魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第12話

「いらっしゃい、和也さん。深雪さんと達也さんは初めましてかしら」

 

沖縄から戻ってきた次の日、俺たち兄妹は四葉家本邸にいる現当主、四葉真夜に呼ばれていた。

 

「そうですね。直接お話しするのはこれが初めてかと思います」

 

姉さんはそれに答えるが、兄さんは俺たちの一歩後ろの立ち位置から動かずに一礼するのみ。

その様子に叔母上はおや、と小首を傾げるが何も言わなかった。

 

「沖縄では大変だったようね。和也さん、立派に四葉としての責任を果たしてくれたようで良かったわ」

 

「いえ、私はまだまだ勉強中の身です。それに、大亜連合を撃退できたのは兄の尽力もあったお陰ですので。自分一人の力ではありません」

 

「そうね。達也さんも良くやってくれたわ、四葉の後継者を守ってくれたこと。今後ともガーディアンとして役目に励んで下さい」

 

「承知いたしました」

 

労いの言葉を掛ける叔母上に慇懃に一礼する兄さん。

 

今度はそれを気にした素振りも見せず、次の話題に入る。

 

「ところで、達也さん。聞いたところによると、沖縄で[質量爆散(マテリアル・バースト)]を使ったそうね」

 

「は。あの状況で敵を撃退するには最善の手だと思いましたので」

 

「そうねえ、軍の上層部が敵だったあの状況では確かに最善手だったかもしれないわね。でも、そのせいで色々面倒事が起きているのも確かなのよ」

 

「叔母上、面倒事と仰いますと?」

 

あまり兄さんに話させると空気がギスギスして嫌なので、代わりに俺が割り込む。

叔母上が嫌い、というか敵として認識しているのは知ってるけど、もう少し隠そうとしようよ。

 

しかし、面倒事って……ああ、あれかな。

叔母上も俺の予想通りの言葉を紡いだ。

 

「国防軍から、達也さんを軍人として雇いたいという要請が来ているのよ。戦略級魔法師を手中に収めておきたいというのは分かるのだけれど」

 

「軍人として、ですか?しかし、兄は姉のガーディアンです。それは不可能なのでは?」

 

意外に聞こえるような口調でそう尋ねる。

ここにいる人は姉さんを除いて食えない人ばかりだから騙せているかどうかは怪しいが。

 

「私もそう言ったのだけれど、あちらも譲らなくてねえ。仕方ないのである程度妥協することにしました」

 

「妥協。つまり最終的には受け入れたのですか?」

 

「ええ。第一にガーディアンとしての責務を優先すること。達也さんのことは偽名を使った上で国家機密として厳重にセキュリティロックを掛けること。他にも色々とあるのだけれど、大きくはこの二つを条件にして了承しました。よろしいですね、達也さん?」

 

「は。ガーディアンとしての任務を優先できるのであれば、問題はありません」

 

「それで、兄の所属する部隊や使用する名前などは?」

 

「ああ、そうだったわね。名前は大黒竜也。階級は特尉と言って、これは非正規の軍人のことを表すらしいわ。所属するのは国防陸軍第101旅団、独立魔装大隊よ」

 

「……第101旅団?」

 

兄さんが疑問の声を呈す。

 

「ええ。それがどうかしたの?」

 

「私の記憶が正しければ、そんな旅団は存在しなかった筈ですが」

 

兄さん、そんなとこまで覚えてるんかい。

 

「おや、詳しいのね。ああ、そういえば体術の先生に付けた人が元陸軍だったかしら」

 

「はい。それで?」

 

「国防陸軍第101旅団というのは、沖縄での一件の後に設立されることになった旅団だそうよ。魔法装備を主兵装とした実験的な旅団で、その中でも独立魔装大隊は新開発された装備のテスト運用を行う大隊の予定と聞いているわ。この大隊のトップは貴方もよく知っている風間少佐」

 

「ご説明ありがとうございます」

 

一礼して下がる兄さんに、いいのよ、と微笑む叔母上。

 

「お話はそれだけですか?」

 

「いえ、次は貴方の件よ」

 

これで帰ろうと思ったら、まだ話があるという。

 

「私の?ああ、七草との話ですか」

 

「ええ。あちらと会う日が決まったから、その日は予定を空けておきなさい」

 

「承知しました」

 

「……少々お待ちを。和也と七草にどんな話が?」

 

一人だけ話についていけてない姉さんが、ここで待ったを掛ける。

やべ、そういえば兄さんには言ったけど姉さんには言ってなかった。

 

「あら、聞いてないの?和也さんと七草家の長女の婚約の話よ」

 

「こ、婚約ですか……!?」

 

「ええ」

 

聞いてないんだけど?と姉さんがこちらを見る。

ああ、いつぞやの極寒の笑顔がこちらへ向けられる。

怖い、超怖いから!

兄さん、後ろで笑いを堪えているんじゃなくて姉さんを宥めてくれよ!

 

俺は慌てて話を進めることにする。

 

「そ、それでですね!?七草に対してどこまで情報を開示していいのか、それをお聞きしたいのですが」

 

「あら、優秀ね。私もそれを話そうと思っていたのよ」

 

うふふ、と微笑む叔母上の目が合格と告げている。

姉さんもそちらの方に興味が向かったようで、感じていた寒気が消える。

ふぅ、良かった。

 

「そうねえ……まず、和也さんの魔法の本命の方は秘密です。それから、貴方に兄弟がいることも秘密にしておいて」

 

本命の方とはつまり[加速(アクセラレーション)]のことだろう。

 

ふむ、まあ妥当なところだろうな。

わざわざこの二人の存在を知らせる必要もあるまい。

いつまで隠せるのかは怪しいところだが。

ああ、あと一応確認しておかないと。

 

「確認ですが、今のは七草家に対して明かしたくない内容ですよね?」

 

「どういう……ああ、そうね。信頼できる、七草よりも貴方を優先してくれると判断したら話しても良いわ。但し事後報告でも良いから私に必ず言うこと」

 

「分かりました。話は以上ですか?」

 

「ええ、帰って結構よ」

 

「では、失礼します」

 

今度こそ話が済んだようなので、俺たちは四葉家本邸を後にした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「和也、ちょっと聞きたいのだけれど」

 

「ん、何?」

 

屋敷についた後。

俺は姉さんに捕まっていた。

 

「最後の会話、意味がよく分からなかったのだけれど……」

 

「ああ、あれ?ほら、俺は多分七草家の長女と結婚することになると思うんだよ。何事も無ければね?」

 

「それは分かるのだけれど……」

 

「だから、この先ずっと奥さんに隠し事したまま生きていくのって大変だし、疲れるでしょう?」

 

「……ああ、そういうこと」

 

「うん。だから、信頼できると思ったら話しても良いよってね」

 

まあ真由美さんは原作読んだ限りじゃ父親のことを嫌ってはいないまでも家のためにとかは思っていなさそうだった。

十師族の責務、とかはあったけど。

 

だから、すぐに打ち解けられるんじゃないかなあ。

俺が女性の扱いが全くもって分からないという最大の問題があるけどな。

 

「それと」

 

「ん?」

 

「わたしに七草との婚約のことを内緒にしていた件について、まだお話が終わってないわ」

 

「えっと……姉さん?その笑顔はとっても素敵だけど、何故か凄まじい寒気を感じるんだ。それと目が全然笑ってない……」

 

「さあ、おいでなさい?」

 

「ご、ごめんなさい――!!」

 

その後何があったかについては、主に俺の誇りと精神的安寧のために伏せさせてもらう。




お読みいただき、ありがとうございました。

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