ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 5月ー③

5月5日(火)

 

ゴールデンウィークの最終日、真田先輩の慌てる声に導かれて1階のラウンジに向かうとティーカップに口をつけたまま、朝日を浴びながら彫刻のように時を止めた桐条先輩の姿があった。なんかデジャブを感じる。

 

正確にいえば一昨日の朝食後に出されたデザート。結局総司くんに問い詰めても何の果物だったのか教えてくれなかった。

 

その総司くんはすでに朝食を作り終え、帰宅の準備を整えて来たらしく、ここに来た時の服装をしていた。肩には件のボストンバックを掛けている。

 

今は桐条先輩を起動させる方が先だと思い、狼狽えている真田さんを押しのけて彼女の鼻をつまんだ。

 

 

 

その日の夜の巌戸台分寮4F作戦室

 

机の上に無造作に置かれた紙の束。

 

それを囲むようにして座る私たち。最初に口を開いたのは頭に包帯を巻いた桐条先輩だった。

 

「“これ”を妹から話を聞いて作成した……と言っていたんだな、伊織」

 

「その通りっス。総司自体は桐条グループが開発しているゲームのβ版をオレたちがモニターしていると勘違いしているみたいっスけど」

 

私は机の上に置かれている紙の束を手元に引き寄せ、表紙を捲る。

 

そこには【世俗の庭 テベル】2F~16F の『フロア別シャドウ分布』、『シャドウ詳細データ』、『宝箱データ』が項目別に手書きだが見やすく整理され書かれていた。

 

私はその中でも聞き覚えのないシャドウの名前があることに気づき、隣に座っていたゆかりに問いかける。

 

「ねぇ、ゆかり。【死甲虫】ってどんなシャドウだったっけ?」

 

「えっと、……順平パス」

 

「は?何々、死甲虫。……戦ったことあったか?」

 

ゆかりに突然話を振られた順平は帽子を脱いで頭を掻き、思案するように眉を顰めたが思い浮かばないらしく諸手を上げる。私は桐条先輩に視線を向ける。

 

「鳴上、どんな奴だった?」

 

「ええっと……覚えていません」

 

優ちゃんの気落ちしたような声が作戦室に木霊する。優ちゃんはこの緊急会議が始まってからずっと体を縮み込ませている。一般人である総司くんにシャドウのことやタルタロスのことを相談という形で話を聞いてもらっていたのだ。

 

「いくら何でもお前たちが戦ったことのないシャドウを、一般人である鳴上兄が知る訳ないだろう。それよりも美鶴、他のシャドウのデータの信憑性はどうなんだ」

 

壁に凭れかかりながら様子を窺っていた真田先輩が、私の手に収まっていたタルタロス攻略本(仮)を取り上げ、桐条先輩につきつける。

 

桐条先輩はそんな行為に目くじら立てることもなく、冷静に返答していく。

 

「ほぼ間違いないだろう。私も全てのシャドウのデータを覚えている訳ではないが、弱点くらいは分かる。しかし、このように書き出したものが手元にあると何かが起こった時に困らずに済むというメリットを考えると今後も書き出していってもらった方がいいのではないだろうか」

 

「つまり、優ちゃんは無罪放免ですか?」

 

ゆかりが桐条先輩と優ちゃんを見ながら告げる。

 

被告人の優ちゃんは体をガクガクと震わせながら、桐条先輩を見つめている。

 

「影時間やシャドウのことを世間に伏せているのは、影時間に適正を持たない者にいらない心配をさせないためだ。今後は気掛けて行動するようにしてくれ、以上だ」

 

「はい。……すみませんでした」

 

優ちゃんが私たちに向かってぺこりと頭を下げる。

 

今回は総司くんがうまいように勘違いしてくれたから助かった。がしかし、こういう風になったのは私たちが優ちゃんの心のケアを怠った故のことではないだろうか。タルタロスにおいて前線で勇敢に戦っているけれど、彼女は中等科の3年生で15歳だ。

 

仲間としての信頼関係を築けたと自信を持って言えないくらい短い付き合いだ。

 

それよりも生まれた時からずっと一緒で、今まで頼りにしてきた双子の兄を頼ろうと思うのは当然のことなのではないだろうか。

 

そう思いながら顔を上げる、と今度は桐条先輩が申し訳なさそうな表情を浮かべていた。何事かと思って、声を掛けよとしたが先に桐条先輩が話し始め、

 

「話は変わるが、寮母の件。……すまない、断られてしまった」

 

「「「「なにぃっ!?」」」」

 

私たちは絶叫した。

 

 

 

『もしもし、優?どうしたのさ』

 

携帯電話の通話をスピーカーモードにして皆に聞こえる様にして、優ちゃんが総司くんと話すのを私たちは静かに見守る。私たちとしては総司くんにはぜひ巌戸台分寮に引っ越してきて欲しい。

 

その理由は総司くんが巌戸台分寮にて料理をふるまってくれた、このゴールデンウィークの内にタルタロスの探索は行ける所まで行くことが出来たからだ。ここまでやれたのは彼の料理の恩恵であることは確実。

 

「うん、あのね。巌戸台分寮に引っ越して料理をふるまってくれないかって桐条先輩から打診されなかった?」

 

『されたけど、断ったよ。以前、優に言った通り土曜の昼食と夕食は作りに行かせてもらうけど』

 

「……なんで?」

 

『なんでって、……逆に聞くけど、どうしてそこまでしないといけないの?』

 

優ちゃんはどうして総司くんがこんなことを言うのか理解できない様子であるけれど、私はピンとくるものがあった。肝心なことを忘れていたのだ。優ちゃんが15歳なら双子の兄である総司くんもまた15歳の男の子だっていうことを。

 

運動部の助っ人、生徒会の手伝い、住んでいるマンション内でのご近所付き合いなどの理由をあげる総司くん。毎日が忙しい訳ではないが、自分の時間も欲しいし“監視されるのは好みじゃない”と一方的に告げ彼は電話切ったのだった。

 

優ちゃんは「……監視?」と首を傾げている。私は周囲の様子を見渡して、隣に座るゆかりに声をかけた。

 

「桐条先輩たちは分かるとして、なんでゆかりは隠しカメラのことを知っているのかな?」

 

「あ、いや、あのね。その……色々とあるんだよ」

 

ゆかりは冷や汗をかきながら後ずさっていく。

 

後で桐条先輩に言って、この寮に仕掛けられている隠しカメラを全廃してもらわないといけない。隠しカメラの存在は百害あって一利なしみたいだし。

 

 

 

タルタロス攻略本(仮)から始まった緊急会議はこれにて終了という流れになり解散となった。攻略本(仮)の検証は後日行うことになり、各々自室に帰っていく。私も皆の後を追って作戦室から出る。すると私を待っていたかのように順平が小さな声で話しかけてきた。

 

「結局、総司の奴。本音を語らなかったなー。あいつ明らかに真田サンがカレーにプロテイン掛けた時と、桐条先輩が食べ方の作法を尋ねた時に目を細めていたから、気に障ったんじゃねぇかなって思ったんだけど」

 

「……それ本当?」

 

「おう。ゲーセンに行った時にそれとなく聞き出す予定だったんだけど、うまくいかなくてさ。それと真田サンが言っていたシンジっていう人の名前も気にしている様子だったぜ。一応、リーダーの耳には入れておこうと思ってな」

 

それだけ言って順平は階段を降りて行った。

 

総司くんの本音か……。

 

彼が空気を読むのが得意で本当によかった。

 

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