ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 8月―⑬

「方天画戟」という武器がある。

 

これは中国の武器のひとつで、本来であれば両側につけられている三日月状の「月牙」と呼ばれる横刃が片方にだけつけられているのが特徴。歴史的に天下無双で有名な呂布が愛用したことで知られる。そんな武器をモチーフにしたであろう獲物を爛々とした笑顔で振り回し、向かってくるシャドウを片っ端から屠っているのは、昨日兄さんの唇を奪って以降、テンションが上がりっぱなしの湊先輩である。

 

「やぁっ!はぁっ!!せりゃあっ!!!」

 

今も手にした方天画戟をまるで木の小枝を振り回すように自在に扱い、3体で連携攻撃を仕掛けてきたシャドウたちを片手間に倒してしまった。ほんの5日前の湊先輩は武器の扱いもペルソナの制御もおぼつかなかったはずなのに、兄さんという犠牲を払うことでこんなにも見違えるなんて」

 

「優ちゃん、心の声が漏れてっぞー」

 

「実の兄を売ったのに、平然としているだと……」

 

「総司さん、僕じゃどうしようもないみたいです。せめて祈らせてもらいます」

 

伊織先輩たちが何やら戦慄しながら呟いているけれど、何か意見があるのならもっと大きな声で言って欲しい。私は湊先輩が取りこぼしたシャドウを屠る役目を与えられているので、割と前線にいるのだ。

 

「これで良かったのかなぁ」

 

「元気のない湊では、いつ大怪我しないかヒヤヒヤしたものだが、あの状態の彼女も別の意味で心配だな」

 

私のすぐ後ろでゆかり先輩と美鶴先輩の話す声が聞こえる。此度のプールのことを立案したのはゆかり先輩で、場所を提供したのは美鶴先輩だった。まぁ、こうなることは予想外だったとは思うけれど、やってしまったことにはちゃんと納得してこれからのことを考えてもらいたい。例え、寮に置いてきた中等科3年生の男子の口から出ちゃいけない何かが「ハロー(^o^)/」と出てきていたとしても。

 

「優ちゃん」

 

「はい!どうかしましたか、湊先輩?」

 

壁にもたれ掛って「燃え尽きた。まっしろにな……」とその区画ごと真っ白になった男子中学生のことを頭の中から放り出して、声を掛けてきた湊先輩の話に耳を傾ける。彼女の指差す先には階段があった。

 

「もうそろそろ敵の番人がいるフロアだからね、皆を集めて」

 

「了解しました!みなさーん」

 

私が大きく手を振って皆に合図するとぞろぞろと特別課外活動部の面々が集まってくる。そして、方天画戟を肩に担いだ湊先輩に自然と視線が集まった。

 

「皆、もうそろそろ番人がいるフロアだから気を引き締めて行こう。弱点の見極めと、相手がどんな攻撃手段を持っているのかを戦う中で調べて、情報は皆で共有すること!オッケー?」

 

皆が頷いたり、サムズアップしたりするのを見た湊先輩は満足そうに頷くと、スキップしながら階段を上がっていった。それを階下から眺めた幾人が階段とは逆の方向を向きながらビシッと敬礼した。その姿はまるで湊先輩を元気にするために犠牲となった者への感謝の意を込めるようであった。

 

 

タルタロス98Fの番人シャドウはマジカルマグスという名で、同時に3体現れた。

 

湊先輩は風花先輩にアナライズの指示を出すと同時に一番手前にいた敵に向かって、方天画戟を振り下ろす。しかし、その攻撃はマジカルマグスの人間の手のような形をした翼によって防がれてしまう。地面へと降り立った彼女はすぐに距離を空ける。その空いたスペースに攻撃魔法スキル火・氷・風・雷の順に殺到する。

 

「火属性が弱点だな」

 

「氷結属性は吸収されたか……」

 

「風と雷は普通。つまり」

 

「順平とアイギス、天田くんとコロマルは火属性の攻撃で相手の態勢を崩すのに集中!真田先輩は相手ステータスを下げて、美鶴先輩は攻撃を控え混乱させてください。ゆかりはアタッカーの私と優ちゃんと荒垣先輩のフォローを!」

 

矢継ぎ早に指示を飛ばした湊先輩は私たちがいる位置から一番遠くにいるシャドウの所まで駆けていく。私もちょっと遅れてだが中間地点にいるシャドウの前へと移動し、宝箱から手に入れた鬼丸国綱を構える。荒垣先輩も所定の位置についた。

 

「じゃあ、攻撃開始っ!」

 

湊先輩の合図をもって戦闘が始まった。

 

 

□□□

 

 

タルタロスのエントランスに次々と降りてくるメンバーを余所に湊先輩は、とある一角に立ったままボーっとしている。彼女がああやっているのはちゃんと意味があるらしく、大体はペルソナが強化されていたり、新たなペルソナを宿したりしている。

 

「しっかし、110Fの番人シャドウはまいったぜ。弱点無しだもんな」

 

「クリティカルヒットも結局でませんでしたしね」

 

「きゅーん。わんわん」

 

「『それでいて相手は風スキルの全体攻撃と光属性の即死攻撃を仕掛けてくるから厄介だった』とコロマルさんも苦戦を物語っているであります」

 

エントランスの床に座って、今夜の戦いを振り返る伊織先輩たち。だが、すぐにその話は終わる。なんせ倒してしまったのだから、似たような奴が出てくることがあるかもしれないが、これ以上は考える必要はないからだ。彼らの話題は兄さんが作った武器についてへと移行していく。

 

「しっかし、天田少年とアイちゃんの武器はいいよな。与えるダメージは少ないとはいえ、4属性に弱点があるシャドウなら確実に態勢を崩せるし」

 

「あー、それは私も思った。けど、私たちのメンバーが使う武器でそれをやれるのは銃を使っている2人だけよね。間違っても両手で扱わないと戦えない武器を使っている私たちじゃ無理」

 

そう、天田くんが使っているリボルバータイプの拳銃と、アイギスさんの右腕に填められているショットガンタイプの銃は、兄さんが作ったものなのだ。他にもデザインと性能がアレな武器も作ったが、この2つに関しては大成功作といえる。

 

「とはいっても僕は、リーチを補うために槍を使おうと思っていたんですけれどね。総司さんにダメ元で頼んだらこれを作ってくれたんです」

 

天田くんはタルタロスの宝箱の中から手に入れた槍状の武器のひとつを手に取ると周囲に誰もいないのを確認して振り回す。確かに練習してきているのが窺えるほど洗練された動きではあるが、

 

「それは結局シャドウとの距離を詰めるってことだぞ?怖くねぇの」

 

「みなさんの戦いを見て、ちゃんと相手の攻撃パターンや弱点を見極めてやれば、大丈夫だと思ったんですよ。それにこの銃を捨てるわけじゃなくて、ちゃんと臨機……お……お……?」

 

「臨機応変であります」

 

「そうです、それです。ちゃんとその場に合わせて、戦うスタイルを変えていくつもりですから大丈夫です」

 

天田くんはやる気に満ち溢れている。彼は小学生なのにちゃんと考えていてすごいなぁと皆の目が物語っている。すると、彼は頭を掻きながら照れるようにして「実をいうと総司さんの受け売りなんですけれど」と呟いた。

 

 

□□□

 

乾くんを中心にして話が盛り上がっているのを見て私は3年生の先輩たちを呼ぶ。

 

「どうした、山岸?」

 

「実は相談したいことがあるんです。復讐代行サイトについて気になることが」

 

私が話題について言うと荒垣先輩が眉を顰めた。桐条先輩と真田先輩の雰囲気も少し固くなった。3年生の先輩方は私たちにまだ何かを隠している、そんな気がしたが話してくれるような雰囲気ではないので、そのことには触れないように気を付ける。

 

「相談したいことは2件あります。ひとつは寮のパソコンを使って、復讐代行サイトを見ている人物がいるということ。そして、復讐代行の対象者に総司くんの名前があることです」

 

「「「っ!?なにぃっ!!」」」

 

前者のことに関しては納得している雰囲気だった先輩たちであったが、後者に関しては完全に寝耳に水であったようで目を見開いて驚愕する声を上げた。それは当然だと思う。私も総司くんの名前が載っているのを見て、何度も見直したもの。

 

「……ちっ。たぶん、あいつらだな」

 

荒垣先輩が舌打ちすると同時に呟いたのは、総司くんを狙っている人物を知るかのような発言だった。桐条先輩と真田先輩の視線に気づいた彼は、米神を手で押さえた後、ぶっきらぼうに言葉を述べていく。その内容は4月の終わりと8月の初めに、総司くんが荒垣先輩に会い行った際にぶちのめすことになった不良たちのことだった。

 

「シンジ、あの話はマジだったのか?」

 

「普段のあいつの行動を見ていたら、信じられねぇのも分かる。だが、事実だ。正攻法でやり返せないなら、こういったことに頼るのも分からないでもない。それに……」

 

「それに?なんだ、シンジ」

 

真田先輩の質問に私たちの顔を見て悩むような仕草を見せた後、荒垣先輩は例え話と前提をして私たちに尋ねてきた。

 

「数で囲んだにも関わらず年下の中学生に手酷くやられてしまったことを他の奴らに話すのは奴らの面子が許さない、かといって一見狙いやすそうな妹は大会常連の剣道娘。襲ったら確実に反撃必須。結局は、こうやって回りくどくなるが他力本願な手を取っちまうのさ」

 

「このことはお父様に報告し対策を取ってもらう。山岸、復讐代行サイトに名前を書かれた人間がどうなったのかを知りたいのだが、わかるか?」

 

「それはちょっと私の方ではわからないです」

 

「そうか。なら、その件も含めて、尋ねてみよう。しかし、問題が次から次へと出てくるな。タルタロス、シャドウ、満月戦、ストレガ。そして、復讐代行サイトか」

 

桐条先輩が頭を悩ませるのも当然だと思うけれど、放ってはおけないことだし必要なことであると割り切ってもらわないと。何か、取り返しのつかない事態に陥るような気がして、私は自身の背中に冷たいものが流れるような感覚に身を震わせるのだった。

 

 

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