魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第38話

そして、次の日の昼。

 

生徒会室には、あの時カフェで話を聞いていた人物のうち壬生先輩を除く全員が揃っていた。

 

「――先輩方。昨日、カフェにいましたよね?」

 

「ああ、いたぞ?」

 

「……盗み聞きは感心しませんよ」

 

あっさりと認めた渡辺先輩に少し拍子抜けしつつ、その行動を咎める兄さん。

 

だが、あの渡辺先輩がそんな簡単に罪を認めるわけがないでしょうに。

 

「おや、私はいつカフェにいたのかは言っていないのだが。盗み聞きをされて困るような話をしていたのか?」

 

「……まあ別にいいですけど」

 

揚げ足を取るような渡辺先輩に、げんなりとした顔で溜息を吐く兄さん。

 

「それで?達也は壬生先輩と会って何か感じることはあった?」

 

「普通に流すのか……まあ良いが。そうだな……強いて言うならば、何かが噛み合っていないように感じるな」

 

「噛み合っていない、ってどういうこと?」

 

兄さんが少し考えて出した言葉に、真由美さんが首を捻る。

 

「俺にもしっかりと分かっているわけではないので説明が難しいのですが。魔法の成績が悪いからといって、剣の腕まで貶されるのは我慢できない、というそもそもこのような行動に出ている動機は理解できます。しかし他の部分が、何というか肝心なところが抜けているような気がしました」

 

「肝心な部分、というと?」

 

「壬生先輩は、非魔法系の部活動に協力を募って団結し、学校に自分たちの思いを訴えるのだと言っていました。それは皆さんもご存知でしょう」

 

ここで、昨日こっそりカフェに盗み聞きに行っていた面々が揃ってそっぽを向く。

真由美さんなんかは頷きそうになって慌てて顔を逸らしたが。

 

その様子を兄さんは呆れたように見つめ、言葉を続ける。

 

「しかし壬生先輩の言葉には具体性がないような感じを受けました。魔法の成績のせいで他の部分まで不当に貶められている。そんな生徒がいる、ということを学校に伝えるところまではいいとしましょう。では、伝えた後は一体何をするのか。それが、壬生先輩からは一切読み取れなかったんですよ」

 

「だから、どこか肝心なところが抜けている、か……」

 

確かにな。

いくら学校側に「差別を無くせ!」と訴えたところで、そう簡単になくなるわけではない。

学校側が差別をしているわけではないのだから。

 

最も、今では一科生と二科生の差別の象徴となっている「花冠(ブルーム)」と「雑草(ウィード)」。

 

元は注文が間に合わなくて花のエンブレムの刺繍がされていなかったというだけの二科生の制服を未だにそのままにして放置している辺り、学校側にも改善する余地はあるのかもしれないが。

 

まあ、その辺りは分かっていて放置しているのだろう。

どうせ一科生と二科生にはっきりとした違いをつけ、対抗心を煽らせ切磋琢磨させようというつもりなのだろうし。

 

今のところ、その試みはまるっきりの逆効果と言わざるを得ないが。

 

「……結局、壬生先輩は達也に何の用事だったの?」

 

「ん?ああ、差別反対派に加わってくれという話だった。大方、二科生でありながら風紀委員に入っている俺にマスコット――体良く言えば旗頭だな――になってほしいんだろう」

 

「で、断ったと」

 

「断ったのは、その前の剣道部に入部してくれという申し出だけだ。協力するか否かはまだ決めかねている。俺が納得するような方針を立ててきてくれたら、それなりには協力するつもりだ」

 

「ふーん。結局そいつらって、抽象的な理想論だけしか無くて、具体的な行動を起こせないような奴らだと思うけど。期待するだけ無駄じゃないかなあ」

 

俺の歯に衣着せぬ物言いに、苦笑する一同。

 

「まあそれはいいとして、だ。万が一、その活動が過激な方向に行ってしまっては困る。或いはその活動が校外の組織に利用されてしまう恐れもあるから。例えば達也が新歓の期間中に襲われたエガリテとかね?」

 

「そうなると厄介だな。では、どうする?」

 

「敵が纏まる前に、全校生徒の前に引っ張り出す。そうして一気に片付けよう」

 

「なるほど。敵の準備が整う前に、ということか。となると、風紀委員に生徒会だけでは人手が足りない恐れがあるな」

 

「うん。念のため、部活連の執行部にも協力を要請しておいたほうが良いかもしれない。十文字会頭には俺から声を掛けておくよ」

 

「頼んだ。後は部活動をしている生徒についてだが……」

 

「ストップ!!」

 

兄さんと話を進めていると、突然渡辺先輩が制止をかける。

 

その声に顔を上げて周りを見ると、そのほとんどが話についていけずに目を白黒させていた。

 

あれ?

 

渡辺先輩もこめかみを抑えている。

 

「お前たちは、一体何の話をしているんだ?」

 

「え、今後の流れについて話していただけですけど」

 

「特におかしな話はしていないはずですが」

 

「いや、そうかもしれんが。話の流れが急すぎる。もう少し事細かに語ってくれ」

 

ウンウンと頷く一同に、俺は頭を掻き、視線で兄さんに丸投げする。

兄さんは溜息を吐き、口を開いた。

 

「そうですね……エガリテだとかに差別反対派がつけ込まれたらまずい、それは分かりますね?」

 

「あ、ああ。いや、しかしどうして突然エガリテなんだ?」

 

「俺がこの一週間の間にエガリテのバンドを着けた生徒に襲われたからですよ。エガリテの説明は必要ですか?」

 

頷く人がいるのを見て、兄さんは話を続ける。

 

「エガリテとは、反魔法国際政治団体ブランシュの下部組織です。表向きはそれを否定していますが、それは政治色を嫌う若者を集めるための方便でしょう」

 

「犯人が誰かは未だ特定できていませんが、達也の話の通りエガリテの手が校内まで侵入しているのは事実です。そして最悪の場合、過激な計画に踏み切ることも考えられます。ですから、その計画が準備万端整う前に全校生徒の前に引っ張り出します」

 

「だから、それをどうやるんだ」

 

「そんなのは、公開討論をしようと持ち掛けるだけですよ。非公開にすると生徒会だとかに握りつぶさせる恐れがあるから、と。達也が壬生先輩を通して申し出れば良いんじゃないですかね」

 

そして俺は真由美さんに目を遣る。

不思議なことに、どうしてか拗ねていたのだが。

 

「公開討論となれば、ディベート能力に長けたうちの会長が負けることはないでしょう。相手は理想論しか持たないのだから、尚更です」

 

「なるほどね……でも、風紀委員や部活連が何故必要なの?」

 

「それはもちろん、壇上の真由美さんや見にくる生徒を守るためです。過激な行動に出るものがいないとも限りませんしね」

 

まあ、その時は俺が隣に立つ。

仮にどこかの国の正規軍が攻めてきたとしても、真由美さんには指一本触れさせないし擦り傷一つ負わせないが。

 

「……でも、それだと説得された向こうが不満を溜め込むだけで終わるのではないか?」

 

「この公開討論の目的は生徒たちの説得ではなく、その背後にいる奴らを引っ張り出すことですから。問題はありません」

 

「引っ張り出す……?一体どういうこと――」

 

キーンコーンカーンコーン。

 

昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。

 

「おっと。では、話は放課後にまた。服部先輩もいた方が良いでしょうしね」

 

最近のあの人は、なかなかに頼りになるからな。

 

さて、そろそろ行くか。

 

っと、その前に。

 

「真由美さん」

 

「……何よ」

 

何故かご機嫌斜めの真由美さんに声を掛ける。

 

「どうしたんですか?俺が何か機嫌を損ねるようなことをしましたかね?」

 

「……別に」

 

「だったらどうして?」

 

「……羨ましかったのよ」

 

「羨ましかった?どこがですか」

 

「和也くんと達也くん、なんか言葉が足りなくてもお互い分かり合ってたじゃない?以心伝心って感じで。わたしの方が達也くんよりもずっと和也くんとの付き合いが長いのに、あんなことできないもの。だから、わたしはきっと和也くんのことがまだまだ分かっていないんだなあって。だから、もっと知りたいの」

 

……一体何なのだろうか、この可愛い生き物は。

 

健気すぎるというか、なんというか。

 

俺と兄さんとの付き合いの方が真由美さんとのそれよりも圧倒的に長いので仕方ないとは思うのだが。

 

それでも、真由美さんにもっと俺のことを知ってもらいたいなと思ってしまった俺には、そんなことなど言えるはずもなかったし、言いたくなるわけもなかった。




お読みいただき、ありがとうございました。

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