ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 エピローグ

私がペルソナ能力に目覚めた4月の初めの頃に手に入れ、今回の騒ぎで強くなって戻ってきた『オルフェウス・改』は純白の衣服を見に纏う【神の母】と呼ばれる『聖母マリア』へと姿を変えた。

 

ベルベットルームを囲んでいたシャッターは開かれ、光に包まれた私が目を覚ますと変貌した寮のエントランスではなく、枯れた野菜や果物の苗が散乱している屋上へと変わっていた。ひとつの意思を持つ人間らしさを手に入れたアイギスと、記憶の書き換えという超常現象に苦しんでいた特別課外活動部のメンバーもいきなり変わった風景に戸惑うように周囲を見渡す。

 

『気付カナケレバヨカッタノニ……』

 

男女両方が混ざったような声が辺りに響き渡る。

 

『何モ知ラヌママ、普通ノ生ヲ、僕トハ違ウ幸セナ人生ヲ。貴女ニト思ッタノニ』

 

私たちは声に導かれるように廃墟と化した巌戸台学生分寮の屋上から空を見上げる。

 

そこには妖しく金色に輝く月を背景に血のような赤い眼をした顔が2つある黒い身体の化け物の胴体に腰掛ける学生服を着た少年の姿があった。

 

玉座の間で戦ったあの金色の瞳をした男と全く同じ造形だが、浮かべている柔らかな笑みは見覚えのあるもの。

 

そうか、私も総司くんという存在を覚えていてもどんな顔でどんな姿だったのかを忘れてしまっているみたい。

 

黒い化け物に腰掛けていた灰色の髪を持ち学生服を着た“総司くん”が立ち上がる。それと同時に胴体を中心に上半身を2つ持った黒い化け物が重力に引かれるように落下を始め、私たちと同じく廃墟となった屋上に降り立ち、枯れた植物や残っていた土などを全て吹き飛ばした。

 

私たちに聞き取れない言語のような叫び声を上げる黒い化け物。先ほどまで戦っていた美鶴先輩や真田先輩らと一緒に武器を構えるアイギスの姿が見える。彼らの視線は黒い化け物に固定されていて、空に浮んだままの総司くんの姿は見えていないみたい。

 

『僕トイウ存在ヲ今モ忘レズニイル貴女ハ直接、僕ガ相手シマショウ』

 

私だけを見つめていた総司くんがパチンと指を鳴らす。すると、私だけが別の場所に移動して、どこか高い塔の頂上に立つ形になる。私の向かいには完全に消え去る前に光となって私の胸に飛び込んだファルロスのような儚い笑みを浮かべる総司くんの姿があった。彼の手には優ちゃんと同じ太刀が握られている。

 

「遠慮は必要ありません。もうじき、鳴上総司という存在は消え、結城先輩は何も知らない普通の人となる。高校生活を満喫し、華の女子大生ライフを送り、やりがいのある仕事を見つけ、いずれ恋に落ちて、愛する人と暖かな家族を作る。そんな当たり前の生活が待っているんです」

 

「私の幸せを……どうして他人である総司くんが願うの?」

 

「僕は転生者。結城先輩がこの世界でどんな人生を送ってきたのかは分かりません。けど、この学園生活の果てに死が待っていることだけは知っている。その他大勢を救うために、その命を捧げることも。生贄となって幾数年、数十年、数百年とも分からない年月を不意にすることも。そんなこと、結城先輩に味わって欲しくない」

 

総司くんは太刀を鞘から引き抜いて、私に向かって剣先を向ける。彼の目的は時間稼ぎだ。ファルロスはもうすぐ総司くんの願いが成就すると言っていた。私の体の中に眠っていた強大な力を持つペルソナの力を使って、私を助ける為に総司くんがその身を犠牲にしようとしている。彼の言う『転生者』というのが何なのかは分からないけれど……。

 

「私は、自分の人生に後悔したことなんてないよ。これまでも、そして……これからも」

 

私は手にしていた方天画戟を思い切り投げ捨てる。それは塔の縁部分を転がり、そして落下していった。

 

「何のつもりですか?」

 

「やり方があざと過ぎるよ、総司くん。君は私に斬りかかるつもりなんかないんでしょ?それ……竹刀の持ち方になっているし」

 

総司くんは自身が手に持っていた太刀の柄を見て苦笑いを浮かべた。そして、彼も武器である刀を私と同じように放り捨てた。床に落ちた瞬間に甲高い音が響き、その後も音を立てながら刀が転がる音がした。私は刀が転がるのを止めたのを見て、総司くんの近くに向かって歩き出す。総司くんはその場から動くことは無かった。

 

「さてと、総司くん。君が何を思ってこんなことを引き起こしたかは分かりました。では、これから何をするつもりなのかを教えてくれるかな。もう、私ではどうしようもないんでしょ?」

 

「そうですね。あの月が見えますか?」

 

総司くんは親指で背後にある月を指差す。影時間の象徴である大きな月。満月の度に訪れる大型シャドウには毎回、苦労させられた記憶しかない。

 

「あれが、ニュクスと呼ばれるシャドウの親玉、ラスボスなんですよね」

 

「さらっと、とんでもないこと言うよね!?」

 

「『生あるモノ全てに等しく死を与えるモノ』という概念で存在する敵ですから、普通では絶対に倒せません。ワイルドの力を持つ主人公が、学園生活で育んだコミュニティの力を結集させ、人類では到達できない高みの力を使い何とか封印をしなおすしか方法はありません。けど、そんな重荷、今を生きている結城先輩が背負うことはないです」

 

「それに『転生者』っていうのが関わってくるんだね」

 

総司くんは私の言葉に大きく頷いた。

 

彼が言うには『転生者』とは前世で何らかの原因で死んだ者の魂を神さまが摘み上げて、選ばれた漫画やゲームの世界に入れて、その世界がどう変わるのかを見るのだそうだ。総司くんの場合は前世で好きだったゲームの世界。ハッピーエンドでも主人公が死んでしまう世界。どうせなら、主人公の死を覆したいという願いを持って、前世の記憶とこの世界に関する知識を持ったまま転生したらしい。5月の女教皇の大型シャドウの時や、タルタロスの詳細なデータを持っていたのはそれが原因。だけど、大っぴらに干渉することは出来なかったらしい。今日のこの時までは。

 

「これから……どう変わるの?」

 

「最初に言った通り、鳴上総司という存在はなくなります。どうせ、神さまが都合のいいように作った偶像ですし、跡形も無くなると思います。けど、結城先輩たちの生活にどうこうという影響はないと思いますよ。けど、……最後に僕の我が儘を聴いてもらっていいですか?」

 

「……“最期”だし、……いいよ」

 

私は総司くんに背を向ける。背後から総司くんが近づいてきて、私をぎゅっと抱き締めた。

 

「僕は転生者で、神さまに作られた存在。2度目の人生を生きる者として、ずっと自分を卑下しながら生きてきました。結城先輩に出会って、話を聞いてもらって、自分の夢を、将来のことを考えてって言われた時、すごく嬉しかったんです。あの時、僕は結城先輩に恋をしたんだと思います。だからこそ尚のこと、貴女を助けなきゃっていう想いが強くなった」

 

総司くんと結んだ『審判』のコミュニティ。影時間の大型シャドウと戦う際に力になってくれた彼の強い思いを表すペルソナたちが思い浮かぶ。

 

「鳴上総司は、結城湊という女性を愛している。その気持ちは未来永劫変わらない。僕はその思いを抱いて、貴女の代わりにニュクスを封印し続ける。……さよなら、僕の“人生”で“唯一”愛した人――――――――――」

 

自分の身体に回された私に好意を向けてくれた男の子の腕を触れることはなかった。彼の腕が忽然と消えたことに気付いて私が振り返った時には、すでに姿はなくなっていた。影時間を象徴する大きな月も緑掛かった景色も何もかもがなくなり、私はいつの間にか住んでいる寮の屋上に立っていた。

 

零れ落ちる涙が何を意味するのかも分からないまま、私はただただ屋上に立ち続けた。

 

 

□□□

 

 

「へっくしゅっん!」

 

「うわっ、汚っ!?……もう、なんで屋上で寝てたの、湊?」

 

「ずずっ……わかんない」

 

私は鼻を擦りながら通っている月光館学園に向かって登校している。その傍らには同じクラスで同じ寮に住んでいるゆかりの姿がある。

 

「屋上に行ったら、湊さんが寝ていて驚きました。目を真っ赤に腫らした後があったので、野獣候補数人を襲撃してしまいましたよ」

 

「あはは……。それで順平くんたち白目を剥いて気絶していたんだね」

 

私たちの後ろをついて歩いているのは同じクラスに転入してきたアイギスさんと隣のクラスの風花の2人。話題に上がった順平も私とゆかりと同じクラスなのだが、何だか私の所為で強烈なとばっちりを受けたようだ。放課後に何かを奢ろうと思う。

 

「ところでアイちゃんは何で屋上に行ったの?今回はそれで湊を発見したからいいけれど、あそこ何も無いでしょ?」

 

「それが謎なのであります。プログラムに毎朝屋上に行って何かを作業していた記録はあるのですけれど、何もない屋上で私は毎朝何をしていたのでしょうか?」

 

「質問をしたのに、質問を返されるなんて。……えっと、ヨガとか?」

 

「機械の身体を持つ私に不要ではないですか」

 

「はいはい、無駄話はそれくらいにするよ!ただでさえ、湊の風邪の所為で遅刻気味なんだから」

 

ゆかりが切りのいいところを見極めて話を遮った。確かに時計を見れば、もうそろそろ厳しい時間になっている。私たちは駅に向かって走った。

 

その途中で、見覚えのある女の子が視界の端を過ぎった気がして、私は足を止める。そこにいたのは中学生の集団だった。月光館学園のブレザータイプではない赤いリボンが特徴の黒い制服を着た女子中学生たちが数人で集まって何かを話している。その中でも特に背が高くアッシュブロンドの髪が特徴の女の子に目が行った。

 

「修学旅行が東京って何か微妙だよね……」

 

「しかも、ここ渋谷じゃないし」

 

「って、優ちゃん。何それ?」

 

「え?可愛くないかな、巌戸台提灯」

 

「「「優ちゃんのセンスぱねぇ!?」」」

 

私の視線には気付かず、少女たちは騒がしく去って行った……。

 

「おーい、湊!そんなところで何をしているの?」

 

「今行くー!」

 

駅の前で大きく手を振るゆかりに向かって返事をした私は駆け足で向かう。

 

その時、背後から聞き覚えのある声で声を掛けられた気がして、私は振り返った。

 

しかし、そこに知り合いはおらず、私は首を傾げながらクラスメイトたちがいる下へ走るのだった。

 

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