魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第28話

次の日の朝。

俺はある人に呼び出されて少し早めに学校にいた。

 

駅で待ち合わせして学校に行こうという真由美さんの提案を初日から断るのは大変心苦しかったし、それで少し落ち込みながらも気にしていないかのように振る舞う真由美さんは大変可愛か……まあそれはいいとして。

 

この人に呼び出されたら、流石に余程の理由でも無い限り断るわけにもいくまい。

 

「……む、来たか」

 

「おはようございます、十文字先輩。それとも、十文字殿とお呼びした方が?」

 

「基本的には先輩で構わん。だが、今は十師族としてここにいる」

 

「そうですか」

 

俺を呼び出したのは、部活連会頭にして、真由美さんや渡辺先輩と並ぶ三巨頭の一人。

そして「鉄壁」の二つ名を持つ十文字家の次期当主にして現当主代理。

十文字克人である。

 

「では改めて、初めまして。四葉家次期当主の四葉和也と申します」

 

あちらに合わせて、こちらもこの名で自己紹介をする。

 

しかし、わざわざ朝早くに一体……。

 

「本日の用件は、一体何でしょうか」

 

「……四葉家は、何を企んでいる」

 

ほう、単刀直入に来たな。

 

「特に何も。しかし、仮に企んでいることがあったとして、ここで言うとでも思いますか?」

 

俺の回答に、十文字殿は目を細める。

 

「……うちの手の者が、四葉の動きを察知した」

 

「……ほぅ、それで?」

 

思わず一瞬言葉に詰まってしまう。

うちの動きが十文字家に掴まれただと?

しかもそれが怪しまれるようなものだったと?

 

あり得ない。

叔母上がそんな失態を犯すとは思えない。

考えられるとしたらわざと知らせたということだろうが、わざわざ疑われるメリットが思い当たらない。

 

情報が足りない。

もう少し喋ってもらうことにするか。

 

十文字殿は言葉を続ける。

 

「お前が放った者が大亜連合の産業スパイと接触していたそうだな。一体どういうつもりだ」

 

……叔母上がやったにしてはどうも納得のいかないところが多過ぎると思ったら、俺の方だったか。

 

「どうもこうもありませんが……まあ国防の一端を担う十師族としての責務を果たしている、とだけお答えしておきましょうか」

 

「産業スパイに接触することがか」

 

「ええ。まあ何も手を出さずに静観していただければ、4月上旬のうちには分かっていただけるかと思います」

 

それを聞き、難しい顔で考え込む十文字殿。

 

「ご安心ください。情報の流出など万が一にもさせませんし、怪我人など一人も出す気はありませんから」

 

「……良いだろう。ただし、結果として国防に影響があった場合には十師族会議で議題にさせてもらう」

 

「ご自由に」

 

「……ああ、あともう一つ」

 

では、と一礼して十文字殿の前を辞そうとすると、引き留められる。

 

振り返って目線で問い掛けると、微かに表情が緩む。

 

「遅くなったが、入学おめでとう」

 

意外な言葉に、思わずフッと笑みがこぼれる。

政治的な話はここで終わり、ということなのだろう。

 

「ありがとうございます、十文字先輩」

 

もう一度礼をして、俺は今度こそその場を辞した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……修斗、いるんだろう」

 

「ここに」

 

誰もいないことを確認してから声を掛けると、次の瞬間には隣に修斗がいた。

 

「今回はお前たちの失態だな」

 

「ああ。まさか十文字家如きに悟られるとは思いもよらなかったが」

 

「おいおい、仮にも十師族だぞ?その言い方はどうなんだ。……とはいえ、確かに少々意外ではあるが」

 

まさかあいつらが「シャムロック」やスターズとかの一級どころ以外に気づかれるとは思ってもいなかった。

 

だがまあ今回の件。

 

他家に悟られたのは痛いといえば痛いが……まあ内容的にも相手的にも許容範囲だな。

 

こうやって正面から来てくれたことをありがたいと思おう。

他の十師族だったらそのまま痛くない腹を探られかねない。

 

しかし、こうして十文字家に察知された以上他家に対しても警戒をしておくべきか。

あと、「オーフェン」の奴らは後で訓練の内容と時間を倍にしてやろう。

 

俺はそう決心するのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

因みに、今回十文字家に動きが悟られたのはまるで図ったかのような偶然が幾つも重なり十文字にとって良い方向に働いたためである。

 

正直運が悪いとしか言いようが無い。

 

なのでその他の者には当然悟られてなどいないし、「オーフェン」には全くと言っていいほど落ち度は無いのだが。

 

そんなことなど知る由もない和也と修斗によって組まれた地獄の訓練メニューに、彼らは悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

そして、お昼である。

 

え、午前中?

特筆すべきようなことは無かったのでカット。

 

何はともあれ、みんな大好きお昼ご飯の時間である。

俺は姉さんと、途中で合流した兄さんと共に生徒会室を訪れていた。

 

「失礼します、真由美さん。二人を連れてきました」

 

「どうぞ、入って」

 

二人を連れて中に入る。

 

「えっと……二人は、お弁当は?」

 

手ぶらの二人に真由美さんが問い掛けると、兄さんが答える。

 

「ありません。学食で済ませるつもりだったので」

 

「そう。でも安心して、生徒会室には弁当のサーバーがあるから」

 

「良いんですか、それは……」

 

呆れ返る二人。

 

と、俺も手ぶらなのに気付いたらしい。

 

「あの、四葉君には聞かれなくてもよろしいのですか?」

 

「ああ、俺は大丈夫。真由美さんが作ってきてくれてるから」

 

「ちょっと待ってね……はい、和也くん」

 

「ありがとうございます」

 

ありがたく受け取って席に着くと、二人が呆れたような顔をしていた。

 

「なんと言うか……まるで夫婦みたいですね」

 

「まあ、婚約者だからね。近い将来には結婚するのだし、あながち間違ってはいないよ」

 

ですよね、と真由美さんに問い掛けると、頬を染めて照れながらも頷く。

 

「……なんだか、胸焼けでも起こしそうな空気だな……」

 

渡辺先輩が呆れた顔で呟くと、周りもウンウンと頷いていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

二人が精進の弁当を頼み、席に着いたところで本題に入る。

 

「司波深雪さん。生徒会に入っていただけますか?」

 

「……七草会長は、兄の成績をご存知でしょうか」

 

真由美さんの問いに、姉さんは問いで返す。

深雪、と兄さんが窘めるが、珍しいことに姉さんは止まらない。

 

「……え、ええ。それはもちろん理論一位、という事よね」

 

「はい。兄は私なんかよりもずっと優秀です。どうか、私の代わりに兄を生徒会に入れてくださらないでしょうか」

 

そう言って頭を下げる姉さん。

 

対する真由美さんは、心苦しそうな顔をしながらも、しかしはっきりと返答する。

 

「ごめんなさい、それは出来ないわ」

 

「……そうですか」

 

刹那。

生徒会室が極寒の冷気にでも包まれたかのような錯覚を受ける。

 

しかし真由美さんはそれを気にすることなく言葉を続けた。

 

「というか、ルール上無理なのよ」

 

「ルール上……?」

 

「ええ。生徒会役員の任命権は生徒会長にあるが、それは一科生の中から選ばなければならない。これは、学校の規則の一つとして明記してあるの。だから、達也くんを生徒会役員に選ぶことは出来ないわ」

 

「……そうですか。差し出がましいことを致しました」

 

生徒会室を覆っていた冷気が、霧散した。

 

「ううん、いいのよ。わたしも、この規則はどうにかわたしの代のうちに無くしたいと思っているから」

 

その言葉にえっ、と驚く姉さん。

その様子に苦笑する。

 

「わたしも、二科生のことをそれだけで差別するのはあまり好きではないのよ。ついでに摩利もね」

 

「ああ。だからこそ、入学式のときの和也くんのスピーチは中々痛快だったわけだが」

 

その時のことを思い出しているのだろう、笑みを浮かべる渡辺先輩。

その隣で真由美さんが頬を染めているが……一体何を思い出しているんだか。

 

「……そうだ、真由美」

 

ふと、何か面白いことでも思いついたような顔をする渡辺先輩。

 

「何よ?」

 

「そういえば、風紀委員会の生徒会枠がまだだったな?」

 

「何よ、いきなり。もう少し待ってちょうだいと言ったでしょう?」

 

「いや、そうじゃなくて。確か風紀委員は別に一科生でなければならない、という縛りは無かったはずだよな?」

 

「……摩利。ナイスよ!」

 

それだ!と言わんばかりの顔で指をさす真由美さん。

そして、俺の隣の二人に向き直る。

 

「司波達也くん。わたし、七草真由美は、生徒会長として貴方を風紀委員に推薦します」

 

「……はあ!?」

 

兄さんが驚きの声を上げるのを、珍しいことがあるものだ、と思いながら見ていた俺であった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……しかしですね」

 

突如、生徒会長である真由美さんから風紀委員への推薦を受けた兄さんは、必死の抵抗を試みていた。

 

「風紀委員ってことは、生徒を取り押さえないといけないということですよね」

 

「まぁ、そうだな」

 

「そしてそれは相手が一科生だろうが二科生だろうが関係なく、ということですよね」

 

「あのですね。俺は魔法の実技がダメだから二科生なんですが!」

 

「別に構わないよ。力比べならば私がいる。この学校で私に勝てるのは、この女か十文字会頭だけだからな」

 

「ですが……」

 

「強さにも色々ある。そうだろう?和也くん」

 

「そうですね。達也の強さがどこにあるのかは知りませんが、少なくとも体術はかなりのもののようですし」

 

「ほぅ、分かるのか?」

 

「俺も護身術程度には習いましたからね」

 

隣で兄さんボソッと嘘つけ、と呟いているのが聞こえる。

まあ確かに嘘なのだが。

 

「私が言った強さというのはそれではないのだが……まあ戦闘でも強いに越したことはないからな」

 

「それでね……(キーンコーンカーンコーン)……あら、昼休みも終わりか。続きはまた放課後に話しましょう?」

 

そう言って、真由美さんは一旦話を切った。




お読みいただき、ありがとうございました。
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