前話の最後を少し変更しているので、未読の方はそちらからお読みください。
それから、更新ペースはこれから週一回とさせていただきます。
今年は大学受験という大ボスが控えているので、その為にレベリングやらなにやらをしなければならないのです。
忙しさにもよりますが、しばらくは週一回更新でどうにか頑張る予定です。
申し訳ありませんがご承知ください。
俺たちがカフェに着いた頃、兄さんと壬生先輩の話は本題に差し掛かっていた。
「――風紀委員には、別にわざわざ騒ぎ立てるような内容でもないのに摘発する人達が居るのよ。自分の、点数稼ぎの為にね……!」
この言葉に俺と姉さんが渡辺先輩に目をやると、首を横に振る。
どうやらそういう事実はないらしい。
勘違いか、思い込みか。
真由美さんと市原先輩も暗い表情である。
再び会話に耳を傾ける。
「――俺も一応風紀委員なので何とも……」
「あっ、別に司波くんのことがどうとかいうわけじゃなくてね?私たちがお咎めなしだったのも司波くんのお陰でしょ?」
「まあ、別に罰を与えるほどのものでもありませんでしたしね」
「でしょ?だから、司波くんには感謝しているのよ。でも、他の風紀委員は……いや、あの連中の悪口を言いに来たんじゃなくて……えと……あれ?」
言えば言うほど頭が混乱していくのか、言葉が纏まらない壬生先輩。
やがて、その様子を面白そうに眺めている兄さんに気づいた。
「司波くんって、いじめっ子だったの……?」
「……特にそういった事実はありませんが」
視界の端に震える何かが映って視線を向けると、真由美さんと渡辺先輩が肩を震わせ、腹を抱えて必死に笑いを押し殺していた。
市原先輩はそれを見て処置無し、とでも言うように肩を竦めている。
では姉さんは……と目を向けてすぐさま後悔した。
目が、据わっていた。
その矛先が俺に向けられている訳でもないというのに、思わず身震いをするほどの寒気を感じる。
慌てて目を逸らして兄さんに目をやると、どこか居心地が悪そうに身動ぎしている。
よく見ると、冷や汗までかいていた。
なまじ初めから俺たちのことに気付いていたから、姉さんの怒りにも気が付いてしまったのだろう。
どれもこれも、女性を人前でからかう兄さんが悪い。
諦めて自分でどうにかしていただきたいものだ。
主に精神的な理由で、俺は姉さんにはどう足掻いても勝てないのだから。
自分の気持ちを切り替える意味もあったのだろうか、兄さんが一つ咳払いをする。
「それで、お話とはなんでしょうか」
その言葉に、壬生先輩も姿勢を正す。
ついでに真由美さんたちも笑うのを止めて真剣に耳を傾けた。
「単刀直入に言います。司波くん、剣道部に入ってはくれませんか」
「申し訳ありませんが、お断りします」
兄さんは即答する。
「そもそも、何故俺を勧誘しようと思ったのかが今一つ分かりませんね。俺の修めている技術は徒手格闘術だと、剣道の心得のある壬生先輩ならお分かりのはずでしょう」
「それは……」
目を泳がせる壬生先輩。
が、上手い理由が思いつかないのか、溜息を吐く。
「……司波くんは、悔しくはないの?この学校では魔法が全てに優先される。確かに、魔法の授業に関しては待遇が一科生よりも悪いのは仕方がないことだわ。でも」
ここで一度言葉を切り、悔しそうに吐き捨てる。
「だからと言ってそれ以外の部分でも見下されるのは、蔑まれるのは納得できない。私の剣まで馬鹿にされるのは、無視されるのは、許せない……!」
ギュッと拳を握り締める壬生先輩。
そして顔を上げる。
その表情はキリッとしており、先ほどまでのただの少女のような顔ではなかった。
「私は今、非魔法系のクラブと纏まって学校側にこの意思を伝えようと考えています。既にほとんどの非魔法系クラブには賛同を得ているわ。司波くん。貴方にも、それに協力して欲しいの」
兄さんは、その言葉に少々感じ入るものがあったようだった。
フッと笑みをこぼす。
だが、壬生先輩はそれを嘲笑と取ったようだった。
「……君も、私のことを笑うの?」
「いえ、とんでもない。全くもって逆ですよ。先輩のことをただの剣道美少女だと思っていたのだから、俺も見る目がない……」
「び、美少女……」
頬を紅く染めて照れる壬生先輩。
だが、俺はそれどころではなかった。
「し、司波さん……お、落ち着いて……!」
「うふふ……落ち着いているわよ。ええ、落ち着いていますとも。全く、お兄様ったら」
嘘つけっ!
全然目が笑っていないでしょうが!
ったく、兄さんが不用意にそんなことを言うから!
今更ビクッと震えていても遅いから!
俺がいなかったら、おそらくこのカフェは極寒の地と化していただろう。
こんなこともあるかもしれないと[領域干渉]をしておいてよかった。
姉さんの事象干渉力は確かに強いが、温度への干渉は俺も得意だ。
[領域干渉]で十分押さえ込める。
俺は姉さんを宥めながら兄さんと壬生先輩の方を見る。
兄さんはこちらを少し気にしつつも何か考え事をしていて、壬生先輩が照れていることには気付いていないようだった。
だからだろうか。
こんなことを言ったのは。
「――学校側に伝えて、その後どうするんですか?」
と。
◆ ◆ ◆
生徒会室に戻ると、そこでは仕事を押し付けられててんやわんやな中条先輩と、それを手伝う服部先輩の姿があった。
「……あ、会長。先輩方も。中条に仕事を押し付けて、一体何をしていたんですか?」
「は、はんぞーくん……」
「悪いな、服部。私が連れ出したんだ」
渡辺先輩がフォローに入ると、服部先輩は仕方がなさそうに溜息を吐く。
「……はぁ。仕事を終わらせるなら別に何をしていようととやかくは言いませんが、人に押し付けるのはおやめください」
「ご、ごめんね……あーちゃんも」
「い、いえ……」
恐縮そうに縮こまる中条先輩。
その後はしばらく、みんなで真面目に仕事をした。
◆ ◆ ◆
「ふぅー。終わった〜!」
んー、と伸びをする真由美さん。
仕事の量の関係で最後に終えたのが真由美さんだったので、それを機に空気が緩んだ。
仕事が終わっても全員が待っていたのは、真由美さんの人徳のなせるわざか。
「そういえば、会長たちはどこへ行っていたんですか?」
服部先輩がふと思い出したように言う。
「ああ、えっとね……達也くんがカフェで二年生の女の子と会うって言っていたから、ちょっと見に行ってきたの」
真由美さんの言葉に、服部先輩は呆れたというように溜息を吐く。
「職務を放棄して何をやっているのかと思えば……そんなことをやっていたんですか?」
棘のある台詞に、真由美さんがたじろぐ。
悪いが俺も助ける気はない。
今回のは自業自得だ。
止めなかった俺も悪いが。
「か、帰ってきたらやるつもりだったのよ?」
「中条の性格なら、仕事が放置されていたら自分の担当ではなくても出来るものならばやってしまうと分かっていたでしょう」
「うぅ……まあ、やってくれてたらラッキーだなあ、と思ったのは否定できないけれど」
「ま、まあまあ。その辺でもういいだろう?真由美にしては珍しく反省しているようだし」
「……そうですね。今回のところはこれぐらいにしておきましょうか」
ようやく矛先を収める服部先輩に、渡辺先輩がからかうような笑みを浮かべながら尋ねる。
「そういえば、お前も変わったな。昔はよく真由美に翻弄されていたのに」
「……昔は昔です。それに、俺は副会長、会長を補佐するのが仕事です。会長が誤った方向に進んだら、それを正すのもまた、副会長の仕事でしょう」
……なんというか、服部先輩もだいぶ変わったなあ。
しっかりしたというか、より冷静になったというか。
すごく頼り甲斐がある気がする。
ついでに、今回助けてもらった中条先輩が少々熱っぽい視線を服部先輩に向けているのは、気のせいだろうか……?
まあその心中は本人のみが知る、ということだ。
真由美さんが高校に入学する前から婚約者だった俺に悪いところなど何一つ無いのだが、あちらの好きな人を奪うような形になってしまったのは事実であり、また普段からお世話になっている彼には負い目がある。
願わくば、服部先輩の行く先に幸多かれ。