俺は今、約束通り3-Aの授業の見学、つまり真由美さんを見に来ていた。
すると、ちょうどそこで姉さんとばったり出会う。
「おお、司波さんじゃないか」
「え?……なんだ、四葉君だったのね」
「なんだとは言いぐさだな」
一瞬物凄くうんざりした顔で振り向き、呼び止めたのが俺だということに気が付いてほっと胸を撫で下ろす姉さん。
「いや、クラスの男の子かと思ったのよ。それも、選民主義の人ばかり。いい加減うんざりしていてね……」
「それは大変だね……」
どうやら、いつの時代も男の子は男の子のようだ。
そういう俺もまあ男の子なのだが。
「ところで、ここには一人で見に来たの?」
「一応お兄様も来ているはずだから合流したいのだけれど……」
「人が多過ぎて難しい、と。了解、探すよ」
濁した後をこの状況から察し、[眼]を開く。
[加速]や[眼]のような魔法は殆ど外部から感知されない。
この人混みの中で使っても多分平気だろう。
「んー……あ、いたいた。驚いたことに一番前に陣取っているよ」
「一番前に?目立つことを嫌うお兄様らしくもない……お友達かしら」
「かもね。周りに何人か知り合いっぽい人もいるみたいだし」
そんなことを言いながら人混みを掻き分けて一番前に出る。
「お兄様!まさかこのようなところにおられるとは思いませんでした」
「ん?ああ。こいつらが前に行きたがってな。無駄な軋轢を生むだけだと言ったんだが」
そういえば兄さんとは久しぶりに会うな。
まあ姉さんもそれは同じなのだが。
「そんなんでビビっているようじゃ生きていけないわよ!」
「とまあこう言うものだからな」
如何にも気の強そうな女子ーーおそらく千葉エリカさんの台詞に、苦笑しつつ肩を竦める兄さん。
「それより深雪、そっちの人は確か入学式で面白いスピーチをしていた人だよね?四葉家の人だっけ」
千葉さんの確認口調の疑問に頷いてみせる。
「四葉和也だ、よろしく。……司波さん、みんなを紹介してくれないか?」
「ああ、それなら俺がやろう」
姉さんに頼むと、途中で兄さんが割って入ってくる。
まあ姉さんもそう何回も会った訳ではないだろうし、知っている情報は限られる。
それならばまだ兄さんの方が知っているだろうし。
「まず、俺は深雪の兄。司波達也だ」
「へえ、君があの司波達也か」
「あれ、達也くんのこと知ってるの?」
千葉さんが不思議そうに尋ねる。
が、入試の成績を見たら誰だってその名前は忘れないだろう。
「入試で理論一位の司波達也だろ?唯一俺の上にあった名前だったからな」
「ああ、なるほど。七草会長と着眼点が同じだな」
「まあ、婚約者だからね」
納得したように頷いてからからかうような口調で言われた台詞を即座に返す。
甘いな。
普段散々真由美さんをからかってるんだ、どんなネタでからかわれるかなんて大抵は想定して対応まで考えているに決まっているだろ。
「……つまらん奴だ」
「お互い様だろ」
周りに聞こえないようにボソッと呟いた兄さんに、肩を竦めながらそう答える。
「……まあいい。それで、こちらが千葉エリカ」
「はーい、よろしく」
「こっちが西城レオンハルト」
「よろしく。レオって呼んでくれ」
「そんで最後が柴田美月」
「よ、よろしくお願いします!」
「こっちこそよろしく」
と、自己紹介をしたところでどうやら授業が始まるらしい。
授業は遠隔射撃の実習。
次々と指定された的を撃ち抜いていくその姿には、まだ入学したばかりで未熟な新入生にさすが三年生と思わせるだけの実力だった。
それも、このクラスは3-A。
魔法力ではトップクラスの生徒ばかりを集めたクラスだ。
あちらこちらで感嘆の声が漏れるのも頷ける。
どうやら難易度が相当引き上げられているようで複数のミスをする人が大多数であり、一ミスですら一人もいなかった。
だが、ここにいるのは全員が魔法科高校の生徒であり、その難易度は分かっている。
寧ろ悔しがる先輩たちの記録でさえ新入生からしたら遥か上にあるものだった。
だが、それすらもある一人を引き立てる為の前座に過ぎなかった。
「次、七草真由美」
「はい」
学校で貸与される授業用のCADを両手で握り、そっと胸の前で構えるその姿はまさしく祈りを捧げる聖女のようだ。
そして、そこから生み出される結果は……。
「……パーフェクト」
「凄い……」
圧倒的実力。
これが遠隔精密射撃において10年に1人の逸材と言われる七草真由美の力である。
当の本人はその結果を当たり前のものとして受け止めているのだろう、特に何かに反応することもなく使用した道具を片付け、こちらへ歩いてくる。
「お疲れ様でした。流石ですね」
「ん?ああ、まあね。わたしの得意分野なんだから、あれぐらいはやらないと。……それで、そっちはお友達かしら?司波深雪さん、でしたっけ。随分と仲が良さそうね」
ニッコリと擬音がつきそうな笑みを浮かべる真由美さん。
ただし、目が全くと言っていいほど笑っていない。
嫉妬してくれることは嬉しいんだが、怖いです。
それを受けた姉さんは……こちらをチラリと見て微かに口の端が釣り上がった気がした。
なんか、すごく嫌な予感がする。
果たして、俺の予感は当たってしまったようだった。
「初めまして、七草会長。
姉さん!?
なんでわざわざ火に油を注ぐようなことを!?
「……へぇ」
真由美さんは、とうとう声すらも凍りつきそうなものになっていた。
恐る恐る目をやると、満面の笑みを浮かべる。
まるで花が綻ぶような笑顔に、しかし俺の本能は警鐘を鳴らしまくっていた。
これは、まずい。
こういう時は、動揺したら負けだ。
俺は努めて落ち着いた声を出す。
「真由美さん。俺にとって最高の女性は貴女一人で、それ以外の女など有象無象に過ぎませんから」
「……またそういうことを言う」
口を尖らせてこちらを睨む真由美さん。
その顔が赤くなって一時的にでも怒りが収まっているのを確認してから、言い訳というか説明をする。
「司波さんのお兄さんが二科生なんだそうです。それで、俺のスピーチに共感するところがあったと」
「そういえばそうだったわね」
どうやら完全に落ち着いたらしい。
そして司波さんの方へ向き直る。
「司波深雪さん。明日のお昼、生徒会室までいらしてくださらないかしら。何なら皆さんも一緒に」
「あ、私はいいです」
「じゃあ、私も……」
はっきりと断る千葉さんに続くように兄さんと姉さん以外の全員が遠慮すると言い、結局2人が明日のお昼に招かれることになった。
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