魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第2章「入学編」開始です。


入学編
第22話


ある4月の朝。

俺は真新しい制服に袖を通していた。

 

「……よし。桜井さん、おかしいところはありませんか?」

 

「大丈夫ですよ。よくお似合いです」

 

そう言って目を細める。

 

「あんなに小さかった和也くんが、もう高校生ですか……時が過ぎるのは早いものですね」

 

昔を思い出しているのだろうか、しみじみとそんなことを言う。

 

「……どうでもいいですけど、年寄り臭いですよ」

 

「なっ!?」

 

「じゃあ俺そろそろ行くんで。では、行ってきます」

 

俺の言葉に衝撃を受けている桜井さんをよそに、俺は家を出ていった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

真由美さんの誘拐未遂があったあの年から2年。

 

俺は、国立魔法大学付属第一高校の入学式を迎えていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

門のところには、何人かの女子が談笑していた。

その中の一人に目当ての人物を見つけて、声を掛ける。

 

「真由美さん、お待たせしました」

 

「あ、和也くん!おはよう」

 

「おはようございます」

 

その後ろでは、残りの女子が面白そうに眺めていた。

 

「ほう、あの真由美が心からの笑顔を見せるとは……」

 

「珍しいこともあったものですね。会長にもようやく春が来たのでしょうか」

 

「こら、それどういう意味よ!」

 

「普段の服部君の扱いを思い出してください。まだ分かりませんか?」

 

「むむ……」

 

ぐうの音も出ない、というのは死語だが、まさにそんな感じだった。

 

「あの、真由美さん。そちらの方々をご紹介いただけませんか?」

 

「あ、ああ。そうね、紹介するわ。こっちが生徒会の会計の市原鈴音。通称リンちゃん」

 

「そう呼ぶのは会長だけでしょうに……」

 

呆れたように呟く市原先輩。

確かに、実物を見るとその渾名の似合わなさがよく分かる。

 

「それで、こっちが風紀委員長の渡辺摩利。十文字くんと並んで、うちの学校で一番強いのよ?」

 

「仮にも女の子の紹介にそれはどうなんだ。それに、お前もそこに並ぶだろうに……まあ良い。それで、君は?」

 

同じく呆れたような渡辺先輩の目がキラリと光る。

ふとその横を見ると市原先輩も同じように興味津々だった。

 

全く、女子はこういう話が好きだなあ。

と、自己紹介だったか。

 

「お初にお目にかかります。今年の新入生総代、四葉和也です。以後よろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げる。

 

二人とも少しの間固まっていたが、真由美さんが目の前で手を振ると硬直が解ける。

 

「……しかし、驚きましたね。まさか四葉家に御曹司がいたとは……」

 

「ああ……もしかしたら、敬語で話したほうが良いかい?」

 

ニヤリと笑いながらそういう渡辺先輩。

真由美さんと仲が良いという時点で俺がそういう人間ではないと分かっているだろうに。

 

「やめてください。基本的に、あくまで俺は一学生ですよ。しかし、入試の結果は見なかったんですか?」

 

同じ学校の先輩に敬語で話されるとか、すごくげんなりする。

 

しかし、入試の結果を見ていればここまで驚かないはずだったんだが。

 

「この女が今日のお楽しみと言ってな?先生方が騒いでいたから何かあるのは分かっていたが」

 

そういってアメリカ人のように大袈裟に肩を竦める渡辺先輩。

なんというか、すごく様になっていた。

 

「ああ、先生方が騒いでいたのは和也くんのことだけじゃ無いと思うわよ?」

 

渡辺先輩の言葉にそう言う真由美さん。

 

「では何なのでしょうか。これ以上驚くようなことがあるとは思えないのですが」

 

ふむ。

入試の結果で驚くことと言えば……我が兄上のことですかな。

 

果たしてその通りだったらしい。

 

「今回の入試。実技はまあ文句無しで和也くんが一位だったのだけれど。筆記試験は別の子が一位だったのよね」

 

「それがどうしたんだ?そんなことは別に珍しいことではないだろう」

 

どこが驚くポイントなのかさっぱり分からない渡辺先輩は首を傾げているが、市原先輩は答えに辿り着いたらしい。

 

「まさか、実技試験ではあまり良くない成績だったのですか?」

 

「リンちゃん、正解よ。総合成績で彼は二科生になったわ」

 

「おいおい、幾ら何でもそんな訳が……」

 

「ええ。とても不思議よね」

 

魔法の実技試験と筆記試験は密接に関係している。

 

魔法というものは科学的に体系化された今でも個人の感覚に依るところがある部分も多い。

そのため、自分で出来ないことは上手く頭でも理解出来ないのだ。

全く出来ないというわけではないが、完璧な理解は出来ない、と言うべきか。

 

だからこそ、実技試験では二科生相当の実力しか示せなかったのに筆記試験では一位を取った兄さんは分かる人には注目を浴びたわけだ。

 

「そしてもう一つ。彼の妹も今年入学しているのだけれど、こちらは総合順位が二位。それも、和也くんがいない例年ならば文句無しで総代になれるほどの成績だったわ」

 

「それはまた……何とも不思議ですね」

 

魔法の才能は遺伝で先天的に決まるといっても過言ではない。

もちろんそれだけではないが、大部分はそれで決まるのだ。

とはいえそれこそ渡辺先輩のように先祖返りとかそういうこともたまにあることではあるのだが。

 

「……長話をしてしまったわね。もうすぐリハーサルが始まるわ。そろそろ行きましょうか」

 

「はい」

 

会場の方へ移動しようとした瞬間、渡辺先輩に制止をかけられる。

 

「っと、待った!最後に一つだけ良いかい?」

 

「何でしょうか」

 

その目を見る限り、ろくなことが聞かれる気がしないのですが。

 

「君と真由美との関係だ。単刀直入に聞くが、君はそいつの彼氏なのか?」

 

「いいえ」

 

迷いのない即答。

途端につまらなそうな顔になる二人。

ついでに真由美さんもえっ、と愕然としているのだが、その表情が可愛い。

 

ではなくて。

別にそういう意味ではないので安心して欲しい。

 

 

「俺は、真由美さんの婚約者ですよ」

 

結婚を前提にしてしかも家の了解がある、というあたりが彼氏彼女とは違う。

 

そう言い切った俺に今度は渡辺先輩と市原先輩が愕然として、真由美さんは満面の笑みで俺の腕を取った。

 

「さ、行きましょ」

 

「はいはい」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「遅かったですね、会長。新入生は……そちらの男は?」

 

入学式の会場で待ち構えていた男子ーー恐らくは服部先輩ーーは敬愛する七草会長が見知らぬ男子に寄り添っているのを見て大層驚いていた。

 

というか俺が睨まれていた。

 

そんな男の子の複雑な心境に気付いているのかいないのか……多分気付いているんだろうが、真由美さんはそれをスルーして答える。

 

「ああ。こちら、わたしの婚約者の四葉和也くん」

 

「なんでその肩書きで紹介するんですか……この場面では新入生総代と言うべきでしょうに」

 

「こん……やく、しゃ?」

 

どうやら婚約者のフレーズに驚きすぎて四葉の名前すら頭に入っていないらしい。

 

「おーい、はんぞーくん?」

 

真由美さんが目の前で手を降ると我に返る。

 

真由美さんの前ということもありこれ以上の醜態を晒すわけにもいかないのだろう。

ひとまずその辺については先送りにしたらしい。

 

「……失礼。四葉和也くん、だったね?まさか十師族がこの学校に3人も集まるとは思わなかったが……まあ良い。では、まずは入学式の流れを確認しようか」

 

「はい」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「いやあ、しかしあの時の服部の顔は見物だったな」

 

「ええ。大体、会長も服部君で遊びすぎなのです。婚約者がいるのでしたら、そっちで遊べばいいでしょう」

 

「だってぇ……和也くんをからかおうとすると倍返しされるし……」

 

口を尖らせて拗ねたようにそう言う真由美さん。

どうも、いつも俺にやり込められるのが悔しいらしい。

 

「へぇ、真由美をやり込められる男が存在するとは……驚きだな」

 

「会長は全ての男の子の天敵だと思っていたのですが」

 

二人とも大層失礼なことを言う。

真由美さんが心外そうに睨むのだが、どうせさっきと同じようにあしらわれるのが分かっているのか口は出さない。

 

「これで意外と、そうでもないですよ?結構初心なところもありますし」

 

からかってみるととても面白い。

 

そう言うと。

 

「そんなことを言うのは君だけだよ」

 

「流石、会長を手玉に取るだけあってドSのようですね」

 

二人は呆れたような目で俺を見ていた。

 

「て、手玉になんて取られてないわよ!」

 

「おや、俺はてっきり真由美さんとは愛し合っていると思っていたのに……そんなのは俺の勘違いだったんですね……」

 

悲しそうにそう言って俯くと、真由美さんが慌てて叫んだ。

 

「ち、違うわよ!わたしも和也くんのことを愛してるから!」

 

その言葉を聞いてニヤリと笑う。

 

「そうですか、それは嬉しいです」

 

「え?」

 

泣き真似だと気付いていなかったのだろうか、呆然とする真由美さん。

 

「会長。いくらまだ人が少ないとはいえ、学校で愛を叫ぶのはどうかと思いますが……」

 

「……うぅ」

 

市原先輩の言葉で自分が何を言ったのかをしっかりと認識した真由美さんは、真っ赤になって俯いてしまう。

 

「ほら、結構可愛いところもあるでしょう?」

 

「……君はやはりとんでもない男だな」

 

やっぱり、呆れた視線を向けてくる2人なのであった。




お読みいただき、ありがとうございました。
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