ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
8月19日(水)
昨日、洗い物をしている最中に倒れてしまった総司くんであったが、私たちが起きて来た時にはすでに朝ごはんの用意を終え、エントランスのソファに座ってアイテムの品定めを行っていた。彼が見ているアイテムは、私たちがタルタロスに挑む上で使ってきたアクセサリーを中心としたものだが、中には使い古した武具も入っていたりする。
「カオスであります」
「うん。変なテンションでアイテム合成はするもんじゃないね」
総司くんは手に持っていたアイテムを机の上に置くと両手で頭を抱えた。彼の正面に座っていたアイギスも机の上に並べられた珍品に頭を悩ませているように見える。一緒に起きて来たゆかりたちは用意された朝ごはんを食べに台所に行ってしまったが、私は総司くんとアイギスの傍へ歩み寄る。
「どうかしたの?」
「自分でもどうやったのか覚えていないんですけれど、出来ちゃいました」
そう言って苦笑いする総司くんが私に手渡してきた黒い鞘に納まった刀を軽い気持ちで受け取った。が、私はその黒い刀を取りこぼした。ちなみに落ちた黒い刀は私の足に直撃した。
「ったぁぁぁい!!」
黒い刀が直撃した足を擦るためにその場に蹲る。涙目で惨劇を生み出した件の黒い刀をジト目で見ると、総司くんが不思議そうな表情をしながら“片手”で拾い上げた。
□□□
「右から『渦巻剣』『バットボウ』『重い大剣』『重い刀』『快眠グラブ』『ライトセーバー』『5連装メデューサ・4thエレメント』『ネムリダケン』『鬼に金棒』であります」
机の上に置かれた総司くんが制作した武器。まともそうなのはアイギスの正面に置かれたものだけで、他は完全にネタ武器にしか見えない。
「ぐぅぉおおお……。お、おもっ!?」
「湊先輩が取りこぼすのも当然です。……ぐぬぬ、重い!!」
順平と優ちゃんが刀身から柄まで真っ黒な大剣と刀を持って構えようとするが、想像以上の重量があるようでうまく出来そうにない。
「あれ?でも総司くんは軽々と持っていたような気が……」
風花がぽつりと零した言葉。その言葉を聞いてピンときたことは、ペルソナ使いとしての資質の有無。つまり、奪われる物がない総司くんと、奪われる物がある順平と優ちゃんで、感じる重さの違いがあるということ。けど、ペルソナ能力が奪われるだけでは総司くんと同じ条件になるだけだから、奪われたペルソナの能力分が黒い武器に吸い取られて重量に置き換わっている物と考えられる。奪われるだけなんて、デメリットでしかないけれど、実際はどうなのだろうか。
「その他の武器も凄いな。見た目と威力はアレだが、確実に相手の動きを阻害できる」
「先日のタルタロスや満月の大型シャドウのことも考えると、ただ強い武器を手にしていくだけではどうにもならない時が来てしまう。けど、状態異常を付加することによって相手の行動の幅を押さえれば格上と戦うことも可能になると思います」
「ただ戦うのではなく、考えながら戦うって奴だな」
「これまで以上に、作戦会議して緻密な連携が必要ってことだな。って、イッテェェェ!!なんで叩くんだよ、ゆかりっち!?」
「アンタのキャラじゃない……」
「ヒデェ……」
「「「あははははは」」」
順平とゆかりのやり取りを見て皆、笑い声をあげた。頭を擦る順平と、腰を手に当てやれやれとため息をつくゆかりも笑っている。すると優ちゃんが不思議そうな表情できょろきょろし始めた。
「あれ、天田くんと兄さんがいませんね」
言われてみて気付いた。周囲を見渡すと『キィ』という音が鳴った。皆が音の発生源を見ると大量の洗濯ものが入ったカゴを抱えた総司くんがいた。一番上に乗っかっているピンク色の女性物の下着は恐らくゆかりの……。
「っ!?いやああああああ!!」
「ゆ、ゆかりちゃん!?」
ゆかりは手に持っていたバッドボウを放り出して総司くんの下へ駆け寄った。そして、自分の下着が入った洗濯カゴを総司くんの手から奪い取るとその勢いのまま、階段を駆け上がって行った。風花はそんなゆかりを追って、階段を上がっていく。
で、ゆかりに洗濯カゴを取られ、手持ち沙汰になった総司くんは腕を組んで考え、ポンと手を打って振り返り、物置から業務用の大きな掃除機を取り出してきた。総司くんは自身が病み上がり?であることなど気にも留めていないように日々の日課を過ごそうとしている。
「岳羽の提案と結城のためだ。シンジ行くぞ」
「ああ。おい、それを寄越せ」
「え?師匠に真田先輩。別に気にしなくていいですよ。いつもやっていることですし」
「休めつってんだ。お前はソファで桐条のように踏ん反り返っていればいい」
「それはそれでダメージが来るのだが……」
荒垣先輩が言うとソファに腰掛けていた美鶴先輩が苦々しい表情で呟いた。総司くんが来る前は、それぞれが気になることを自主的にやっていただけであっただけに、総司くんが定期的に綺麗にしてくれているおかげで私たちは気持ちよく過ごすことが出来ていたのだ。
「じゃあ、各部屋のエアコンの掃除でもしてくるかな……」
「おーい、総司。それはオレっちとアイちゃんに任せろ」
「総司さんは明日のために英気を養っているであります」
総司くんが物置から取り出した雑巾とバケツを奪い取った順平は帽子を被りなおしながら階段を上がっていく。アイギスもまた、総司に対し一礼すると階段を上がっていく。
「明日って、ただプールで遊ぶだけですよね?……残っているのは優と湊先輩と桐条先輩か。これはまた聞き出し“易い”メンバーが残ってる」
ぎくり。私は思わず唾を飲み込んだ。美鶴先輩も視線を泳がせている。優ちゃんが動揺を表情に出す前に総司くんに切り返しを図る。
「そ、それは聞き捨てならないな、兄さんのくせに」
「じゃあ、優に聞くけど。プールに行くって決めたのは誰?」
「別に、誰だっていいじゃん」
総司くんの質問に曖昧な返事をした優ちゃんであったが、総司くんはそんな彼女の姿を冷静に観察し、言葉を紡いだ。
「ふむ。企画立案は岳羽先輩で、決定したのは結城先輩。提供者は言わずもがな桐条先輩だよね、優。違うかい?」
「……。うわぁああああん!!」
少しの静寂の後、優ちゃんは大きな声を上げながらその場から駆けだして玄関から出て行った。直後、何かがぶつかりあう音がした。
「うわっ、優さん!?どうしたんですか……って、僕たち今帰って来たところなのにぃぃぃぃぃ…………」
「ワンワン、キャイーーーン…………」
天田くんとコロマルの嘆きの声が遠ざかっていく。見かけないと思ったら、天田くんはコロマルの散歩に行っていたらしい。そして、暴走した優ちゃんに連れられ、強制的に散歩2週目に向かったようだ。
「湊、後は任せた」
「え?」
総司くんの意識が外へ向いたのを見て、計ったように美鶴先輩がすくっと立ち上がった。その後、音も立てずに移動していき階段の前で私に向かって微笑んだ後、優雅に階段を上って行った。
「「…………」」
エントランスで見つめ合うことになってしまった私と総司くん。
ちょっ、何でこんなことにっ!?
□□□
机の上に置かれたティーカップの中には総司くんが淹れてくれた紅茶があり、私はそれを手にとって啜るが味が分からない。たぶん、美味しいんだと思うのだけれど、緊張しすぎていて味覚が異常事態のようです。
私がテンパっていることなんか微塵も思っていなさそうな総司くんは、ソファに座りながら新聞を読んでいる。時折、時計を見る事から何か予定があるのかもしれない。せっかく皆が協力して作ってくれた機会なのだから、これを活かさないといけないと思うのだがいかんせん話題が思いつかない。緊張からか口の中がカラカラに乾いてくような気がして、私はまたティーカップに口をつけた。
「結城先輩」
「うひゃあっ!?」
丁度のタイミングで話しかけられ、私は慌てたが紅茶はこぼさずに済んだ。そのことに安堵していると、キョトンとした表情の総司くんと視線が合った。頬に全身の血が集まって熱を帯びていくような錯覚に陥る。うわぁ、私の顔真っ赤っかだろうなーなんてことを思いながら、何事もなかったかのように振る舞う。
「どうかしちゃ?」
「…………」
し、死にたい。
何でそこで噛んじゃったのわたしぃぃいいい!!総司くんが何だか微笑ましいものを見るような暖かい視線を向けてくるんですけれどぉおお!!私は残っていた紅茶を一気飲みすると、前のめりになりながら言葉を発する。
「どうかしたの、総司くん」
「あ、無かったことにした」
総司くんの言葉が私のハートにクリティカルヒット。ぐらりとなるがしっかりと受け止め、その場に踏みとどまる。こんなことやっているから、妹扱いなのかもしれないし。
「何か、気になることがあった?」
「いや、どうってことはないんですけれど。ほら、今月の初めくらいに『夢』の話をしたじゃないですか。一応、候補を考えてみたんですけれど」
そう言って総司くんはソファから立ち上がって寮の受付カウンターの横に置かれていた参考書みたいなものを持ってきた。その他に学校のパンフレットらしきものもある。
「色々考えたんですけれど、なるとしたら無難なのは料理人か教師。高望みするならパイロットとか医者ですかね。前者はともかく、後者は全然思い浮かばないけれど」
「そっか……」
お嫁さんになるんだったら、どれも魅力的ですが……とは思っていても口に出さないのが吉。実際、総司くんに偉そうなことを言っているが、高校を卒業したらどうするかなんて決めていないし。私のやりたいことってなんだろう。
「社会人の知り合いに尋ねると半数は自分の夢とは違う形で働いているらしいですし、好きな事を職にするのはこのご時世厳しいみたいです。それでも夢を実現する人は、それだけ夢にまっすぐなんですよね。僕も見習わないと」
「その通りだと思うよ」
そう言って意気込む総司くんを見て、私も大きく頷いた。すると総司くんも頷き返してくれたのだった。
□□□
昼食を食べた後、総司くんは昼寝するということで階段を上がって行った。他のみんなも慣れないことをした所為か、ぐったりとしながら身体を休めている。
さて、私はソファに座りながら心を静める。そして、私の心に居座っている死神タナトスを意識の外へ追いやり、姿を変えた審判のアルカナを持つペルソナの姿、そして能力を見る。
名前は【ネメアー】で、姿はなんだかごついライオンっぽい。レベルは50。
打と貫属性を無効、雷属性を吸収し、光と闇属性が弱点。
スキルは消費率が高いが威力が折り紙つきの物理攻撃系が『ブレイブザッパー』『ギガンフィスト』『イノセントタック』の3つと魔法系は『アギダイン』『ガルダイン』の2つ。残りの2つのスキルスロットには『毒防御』と『治癒促進・小』が入っている。
前回のクジャタが相対する大型シャドウに対抗できるペルソナだとすると、今回のネメアーもまた、今度の大型シャドウに対抗できるペルソナである可能性が高い。というか……。
「雷属性が吸収になっていて、毒防御が入っているってことは、敵はジオ系とポイズマ系を使ってくるってことだよね。ゆかりとアイギスにとっての鬼門じゃない」
私は目を瞑ったままソファに凭れかかる。明日は勝負のプールだと思いながら、まどろみの中に身を委ねるのだった。