魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第13話

叔母上との会談から一週間後。

俺は、お見合いの日を迎えていた。

 

「叔母上、参りました」

 

「時間通りね。では行きましょうか。葉山さん、車を表に回して頂戴」

 

「畏まりました」

 

十師族が普段プライベートで使う車は、基本的に見た目は目立たない普通の車が多い。

考えてみれば当然のことだ。

やたらと高そうな車など、そこに誰か偉い人が乗っていますよと周りに言い触らしながら進んでいるようなものだからな。

 

但し普通なのはあくまで見た目だけであって、中身は普通?何それな感じだ。

フロントガラスや窓は普通の銃弾なら何発撃ち込んでも何ともないし、耐火耐熱などとにかく外からの攻撃には恐ろしく強い。

イメージとしては、動くシェルターと思ってくれて構わない。

 

あと、ここはどうでもいいことだがシートはフカフカ空調も完璧に制御されており、おまけに砂利道を走っても中には殆ど揺れが伝わらない。

そのため車内はすこぶる快適だ。

 

運転手は四葉が専属で雇っているうちの一人で、そのドライブテクニックは映画のカーアクション顔負けの腕を持つ。

普通考えられないぐらいの高給取りらしいが、代わりに生活の全てが四葉に管理されている。

車内は殆ど無防備に近いからな。

買収されたり家族を人質に取られたりすることがないように、うちでしっかりと保護(なんきん)しているのである。

 

しかし、今日の予定に関して俺はここまで会う相手と四葉家本邸への集合時間しか知らされていないんですけど。

 

「叔母上、我々はどこへ向かっているのですか?」

 

「あら、言ってなかったかしら」

 

そう尋ねると、叔母上は楽しそうに笑って驚愕の事実を俺に告げた。

 

――七草家別邸よ、と。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

俺が復帰したのはそれから5分ほどしてようやくのことだった。

え、言葉が大袈裟なわりにすぐに復帰してんじゃないかって?

衝撃よりも、叔母上の前で無防備になっていることへの恐怖の方が上回ったからだよ。

俺が四葉に敵対しない限り、叔母上が俺を害することは無いと確信できる。

出来るのだが、怖いものは怖いのである。

 

「……叔母上。何故わざわざ、七草家の別邸にまで行かなければならないのです?これって戦争相手の国に自国の国旗を背負って単身乗り込むレベルの危険ですからね?」

 

「仕方ないじゃ無い、そうしないと会わないと言われたのだから。……全く、七草家の当主は昔からとんだ臆病者よ。あれで男なのだから笑わせてくれるわ」

 

……おう。

相変わらず弘一殿がすこぶるお嫌いのようで。

 

毒舌を吐く時って楽しそうに生き生きと言う時と吐き捨てるように言う時があるのだが、叔母上の弘一殿に対してのそれは後者なのだから、その嫌いっぷりが分かる。

 

「しかし、幾ら何でも警戒しすぎでは無いですかね。たかが、と言うのは何ですが、所詮は見合い話だというのに」

 

「ああ、警戒すること自体は分からなくもないわ」

 

「どうしてですか?」

 

「だって今日は長女を一緒に連れてくるようにと言っただけで、会う理由については全く情報を漏らしていないもの」

 

「それは警戒されますよ!」

 

まさか今回会う理由すらも教えていないことには驚いた。

それでいて娘を連れてこいと要求したのだ。

 

普通ならばここで見合い話の可能性も浮上してくるかもしれないが、相手は秘密主義の四葉であり、しかも同年代で釣り合う相手が見当たらないのだ。

辛うじて文弥ならば、といったところだが、まさか他の十師族の人間を四葉の裏を担当する黒羽家に嫁がせる訳もあるまい。

 

とすると話題が全く思い当たらない。

下手をすると娘を喰われるとか思ってるんじゃないだろうか。

まあ流石にこれは冗談だが。

 

「で、何で教えなかったんですか?教えることによって大したデメリットが生まれるとも思えませんが」

 

「そんなの、何を言われるか分からないとあの男を戦々恐々とさせるために決まっているじゃない」

 

満面の笑みでそう言う叔母上。

年をとっても変わらぬ美貌を誇る叔母上の笑顔は男なら、いや女性でも見惚れるほどの美しさを放っていたが、どうやら荒んだ俺の心には届かなかったらしい。

 

……もうやだ、この人。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

それから少しして。

俺は叔母上と共に七草家別邸にて会談の席についていた。

 

因みにここまで、誰も一言も喋っていない。

真由美さんはこのピリピリした空気に少し狼狽えているようだったが、俺を含めた他の3人は全く動じていない。

 

弘一殿は無表情だ。

その表情は俺たちが入って来た時にピクリと動いただけで、それ以降は全く微動だにしない。

 

対して俺と叔母上は笑みを浮かべていた。

それはもう、ニコニコとしていた。

 

最初に口を開いたのは、弘一殿だった。

 

「四葉殿。そちらの少年は誰か、ご紹介願えるかな?こちらとしても名前も分からないと話も出来ない」

 

その言葉に、叔母上はさも今気付いた、と言わんばかりの表情を浮かべる。

演技はうまいと思うけど、慣れているこちらからすると白々しいとしか思えないのだが。

 

「そうですねえ。じゃあ、自己紹介なさいな」

 

「は。――四葉真夜が甥、四葉和也と言います。以後、お見知り置きを」

 

ここで四葉と名乗った意図はいくつかある。

 

まず、俺は四葉家の直系であるということを強く示す為。

そして同時に、母上の正式な名字である「司波」から遠ざける為。

まあ母上の結婚に関しては秘匿されているから、それだけで辿り着くかは分からないが。

どちらにせよそれを知らない人にまで教えることもあるまい、ということだ。

 

俺は第一高校には四葉の名で入学するが、兄さんと姉さんは司波の名で入学するのだ。

そして、俺たちが兄弟だということは極秘事項。

 

その為こうして地味にアピールしているというわけである。

 

幸い二人には四葉という名がかなり強いインパクトをもたらしたらしい。

弘一殿もその表情を驚愕に染めて固まっているし、真由美さんもえっ、と口を開けて呆けている。

 

真由美さん可愛い。

 

ではなくて。

 

そんなに驚いているとは、俺たちの存在は未だ七草にはばれていなかったのか。

流石秘密主義と言われるだけあってうちの防諜は完璧みたいだ。

 

「……俄かには信じ難い話だが。まさか深夜殿にお子がいたとは」

 

「私を産んだのが体力的に精一杯だったみたいで、それ以降は一人も産まれませんでしたから」

 

嘘は言っていない。

ただ俺より前に誰か産まれたかというのは言っていないだけで。

 

弘一殿も表面上はそれを信じたように見える。

 

「そうか。……とすると用件は」

 

「ええ、ご想像の通り。和也さんとそちらの真由美さんとの婚約よ」

 

突然の婚約話にも、真由美さんは動じていないように見える。

四葉に驚きすぎたせいかもしれないが、それでもこういった話に動じないのは十師族らしいとは言える。

 

「ふむ……何故このタイミングで、しかもうちに婚約話を持ってきたのですかな?」

 

「それは、ただ単に時期が来たと思ったからというだけよ」

 

うふふ、と妖艶に笑う叔母上。

それは、これ以上は言わないということを暗に示している。

 

それはあちらにも分かったとみえて、顔を顰めて引き下がる。

 

「してこの話、受けるわよね?」

 

「……そうですなあ。娘を嫁がせる家として、四葉家は家柄的に申し分ない。よろしく頼みましょう」

 

こうして、俺と真由美さんの婚約はお互いに一言も話さないまま決定した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「では、四葉殿。次会うのは、十師族会議の時ですかな」

 

「そうね。お互い無事で会えることを願っているわ」

 

全くそうは思っていなさそうな叔母上の言葉を他所に、俺は真由美さんへと近寄る。

 

「和也くん……だったっけ。どうかしたの?」

 

真由美さんは不思議そうに首を傾げる。

 

「いえ、ただせっかくですから一言ぐらいお話ししておこうかと思いまして」

 

そして、すっと顔を耳元へ寄せて囁く。

 

「こんなに美しい女性と婚約出来て良かった。始まりこそ色気も何もないものでしたが、いずれお互いに愛し合えるような夫婦になれたらいいですね」

 

そう言って、ニコリと笑った。

真由美さんのキョトンとした顔が、言葉を理解すると同時に真っ赤に染まる。

 

今の気障な台詞は俺もだいぶ恥ずかしいが、ここで赤くなっては効果も半減だ。

正直今の顔が姉さんに匹敵するレベルで美形でなければただの痛い男なのだが、似合ってしまうから怖い。

但しイケメンに限る、って奴だ。

 

「それでは、また近いうちに会いましょう。失礼します。――叔母上、参りましょう」

 

「ふふ、そうね」

 

俺は車に乗り込みながら思うのだった。

 

叔母上や姉さん、兄さん、そして俺。

やっぱりドSは血筋だな。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「叔母上。例の件(・・・)はその後進展がありましたか?」

 

「いいえ、残念ながら。私や黒羽は随分と警戒されているようで、迂闊に動けないのよ。外堀から埋めていくので精一杯。今満足に動けているのは『シャムロック』だけね」

 

「そうですか。では、そろそろ私も動きましょうかね。兄さんも使って良いですよね?」

 

「……まあ、良いわ。ただし、便利だからといってあまり使い過ぎないのよ?潰れてしまっても、こちらに牙を剥かれても困るのだから」

 

「分かっていますよ」

 

素直じゃないですね、と和也は笑った。




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