ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 巌戸台学生分寮⇒『黄泉転生坂』-⑥

玉座の間に現れた4人の少女が姿を変えた異形と学ラン姿のシャドウを倒すと、部屋の一番高い位置にあった玉座が倒れ、上の階に進むための階段が現れた。私は逸る気持ちを抑え、皆に体力の回復と怪我の治療を指示する。

 

回復スキルを使えるメンバーと、用意してきたアイテムを使って各々が行動を取る中、ぼーっとして瞳が虚ろになるメンバーがいた。

 

「……天田くん?」

 

私が声を掛けても反応がなく、異変に気付いた荒垣先輩を初めとしたメンバーが駆け寄ってくる。私たちが肩を揺さぶろうが、大きな声で話しかけようが何の反応もしない。風花に確認をとっても何の成果も得られず、私たちは一度エントランスに戻ることになった。シャドウの反応がまったくなくなった黄泉転生坂の一階層を通り、寮のエントランスで風花と合流した後でソファに横向きで天田くんを寝かせる。

 

その間、天田くんは虚ろな瞳のまま、何の動きも見せなかった。まるで無気力症を発症してしまったようで、一体どういうことなのかを皆で考えているとおもむろに順平が口を開く。

 

「ここにいる全員に尋ねるっすけど、正直に答えてもらっていいっすか?俺たちは今、誰を助けようとしているのかを」

 

順平の質問の意図が分からず、私が首を傾げていると隣にいたゆかりが少し怒気を含めたいらついた声で答えた。

 

「誰を助けるかって何を言っているのよ、順平。私たちは寮がこうなっちゃった原因を探さないといけないんじゃない!」

 

「おい、岳羽。そいつはマジで言っているのか?」

 

私はゆかりの言葉を聞いて、一瞬だけ呆けてしまった。彼女は今、何を言ったのかと頭が理解出来なかったのだ。荒垣先輩が反応していなかったら、私は素っ頓狂な声を上げていたに違いない。だけど、異常を来していたのはゆかりだけではなかった。

 

「お前こそ何を言っているのだ、荒垣。原因のシャドウを倒す、それのどこがおかしいというのだ?」

 

「美鶴、おまえもなのか!?」

 

真田先輩が信じられないものを見るかのように慄きながら狼狽する。荒垣先輩と真田先輩の反応がおかしいことに気付いた美鶴先輩とゆかりはお互いに顔を見合わせ、同時に目頭を押さえた。そして、頭を軽く振るうと自分が信じられないかのように自身の身体をギュッと抱きしめる。

 

「す、すまない。我々は鳴上を助けるのだったな」

 

「冗談でしょ……よく分かんないけど、記憶が書き換えられていっている感じがする」

 

ゆかりはペタンとその場に蹲って頭を抱えている。風花がそんなゆかりの傍に行って背中を撫でるが、彼女もまた共感する部分があるのか不安げな眼差しが見える。ゆかりの発言を聞いて、誰もが苦虫を噛み潰した苦々しい表情を浮かべている。そんな中、帽子のつばを握りしめ唇を噛み締めながら立つ順平の姿が映る。

 

「順平は大丈夫なの?」

 

私が尋ねると順平は首を横に振った。

 

「……大丈夫じゃねぇよ。ゆかりっちの言う記憶の書き換えられる感覚っていうの、たぶんここにいる誰よりも分かるのは俺のはずだ。もしも総司と優ちゃんが一緒にいなかったら、俺は『特別な力』を持つ湊っちに醜い嫉妬心を抱いてひどい態度を取っていた記憶がある状態なんだ」

 

順平はそう言って力なく俯いてしまった。私は特にそんな記憶の書き換えなんて恐ろしいことは感じられない。そんなことを思い浮かべながら他のメンバーの様子を見ようとするとアイギスと視線があった。彼女は機械の乙女。記憶の書き換えなんて関係がなさそうだけれど。彼女は小さく口元を動かし、納得するかのように大きく頷く。

 

「皆さん、聞いて欲しいであります」

 

提案をするように澄んだ声でアイギスは声を上げた。今まで沈黙し続けていた彼女の突然の発表にその場にいたメンバー全員の視線が集まる。アイギスはニコッと微笑むと告げた。

 

「このまま、総司さんのやりたいようにさせるであります」

 

「「「はぁ!?」」」

 

階段の前に移動し両手を大きく広げ、そんなことを言い放ったアイギスに苛立ったような声をぶつける面々。

 

「ちょっ、ふざけないでよアイギス!兄さんを見捨てるつもり!」

 

「いやいや、その理屈はおかしいだろうがっ!」

 

「記憶の混乱があって、先に進むのが滞ったことは認めるがこれとそれとは別問題だ。何を考えている、アイギス!」

 

優ちゃん、荒垣先輩、真田先輩が相手を視線だけで殺せそうなくらい鋭い眼差しをアイギスに向けている。アイギスはそんな彼らの視線にうろたえることなく、自身の考えを告げる。

 

「皆さんは屋久島にて、桐条総帥より話を聞いているはずであります。何故この地にシャドウが集められ、実験が行われたのか。その目的も」

 

美鶴先輩の表情が曇る。彼女の祖父が自身の野望を果たすためにシャドウは集められた。しかし、集められたシャドウの力を制御できなくなり、10年前の爆発事故は起こり……って、その口ぶりからすると。

 

「待って、アイギス。貴女、過去のことを……」

 

「湊さんの予想通り、全てを思い出したであります。10年前、私が死力を尽くして封印した、『生あるモノ全てに等しく死を与える存在』を、この世界に呼び寄せる『死を宣告する者』。死神のアルカナを持つシャドウが、あと少しで封印から目覚めるところでありましたが、今回の総司さんが中心となって起きた現象によって、それが回避されたであります」

 

アイギスはそう言いながら武装のチェックを行う。彼女の傍らには天田くんの武器である総司くんが作った銃や槍も。

 

「皆さんが満月の度に戦い倒してきた大型シャドウは、元々はひとつのシャドウでした。私が10年前に封印した死神のアルカナを持つシャドウとひとつになるために近づいて来たに過ぎない。もしも、それに気付かずに復活を許していたら、きっと私は悔やんでいたことでしょう。しかし、それが回避された。しかも懸念事項であった、『生あるモノ全てに等しく死を与える存在』もこのまま総司さんが願いを叶えれば、皆さんが生きているうちに表れることはない。戦い続けるのは私だけで十分であります」

 

アイギスは傍らにあった槍を手に持ち、刃を私たちに向ける。そして、今までのような無機質な瞳ではなく、意志の篭った強い瞳で私たちを見据える。そして、言葉を紡ぐ。

 

「私は、……私の意志で貴方たちを止める。もう二度と貴女方が傷つかなくていいように、痛い思いをして戦わなくていいようにする!総司さんの想いを無駄にしないために!」

 

アイギスの胸にある青い蝶の形をした動力部から淡い光が溢れ出る。

 

機械の身体にプログラムされた思考という自分で考え決めるという意思を持たなかったアイギスに心が芽生えた瞬間だったのだろう。彼女の背後に現れたペルソナである機械の乙女の姿をしたパラディオンが光に包まれ、人の顔を持った白を基調とした金色の鎧を身に纏う女性の姿へと変わる。

 

「この先に進みたいのであれば、私と……『アテナ』を倒してから行ってください。けれど、私は全力で戦います!」

 

私たちはアイギスが人のような意思を持つ事を切望していたはずなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

 

総司くんを救うには階段を上がって行かなければならないのに、その階段の前には強い意志を抱く仲間であるはずのアイギスが立ちふさがる。総司くんの想いって何なの?どうして、こんなことになっちゃうの?

 

その場にペタンと腰を落とす。私はただ総司くんを助けたいだけなのに、どうしてこんな風に仲間内で傷つけあわなければならないのか、自問していると声が聞こえた。見れば、台所に青い扉が見えた。その向こう側から黄色いマフラーを首に捲いたファルロスが手招きしている。

 

私は問答を繰り返す皆を置いて、ファルロスに導かれるまま青い扉を潜った。

 

 

 

 

青い扉の先はやはり、ベルベットルームだった。しかし、住人の姿は無く、いるのはファルロスだけ。

 

「えっと、……怒っている?」

 

「ううん。きっと、アイギスが言っていたのがファルロスのことなんだろうなっていうのは、ここ最近の出来事で分かっていたから。幾月理事長が私を月光館学園に招き入れた事から始まったんだよね」

 

「その通り、彼は『生あるモノ全てに等しく死を与える存在』によって作り変えられた世界の新たな皇子になるつもりだったんだ。そのために君を呼び戻した。君の先輩たちの活動に支援をしていたのも後々、自分にとって都合のいいように動かすための下準備だった。そしてストレガという敵の存在が君たちの活動を更に加速させることも分かっていた。けれど、彼にとって不確定要素が混ざりこんだ。自分が年月を掛けて準備を進めてきた計画に狂いを生じさせるかもしれない存在が」

 

「優ちゃんと、総司くん」

 

ファルロスは儚い笑みを浮かべて小さく頷いた。

 

「正確に言えば、後者。鳴上総司くんの方だね。彼は存在自体がおかしかった。年齢の割には達観した考えと落ち着いた判断力を持ち合わせ、君たちの活動をサポートする能力に長けていた。時に君たちの間に立って両者が納得するように話を持っていったりして。君は何度か、彼を疑い尋ねた。けれど、その都度、意識が混濁したはずだよ。彼に憑いている何者かの影響を受けて」

 

「…………」

 

「彼のアルカナは『逆位置の世界』。普通の人間であれば、ありえないアルカナだ。『避けられない運命を変える為に、自らの命を終わらせ、その人生を捧げても構わない』なんて聖職者でもこんなことは考えないよ。けど、分かったでしょう?彼の願いが」

 

「総司くんは私を助ける為に、こんな馬鹿げたことをしているの?」

 

「最初から君を助ける為だったかは分からない。けど、きっと君が“君”だったから彼は助けようと思ったんだと思う」

 

心の底から溢れ出てくる暖かいものによって、傷ついていた心や身体が癒されていくのを感じる。見れば、私に総司くんの気持ちを教えてくれたファルロスの身体は半透明になっていた。もうすぐで総司くんの願いが成就されてしまう間際のようだ。

 

「ねぇ、また君の中に戻ってもいいかな?この10年、色々とあったけれど居心地が良かったんだ」

 

「……うん。おいで、ファルロス」

 

私はそう言って両手を広げた。ファルロスは首に捲いていた黄色のマフラーと同じ色の光を放つ小さな球体となり、私の胸に入り込んだ。

 

ふと上を見上げると『オルフェウス・改』が私を見下ろしていた。私が彼女に向かって頷くと、無表情であったはずの仮面が少し微笑んだ形になった。すると、『オルフェウス・改』の胸からファルロスの光が飛び出てきて彼女の周りをくるくる回り始める。

 

変化は一瞬だった。

 

『オルフェウス・改』はまるでウエディングドレスを着たような真っ白な姿へと変わっていた。白銀の長い髪を揺らし、『タナトス』が背負っていた棺桶のような真っ白のオブジェに腰掛けている。胸にはファルロスの光を抱く、生ある全てのものへ慈しみと愛情を与える存在へと。

 

「【神の母】……『マリア』」

 

見れば上へと上へと上がっていくだけであったベルベットルームは動きを止めていて、閉じられていたシャッターが開けられるところであった。

 

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