ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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『帰って来た力の狂信者!剛拳のプロテインジャンキー!真田明彦!!』

「うおぉおおおお!!」

『その指は機銃、その瞳は照準器!全身凶器の心なき天使!!アイギス』

「その煽り文句は全部嘘です」

『中二病、絶賛発症中!生意気盛りの皮肉屋新人(シニカルルーキー)天田乾&コロマル』

「僕はこれでも3年ほど戦っている“中堅”だと思うんですけど。あ、“忠犬”ならコロマルだね」

「わふっ」




P3Pin女番長 SEESシャドウ戦―③

ムーンライトブリッジを渡り終えた私たちは駆け足で寮に向かっていたのだが、途中で例の透明の壁に行き先を阻まれ、通れる道を進んで行くと巌戸台駅前の広場に誘導された。

 

そこにはすでに不気味な光を放つ4つの柱に囲まれた特設のリングが設置されており、2つの影があった。その影は私たちが到着するのを見計らっていたかのように動き始める。

 

2つの影の内、片方は男だった。

 

無精ひげをたくわえ、服装はボロボロのズボンとシューズ、グローブのみ装着し、申し訳程度にフード付きのコートを羽織ると云う非常にワイルドな格好をした男がニヒルな笑みを浮かべつつ腕を組み仁王立ちしている。格好の事をぶっちゃけると半裸であるが、胸にある大きな爪で抉られたかのような傷跡がワイルドさに磨きをかけている。しかし私がもしも警察官だったら問答無用でしょっ引くと思う格好だ。

 

もう片方は温和な笑みを浮かべる女性……を模した存在。

 

しかし、私の後ろで荒垣先輩に支えてもらって立っているアイギスと違い、表情は完全に人間のそれと大差無い。真田先輩っぽい方が好戦的なのを見て、やれやれといった感じで見ているのが気に掛る。

 

『力無き者は、存在する価値が無い。弱肉強食こそが世界の正しい姿なのだ。無様な姿を晒し絶望に沈め!』

 

『え、ちょっ……さっきまでと言っていることが違』

 

目を爛々と輝かせ、犬歯剥き出しで拳を鳴らす真田先輩のシャドウの言葉に驚愕するアイギスのシャドウ。なんとか思い留まらせようとしているが、なんか聞く耳持たなさそうだ。

 

『さぁ、俺の拳でリングを舐めたい者は、さっさとリングに上がれ!』

 

『人の話を聞いて下』

 

拳を私たちに向かって突き出す真田先輩のシャドウ。眉を寄せて、なんとかしてもらおうとしているアイギスのシャドウであったが、人の話を聞かない相方の様子に諦めたようだ。

 

『どの道、俺たちを倒さなければ先に進めないのは順平のシャドウを倒してきたのだから分かっているのだろう?俺としては、昔の“甘ちゃん”な俺か、人の気持ちを考えない“朴念仁”なシンジとやりたいものだが、お前はどうだ?』

 

『えっと、出来れば“彼”がよかったのですが、どうやら並行世界のようで“彼女”ですし、……“無難”に美鶴さんですね』

 

『つまり月光館学園特別課外活動部の3年生組、リングに上がれってことだ。3対2か、“ハンデには丁度いい”』

 

「「なんだと、コラ!!」」

 

相手の挑発に乗る真田先輩と荒垣先輩。気持ちは分からないでもない。

 

リングにて2人を煽っているのは順平のシャドウの姿と彼らの様子を踏まえて考えると高い確率で未来の真田先輩とアイギスの姿に間違いなさそうだ。つまり、真田先輩は未来の自分に、『甘ちゃん』と称され、荒垣先輩は『朴念仁』と言われたことになるのである。それは頭にくるよね。

 

「はぁ、湊。こちらは頼むぞ」

 

そう言って美鶴先輩もリング内に足を踏み入れる。それと同時にリングを作っていた柱が怪しい光を放った。どうやらリングを囲む透明な壁が出現したらしい。それと同時に真田先輩と荒垣先輩が真田先輩のシャドウに突っ込んで行った。

 

ほぼ同じタイミングで繰り出した攻撃であったが、真田先輩のシャドウは2人の攻撃を避けるようなことはせずにその身で受けた。仰け反ることもせずに、それぞれの身体へカウンターを決める。その攻撃を受けた真田先輩たちは威力を殺しきれずにその場で膝をついた。

 

なんでこんなにも冷静に話が出来るのかと言えば、アイギスのシャドウが私たちの目の前で美鶴先輩からの質疑に応対しているからである。

 

「お前たちはいったい何者なんだ?」

 

『この時間軸からすれば約2年……いえ3年後のアナタ方となります。とは言っても“別世界の”という言葉がつきますけれど』

 

「何故我々の邪魔をする?」

 

『私たちの意思ではないと思っていただければいいです。“私たち”を知っている人間が利用されて私たちが生み出されてしまっただけに過ぎませんから』

 

「貴女方を生み出した人間はいったい何者なんだ?」

 

『さぁ、それはアナタ方の方がよく知る人物だと思いますよ。何せ、私たちの時には、い「「ぐあっ」」ですから』

 

ちょっ!?真田先輩のシャドウに投げられた真田先輩と荒垣先輩の悲鳴の所為で肝心な箇所が聞けなかった。もう一度詳しくと思ったが、戦いの余波がアイギスのシャドウの頭に直撃したらしく、微笑んでいる彼女の目が据わっていた。それに気付かない真田先輩のシャドウ。

 

『くっくく……泣いて喜べ!俺が全部壊してやると言っている!って、うおっ!?な、何をする!!』

 

『もう話は終わったであります。彼女たちの為にも、戦いはこれで終わりに“さ”せます』

 

アイギスのシャドウはそう言うと自分の周りにガトリングやミサイルポッドといった重火器を次々と生み出していく。生み出される兵器の数々を見て、頬を引き攣らせる真田先輩シャドウであったが、途中で突然悟りを開いたかのように達観した表情になった。

 

それを見届けたアイギスのシャドウはそれら兵器を一斉掃射し真田先輩シャドウを有無言わさず消滅させると、現れた時のような温和な笑みを浮かべて私たちに一礼した後にミサイルらしきものを爆発させて自爆した。

 

煙が晴れるとそこには最初から誰もいなかったように、何者もいない空間があるだけであった。

 

 

 

 

本来であれば巌戸台駅から私たちの住む寮までは歩いて10分も掛らない。しかし、影時間の中では時間と言う概念が崩されているのか中々着かない。途中で休みを入れつつ、歩みを進める。

 

疲労からか、それとも色んな事が起きて頭が考えるのを放棄しかかっているためか皆、口数が少なくなっている。霧もポロニアンモールで見た時よりも濃くなっている印象を受ける。

 

「あとどのくらいかな」

 

「うーん。こればっかりはちょっと分かんないね」

 

そんなことをゆかりと言いながら歩いていると、急に霧の晴れた空間に躍り出た。先輩たちや天田くんたちも次々と急に霧が晴れた場所に出て戸惑う。どうやら私たちの目的地に着いたようなのだが、私たちは全員言葉を失った。そこにあったのは巌戸台学生分寮“のみ”で周囲の建物が消失してしまっていたからだ。

 

そして、寮も普段とはかけ離れた姿になっていた。まるで寮をひとつの積み木と見立て、それをただごちゃごちゃに積み重ねたような歪な形をしている。よくこんな建物で崩れないなと視線を下に向けると玄関のところに中学生くらいの男の子とパーカーを着た白い毛並みの犬の姿があったのだ。

 

順平、真田先輩、アイギスと来て、この組み合わせということは……。私は目を点にしている天田くんの様子を見た。

 

『予想はついていると思いますが、天田乾です。こっちはコロマル。とはいってもシャドウなんですけれどね。……もしかして、今までに出て来られなかった方々のシャドウが気になりますか?希望されるのであれば、ゆかりさんや美鶴さんのシャドウも出せますけれど、苦情は一切受けませんよ。真田さんのアレを見て来たのならば予想はつくでしょうし』

 

私は真田先輩のシャドウがしていた格好を思い浮かべ、あれがまかり通る世界の美鶴先輩とゆかりの姿も見てみたいとGOサインを出そうとしたのだが、2人にそれぞれ両肩を万力のように掴まれ、泣く泣く断念した。

 

『ここに来るまでに色々と事情を知ってこられたことと思いますが、僕とコロマルを倒さない限りここから先には進めません。リングは……不要ですね。コロマルの機動性を殺すことになりますし。どうせ僕らが消えないと扉は開かないようになっていますし。……それにしても、この世界の僕は銃を扱うんですね。なるほど、世界が違うっておもしろいです』

 

中学生の姿の天田くんは楽しそうに笑っている。しかし、彼の立ち振る舞いからして、弱い相手ではない事に皆が気づいているのか、表情は芳しくない。

 

『ところで“湊さん”……でしたっけ?』

 

「え、あ、うん。何かな?」

 

『ここに来るまでに“ずいぶん”と時間が掛かったようですけれど、ペルソナはあとどれくらい“残って”いますか?』

 

「え?」

 

私は天田くんのシャドウが何を言っているのか理解できなかった。

 

あとどれくらい、なんて考えたこともなかったのだ。そりゃあ、体力を消耗したり、精神が摩耗していたりすると、うまくペルソナが使えないなんてこともあったかもしれないけれど……。

 

そんなことを考えながら心を静めて私が今、使えるペルソナを見て驚愕した。魔術師、女教皇、女帝、皇帝、法王、恋愛、戦車、正義、隠者のアルカナを持つペルソナが消失してしまっていたからだ。奇しくも消えたアルカナは私たちが倒してきた大型シャドウのアルカナと一致する。そこでふと順平のシャドウが言っていた大型シャドウを取り込むという言葉が脳裏をかすめる。

 

私が今、使えるペルソナは愚者と塔と審判のアルカナを持つもののみ。

 

とっくの昔に合成材料に使ったはずの愚者のアルカナを持つオルフェウス、優ちゃんと築いたコミュニティによって強大な力を得られる塔のアルカナを持つクー・フーリン、そして今夜のハーミットとの戦いで大活躍だった審判のアルカナを持つネメアーの3体のみだった。

 

「ど、どうして……」

 

『貴女の所為じゃありませんよ。ただ単に僕たちを生み出す原因となった人間の願いを叶えるためには、それ相応の力が必要となっただけ。それが偶々、貴女の中に眠るデスを呼び起こすために集まった大アルカナを持つシャドウたちの力だっただけです』

 

「それってつまり、湊さんは死ななくて済むでありますか?」

 

アイギスが尋ねると、天田くんのシャドウは上を向いて目を閉じた。数瞬だけ考えた仕草を見せた後呟く。

 

『さて、どうでしょうね。このまま行けば、湊さんは確かに死なないでしょうけれど、影時間はきっと消えない。ニュクスを招きいれるための負の遺産であり、滅びの塔のタルタロスもきっと残り続けるでしょう。皆さんがそれで良しとするのであれば、それでいいんじゃないでしょうか?』

 

まぁ、と続けて天田くんのシャドウは私たちに告げる。

 

『『デス』を呼び覚まし、『死の宣告者』という存在を作りだし、あまつさえ月並みの大きさを誇る『ニュクス』という最悪を呼び寄せるような強大なエネルギーを“ただの人”である彼がその身で使えば、その先は死そのものですよ。まぁ、彼はそれでも構わないって“最初から”決めていたみたいですけれど』

 

そう言った天田くんのシャドウはその手に槍を出現させる。そして、腰を落として構える。彼の横にはいつの間にかクナイを咥えたコロマルのシャドウがおり、すぐにでも戦闘を始められそうな雰囲気を醸し出している。

 

『ふふっ、何人掛りでも構いませんよ。けど、アマリボクヲ失望サセナイデクダサイネ』

 

『ガルルル……』

 

私は塔のアルカナを持つクー・フーリンを降魔させると方天画戟を構える。全員が武器を構えたのを見た天田くんのシャドウはにやりと口端を吊り上げ、自らに最も近い場所にいた荒垣先輩へと斬りかかったのだった。

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