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願わくば、この物語が良い暇潰しとなりますよう――。
第1話
これは、劣等生の兄と優等生の妹の物語――のはずだった。
◆ ◆ ◆
何が起きたのかはさっぱりわからないが、何かきっと超常現象が起きたのだろう。
俺は交通事故で18年にも及ぶ人生に幕を閉じ、そして新たな人生の扉を開いた。
「魔法科高校の劣等生」。
近未来、超能力が魔法として体系化された時代に、劣等生の兄と優等生の妹が魔法科高校に入学するところから始まる小説だ。
実は兄は全然劣等生じゃないだろうとかそんなツッコミが多発するあれでは、彼らは2人兄妹だった。
要するに、実は弟がいたとか深雪は双子だったとか、そんな話はなかった筈なのだ。
はずなのだが、どうやら俺はその存在しないはずの双子の弟「司波 和也」として転生してしまったらしいのだ。
初めの頃は転生したことに多いに喜び、小さいから努力して他の奴らを周回遅れにしてやるぜ!とやる気にみなぎっていたのだ。
しかし、ある時。
姉の名前が「深雪」、やたらと若く見える母親の名前が「深夜」、母親付きのメイドの名前が「穂波」だと知った時、俺は。
えっ、じゃあここは「魔法科高校の劣等生」の中で、俺は四葉家に生まれたってことか?
いや、でも深雪は双子ではなかったし、じゃあ俺は、あれ?「司波 和也」なんて居たっけ?
それによりによって四葉家に生まれちゃったのか?
なんて混乱していたが、今ではかなり落ち着いた。
達也――兄さんと違って[分解]や[再成]のような神がかった魔法はないが普通に深雪――姉さんと同等レベルだし、容姿もまぁそこそこだから生まれた体には不満はないのだが。
四葉本家に兄さんのように特異でない普通の男子の魔法師が生まれた為に、俺が最有力次期当主候補になってしまったのは、本当につらい。
誰か代わってくれないかなぁ…。
◆ ◆ ◆
次期当主として、俺は幼い頃より英才教育を受けてきた。
それは通常の勉強、つまり算数や理科などもやったが、それより重点をおいて行われたのが魔法の教育だった。
どうやら俺は姉さんとは正反対に加速魔法が得意らしい。
四葉による世界最先端の魔法教育を受けてきた上、自分でも幼い頃から日常的に使うようにして居た為、自画自賛になるが12歳にして既に一般的な魔法師の水準を大きく上回っている。
それは俺と幼い頃から一緒に過ごしていた姉さんも同様で、俺がいつも魔法を使った遊びをしていて、それに付き合っていた為に既に普通を大きく逸脱している。
一方兄さんはというと、原作通り妹のガーディアンをやっている。
何故俺につかないかというと、正直護衛がいらない程度には強いからだ。
俺が逃げることすら出来ずに死ぬほどの傷を負うとなると、言い方は悪いが多分ガーディアンなど肉の盾にしかならない。
そもそも大抵は[領域干渉]で防げる。
防げないような人は十師族や戦略級魔法師レベルだし、それならやっぱりガーディアンは意味ない。
それともう一つ、多分こちらの方が大きいのだが、そもそも俺と姉さんは殆ど一緒にいる。
わざわざ2人分はいらないということなのだろう。
そしてその兄さんと、俺は今組手をやっていた。
◆ ◆ ◆
自然体で待つ兄さんに対し、俺は自分から接近する。
カウンターを入れようと構える兄さんの目の前で、少しだけ加速する。
タイミングを外してやろうということなのだが、組手ももう幾度となくやり、引っかかってくれたのは初めの何回かだけだった。
全く、どういう反射神経してるんだか。
魔法についてだが、兄さんが使えないから最初は無しでやろうと思ったんだが、兄さんがそれでは練習にならないというのでありありでやっている。
但し威力の高すぎるものは暗黙の了解でなしになっている。
加速した俺に対してタイミングを合わせてカウンターを決めようという兄さんの目の前で、俺は今度は一瞬急に減速した。
兄さんの目が見開かれ、目の前を手が通り過ぎて行く。
そこでもう一度加速し、腹に綺麗に一撃を決めた。
決めたのだが、主に魔法に時間を割いている俺や深雪と違って兄さんは体術や筋トレに時間を割いている。
だからなのか、鍛えられた腹筋は岩のように硬く、却ってこっちがダメージを受けたようにすら感じる。
その上咄嗟に後ろに飛んだからあまり衝撃は伝わっていないようだ。
「今のは上手くやられたよ。もしかして、今まで加速魔法しか使ってこなかったのはこの為か?」
後ろに飛んだ後体勢を整えた兄さんが声を掛けてくる。
「それはちょっと買い被りすぎ。昨日ふと思いついただけだよ」
というか、毎日の組手でそんな伏線を張るか。
「というか兄さんこそ、今の全然効かなかったろ?」
「まぁ、鍛えてるからな」
む。
確かに俺は比較的華奢だが、それなりには鍛えているんだがなぁ。
「さて、今度は俺から行くぞ?」
その後俺は、兄さんに叩き潰された。
◆ ◆ ◆
「やっぱり兄さん強すぎだろ…」
いつものように負けた俺はいつものように不貞腐れていた。
不意をつかなきゃカウンターを喰らうし、いくら不意をついても上手く衝撃を逃がされて決定打にはならない。
なんなんだこのチート。
あれか、主人公補正とか入ってるのか。
対する兄さんは苦笑していた。
「ルールが俺に有利だからなぁ。実戦だったら多分全方位からの一斉射撃で終わりだと思うぞ?」
兄さんの[分解]は一見最強じゃないかとも思えるが、数の暴力に弱い。
一つ一つ照準を合わせなきゃいけないからね。
とはいえ生半可な威力ではいくら数を並べても[再成]される為即死級の威力を出さなければならない。
「俺でもなきゃ無理じゃん、それ…」
「あくまで和也と戦うならってこと。俺は近接戦闘は和也より上だからね。他の人だったら、普通に圧倒されて終わるさ」
げんなりする俺に兄さんは肩を竦める。
「和也なら――おっと、来たよ」
言葉を続けようとした兄さんはしかし途中で何かに気付いたのか表情を引き締めて兄からガーディアンの顔になる。
それを聞く前に俺も動き出し、部屋の端に寄せていた家具を元の場所に戻す。
ここは防音で壁も厚いから組手には最適なんだが、元々ピアノを弾く為の部屋だから家具が多いのが困る。
ああ、[
知覚系魔法[
特殊な電磁波により周囲の元素の種類や構成、熱運動、座標などを観測する魔法だ。
これにより得られた内容を脳で処理することで、どこにどんな物質がどんな状態であるかを知ることが出来る。
ただ、これら全てをとなると人間の脳では処理しきれないので、普段は温度のみ、空気分子のみ、などと用途を制限して使っている。
勿論[
だって主人公だし。
なんて馬鹿なことを考えつつ部屋を元に戻してソファに座って本を開き、兄さんはその背後にすっと立った直後にドアが開く。
「和也、お夕飯だそうですよ?」
そこから出て来たのは神秘的とすら言える超絶美少女だった。
お読みいただき、ありがとうございました。