ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 8月―⑫

抜けるような青空に浮かぶ大きな入道雲。僅かに感じられるそよ風がその形を少しずつ変えて行く。プールで遊ぶには絶好のコンディションと言えるだろう。

 

「湊、現実逃避しちゃダメでしょ」

 

ゆかりに話しかけられた私は遠い目をしながら見上げていた視線を地上に下げる。予定ではナンパされるのは私たちで、打ち合わせした真田先輩たちに促され、総司くんが助けに来る手筈だったのに……。

 

『ねぇ、私たちと一緒に遊ばない?』

 

『均等に鍛え上げられた筋肉、はぁはぁ。一緒に写真撮ってもいいかな?』

 

『こ、困ります!』

 

『やーん可愛い!お持ち帰りしたいなー』

 

私たちが着替えを終えてプールに赴くと女子大生のグループに捕まって逆ナンされる総司くんがいた。彼は「連れがいるから」とか、「妹が待っているから」とその場から離れたそうにしているが飢えた野獣(♀)の魔の手から中々抜けだせずにいる。仕方がないので真田先輩たちに救助を求めようとしたが、肝心の男子は荒垣先輩と天田くん以外が現実に打ちのめされ四つ這いで悔し涙を飲んでいた。

 

「え?いったいどういう状況」

 

「雰囲気からして、話しかけられた時は皆いっしょにいたのでは?」

 

「会話している内に総司くん以外はいいってことになったんだ。真田先輩、黙っていればイケメンなのに」

 

ゆかりはそう評価するけれど、私の真田先輩の印象は『プロテイン中毒者の鍛えることしか頭にない脳筋』だから矯正は無理だと思う。数年後にはきっと一昔前の侍のように裸一貫で武者修行とかしていそうだし。

 

「これで私たちが行くと角が立ちそうだし、予定通り天田くんに行ってもらおう。となると、何かいい言い訳は……」

 

「ゆかりさん、あちらにアイスクリームのお店があるであります」

 

屋久島の時に来ていた空色のワンピースを着ているアイギスが指差した先には、長蛇の列が並ぶお店があった。確かにあれは使えるかも。

 

「うん。その手でいこう、おーい……」

 

ゆかりが手招きしているのに気づいた天田くんが駆けよってくる。私はその光景を見ながら、前途多難だと大きくため息をついた。

 

 

□□□

 

 

『ポロニアンロングビーチ』

 

桐条グループが運営するレジャー施設である。

 

全長1kmある広大な敷地に10個のプールが並んでおり、潮風香る海を目の前にテントやパラソルでくつろぎながら想いのままの一日を過ごせる。

 

そんなポロニアンロングビーチのプライベートエリアの一角に私たちはいた。無事野獣の群れから脱出できた総司くんは天田くんと優ちゃんと一緒にウォータースライダーで遊びに行っている。普段いくら大人びてはいても、彼は正真正銘15歳の中学生であり、子供だということだ。私たちくらいになると羞恥心がまず出てきて、純粋に楽しめなくなってしまうし。

 

「どうするの、ゆかりちゃん。予定とはまったく逆の展開になっちゃっているけれど」

 

「うん、ホントどうしよう……」

 

風花が頭を悩ませ、ゆかりがこめかみを押さえるのも当然だろう。プールに遊びに来ていてナンパされるのが男子だけってどういうことなのだろうか。私はストローでジュースを飲みながらプールで遊ぶ人たちを眺める。……って、あれ?

 

「家族連れはともかく、女性グループばっかり?」

 

その女性グループも美容に気を使っているお姉さん系とか、慎ましやかなお嬢様系とか、格好からして若干お金に余裕がある人たちに見えて他ならない。私は恐る恐る美鶴先輩を見る。彼女はビーチチェアに腰掛けながら優雅に紅茶を飲んでいたが、私の視線に気付き首を傾げた。

 

「どうしたんだ、湊。そんな不思議そうな顔をして」

 

「美鶴先輩。ここってもしかして……『会員制』ですか?」

 

「ん?そうだが……」

 

さも当然のようにしている美鶴先輩の横でゆかりが両手で顔を覆った。風花からも力なく乾いた笑いが漏れる。私たちの話に聞き耳を立てていた荒垣先輩も天を仰ぎ見る様にしながら大きくため息をついた。周囲の状況に目を白黒させる美鶴先輩が可愛く見えて他ならなかったが、私たちが立てていた作戦は意味をなさなくなってしまっているので、今すぐ修正しなければならない。

 

「そうだった……。桐条先輩は“お嬢様”っていうこと忘れてた。湊、こうなったら仕方ない。総司くんと一緒に遊んだ方がアピールできるチャンスは多いはずよ」

 

「うん、私もそう思う。けど、どうやって探そう?」

 

「これだけ広いとすれ違う可能性の方が高いし」

 

パラソルの下にあるテーブルにはポロニアンロングビーチのパンフレットが広げられ、簡易的だが地図が載っている。施設の右端に彼らの目的であるウォータースライダーがあるけれど、いつまでもそこにいる訳はなさそうだし、かといって彼らが帰ってくるまでここで待っているというのもナンセンスだ。そう考えていると、思わぬ所から助けの手が出された。

 

「面倒だが、お前らはどこで遊ぶかをいちいち俺等に言いに来い。あいつが此処に立ち寄ったら、お前らが居る場所を教えて迎えに行かせるからよ」

 

そうぶっきらぼうに言い放って、アイスに齧り付いた荒垣先輩は桐条先輩の横にビーチチェアを移動して腰掛ける。そして、持ってきていた荷物の中からレシピ本を取り出すと読み始めた。水着姿のワイルド系の青年がプールサイドでレシピ本を読むとか違和感ありまくりだけれど、それを指摘できる勇者はここにはいないんだろうなぁ。すぐ近くに美鶴先輩もいるから、くつろぐ彼女にどんなご飯を作ってやろうか悩む彼氏の姿にも見えるし。

 

「じゃあ、まずは流れるプールに行ってきますね」

 

私たちは荒垣先輩にそう言って頭を下げるとパンフレットを見ながら歩き出す。

 

 

□□□

 

 

全長500mの流れるプールについた私たちが見たのは、ゆらゆら浮かぶゴムボートに乗ってのんびりくつろぐ総司くんの姿だった。その周囲には優ちゃんと天田くんがいる。私たちに気付いた2人は総司くんが乗ったゴムボートをそのまま置いて上がって来た。彼が乗ったゴムボートはゆっくりと流れて行く。

 

「先輩たちもこっちに来たんですね」

 

「僕と総司さんはウォータースライダー全種類コンプリートしました!」

 

プールを満喫している様子の2人は笑顔で告げてくる。天田くんに至っては興奮冷めやらぬ様子でおすすめのウォータースライダーを紹介してくる。

 

「ちなみに兄さんはあれから2度逆ナンされました。一度目で懲りたのか、誘われてもさっと切ってますけれど」

 

「ああ、その件なんだけれどね」

 

このポロニアンモールで遊んでいる人たちの情報を優ちゃんに説明すると納得するように大きく頷く。「道理でチャラい男がいないと思いました」と言われ、私たちがナンパされないのはそれが理由かと納得する。

 

「そういえば真田先輩と伊織先輩なんですが、兄さんが逆ナンされるのを見て、叫び声をあげながらどっかに行っちゃったんですけれど、どうしましょうか?」

 

「どうもしないわよ。どうせ、墓穴掘ってんでしょ」

 

「あはは。屋久島の時と同じだね……きっと結果も」

 

「風花先輩が黒い……」

 

うん、肌じゃなくてお腹の中がね。

 

「あれ……あっちで何か騒ぎみたいですよ」

 

「「「「え?」」」」

 

天田くんの言葉を聞いて私たちは騒ぎが起こっている場所を見た。確かに野次馬が集まっている。私たちは顔を見合わせて、その現場へと向かった。その向かった先にいたのは、溺れて意識を失った少女に対し人工呼吸&心臓マッサージをする総司くんだった。

 

 

□□□

 

 

「人工呼吸はノーカン……ノーカン……」

 

プライベートエリアの隅の方で膝を抱えて自己暗示をかける総司くん。

 

総司くんが助けた女の子は駆けだしたばかりのアイドルであったらしく、マネージャーの人から凄く感謝されていたのだけれど、当の本人はあんな感じで固まっている。本音で言えば、私もショックでしかない。

 

「湊先輩、人命救助だから兄さん本人が言っているようにノーカンということにしておきましょうよ。あ、あった。兄さんが助けた女の子、『久慈川りせ』っていう名前のアイドルの卵みたいですね。……大丈夫ですって、彼女が兄さんに惚れるってことはないですよ、相手は助けてくれた兄さんを見ていない訳ですし」

 

優ちゃんが防水バックに入れていた携帯で仕入れた情報を見ながらフォローを入れてくれるが、私の心は晴れない。なんかモヤモヤがひどい。これは嫉妬なのだろうか。

 

「くっ、やること成す事が皆、裏目になる。これじゃあ、ここに遊びに来た意味がないじゃない……」

 

「何かいい方法は……」

 

ゆかりと風花が私の為に色々考えてくれている。私自身も何か考えなくちゃと思っていたら、アイギスが優ちゃんに疑問を投げかけていた。

 

「結局の所、皆さんは何がしたくてこのポロニアンロングビーチに来たのでしょうか?」

 

「湊先輩と兄さんをくっつけるため……かな。なんていうか、夏のアバンチュールな思い出を作るとか」

 

「具体的にはどんな作戦があったのでしょうか」

 

「えっとね……」

 

優ちゃんの主観でアイギスに今回の作戦の内容が伝えられていく。その都度アイギスは「ほほー」「なるほどなー」と相槌を打つが本当に分かっているか分からない。だからどうしてそんな答えに行きついたのか分からないけれど、彼女は私に向き直ってこんなことを言い放った。

 

「大人のキスで総司さんの記憶を上書きすればいいであります!!」

 

「「「!?」」」

 

私たちはその場でアイギスを凝視しながら固まる。優ちゃんは眉を寄せて、アイギスを見ている。彼女は自分の説明でどうしてそんな答えが導き出されたのか分からないと言いたげだが、アイギスの案は事の他いい考えかもしれない。

 

「総司くんが正気に戻る前に勝負を決めれば、まだ勝ち目があるかもしれない」

 

「いやいやいや、湊。ちょっと落ち着きなさいっての!」

 

「でもゆかりちゃん。これを機に総司くんがあのアイドルの子を好きになるかもしれないよ。ここでアイギスの案に乗るのもありなんじゃないかな?」

 

「ちょっと風花は賛成派なの!?」

 

信じられないと言いた気なゆかりえお余所に私の眼はすでに総司くんの唇しか映っていなかった。

 

「おいおい、お前ら何を言っているんだ」

 

その時、完全に蚊帳の外であった真田先輩が話し掛けてきた。ちょっと邪魔しないでもらいたかったが、一応意見を聞こうと耳を傾ける。そして、

 

「大人のキスって何だ?」

 

真田先輩の天然な発言に、天田くんや美鶴先輩も漏れることなく、その場にいた全員がずっこけた。

 

「このバカはほっといていい。しかし、結城、強引なキスをする奴ほど長続きしねぇ。それならありったけの気持ちを籠めて、ここにでもしてやれ」

 

荒垣先輩は自分の頬を指差しながらぶっきらぼうに言い放った。その直後、先ほどのバカ発言に怒った真田先輩と言い争いを始めてしまったので、詳しいアドバイスはもらえなかったが、確かに焦る必要は無い。人工呼吸とは違うキスを総司くんに。私はゆかりや順平たちの制止を振り切って、総司くんに近づき……。

 

 

□□□

 

 

大人な女性の対応をすることで『魅力』がすごく上がった♪

 

気がする。

 

 

□□□

 

 

湊は混乱している。

 

 

 

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