魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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今回、普段より短いです。


第34話

◇ ◇ ◇

 

 

 

ワインを片手に会場の隅へ行った一条剛毅は、先ほど話した四葉和也のことを思い出していた。

 

(四葉和也、か。あの真夜殿の甥であるという時点で予想はしていたが……やはり、一筋縄ではいかん相手だな)

 

剛毅が、いやこの場にいる殆どの人間が四葉和也という未知の人間について評価する際に、考慮することは二つだけだ。

 

一つ目が魔法師としての実力。

 

そして二つ目が、政治家としての実力である。

 

この場合の政治家とは政治に携わる人間という意味ではなく、駆け引きや謀略が上手い人間ということだ。

 

それを評価するために、直に言葉を交わしてみたのだが……。

 

剛毅が下した評価は、「四葉和也は政治家としては既に子供の範疇にはない」。

つまり、対等な大人として扱わなければならないということだ。

 

相手が子供であると油断していると、簡単に足を掬われるどころか持っている情報を根こそぎ抜かれかねない。

 

そして肝心の魔法師としての実力だが……これは、かなり高いだろうということしか分からなかった。

この辺がまた彼の政治家としての力を示しているのだが。

 

息子を使って、剛毅は話を九校戦からその出場競技へと持っていった。

四葉の人間の得意系統は基本的には系統外精神干渉魔法だが、現当主の真夜のようにイレギュラーも時々現れる。

 

出場競技には少なからず得意系統が関わってくるため、少なくともそれがどんな用途に向いているのかを突き止めようと思ったのだが……上手くはぐらかされて、将輝に水を向けられて話を流されてしまった。

 

あれを意図してやったのだとしたら――まず間違いなくそうだと思うが――あの歳にしては考えられないほどの政治的感覚を持っている。

 

(少なくとも現時点では、将輝とは比べ物にはならんな)

 

息子の将輝は、真っ直ぐで立派な男に成長してくれた。

親の欲目もあるかもしれないが、それはまず間違いない。

 

だが、これから先大人達と渡り合うには、将輝は少々真っ直ぐ過ぎる。

先ほどの対話が、それを証明していた。

 

まず、相手の言葉で感情的になってしまう時点で駄目だ。

 

そして最後にお互いに宣戦布告をしてはいたが、あれもよく考えれば和也は将輝に勝つことを誓ったわけではないことが分かる。

 

将輝が第三高校から和也個人に対して絶対に負けないと誓ったのに対して、和也は第一高校が優勝すると宣言した。

 

つまり、将輝が出場する全ての競技において優勝しても、一高が総合優勝さえすれば問題はないのだ。

 

この言質を取らせない話し方は、老獪な大人をすら思わせる。

 

そして本人が言った通り、本当にどの競技でも優勝できるだけの魔法師としての実力をもっているならば。

 

四葉の次期当主は、恐ろしいほどの傑物だ。

 

(まあ、まだ断言は早いか)

 

ひとまず和也への最終的な評価は保留とし、剛毅はその思考を切り上げた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「君とは一度こうして一対一で話してみたいと思ってな」

 

「それは光栄です、閣下」

 

俺は今、九島烈老師と対面していた。

 

真由美さんは、老師より「すまんが、彼と二人で話したいのでな」と言われて、今は離れたところにいる。

 

しかし、対峙して初めて分かる覇気というか凄みというか、そういうものがこの人からは感じられる。

 

流石に、嘗て「最高にして最巧」と謳われた歴戦の魔法師なだけはある。

 

「……ふむ、流石は深夜の息子といったところか。中々やるようだ」

 

「……はい?」

 

「なに、私ほど様々な場面を経験し沢山の魔法師を見れば、見ただけでその者の大体の力量は分かるのだよ。一条の息子もかなりのものだが、君はそれより上だろう。……これは光宣に匹敵、いやそれ以上かもしれんな……何にせよ、頼もしいことだ」

 

「は、はあ」

 

評価してくれるのはありがたいが、この人の目的が読めない。

まさかそんなことを言うためにわざわざ真由美さんを遠ざけたわけではないだろうに。

 

それを感じ取ったのか、九島老師は本題に入った。

 

「君は、十師族の役割とはなんだと思うかね」

 

「日本の国防です」

 

「では、なぜ十師族は十師族なのだと思う?」

 

「……仰っている意味が分かりかねますが」

 

「分かりやすく言うとだな。何故優秀な魔法師の集団である十師族を一つにまとめてしまわないのだと思う?」

 

「それは……なるほど」

 

ようやくこの人の意図が、目的が見えた。

 

「九島閣下。貴方は私からこういう答えを引き出したいのでしょう。『十師族が今もなお十の家に分かれているのは、お互いが牽制し合うことで一つの組織が大きくなりすぎることを防ぐためにある』と。そして、現在の四葉は力を持ちすぎている。バランスを保つ為には四葉は弱くなるべきではないかと、こう言うつもりだったのでしょう」

 

一つの組織が大きくなりすぎることを防ぐと自分で言っているのだから、俺としては老師の言うことに反論出来ない。

要は言質を取られかけたわけだ。

 

「第三次世界大戦を生き抜いてきた人間の一人として、日本のバランス、並びに国家間のバランスを崩して現在の平和が壊されることを防ぐためにこうして動いているのでしょう。そのお気持ちは分かりますが、少なくとも今回に限ってはそれは無用の心配ですよ」

 

「無用な心配だと?」

 

「はい」

 

――全く、おかしな話である。

 

四葉家が現在の十師族の中では大きすぎるほどの力を持っていると?

 

否、断じて否である。

 

今の四葉家は弱すぎるほどに弱い。

 

だからこそ、俺や叔母上が色々と動いているのだ。

 

「私や叔母上は、むしろ国家間のバランスを均衡に少しでも近づけるために動いているのですから」

 

「……どういう、意味かね」

 

九島老師も随分と困惑しているようだ。

俺にそんなことを聞いたところで、家の内部事情なんだから話すわけもないだろうに。

 

「意味は分からなくても結構です。そういった認識でいていただければ、それで十分です」

 

俺はひとつ礼をして、九島老師に背を向けた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

和也が九島烈に声を掛けられ、話していた頃。

 

真由美は一人でいたところを、ある人物に声を掛けられていた。

 

「今、良いかね?」

 

「え?は、はい」

 

真由美は何の話だろうかと内心で首を捻りながら、振り返って声を掛けてきた人物と向かい合った。




お読みいただき、ありがとうございました。

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