ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
茶髪の少年とキグルミのシャドウを退けた私たちはその場で傷の手当てを行う。幸い、私とは別行動となった特別課外活動部の面々に大きな怪我を負った者はおらず、ほっと胸を撫で下ろす。
「ところで、湊さん。先ほどの鷲はなんだったでありますか?」
アイギスが周囲の索敵を終えて戻って来て早々に質問してきた。
私は胸ポケットからフレースヴェルグのカードを取り出すと彼女に見えるようにして差し出す。羽の随所に散りばめられた色とりどりの宝石は光り輝いている。そして一際眩い紅い光を放つのが、その瞳である。
「えっと、審判のアルカナを持つフレースヴェルグって言うんだけれど、アイギスは知っている?」
「データベース上には、北欧神話に登場する鷲の姿をした巨人とあるであります。ラグナロク……北欧神話における終末の日に死者を嘴で切り裂くのはフレースヴェルグだと言われているそうであります」
「へぇ、そうなんだ」
私は取り出したカードに描かれているフレースヴェルグに視線を落とす。
ただ『終末の日』とか『死者を切り裂く』なんてワードは聞きたくなかったけれど、アイギスも悪気が合って言ったものではない。そう思いながらフレースヴェルグのカードを胸ポケットに入れ直すと美鶴先輩らに呼ばれた。傷も癒えたし先に進むようだ。
先ほどのこともあり、教室をひとつひとつ確認しながら先に進む私たちであったが、その心配を余所にシャドウは一向に現れない。廊下も一本道であり、難なく突き当りまで来れた。そこには普通の学校ではありえない場所へと向かう扉があった。
プレートに書かれているのはなんとサウナ室。
「なんでサウナ?」
「今どきの学校にはこんな所もあるのか?」
「いや、桐条先輩。さすがに、それはないわ」
美鶴先輩の天然発言にさすがの順平もツッコミを入れる。ここで立ち止まっていても仕方が無いので、私が率先してドアに手を掛けると学校のアナウンスを知らせるチャイムが鳴ったため、ドアを開けずに周囲を見渡していると、どこからともなく怪しげでムーディな音楽が鳴り響く。そして、
『僕の可愛い子猫ちゃん……』
『ああ、何て逞しい筋肉、そして【自主規制】なんだ』
『怖がることはないんだよ……さ、力を抜いて……』
怪しげでムーディな音楽に乗って聞こえてくるのは、ダンディな男の声と優男風の声。そのやり取りを聞いた真田先輩と順平が同時に顔を青褪めさせて後ずさった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。い、いやだ!行きたくねぇ、俺は絶対に行きたくねぇ!!」
「お、おかしいな……身体の震えが止まらん。まさか、俺が恐怖しているとでも言うのか!?」
2人のそんな姿にそれぞれに近しい者が首を傾げる。私たちはどうして彼らがこんな反応をするのか、理由までも何のことなのかを知っているため、リアクションはしないけれど。
「順平、何があったの?」
「チ、チドリ!?これだけは勘弁してくれ!」
「???」
ストレガのチドリに問われた順平は身体の前で大きく手で×の形になるように両手をクロスさせている。心底、意味が分からないと言った感じでチドリは首を傾げている。
「アキ、テメエ何をやっているんだ?」
「べ、べべべべべ別に震えてなどいないぞっ!!」
「いや、ガチでヤベェ震え方だぞ。風邪か?」
見当違いな心配をする荒垣先輩の姿に、そういった知識はないのだなぁとほっこりしながら、私は怯えた様子の順平と真田先輩を見つつ風花と連絡を取る。
風花は風花で、放送を聞いて“あわあわ”していたが、私が声を掛けるとすぐに冷静を取り戻した。
『皆さん、その部屋には反応がひとつだけあります。そして、その部屋の向こうに大きな部屋があって、そこに5つの反応があります』
「ふむ。それなら、入るしかないか」
そう言った美鶴先輩は尋常じゃない震え方をしている真田先輩の首根っこを捕まえると、男らしくドアを開けた。サウナ室とプレートに書かれているようにもの凄い熱気と湿気がドアの前に立っていた私たちに襲いかかる。
「チドリさん、順平を引っ張って連れて来て。皆、行くよ」
私は方天画戟をいつでも使えるように構えた状態でサウナ室へ入る。視界の端では、廊下に爪を立ててサウナ室に入るのを拒む順平の足を掴んで引き摺ってくるチドリの姿があった。
熱気を含んだ霧を掻き分けつつ進んで行くと、巨人が3体いた。
両サイドにいるのはゴリラのような彫りの深い顔、ボディビルダーのように鍛え上げられた肉体を持つオッサン型のシャドウで中央にいるのが、私たちが戦った茶髪の少年やキグルミと同等の存在なのだろう。だが、ふんどし一枚の格好はちょっとどころか大変怪しい訳で。
『ふふふっ、ようこそ“崇高な愛を求める施設”h』
「ポルデュークス、ジオンガァ!!」「ヘルメス、アギラオォ!!」
「「「あ」」」
雷属性の『ジオンガ』と火属性の『アギラオ』の攻撃スキルが台詞の途中であったふんどし一枚のシャドウに殺到した。両脇にて佇んでいたマッチョなシャドウも唖然としている。
完全に不意を突いた攻撃だったのだが、攻撃を受けた当人は頬を紅く染めて喜んでいるように見える。うん、これは実に良くない傾向である。私たちの精神汚染的な意味合いで。
私は女性陣に目配せすると、風花にアナライズを依頼する。そして、得た情報を元に担当を振り分ける。その間、シャドウの相手は真田先輩と順平、時々荒垣先輩がする。
『中々刺激的な一撃だったよ。どうせなら、ボクのここにぶち込んでみないかい?』
腰を振りながら言うふんどし一枚のシャドウ。
「ふっざけんじゃねーぞ、テメエ!!」
「何故だ、何故俺の攻撃が効かない!?」
「アキ、伊織。とりあえず落ちつけ」
『どうして、そんなムキになって拒絶するのさぁ?ホントはキョーミあるんじゃない?ふふ、あまのじゃくの照・れ・屋・さん』
「「うがあああああああっ!!」」
「だから闇雲に攻撃しても無駄だって言っているだろうが、この阿呆どもがっ!!」
荒垣先輩。貴方はずっとそのままでいてください。真田先輩と順平は汚れちゃっているから、もうノンケには戻れないんです。
私はくるりと振り返って、天田くんの耳を塞ぎつつ今行われている光景を見えないように自分の体を使って目隠ししているアイギスの様子を見た後、彼女に対してはそのままでいるように指示を出す。こんな汚れ展開は天田くんの情操教育に悪すぎる。
それに準備は整った。
次に、ふんどしのシャドウが何かを言って2人をキレさせたら攻撃開始とすると配置完了している皆に合図を送る。
『面倒な前書きは、もうお終いだよぅ!じゃあもう、そろそろ僕たちが見たことの無い新しい世界へ、イックゥ~!!』
「「死ねや、この野郎!!」」
真田先輩と順平がふんどしのシャドウに向かって武器を構えた状態で飛びかかった。ふんどしのシャドウは嬉しそうに両手を広げ、2人が攻撃してくるのを待ち構えている。
が、奴の思惑通りには行かせない。
だって、両脇に控えていたシャドウはすでに消滅させ、残っているのはふんどしのシャドウのみなんだもん。そして、私たちはあらゆる補助スキルやアイテムを使い、強化済み。
すなわち、ふんどしのシャドウに訪れるのは真田先輩と順平の熱い抱擁……ではなく、私たちの一撃必殺の威力を秘めたスキルの嵐だ。
「フレースヴェルグ、ガルダイン!」(疾風ハイブースト)
「ヨシツネ、ジオダイン!」(電撃ハイブースト)
「ペンテシレア、ブフーラ」(コンセントレイト・氷結ハイブースト)
「イオ、ガルーラ」(疾風ハイブースト)
「メーディア、アギダイン」(コンセントレイト)
「ワオォーン」『ケルベロス、アギダイン』
5人と1匹による大火力の攻撃スキルはふんどしのシャドウに直撃した。そのシャドウに攻撃をしかけていた真田先輩と順平も巻き込まれたようだが、これで少しは頭も冷えたことだろう。
「…………」
「ぷはっ……、いったい何だったんですか?」
「悪は滅びた……であります」
上から遠い目をしている荒垣先輩、拘束を解かれいろいろな意味で顔を真っ赤にしている天田くん、そして咄嗟の機転を利かせたアイギスの言葉である。
その後、風で切り刻まれ、炎で炙られ、氷結してしもやけ状態になっていた男2人の治療をすませた私たちはこの階層にある最後の部屋に突入する。
そこはどこかの王宮の玉座を思わせる作りをしていた。煌びやかな装飾を施された柱や壁、豪華絢爛を物語る大きなシャンデリア。床にはふかっふかな赤い絨毯が敷き詰められている。
「うわっ、こんなのテレビ以外で初めて見た」
「今どき、石油大国にでも行かない限り、こんな光景は見られないであります」
後ろからゆかりとアイギスが会話する声が聞こえてくる。私は部屋の中をじっくり見て、ちょっと高い位置に作られている玉座を見て、すぐに指示を飛ばした。
「アイギス!天田くんの目と耳を塞いで!!」
「了解したであります」
「って、“また”ですか!?湊さん!!わぷっ……」
後方で暴れる音が聞こえてくるけれど、天田くんには刺激の強い光景がそこにはあった。
大きな玉座に腰掛けているのは胸を大きくはだけさせ、学ランを羽織っている少年だった。
それだけなら天田くんにも見せられる光景であったのだが、そいつは水着姿の女の子を4人も侍らせていたのである。しかも、普通の水着ではない。女の子にとって異性には絶対に見られたくない箇所を申し訳程度にしか隠せていない、所謂マイクロという名のつくビキニであった。
こいつは間違いなく女の敵だ。……ある意味では男の敵かもしれないけど。
『ククク……どうした?かかってきな、返り討ちにしてやる。オレの女たちがな』
玉座に座る学ランのシャドウが言うと、彼が侍らせていた女の子たちが次々と異形の姿へと変貌していく。
幾人もの裸の女を積み木のように重ねたものに座るボンテージ姿の女王様。
赤い大きな翼を持つ鳥のようなものの頭の部分が女の子の顔となった怪物。
一昔前のストリッパーとよばれる踊り子のように身体のラインがはっきりしている女の巨人。
メカメカしい身体に羽根を生やし足からジェット噴射を行い玉座の間を自由に飛び回るロボ。
「「「……ちっ」」」
「そこの男3人、戦いが終わったら美鶴先輩に処刑してもらいますね」
「「「っ!?」」」
「ま、でもこいつらを倒さないことにはどうしようもないですし、行きますよ!」
私は念のために全ての属性に対して耐性を持つオルフェウス・改を装着し、方天画戟を構えて近くにいた敵へと斬りかかるのだった。