空の芸術   作:ぬこさく


原作:東方Project
タグ:オリ主 東方Project
紅魔館の地下に閉じ込められているフランドール。外に出てみたいと考えていたその矢先、一人の少女が現れる。

初投稿なので至らない点などございますが、温かい目で見てくれると嬉しいです。

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空の芸術

漆黒の闇と静寂に包まれたこの場所を、私は何百年も見てきている。

周りを見ると分厚いコンクリートが四方を囲んでいるのと、いかにも重たそうな鉄の扉が見えるだけ。

ここは牢屋なのだ、私を閉じ込めておくための。

 

 

                   空の芸術

 

 

 

 

「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」

 

それが私の能力。

自分ではわからないけれど、私が触れるもの全てが壊れてしまう事を見たお姉さまがこう名付けたようだ。

 

それからお姉さまは、あまりにも危険すぎる能力を持ってしまった私を、この地下へ幽閉することを決めた。

 

「たまには外に出してあげるから」

お姉さまはそう言ってたけど、全然来てくれやしない。

 

来てくれるのは食事を持ってくる妖精メイドと洗濯物を取りに来る咲夜ぐらいだ。

 

咲夜は不自由が無いかとよく聞いてくれるけれど、一度、外に出たいと言ったら

「すみません、お嬢様のご命令に背くことになるので…。」

と、顔を曇らせた。

 

まぁ、無理を承知の上で言ったのだから、当然の結果だろう。少し残念ではあったけれど。

紅魔館のメイド長とはいえ、主、お姉さま、レミリア・スカーレットの命令に背くことは即ち、裏切り行為に値するということを咲夜自身が一番良く知っているはずだ。

 

それにお姉さまに対する忠誠心は並大抵の物じゃないことを私も薄々感ずいている。

とはいえ、そんな我が侭に少しでも同情してくれる咲夜が好きだった。

(もっと色んな人間と会ってみたいな…。)

いつしか私は人間に興味を持つようになっていた。

 

 

 

 

「あーあ、外に出たいなぁ…」

そう言いながらぴょんとベッドに身体を預ける。

ギシッ…と軋んだ音が部屋に響き渡った。

「はぁ…。」

深い溜息を付くと、天井を見つめながら両足をパタパタ動かす。

 

もう何百年外に出ていないだろうか…。頭の中で数えてみるも、途中で辞めた。

 

数えるのも億劫になるぐらいの年数をここで暮らしている

それに幽閉されていて光が差し込まないから今が朝なのか夜なのかも分からない。

 

けれど唯一分かるのは、眠くなる時は朝、食事を持ってくる時は夜、ということぐらいだ。

吸血鬼故の体内時計って感じ。

来る日も来る日も、何も出来ずに過ごす日々。私の鬱憤はそれはもう相当積もっている。

いっそこの壁を破壊してしまおうか…。でもそんな事をしたらお姉さまにきっと怒られる。

第一、私が外に出れたとして、吸血鬼の私を誰が相手をしてくれるだろうか。

みんな怖くて逃げていく。きっとそうに違いない…。

そんな絶望感が私の頭の中で巡り、巡っていく。

悲しみに包まれながら、いつのまにか私は深い眠りに落ちていた…。

 

 

 

 

 

ガチャ…ガチャガチャ…ガンガンガン…

誰かが鍵を開けようとしてるような音が聞こえる…。

時たま分厚い扉の向こうから微かに声が聞こえた。

(…っれーっかしなー…鍵……)

まぁ十中八九、咲夜か妖精メイドだろう。

それにしても珍しく鍵を開けるのに随分苦労しているみたいだけれど、私はあまり気にすることもしなかった。

んん…と寝返りを打つと私はまた、まどろみの中に落ちていった。

 

 

 

 

「ドゴォォオン!!」

まるで大砲で撃たれたかのような轟音で私は跳ね起きた。

「え…一体何…?」

モウモウと煙が立ち込める中、1人の人らしき影が目に映った。

しばらくしてその影の姿がはっきり見えてきた。

見ると三角の黒い帽子に黒いエプロンのような服、そして右手に箒を持った長い金髪の少女がそこに立っていた。

「あちゃー、鍵だけ吹き飛ばすつもりが扉ごと吹っ飛んじゃったぜ、まぁいいか」

そう言うと、面食らって見上げている私に、とニカっと笑いかけた。

「よう、お前を連れ出しに来たぜ」

 

 

 

 

「ねぇ…。貴女は誰なの?」

ある程度時間も過ぎ、ようやく落ち着いてきた私は、その少女に当然の疑問を投げかける。

いきなりこんな事をしてくる奴なんてきっと私と同じ種族か妖怪の一味だろう。

しかし彼女には禍々しい羽も生えてないし妖怪が持つ独特のオーラも発していなかった。

「お、私か?私は、霧雨魔理沙だぜ!」

傲慢かつ男勝りな口調でそう言い放った少女は、キリサメマリサというらしい。

「キリサメマリサ…もしかしてあの異変があった時に来た人間?」

 

1年ほど前、お姉さまが紅い霧を出して日光を遮断する異変を起こした。

その時二人の人間がこの異変を解決しに紅魔館にやってきた。

結局負けちゃったけれど、人間という人種の底力に私もお姉さまも、驚かされたのを覚えている。

 

私がそう尋ねると、さっきまで少し曇り気味だった魔理沙の表情が、太陽のように明るくなった。

「そうそう!!ちゃんと覚えててくれてたんだな~!嬉しいぜ」

満面の笑みで私の頭をくしゃくしゃと撫でる。なんだか嬉しいような恥ずかしいようなもどかしい気持ちに私は包まれた。

 

 

 

 

「おし、感動の再会も済んだし、そろそろ行こうぜ」

そう言って魔理沙は立ち上がる。

「行くってどこへ?それと私、ここから出ると怒られちゃうんだけど…。それに魔理沙だって…」

期待と不安が織り交ざった表情で魔理沙に問いかける。

「見せたいものがあるんだ。あーそれからその辺は心配無用だぜ、たぶんな」

本当に大丈夫なのかな?と不安に駆られつつ、私の心の中は不安と期待の天秤でグラグラ揺れていた。

そんな私の心中を察したのか、魔理沙が悪戯気味に囁く。

「言っておくが、でもこんな絶好の機会二度とあるかわからないぜ?それを棒に振るのは勿体無い気もするがな。でも行きたくないってなら仕方ないな、うん」

その言葉に、私の心の天秤が大きく揺るいだ。出たい、ここらから出て外に出てみたい。

例え叱られたってもいい、ここから出たい!強い本能が私の身体を動かす。

「出たい!魔理沙、ここから連れてって!」

その言葉に魔理沙は待っていましたと言わんばかりの笑顔を浮かべる。

「よっし、そうとなれば善は急げだ。」

私は魔理沙に手を引かれながら地下牢を抜け、出口へと向かう。

 

 

 

 

今日の紅魔館は不気味なぐらい静かだった。吸血鬼の活動時間である夜は、咲夜や妖精メイド達が慌しく館を徘徊しているはずなのに、まるで誰も居なくなってしまったぐらいの静寂を纏っている。

そんなことはおかまいなしのよう、に魔理沙は出口へ向かっていく。歩いているうちに、私は少し、気になったことがあった。

「ねぇ、魔理沙はここによく来るの?」

その言葉に魔理沙が振り向く。手は未だに繋いだままだ。

「ああ、よくここに本を借りにくるからな。大体の道は覚えてるぜ」

読心術でもあるのだろうか。私が一番気になっていることをズバリ言い当てた。

そう、この紅魔館はかなり複雑に出来ている。よく訪れる人でも迷うとよく言うのに、魔理沙はまるで紅魔館の地理を知り尽くしているかのように、真っ直ぐと出口まで進んでいる。

それでも少し疑問が残った。図書館に行くだけだとしたら、本当にここまで道を覚えられるだろうか?まるで他の誰かが魔理沙を導いている…。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

もうどのぐらい歩いただろうか。正面の扉に到着した。

凛々しく聳え立つその大きな扉。私がこの扉を見るのは何年振りになるのだろう…。

「ほら、ボケーっとしてないでお前も手伝ってくれよ。どうせなら一緒に開けようぜ?」

そう言うと魔理沙は分厚い扉の片方に手を当てた。それを見て私ももう片方の扉に手を当てる。

手の平越しにひんやりとした冷たい感触が伝わってくる。

「よし、開けるぞー。せーの!」

魔理沙の合図と同時に、手の力を入れる。ギギィ…と鈍い音を響かせながらゆっくりと扉が開く。

 

 

 

 

夜の外の世界は思っていたよりも静かだった。聞こえてくるのは風が木の葉を揺らす「ザザァ…」という風が鳴らす音。

(気持ちいい…)

その風に当たりながら私は何百年振りかという、その心地よい気分を目を閉じて、全身で感じていた。ゆっくり目を開けると、真っ直ぐ伸びた道の周りを、様々な種類の花が並んでいた。月光に照らされた花々はとても綺麗で優雅だった。よく見ると、その花々は全てキッチリと測ったかのように並んでいて、一輪の花も枯れていない。咲夜が毎日手入れをしているのが目にとって分かる。

そして門に向かって私は一歩踏み出そうとした。

「ちょーっと待ったぁ!」

先ほどまでずっと黙っていた魔理沙がいきなり声を掛ける。

「え?何?どうしたの?」

「ふふふ…まぁここから先は私に任せな。」

戸惑っている私に魔理沙が帽子を脱ぎ、私に深く被せる。視界が一気に遮られた。

「わっ…これじゃ何も見えないよ?」

「それでいいんだよ。その帽子預けたからな、落とすんじゃないぞ」

そして箒に跨ると私に後ろに乗るように促した。

「いいか?良いって言うまで上を向くなよ?」

「わ、わかった」

言われるがままに魔理沙の箒の後ろに跨る。

「よっし、じゃぁいくぜー!」

そう言うとすぐさま、魔理沙と私は急上昇した。帽子を落とさないようにするのと魔理沙にしがみつくことで私は上を見る余裕なんて無かった。そもそも上に何があるのだろう。そんな事を考えている間にも、魔理沙は上昇し続ける。地上がどんどん遠のいていくのが見える。紅魔館がもう見えなくなるぐらいまでの高さまで急上昇していった。

 

 

 

 

「本当にこれでよかったのですか?」

一途始終を見ていた咲夜はある少女に尋ねる。

「いいのよ、これで」

少女はそれだけ言うと姿を消した。

「そうですか…」

少し悲しい表情をした咲夜は紅魔館の窓からしばらく二人を見つめていた。

 

 

 

 

「よし、このぐらいの高さでいいか。もう上を向いていいぞ」

そう言われ、帽子を落とさないように片手で抑えながら、私はおそるおそる上を覗いた。

「わぁ……」

そこには私の知らない世界があった。

自分が物凄くちっぽけに感じる程の壮大な空の世界。

大きな月と沢山の星がまるで命を燃やすかのように力強く、かつ繊細に光を放っていた。

「凄く…綺麗……」

すっかり見とれている私を見て、魔理沙は満足そうに頷いた。

「だろう?これをお前に見せたかったんだ。私も初めてこれを見たときは、圧巻だったな」

そう言うと魔理沙は星空に手をいっぱいに伸ばす。

「掴めそうだよな。この空の芸術を」

そしてぎゅっと手を握り締める。手を開いたその中に勿論星があるはずもなかった。けれど、本当に掴めそうな、そんな気がした…。

私も真似しようとしたら、魔理沙に止められた。

「おいおい、私の楽しみを壊さないでくれよな?」

皮肉っぽく感じたが、顔には笑みが浮かんでいた。つられて私も笑ってしまった。勿論、こんなに綺麗な世界を壊したくない。出来ることなら、魔理沙とずっと、ずっと…見ていたい。

 

 

 

 

それから、色んな所を飛んで回った。その最中、魔理沙が意外な事を聞いてきた。

「なぁ、お前はレミリアの事嫌いなのか?」

あまりにも予想していなかった事を聞かれたので、私は物凄く戸惑った。それに今は状況が状況だけに、お姉さまの事はあまり考えたくなくて、言葉を濁した。

「……よく分かんない」

あの檻に閉じ込められててから、私の姉に対する不満は、それはもう、うなぎ上りだった。

だから「姉が好きか?」と聞かれて「好きです」とは言えそうにない。

「そうか…。私はレミリアはフランのこと、とても大事にしてると思うぜ?」

私はその言葉にブンブンと頭を振った。

「それは無いよ。だってお姉さまったら、全然私の事構ってくれないんだもん」

「ははは…なんとゆうか、レミリアらしいな」

「らしいって、どうゆうこと?」

「あいつは紅魔館の主であり、誇り高い、吸血鬼の末裔だ。それはもうプライドの塊みたいなもんさ。お前と遊びたくても、自分で閉じ込めた妹にどんな顔して会いに行けばいいのかわかんないのさ」

「うーん…。よく分かんないけど、照れてるってこと?」

私の言葉に魔理沙がふふっと笑う

「まぁ、簡単に言えばそうなるかもな」

そうなんだ…。私は一度もそんな風に感じたことは無かったけれど、他の人から見るとお姉さまはそう映っているのか。

「それにな、お互い血が繋がっている存在っていうのは、意識してないと思っていても、意識しちゃっているもんなのさ」

「そんなもんなの?」

「そんなもんだぜ」

そう言うと魔理沙は振り返ってニカッっと笑った。なんだろう…その笑顔を見ると、心の中でずっと溜まっていた物が、スーッと晴れていく気がした。

 

 

 

 

鳥のさえずりが朝を伝えるかのように、段々と幻想郷の夜が明けてくるのが分かる。

吸血鬼の私は日光を浴びることが出来ない。

だからこの楽しい時間ももうすぐ終わってしまう。

それに帰って抜け出したことがお姉さまに知れたら、きっと怒られるだろう…。

「よっし、夜も明けてきたしそろそろ帰るか」

魔理沙のその言葉がより現実感を増した。

このままずっと一緒にいたいという僅かな希望すら、もう掻き消されてしまった。

(ああ、またあの地下に戻されるんだな…。)

それにもう魔理沙に会えないかもしれない…。私は落ち込んでる様を隠せなかった。

 

「そんなに落ち込むなよ。吸血鬼は日光が天敵なのは知ってるぜ?」

「ううん、そうじゃなくて…もう魔理沙と会えなくうなっちゃうかもしれないし

それに帰ったら魔理沙も怒られちゃうかもだよ?」

「ははっ、なーんだそんなことか。それなら心配後無用だ。」

そういうと紅魔館の前に降り立つと、立っている私の目線に、少し背の高い魔理沙が屈み、目線を合わせる。

「3つほど、私からの約束がある」

「約束?」

「ああ。約束とは言っても、私のお願いみたいなものだがな。守れるか?」

先ほどまでと一変して真剣な表情になった魔理沙に少し戸惑ったが、私の心は決まっていた。

「うん、私…絶対に守るよ」

私の強い決意に安心したのか、魔理沙の顔が先ほどまでの笑顔に戻った。この人の笑顔が見れるなら、私はどんな難題でも守れる気がする。

 

「じゃぁ1つ、私が生きている限り、終わりなんてない。必ずまた会いに来る。だから希望を失うな。」

「2つ、この件に関しては私が全責任を負う。だからフラン、お前は何も心配するな」

「3つ、姉のこと、もっと好きになってやれ」

「これで全部だ。簡単だろう?」

「うん…分かった」

私は嬉しかったのと同時に、少し疑問を抱いた。

3つ目の約束…。どうして魔理沙はここまでお姉さまのことを意識させるのだろう。

けれど、魔理沙がここまで言うのならば、私はお姉さまのことを少しでも好きになれるように、努力してみようと思った。

 

 

 

 

「よし、じゃぁ最後の仕上げだ」

魔理沙が手を差し出す。小指以外の指を閉じている不思議な形だった。その小指が真っ直ぐ私に向いている。

「外の世界のおまじないでな、約束を守る形としてお互いの小指を絡ませて、ある言葉を唱えるんだ。」

「ある言葉?」

私も同じように小指だけを出し、魔理沙の指に絡ませる。

「えーと…なんだったっけな。指切り痛いでも針はもっと痛い。だったかな…?」

「意味わかんないよ、それ」

「ちょっと待ってろ、今思い出す…」

そう言うと、うーんと唸る魔理沙。しばらく黙り込んでしまった。

その時、背後から透き通るような聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「それを言うなら、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます。ね」

驚いて振り向くと、そこには腕組みをして立っている咲夜の姿があった。

表情をあまり露にしない彼女からは、あまり感情が読み取れないが、きっと怒っているに違いないだろう。

「あ、さ、咲夜…これは……」

あわてふためく私と対照的に、魔理沙はこの緊急事態にまるで動じなかった。

「おー!そうだったそうだった。ありがとな、咲夜」

「お礼はいいから早く済ませてくれないかしら?もうそろそろ日が昇るのだけれど?」

困ったように話す咲夜の表情はあまり怒っている感じは不思議としなかった。

「よし、じゃぁ一緒に言うぞ」

「うん!」

「「ゆーびきーりげんまん嘘ついたら針千本のーます!」」

 

 

 

 

絡めた小指を上下に振りながら約束の言葉を交わす。終わったのかな?と思ったけれど、なぜか魔理沙は固まっていた。先程のように何か考えているようだ。それを見かねた咲夜が、はぁ…と溜息を付く。

「指きった。で指を離すのよ」

それを聞いて、さっきまで石のように固まっていた魔理沙が息を吹き返した。

「流石だな。お前も主に忠誠を誓うときによくやるのか?」

「そんな訳ないでしょ。いいから早くやる」

「そう急ぐなって。これで最後だ。いくぞフラン」

「わかった。咲夜ありがとう」

「いえ…。褒められるようなことではありません」

それでもまんざらでもないのか、咲夜の表情が少し和らぐ。

「せーの!」

「「指切った!」」

2人の指が離れ、約束の誓いが終わる。少し切ないけれど、私の心は清清しい気分に満ちていた。

きっと魔理沙も同じなんだろう。へへっと魔理沙が笑う。それにつられて私も笑う。咲夜はそんな私たちをじっと、見守っていてくれていた。

 

 

 

 

「さて、もういいかしら?」

「ん、ああ、もう大丈夫だ。」

魔理沙の言葉の意味を咲夜がどう理解したのか分からないけれど、いつものメイド長としての本来の姿に戻る。

「おかえりなさいませ、フラン様」

背筋を伸ばし、両手をお腹に当て、深くお辞儀をして私を迎える。

メイドの鏡とも言えるいつもの咲夜だ。

けれど館を飛び出して行ったというのに、何のお咎めも無いのが私は少し不気味だった。

「え、えっと…」

どうしていいかわからず魔理沙の方を向くと、小声で何か言っている。

(約束その2…だぜ)

うん、と私は頷き、堂々と私は言う。

「咲夜、ただいま!」

 

 

 

 

その言葉を聞いて、咲夜はようやく顔を上げる。

「今日はもうすぐ朝ですが、珍しくお嬢様がフラン様とのティータイムをご要望なので参りましょう。

魔理沙、貴女はどうする?」

「私は遠慮しとくぜ。久しぶりに夜遊びしたから眠くてな」

「そう、じゃぁアレ、返してくれる?」

「ん、ああアレか…そういや結局使わなかったな」

そう言うと、ポケットの中をゴソゴソと漁り、鍵の束のような物を咲夜に渡す。

「ドアを破壊した件…今回は貸しにしておくわ」

「そりゃ助かる。次はもっと頑丈な扉にしておくんだな」

「遠慮しておくわ。頼むから普通に開けて頂戴」

「考えてみるぜ。それじゃな」

「ああ、ちょっと待って、ある人から伝言があったわ…。「ありがとう」だそうよ」

「そうか、あいつも随分素直になったもんだな。それを聞けただけで満足だぜ」

そう言うと箒に跨り、少し浮上する。

魔理沙が行ってしまう。私はいてもたってもいられなくなり、魔理沙に声を掛ける。

「魔理沙!約束…約束だよ!」

「ああ、約束だぜ!」

それだけ言うと、くるりと方向転換すると見るも止まらぬ速さで魔理沙は飛んでいった。

どんどん小さくなる魔理沙を私はずっと見続けていた…。

 

 

 

 

「咲夜ー?」

一緒に館の中を歩きながら私は話しかける。

「はい、なんでしょうか?」

「今回の件って咲夜が魔理沙に頼んだの?」

私はずっと気にかかっていた。

魔理沙が地下牢の鍵を持っていたのも咲夜が渡したのだろうし、帰ってきても怒らない様子から咲夜がこの一件に絡んでることは容易に想像できた。

「いえ、私ではありません」

キッパリと咲夜は断言した。咲夜じゃないなら、誰がこんなこと頼むのだろう…。

「じゃぁ魔理沙が頼みに来たんだ?」

「いえ、それも違います」

むぅ…じゃぁ誰が一体こんなことを…。また間違ったら面倒なので今度は質問を変えてみた。

「じゃぁ誰が犯人なのさー?」

その質問にも咲夜はやはり顔色一つ変えない。

「申し訳ありませんが、私の口からはそれは言うことが出来ません。」

結局犯人が分からないまま、ダイニングルームへ着く。

そこには容姿はあまり私と変わらないけど私には分からない、私と違う「何か」を持っている姉、レミリアスカーレットの姿があった。私はお姉さまと対面するように席に座る。

足を組み、鋭い眼光で私を見つめるお姉さまは、姉としての威厳と風格を感じる。

「それでは、すぐに紅茶をお持ちしますね」

そう言うと咲夜はキッチンの方に向かってしまった。

数年振りの再会なのと、家出してしまった事もあって、今お姉さまと二人きりにされてしまうのは正直気まずい…。

 

 

 

 

「どう?外は楽しかった?」

いきなりの質問に私は少し面食らってしまう。どんな返答していいか迷っていたとき、魔理沙との約束を思い出した。

(この件に関しては私が全責任を負う。だからフラン、お前は何も心配するな)

そして気にかかった、もう一つの言葉…

(…姉のこと、もっと好きになってやれ)

素直な感想を言おうと思った。今までなら閉じ込めてられていた分、姉に対する感情はお世辞にも良くは無い。

けれど、その感情をぶつけたところで、お姉さまも私もいい気分にはならないだろう。

でもお姉さまだって、もともと私を閉じ込めたくて閉じ込めた訳じゃないはずかもしれない。

出来ることならば、今みたいにこうやって一緒にお話出来ることを望んでいたかもしれない。

「お姉さま…」

「ん?」

「魔理沙を呼んだの、お姉さまでしょ?」

「どうしてそう思うのかしら?」

「んー…なんとなくだけど…」

「そう…。それで、私の質問にまだ答えてないのだけれど?」

「あ、うん…。あのね、とっても…とっても楽しかった!」

「あら、それはよかったわね」

お姉さまは少しだけ微笑む素振りを見せたが、すぐいつもの表情に戻る。

それから私は今日の出来事のことを話した。

魔理沙との出会い、久しぶりの外の空気、そしてあの綺麗な星空のこと、とにかく沢山話した。

お姉さまはずっと黙って私の話を聞いてくれた。

 

 

 

 

私はもう確信していた。今回の件はお姉さまなりに私に対する愛情表現の一つだったのだろうと。

魔理沙が言っていたあの言葉が、今やっと理解出来た気がする。

不器用で、素直じゃなくて、何を考えているか分からないけれど、それでも私のことをこんなにも考えてくれる。

私にとって、たった一人の姉なんだ。

「あのね、お姉さま…」

「ん?」

「私、お姉さまのこと、大好きだよ」

「なっ…!」

その言葉に、お姉さまの顔が一気に紅潮していく。

「お姉さまは私の事、好き?」

先ほどまで真っ直ぐ私を見ていた視線が下を向く。顔がさらに赤みを増している。

「そ、それは…好きに決まってるじゃない。私の妹なんだから……」

目を瞑り、腕組みをしながら精一杯言ったつもりだろうけど、明らかに動揺しているのが分かる。

「あはは、お姉さま照れてる~」

「う…うるさいわね……」

その時、扉が開き、紅茶のポットを載せた台車と一緒に、咲夜が入ってくる。

ポットから紅茶をカップに注ぎ、私とお姉さまの前に置く。

「お待たせしました。今日の紅茶はダージリンで御座います…あら?」

咲夜は早くもお姉さまの変化に気付いたようだ。

「お嬢様、お顔が真っ赤ですわ。熱でもあるのですか?」

そう言うと、手のひらをお姉さまの額に当てる。お姉さまは何も言えずに、されるがまま下を向いている。

「熱は無いようですね…。もしかすると熱中症?最近暑いですから、気を付けて下さいね」

明らかに的外れで、真剣な咲夜の発言に、私は笑ってしまった。

「うー…あんた達ねぇ…」

鬱憤を晴らすかのように一気に紅茶を飲み干そうとするお姉さま。けれどそれが致命傷となった。

「あっちゅい!!」

「あらあら、そんなに一気に飲もうとするからですよ。大丈夫ですか?」

「あはははは、お姉さま、子供みたいだよ」

「ううー…咲夜ぁ…。」

「はいはい、ただ今氷をお持ちしますね」

 

 

 

 

楽しかった夜も明け、私はまた地下牢に戻された。

相変わらず殺伐としたこの部屋で私は生きていく。

ベッドに仰向けになりながら、気が付くと今日一日の事を振り返っていた。

(色々な出来事があったなぁ…)

前までは希望の光すらなくて、ずっと闇の中を彷徨い続けてた。

でも、今日は違う。眩いほどの光が私を包み込み、生きる希望を教えてくれた。

 

(また、魔理沙やお姉さまと一緒に…お話し…したいな……)

その日は沢山の事があっただけに、私の眠気は限界まで達していた。

寝てしまうと、全てが終わってしまう。

そんな気がしたけれど、きっとまた逢える。

魔理沙とのあの約束を果たせる日をまた願って私は寝ることにした。

(ありがとう、お姉さま…)

そう思いながら、私は深い眠りに付いた…。

 


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