Shangri-La   作:霞弥佳

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序章
とある日の遭遇戦


 部隊員である『駆逐艦』初春による主砲での牽制より始まった遭遇戦のアドバンテージは、大きく彼女たちに傾いていた。

 

 偵察機瑞雲より部隊内ネットワークシステムを介して送られてきた情報によれば、『外敵』どもの規模はそう大きくない。『駆逐艦』が七、『重巡洋艦』が三、『重雷装艦』が二。トータルでは十二匹、加えて、増漕と共にソナーを搭載した『駆逐艦』初霜が『潜水艦』の存在を確認していた。多く見積もってもその数は四。『駆逐艦』と『軽巡洋艦』を中心に編成された水雷戦隊にとって、およそ脅威とは言い難い存在と言えた。むしろ、こちらよりも火力に優れた『重巡洋艦』率いる海上戦力に注意を向けるべきであろう。目視――――二対の高彩度メインカメラでようやく敵影を捉えると、部隊長――――『旗艦』天龍は語気を荒らげずに呟く。

 

「陣形はこのまま併列縦。『空母』の危険がない以上、不必要な警戒はかえって危険だ。連中が第四防衛圏内に接触するより先に排除する」

 

「無駄玉撃ってもしょうがないしねぇ」

 

 補佐官である『軽巡洋艦』龍田の言は正論だった。前髪を左右に分けたつややかな額の下、彼女は常に笑顔を絶やさない。彼女の軽口じみた発言には、部隊員の誰もが賛成だった。

 

 当部隊の練度は、本土沖でゆうゆうと官僚だのを相手取った下世話な『遊覧』のお相手をしながら小銭をせびる連中とは一線を画す。部隊員の誰もが五十を越える出撃回数を誇る古強者。指揮下にある『駆逐艦』や『軽巡洋艦』は、有象無象になどそうそう苦戦など強いられないだろう。それは、天龍自らが最も信頼していた人間から受け継いだ自負であり、矜持であった。

 

いかにそれが、虚勢で飾られた張り子の矜持であったとしてもだ。

 

「殴り合いならば我輩に任せよ。所詮は本隊からあぶれた木っ端であろうよ、蹴散らしてくれる」

 

 自ら前衛(バンガード)を買って出たのは、部隊唯一の『重巡洋艦』利根。天龍はそれを承諾し、自身もまた利根に続いた。水面にしぶきを跳ね上げ、天龍は一回り体格の大きな利根と並走する。

 

「初春、子日。まずはこまかい連中の足を止めろ。モグラどもを文字通り海の藻屑にしてやれ」

 

 頭部に内蔵された複合電信機器より指示を飛ばすと、すかさず『駆逐艦』である初春、そして子日が応答する。

 

「利根の言い分はもっともじゃ。わらわ達の前に現れた事を後悔させてやらんとな」

 

 にやり、口角を引き上げて顔の人工皮膜を歪ませる初春。彼女は同型である子日と共に利根、天龍の前へ躍り出ると、一気に内臓主機と脚部斥力場生成機構(フロートシステム)の出力を引き上げた。ボリュームある深い紫の髪束が翻り、初春はそこが氷上であるかのように敵陣目がけて駆け抜けていった。

 

 

 

 腰部コネクタと接続された複合艤装が、控えめな駆動音を伴って戦闘形態へと移行する。折りたたまれていた追加腕(フォールディングアーム)が抱えているのは、『駆逐艦』初春型の手砲である12,7センチ連装砲。無論、現にそのサイズを有しているわけではなく、真に必要なのはその名称である。砲塔に与えられた『名』こそが、敵を調伏するのに必要不可欠なのだ。実在した砲の名を冠した武装、『修祓兵装』でなければ、海原より来たりし『外敵』を討つ事はできない。心臓部である『主核(コア)』は砕けない。

 

 しかし、儀礼的な意味合いを強める必要のある砲は外部のディティールを高める一方で、火力では現代兵器には劣る。すなわち、強固な装甲や衝撃を吸収する軟質に覆われた『外敵』をいかに破砕し、弱点を露呈させるかが鍵となる。『駆逐艦』、もとい水雷艦艇は、速やかに外部装甲を除去した上で後続に襷を渡す事を主任務としている。大火力を追求した『重巡洋艦』や『戦艦』が確実に敵を屠る為の膳立て、海上を駆けまわるスズメバチ。それが、初春たちが『駆逐艦(デストロイヤー)』と呼ばれる所以である。

 

 だが、このような小規模な遭遇戦で二度刺しを待つ必要などはない。初春が本来昼間戦闘で用いられる事の少ない駆逐艦の『修祓兵装』を展開したのは、決して慢心からではなかった。有機脳に蓄積された経験から裏打ちされる、何より確かな勝算だった。

 

「逃がしはせんぞ。殲滅じゃ」

 

 初春、子日の姉妹が外装除去と自衛に用いるのは、独逸製7,92㎜対空機関砲。そして、対潜水装備である魚雷信管である。天龍、利根から距離を離し、武装を展開した二機が敵影を捉えるのには二分もかからなかった。

 

 先ずは一隻。初春が狙いを定めたのは、突出していた『駆逐艦』。イ級クラスと呼ばれるそれは漆黒の硬質外殻に前面が覆われており、さながらその姿は墨汁を被った鯨。そのサイズも平均して全長8メートルから15メートル弱、個体差はあれど初春らを大きく上回る。遺体の燐のごとく光る双眼と、ヒトの歯を粘土質へ不細工に突き刺したような口はまさしく妖獣。臭気を発する人食いの化生である。

 

 ぐるぐると体内のガスや液汁が音を立て、頭頂から噴きだした腐敗臭が海域を満たす。ずるりと腔内の肉を引き裂いて現れたのは、砲塔だった。それが彼ら『外敵』の主兵装であり、ヒトや大地を腐らせる『瘴気』の満ちた弾頭を搭載した、汚染の為だけに存在する兵器。眼球を潰し、呼吸器を焼き、皮膚を引き剥がし、骨髄を溶かす――――人類のおぼつかない意思疎通に対して彼らが付きつけてきたのが、この瘴気弾頭であった。

 

 だが、初春の表情には懸念や恐怖の色は微塵もない。曇りなく澄み渡った、晴天を前にしたような爽快な気分だった。長手袋に包まれた細腕で腰部の艤装から取り出したのは、先端が銛となった筒状の物体。最高速を保ったまま、すれ違いざまにそれを海面から露わにした眼穿へ突き刺した。淡い光を放っていた眼球は透明な膜を引き破られ、ぶしゃりと白い液汁と鮮血を撒き散らした。

 

 でかい図体に比べて、ずいぶんこやつらはもろいものよ――――がつんがつんと腔内よりそびえ立つ砲塔を噛んで悶えるイ級には、もはや初春の視線は向いていない。やがて一拍置くと、イ級の頭部は避雷針の如く突き立った魚雷で四散した。外殻と肉が内側からひしゃげ、炸裂する爆音と水音が耳に届くと、追加腕(フォールディングアーム)から伸びる『修祓兵装』でろくに狙いを定めず残骸を砲撃する。

 

 初春は、ぞわりと身震いした。恐怖ではなく、道幅の限られた獣道を紙一重で突破する凄絶なる達成感、多幸感。これこそが彼女らガイノイドの存在意義であり、いまの初春は何にも代えられぬ無常の幸福の最中にあった。

 

 

『駆逐艦』の総数はこれで六。『主核(コア)』を完全に破壊できずとも、戦力を削いでしまえばあとは後続の部隊員が処理してくれる。ドアノッカーとして求められるのは、いかに早く敵方前衛を無力化できるかである。

 

「子日、アタァーック」

 

 無線を介さない甲高い叫びと共に、初春の視界右下に表示される簡易レーダーから『駆逐艦』の数がひとつ減少した。方位を示す表示を頼りに振り向くと、そこにはすでに両の眼に炸薬を搭載した短刀を突き刺したイ級が水面でもがいていた。この仕打ちを施した本人である子日はといえば、既に次の獲物に向かって駆けている始末。

 

「やはり、この程度では役不足じゃの」

 

 やがてばちゃりと外殻と脳梁を撒き散らした二匹目のイ級を尻目に、初春は頭部レーダーの感に注意を向けていた。音を立てずにこちらへと向かってくるのは、先の予想通り潜水艦か。

 

「子日! 件のモグラじゃ、思ったよりも速度がある。イ級は後続に任せてこちらを叩くぞ!」

 

「待ってましたあ」

 

 潮風の上に腐臭と硝煙が塗りたくられた戦場の中でこの満面の笑み。子日の微笑みを見て、初春は意図せず上気してしまう。

 

「きゃつの直進速度は、従来の『潜水』カ級を大きく上回っておる。恐らくは新型じゃな」

 

「うっそぉ、すごいねぇ。ねのひ達の爆雷でどうにかなるかな、ねえ?」

 

「最初に確認した時点では70,7ノット。わらわ達のソナーで捉えられるか……」

 

 複合内蔵端末を操作し、交戦前に起動させた艤装パッシブソナーの受信歴を確認するも、音沙汰はない。

 

「こうも都合よく姿を消すとなると……まあ十中八九、奥にECMを搭載した殿(しんがり)がおるようじゃな」

 

「どうするのぉ?」

 

「網を張る。あの速度で進路を変えるのは無理じゃ」

 

 言って、初春は艤装に搭載されていた筒状の潜水爆雷を投下する。

 

 24連装迫撃砲(ヘッジホッグ)型の多段散布を行っての轟沈を狙ったのである。メカニズムこそ旧時代の二次大戦時に採用された装備ではあるが、その性能はやはり『修祓兵装』を効果的に運用するまでに改修を重ねられてきている。

 

「折を見て子日、そなたの爆雷も投下じゃ。敵の新型は確実に仕留めなければならんぞ、できるならば鹵獲するのじゃ」

 

「がってん!」

 

 そう溌剌と返す子日に微笑むと、初春は踵を返して取りこぼしたイ級の処理、そして迫る『重巡洋艦』の対応へと向かった。見ると、彼らはすでに水平線の真一文字を塞ぐようにそびえていた。

 

「『重巡』リ級に『雷巡』チ級……予想通りじゃな」

 

 再度初春はレーダーで自部隊と敵との位置関係を確認する。既に先遣であるイ級どもは虫の息、加えてそれなりの火力を有する後続もあの規模となれば――――

 

「む……?」

 

 不愉快なビープ音に、初春は自慢の殿上眉をひそめた。

 

 視界端のレーダー上に表示されたのは、見慣れぬ赤縁のウインドウ。そこに記されていたのは、ある味方機のステイタス、そしてバイタルサイン。血圧と脈拍は、初春たちと比較しても桁違いに高い。そして、体温表示は0,00とある。そして、何より彼女を戦慄させたのはパーソナルデータだった。

 

「しま……かぜ……?」

 

 ごごん、と。下腹にまで響く轟音は、先ほど放った24連装迫撃砲(ヘッジホッグ)の炸裂したものだと脚部斥力場生成機構(フロートシステム)ごしに感じた初春は、そう直感した。目論み通り、新型は爆薬の坩堝の中でもがいているのだろうが、しかし気になるのはこのレーダーの表示。

 

 軍令部主導のもとで行われた次世代型多目的戦闘機(ネクストステージモデル)開発計画、そのひな形である『島風型』の試作機。先日までは初春と同じく水雷戦隊として海上を駆けていた一人、それが島風だった。

 

 速く、何よりも速く。其はまさしく島風の如し。

 

 その理念を体現するかのように、主機と脚部斥力場生成機構(フロートシステム)は新規に設計されたものが採用され、その機関出力は『戦艦』クラスに匹敵する。主核《コア》に降魔する人格もまた小規模部隊での高速強襲を想定されて構築されており、いかなる場合でも平常を保つよう調整された思考で任務を遂行するスタンドアローン機だと言える。

 

 初春の記憶の中の島風はと言えば――――良く言えばマイペースであり、悪く言えば協調性が欠片もないはみ出し者。配備された彼女は、カタログ通りのスペックを考えれば最優の個体かもしれない。しかし、あまりにも彼女は幼く、そして孤独すぎた。幾度も窘められ、叱責を受けたとしても、陣形ひとつまともに組む事は出来なかった。座学や食事においても落ち着きなく体をゆすり、初春もまた彼女を煩わしく感じたものだった。

 

 初春――――否、部隊のメンバーがそんな島風に憐憫の念を覚え始めたのは、先日の出撃で彼女が逝ってからだった。『戦艦』二隻と『空母』一隻、そして『駆逐艦』一隻を喪失する大敗だった。

 

「まさか――――まさか、そんな!」

 

 日系人離れした象牙色の髪に、彫の深い高い鼻。大人びた外見に反して非常に言動が幼稚な戦友。艤装を取り払った素体としての彼女の顔写真が、初春の視界に表示されていた。

 

 周囲の海面を見回す初春は動揺していた。足元は依然として昏く、五メートル下はソナーなしでは何も感じる事の出来ぬ暗黒に包まれている。

 

 どぼんと水を叩く音に振り向くと、先の初春の指示通りに子日が24連装迫撃砲(ヘッジホッグ)を射出、散布しているところだった。それと同時に、ぐんと足元が大きく揺れた。

 

 例えるならば――――海面では可笑しな話ではあるが――――地震。船酔いとはまず無縁の初春たちだったが、ホームグラウンドでもある海上で不可思議な酩酊を感じていた。やがて振動に遅れて轟音が徐々に大きく、彼女らの直下へと近づいてくる。影は海原の闇を引き裂き、ついに光射す海上へと姿を現す。自身を狙ったのであろう、24連装迫撃砲(ヘッジホッグ)を放った獲物目がけて。

 

「子日ッ、そこから離れよ! 子日ッ!」

 

 初春の叫びも虚しく掻き消え、海中から現れたそれは轟音としぶきを周囲に叩きつけた。ほぼ直角に跳ね上がったその新型機は、口と思しき器官に子日だったものを咥えて数秒間滞空したのち、再び着水した。流線型の機体を覆う黒の外殻はイ級と恐らくは同じもの。しかし頭部らしき器官が横に三つ並んでいるほか、機体後部には鋭角の施された外殻に覆われた推進器らしきものが増設されている。上部には兎の耳を連想させる大型のスタビライザーが備えられ、シルエットからそれが従来の『駆逐艦』とは一線を画す存在だと威圧を放っていた。

 

 40ノットを越える直下からの食らいつきに対応できなかった子日の四肢は弾け飛び、右の横腹と両手足は異形によって咀嚼されている最中であった。下部から出鱈目に生えた四本の前腕が砕けた腕部を細かくへし折り、三つ並びの口へと運んでいく。体を大きくゆすって子日を咀嚼するさまは野犬の捕食の如く。その合間に排気とばかりに歯列の隙間から噴きだす瘴気は、体内に浄化環境を備える初春であっても意識を揺らがせるほど。

 

「この、化外がッ!!」

 

 自ら怒気を噴出させ、酩酊を振り払う。初春は艤装から魚雷を引き抜くと、異形へ向かって駆け出した。狙うは黄色に爛々と輝く瞳。構造や強度に通常の『駆逐艦』と大差がないのならば、そして移動行動に移っていない今ならば、現在の武装で対応できるはず。こいつを討伐できるはず。それは、矜持から来る確信が義憤からなる慢心へと変貌した瞬間でもあった。

 

 24連装迫撃砲(ヘッジホッグ)の洗礼を受けて無傷だったこいつに、果たして銛が通るのか?

 

 灼熱に燃える義憤の渦に疑問が浮かび上がるのは、かなり遅れてからであった。先と同じく異形の周囲を旋回し、すれ違いざまに眼穿へと魚雷を叩き込む。その戦法は届かず、先端に付随していた銛は脆くもへし折れた。蛇腹状に眼球を保護したのは瞼だったのだろうか、外部装甲と同質の瞼を貫く事はできなかった。

 

 打突に失敗し、走行体勢を崩した初春を支えたのは、異形から伸びる前腕。四本の骨ばった指で腹を抱きかかえられたと思えば、ぐしゃりと腰部を挽き潰された。続いて腰部コネクタで接続されている艤装もまた、力任せに引き剥がされる。背骨(スパイン)が艤装との神経系の接続を行う機構などおかまいなしに。

 

「げぁっ……痛ッ、痛ァァァァッ!!

 

 痛覚を遮断されぬまま、初春は破損した玩具のように四本の腕で弄ばれ、身を焼く激痛に晒される。腰部を切開され、骨盤を生きたまま引き抜かれんとする痛みだった。 

 

「やめ、やめッ……ああああッ、ぞれっ、とれ、とれ」

 

 中央に配置された口が舌なめずりをすると、腔内がよりはっきり確認する事ができた。糸ひく粘液が前歯を伝い、紐のような寄生虫がずるずる蠢き、汚臭が充満する口内のその奥。身体損壊のアラートで紅く染ま

る視界の中で初春が見たのはヒトの顔だった。両の眼は血管を思わせる管が数十数百も突きこまれ、その小さな口は常に半開き。舌を突出しびくびく喘いでいた。海藻のごとく垂れ下がる頭髪には、藤壺を始めとした貝類が無数にこびりついていたものの、初春の見知った象牙色だった。

 

「しまかぜ」

 

 声ならぬ声を挙げるに至らず、初春の意識はそこで途切れた。

 

 

 

「ウサギみてーなカッコしやがってよ。なめてんのかてめえ」

 

 新型『駆逐艦』と相対する天龍は、吐き捨てるように言った。

 

「てめえが握って離さねえから、下半身斬り飛ばさなきゃなんなくなったじゃあねーか。どうしてくれんだよ」

 

 天龍による近接戦闘長刀による一太刀もまた、初春を捕らえる前脚を斬り飛ばすには至らなかった。末端組織にまで柔軟性と硬度を併せ持つこの異形に対して、旗艦である天龍がくだした判断は撤退だった。そうと決まればやる事はひとつだ。一人でも多く、鎮守府へと帰すほかはない。

 

 予備の長刀を抜いた天龍が切断したのは、初春の腰部。主核(コア)を宿した半身は、既に利根率いる部隊が確保していた。

 

「聞いちゃいねえか。おめえは前からそうだったよなあ、島風。オレ達の言う事なんか聞きゃしなかった」

 

 馬耳東風、異形は天龍から目を背けて、子日の残骸を貪るのに忙しいようだった。

 

 レーダーに表示される反応は二つ。ひとつは二時の方向、利根と龍田が取りこぼした『重巡洋艦』が上半身を吹き飛ばされ活動を停止、もうひとつは眼前のこの新型だ。

 

「クソタレが」

 

 負け惜しみじみた罵倒もまた、異形には届かなかった。奥歯を噛みながら、踵を返す事しかできなかった。

 

「さすがに無理だぜ……『提督』抜きでこれ以上やんのはよ」

 

 

 

 天龍のレーダーが反応を示したのは、戦闘海域から遠く鎮守府の遠景が目視で確認できるようになってからだった。ここまで離れていながら取りこぼしが今更反応するはずがない、水棲生物の誤認か何かと不審がる天龍に突き付けられた事実は、数秒呼吸を忘れさせるに足るものだった。

 

 マーカーと共に浮かび上がったのは、とある部隊員のパーソナルデータ。

 

 バイタルサインに添えられた顔写真に、天龍は覚えがあった。先日の敗走で殿を務め、そして散った『戦艦』のうち一隻。忘れる筈もない、彼女ほど強靭な義体など天龍は知らなかった。誰より強く、誰より雄々しかった彼女の事をもちろん尊敬していたし、また拙いながら愛しくも想っていた。

 

「長門……なのか?」

 

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