魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第30話

次の日の放課後。

俺は担当となった闘技場で、生徒会の仕事に忙殺されていた。

 

「拳法部の方は速やかに撤収してください!もう使用可能時間を過ぎてますよ!……え、何?あと5分だって?ダメです。ひとつ特別扱いしたらキリがないんですよ。……あんまり粘るようならば今年度の予算や場所の割り当てに少し細工をさせていただきますが。……そうですか、分かっていただけて良かったです。話し合いって大事ですね。次、剣道部!使用時間は準備時間も含まれているので、速やかに準備してください!新入生が待ってますよ!」

 

拳法部が撤収し、剣道部が勧誘のためのパフォーマンスを始めたことで、ようやく一息つける。

 

……ふぅ、疲れた。

 

「お疲れみたいだな」

 

と、後ろから聞き覚えのある声が掛かる。

 

「ん?ああ、達也……と、千葉さんか」

 

「別にエリカで良いのに」

 

「災いの種は予め取り除いておく主義なんだ」

 

千葉さんの言葉に真顔で答えると、堪えきれずに思わず笑ってしまっていた。

 

「アハハ、愛し合ってるねぇ」

 

「そう……だね」

 

愛されているのは間違いないだろう。

真由美さんがよっぽど思わせぶりなのか相当な悪女でもない限り、それは断言出来る。

 

ただ、一方俺はというと。

昨日のことを思い出して、思わず言葉に詰まってしまう。

 

今朝も昨晩のことがあってかなり気まずかったのだが、会った時に昨日の昼と態度が何ら変わりなかった真由美さんには感謝だな。

 

その様子を見てあらあら、と面白いネタでも見つけたかのように笑う千葉さん。

 

「あれ、痴話喧嘩でもした?」

 

「喧嘩はしてないよ。……それより、達也は仕事は良いのかい?」

 

「エリカの希望で闘技場を回ろうということになってな。なのに当のお前が見ていなくてどうする」

 

「え?うーん、だってあれを見てもねえ……」

 

水を向けられた千葉さんは剣道部の演武を指差す。

 

「千葉家の娘としては、最初から最後まで台本通りの殺陣はお望みじゃないってことか」

 

「まあ、言っちゃえばそういうこと」

 

「……しかし千葉さん。なんか面白そうなことが始まりそうだよ?」

 

「え?」

 

俺が指差した先では、剣道部の演武を行っていた女子部員に剣術部の男子部員が絡んでいるところだった。

 

「おぉ……確かに、なんか面白いことになりそう!」

 

言うや否や、千葉さんは騒ぎの方へ飛んでいった。

 

「やれやれ、風紀委員の俺としては面白いことなんか起こっては困るんだが」

 

「よく言うよ。この程度ならあの男子部員を押さえ込んだ後に剣術部の部員が全員で襲いかかってきても軽くあしらえるくせに」

 

俺のやけに状況が特定された言葉に、兄さんは目を細める。

 

「……それは、ヒントか?」

 

「相変わらず、察しが良くて助かるねえ。[高周波ブレード]が出てくるよ」

 

「おいおい、それは殺傷性ランクBの魔法だろう。何を考えているんだ……」

 

「兄さんなら平気でしょう?魔法を止めるためにCADを二つ持ってきたんだから」

 

「まあな。さて、俺は行くよ。そろそろ出番みたいだし、な!」

 

その後、俺は兄さんが頑張るのを少し離れたところから見ていた。

 

兄さんのことを考えるならば俺も手を出したほうが良いのだろうが、暴れる生徒の鎮圧は風紀委員の管轄だ。

 

それを、風紀委員だけでは戦力的に足りないのならともかく特に問題ないのに生徒会役員の俺が手を出してしまっては、少々面倒なことになるし良くない前例を作ることにもなる。

 

あと、どちらかといえばこちらの理由の方が大きいのだが、俺はあまりあのキャスト・ジャミングもどきのサイオン波を浴びたくない。

 

ここは周りを鎮めて体育館を再び使用可能にする為に動くのが吉か。

 

っと、その前に一応真由美さんに報告しておくか。

 

『はい、こちら生徒会本部の七草です』

 

「……あ、もしもし?和也ですけど」

 

『ああ、和也くん?どうしたの?』

 

「ただいま、第二小体育館、通称『闘技場』にて剣術部の部員1名が[高周波ブレード]を使用、その場にいた風紀委員が取り押さえました。で、その後剣術部の部員十数名がその風紀委員に襲い掛かり、そいつらも全員が取り押さえられました」

 

『……まず、怪我人は?』

 

「細かい怪我はまだ分かりませんが、特に大怪我をしたものは見当たりません」

 

『そう、それは何よりだわ。で、なぜ剣術部員たちはその風紀委員に襲い掛かったの?』

 

「その風紀委員が二科生だったからですよ」

 

『二科生の風紀委員……というと?』

 

「そう、司波達也です。彼、やはり中々の腕ですね。剣術部員を全員一人で鎮圧しましたから」

 

『全員を一人で?それは凄いわね……。二科生なのが信じられないくらいよ』

 

「彼の体術は相当なものでしたから。接近戦だったので、どうにかなったのでしょう。まあ、詳しくは本人から聞いて下さい。どうせ報告が来るでしょうから」

 

『そうね、そうするわ』

 

「では、俺はこれから事態の収拾にあたります」

 

『よろしく。頑張ってね』

 

「はい」

 

……よし。

真由美さんにも頑張ってと言われたことだし、一丁気合い入れて頑張りますかね。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「初日からこれとは。ちょっと新入部員の勧誘を舐めてました。さすがに疲れましたね……」

 

「ふふ、お疲れ様。紅茶飲む?」

 

「いただきます」

 

昨日から俺のものとなった机に突っ伏す俺に、真由美さんが労いの言葉を掛けてくれる。

 

今生徒会室には俺と真由美さんの二人だけで、他のみんなはもう帰ったはずだ。

 

「……しかし、和也くんは災難だったわね。他の管轄のところは特に問題もなく終わったもの」

 

真由美さんから同情の言葉をいただく。

 

いや、正直生徒会役員初日で勝手が良く分かっていない俺が収拾に当たるには、少々事が大きすぎた。

 

騒ぐ観衆を静め、場の後片付けをし、今回の騒動で闘技場が使用できなかった部活動との交渉や明日以降のタイムテーブルの作り直しなど、良くこれだけのことを一人でこなしたものだと自分を褒めたい。

 

「……しかし、剣が実戦的になってしまっていた、とはねえ」

 

「ああ、桐原くんの供述のこと?わたしにはよくわからなかったけれど……」

 

「まあ、桐原先輩の気のせいということで処理しても構わないでしょう。ただ、もし本当だったとするならば……剣道部で、いったい何が起こっているんでしょうかねえ」

 

実は気のせいなんかではなくブランシュ共が学校襲撃の際の手先とするべく鍛えていたのだが、そんなことを真由美さんに教える必要はない。

 

剣道部の内部で起こることも、今探ろうとしている最中だ。

まあ多分、どうにかなるだろう。

 

真由美さんに知らせたらどうせ動こうとするだろう。

そうしたら、真由美さんの身に危険が生じる。

 

少々過保護かもしれないが、何に代えてもこの人は失いたくないから。

 

まあ、それは良いのだ。

 

「ああ、それより明日のことですが」

 

「明日?ああ、用事で生徒会のお仕事できないんだっけ」

 

「はい。どうしても外せない用事がありましてね」

 

このことは事前に言ってあった。

そうでもなければ、直前で抜けられると仕事の穴を埋め合わせるのが大変だろうし。

 

この忙しい時期に1日とはいえ抜けるのは心苦しいが、俺がいないとあちらが大変なことになるかもしれないからな。

 

「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

 

「良いわよ、その分明後日には他人の倍働いてもらうから」

 

……この仕事量が倍は、さすがに死んでしまう気がする。

いや、今日の俺の仕事量は異常だったからそこまではないだろうが、それでも多い。

 

「……今日の頑張りでチャラになりませんかね?」

 

「それはそれ、これはこれ、よ」

 

俺のげっそりした声に、楽しそうに笑う真由美さん。

 

珍しいことに、今日は真由美さんに手玉に取られる俺なのであった。




お読みいただき、ありがとうございました。

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