬ思いをしてしまった。そして、今も苦しんでいる。なら、私の出来る事をしてあげたいと思うことは当然のこと。

 

私は総司くんが寝ているソファに近づく。そして、彼の頬に手を当てると酷く冷え切っていたので、私は自分が着ている上着の裾に手をやり、もの凄い勢いで振り下ろされたゆかりのチョップでその場で轟沈した。

 

「みぎゃあああ!?頭が、頭がーーー」

 

「総司くんのことになると見境なくなってきたわね、アンタ。アイギス、湊を部屋に……いや、今後のことを先輩たちとも話し合いたいから作戦室にぶち込んできて」

 

「了解であります!」

 

「優ちゃん、湊っちの行動見て感心するんじゃねーよ」

 

「はっ!?してませんよ、別に。添い寝する口実が出来たなんて思っていな……あっ」

 

アイギスに引き摺れていく私を余所に、ゆかりのチョップが再度火を噴いた。頭を押さえて崩れ落ちる優ちゃん。先輩方はそんな私たちを見て、苦笑いを浮かべている。そして、私たちのやり取りが見えていたのか総司くんの表情も幾分か和らいでいるようにも見えた。

 

 

□□□

 

 

「さて、総司くんが倒れるというハプニングもありましたが、今後のことについて話をしたいと思います」

 

ゆかりが告げると同時に風花が作戦室にいる皆にパンフレットを渡していく。ちなみに私と優ちゃんは床に正座している。

 

「知っての通り湊は現在、精神が非常に不安定な状態です。昨日、かろうじて戦えたのは総司くんのケアがあってこそだったと思われます。私は正直、湊はもう戦わなくてもいいんじゃないかって思うんですけれど、タルタロスで戦う上で今の私たちの戦力では楽に戦わせてもらえないという現状がある以上、これからも湊の力は必要となるでしょう」

 

ゆかりの言葉を聞いて美鶴先輩や真田先輩の表情が曇る。彼らはこれまでにもリーダーの役目は辛くないかと声を掛けて心配してくれていた。順平も5月の時に優ちゃんが致命傷を負った姿を見た以降は私たちのことを自分のこと以上に気にかけてくれていたし。私は随分と皆に支えられてきたんだ。

 

「だから、私は心を鬼にして提案します。総司くんとくっつけて、湊を元気にしてしまおうというプロジェクト。『ラブラブ!キューピッド大作戦』を!」

 

握りこぶしを作り、力説したゆかりであったが、先輩たちの反応は薄かった。

 

「「「…………」」」

 

皆が何かを言いたげであるが、私を一瞥した後ゆかりに続きを促している。

 

「作戦の第一段階では、総司くんに湊を女性として認識してもらうために色々なアプローチを行おうと思います。そこで舞台となるのが、桐条先輩に用意してもらったプールレジャー施設『ポロニアンロングビーチ』です」

 

真田先輩と荒垣先輩のジト目に眉を顰めた美鶴先輩であったが、私と視線が合うと何か諦めたようにため息をついて立ち上がった。

 

「この『ポロニアンロングビーチ』は元々傘下のグループが運営していたのだが、長年赤字が続いていてので桐条グループが買い取ってリニューアルしたレジャー施設だ。今回、行くことになったのは岳羽の要望が強いが、私にとっても渡りに船だった。何せ、一度行って施設の使い心地はどうであったのかを視察をしてこいと言われていたからな。今回、特別課外活動部全員分のチケットをもらっているが、出来ればでいい。感想や問題点があれば、私に言いにきてくれ。以上だ」

 

美鶴先輩は席に座ると後は知らないとでも言うようにパンフレットで顔を隠す。その様子をを見て荒垣先輩は頭をガシガシと掻きながらゆかりに質問する。

 

「行くことに変わりはねぇってことか。で、俺たちに何をさせようって言うんだ?」

 

「予定では明日だったんですが、総司くんの体調も考えて明日は1日休んで、明後日そこで遊ぶことにしようと思います。そこで湊と総司くんを2人にする時間をちょいちょい設け様と思ってます。その時にフォローしてくれたら、後は何をしててもオッケーです」

 

「……その心は?」

 

「兄さんはヘタレなので1日は持ちません」

 

「妹に断言される兄ってどうなんだ?」

 

順平の一言に男性陣の表情が微妙なものになったのは言うまでもない。

 

「ちなみに天田くんには、総司くんと湊の雰囲気が微妙になったら、総司くんを遊びに連れて行ってその場を有耶無耶にする任務を与えます!」

 

「え、僕がですか?」

 

「いや、ほら。優ちゃんや順平が行くと、周りから『うわっ、空気が読めない奴』ってなるけれど、天田くんなら問題ないっていうか」

 

「はぁ」

 

「明日、任務をやり遂げてくれたら、来月行われるネオフェザーマンのヒーローショーのチケットあげるから……ね」

 

「うわぁっ、ホントですか!?…………いや、あくまで話題作りに見に行くだけですから。別に僕は見たい訳ではないですよ」

 

しっかりとゆかりに買収された天田くんを見ながら、その場はお開きになるのだった。というか、ゆかりは彼の扱い方をしっかりと踏まえているなぁ。感心しながら見ているとゆかりが皆の顔を見据える。

 

「今日あんなことがあったけれど、きっと総司くんのことだから今まで通りの生活をすると思われます。それじゃあ、意味が無いので明日は一日、総司くんには寮での仕事をさせないように皆で動く必要があります。桐条先輩も慣れないことを要求されるかもしれませんが、協力をお願いします」

 

「ああ。分かっているよ、岳羽。この寮に住む者として、協力は惜しまないさ。明彦や荒垣も同じ気持ちだ」

 

と、いきなり話を振られた先輩2人も苦笑いを浮かべながらだが頷いたのだった。

 

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