魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第31話

◇ ◇ ◇

 

 

 

次の日の、放課後。

一つの集団がとある場所を目指していた。

 

その場所とは、子供に魔法の教育を課す日本に9箇所しかない国立魔法大学付属の高校。

その中の一つ、東京都八王子市に位置する第一高校である。

 

目的地が視認できるところまで近付いたところで、先頭を歩いていた男が振り返る。

 

「お前ら、手順はいいな?」

 

「はい」

 

男たちは数日前に、とある筋から情報を仕入れていた。

その情報とは、第一高校の警備システムについてだ。

 

学校外から魔法に関しての様々な資料が保存されているコンピュータまで、警備システムに一度も引っかからずに行くことのできる経路があるそうだ。

 

警備員は最小限で警備システムの殆どを機械に依存しているので、人に見つかる恐れも少ない。

 

ただし夜間は流石に警備員も配置されるので厳しいため、決行は昼間、それも放課後。

 

御誂え向きに現在第一高校では各部活動が新入生を勧誘するために騒がしくなっており、なおかつ人もそちらの方へ集まりやすい。

 

そして指定された経路はそこから遠く離れているため、まず生徒が来る確率はゼロに等しい。

近くに主要な施設もないため、教師が来ることもないだろう。

 

ただ、代わりにこの期間は生徒たちもCADを携行しているため生徒たちの襲撃は難しそうだ。

まあそちらの方は触れなければ良いだけなのだが。

 

「では、これより指定された経路にて侵入を開始する。行くぞ」

 

リーダーらしき男が先頭を切り、男たちは第一高校へと侵入していった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

男たちが目的地にたどり着くまでに、さして時間は必要が無かった。

ここまでは順調、後は情報を抜き取って持ち帰るだけだ。

 

そう考えて目的の部屋に入った瞬間、男たちは固まった。

 

「やあ、産業スパイの皆さん。ようこそいらっしゃいました」

 

その部屋の中央に陣取っていたのは、中性的な美貌を持つ少年。

 

そしてその隣に控える、少々小柄な少年だった。

 

「修斗、手厚くもてなして差し上げようか」

 

「了解」

 

男たちは何事もなく、とはいかなかったことに悪態をつきつつも、しかし相手は魔法師の卵、しかも制服を見るに一科生とはいえ所詮はガキ二人。

 

こちらはあちらほどのエリートではないにせよ実戦経験は遥かに上。

造作無く始末できるだろうと思って各々が魔法を使用しようとして……固まる。

 

「魔法が……発動、しない!?」

 

「阿呆が。この俺を相手に貴様ら程度が魔法を行使できるとでも思ったのか」

 

男たちの驚きの声に、クククッと嗤う少年。

 

「まさか、領域干渉か……!?」

 

「ご名答。さて、縛り上げろ」

 

「承知した。――[重すぎる世界(インフィニット・グラビティ)]」

 

小柄な方の少年が呟いた瞬間。

男たちの身体が地に倒れ伏す。

 

男たちにかかる重力の大きさを変えて、立っていられないほどの力を加えたのだ。

 

「さーて、後は学校に提出しますかね」

 

全く身動きが取れなくなった男たちを縛り上げ、ちょっふとした細工を終えた少年は、楽しそうにそう呟くのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「しっかし、相変わらずボスは敵を前にすると人格が変わるねえ」

 

「まあ、意識して変えてるからな。敵に対して弱腰になったら終わりだ。だから敢えて強気で行くんだよ」

 

「まあ、その理屈は分かるけれども。……そういえば待っている途中で電話掛けてたけど、相手は誰だったんだ?」

 

「我が敬愛なる兄上さ」

 

風紀委員として巡回している兄さんが、奴らが入った瞬間にそちらの方向へ向かおうとしたので、それを止めたというわけだ。

 

賊には学校の奥の方まで、要はここまで来てくれないと意味がなかったからな。

 

「和也くん!」

 

誰かが俺を呼ぶ声がして振り向くと、そこには心配そうにこちらを見つめる真由美さんがいた。

 

「真由美さん。仕事は良いんですか?」

 

「これも仕事よ。学校内に外部の人間が侵入して、しかも誰も気付かなかったなんて、大問題だわ」

 

「その通りだ」

 

「早急に改善策を打ち出さねばならん」

 

「渡辺先輩。十文字先輩も」

 

現在、この場には学内最強と謳われる三巨頭が勢揃いしていた。

 

「あまりよく状況を把握してはいないんだが、一体何があったんだ?」

 

「そうですね……あまり詳しくは言えないんですが、家のことでちょっと調べ物をしていまして。その途中で怪しげな男たちを見かけたので、近くにいたこいつを連れて男たちを追ったんです。で、そこの機密が保存されている部屋に入っていくのを見て、それから倒しました」

 

家のことと言えば深くは突っ込まれないはずだ。

 

「何故わたしたちに知らせなかったの?」

 

「あまり大勢で行くと勘付かれそうだったので。それに、相手の力量も大したことが無かったので」

 

「なぜ、すぐに捕らえようと思わなかったんだ?」

 

「万が一にも逃した時のリスクを考えまして。逃げられないような場所に着いてから仕掛けるつもりだったんです。まあ、そんな場所に行かないようだったら応援を呼ぶつもりでしたけどね」

 

ふむ、と考え込む二人。

 

一方の十文字先輩はと言えば、何かに思い当たったかのような顔をしていた。

これは、勘付かれたか?

 

「敵は一体どこの手の者だと思う?」

 

しかし、予想に反して十文字先輩がそのことを口にすることは無かった。

 

これは、一つ借りですかね。

 

「そうですね……一高の機密を狙ったとなると、相手は産業スパイ。最も可能性の高いのは大亜連合でしょうね」

 

「俺もそう思う」

 

「ですが、一国が背後にいる割には随分とお粗末な作戦でしたね」

 

「む、お粗末とは……?」

 

「賊の構成についてですよ。一高には我々十師族がいます。確かにここまで全く警備システムに引っかからなかったその侵入経路は問題ですが、だからと言って生徒や教師と偶然出くわす可能性もゼロではない。現に俺はそれを見かけて追い掛けた訳ですし。それに対抗するには、少々賊の実力が低すぎましたからね」

 

仮に大亜連合が本腰を入れた作戦だったとしたら、少なくとも全員が俺の領域干渉で封じ込められることはないはずだ。

 

「なるほど。となると……」

 

「ええ。他にまだ本命の作戦が残っているということなのでしょうね」

 

「だが、それではこの作戦のメリットがないぞ?この失敗のせいで我々に警備システムの穴を気付かせ、強化させるだけとなったのだから」

 

「それは、分かりませんが。案外、彼らも踊らされただけかもしれませんね」

 

肩を竦めながらおどける様にそう言う俺を、修斗と十文字先輩は呆れながら見ていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

当然のようにもうお分かりかと思うが、今回の一件、その全てを仕組んだのは俺だ。

 

そもそも奴ら――大亜連合の産業スパイ共が得た情報が俺からのものだったのである。

 

その過程で十文字家に見られたのだろうが、まあそれは今はいいとして。

 

上手く情報を操作して決行日を今日にするよう誘導し、学内に入ってからはこっそりと人員をつけて万が一にも生徒たちに襲い掛かった時にはそれを妨害するよう保険をかけた。

 

時期もわざわざ生徒たちが自己防衛できるようにCADの携行を許されている今を選んだ。

 

全ては警備システムの強化の為の、俺の策である。

要は茶番だった訳だ。

 

別に何も無しに警備の強化だけを打診してもいいのだろうが、それでは学校側も十師族の言葉を無視するわけにはいかないから体裁こそ整えるだろうが、真面目に取り組もうとはしないだろう。

 

「……なるほど。だからあの時俺を止めた訳か」

 

「そういうこと。懐深くまで入られて初めて学校側も真剣になるからね」

 

俺は今、帰りに寄った喫茶店で兄さんにその説明をしていた。

 

「しかしわざわざそこまでして警備を強化させたということは、つまりここで何かが起きるんだな?」

 

「そういうこと。もしかするとあてにならないかもしれないけれど、一応流れだけは説明しておくよ」

 

「それは良いんだが……そろそろ止めといたほうが良くないか?お前の前が回転寿司みたいになってるぞ」

 

「え、なにを?あ、店員さん。ティラミス一つ」

 

「か、畏まりました」

 

俺の横には積まれた10枚ほどの皿。

兄さんはどうもそのことを指しているらしかった。

 

「大丈夫だよ。俺は太らない体質だから」

 

「いや、糖尿病とかな?」

 

「運動してるから大丈夫」

 

「……もう、好きにするといい」

 

結局は諦めてしまったらしい。

それなら最初から言わなければいいのに。

 

何故か胸焼けしそうな顔をしている兄さんに、俺は好きなだけ甘いものを食べるという至福の時を味わいながら、九校戦前までに今後起こるであろうことを説明した。




お読みいただき、ありがとうございました。

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