魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

4 / 45
いつの間にかお気に入り登録が100件を越えてました……。
ありがとうございます!

今後ともよろしくお願いします。


第4話

無事に沖縄に到着し、買ったばかりの別荘で桜井さんと合流する。

 

少しして姉さんは兄さんを連れて散歩へと向かったが、俺は外に出ずに読書などをして時間を潰していた。

別に着いていっても良いことは無いからな。

 

 

 

そしてその夜。

俺は兄さん、姉さんと共にとあるホテルに来ていた。

黒羽家のパーティに招待されたからだ。

 

「よく来てくれたね、和也君。深雪ちゃんも」

 

「ご無沙汰しております、叔父上」

 

「本日はご招待ありがとうございます」

 

黒羽家当主の黒羽貢は、良くも悪くも四葉の人間だ。

確かに情は厚いし親バカではあるが、俺たちの兄である兄さんを使用人として扱うことを当然として受け入れることが出来るのだ。

 

一方、彼の子供である亜弥子と文弥はまだ幼い。

だからこうして、

 

「深雪さん、達也兄さんはどこですか!?」

 

兄さんを公然と慕っている訳なのだが。

兄さんも彼らには優しいから、尚更それは加速するのだ。

姉さんがその後ろで動揺しているのを見てこみ上げる笑いを必死に噛み殺しながら、俺は叔父上に話し掛ける。

 

「彼らはまだ四葉の人間としての自覚が足りないようですね」

 

「……うむ。あれらはとても優秀なのだが、ここだけは困ったものだ」

 

苦虫を噛み潰したような顔でそう答える叔父上。

さらっと子自慢を混ぜてくるのはやめてほしい。

 

俺は年齢が前世と今世を合わせてそろそろ30年を越えたこともあって、こういう場での対応はほぼ完璧だ。

高校生までやれば大人の対応というのも分かるようになるしな。

そのためか、親戚一同からの受けは非常に良い。

ついでに魔法師としての実力も頭一つ抜けている。

 

一応まだ四葉の次期当主は確定していないので俺も文弥も同じ候補という立場なのだが、俺に決まるのはほぼ確実とされている。

叔父上もそこは半ば諦めているのだろうが、どうしても体面は気になるらしい。

 

「まだ彼らも小学生ですしね。これから大きくなる内に四葉の人間としての立ち居振る舞いは身に付けていくことでしょう」

 

「だと良いのだが……和也君は精神面でも優秀だからかな、歳が近いこともあってどうしても比べてしまうのだよ」

 

思わず漏らしたというような言葉に苦笑するしかない。

ふと文弥たちの方に目をやると、兄さんが此方へ近付いてくるところだった。

 

「私はこれから外を見回ってこようと思います。よろしいでしょうか」

 

「おお、構わんとも。行ってきてくれたまえ」

 

喜んで肯定する叔父上。

一方二人は大反対だった。

 

「そんな、普段は中々会えないからこの機会にたくさんお話しようと思いましたのに」

 

「すぐ帰ってきて下さいね」

 

その言葉に思わず微笑む。

それは兄さんも同じだったようで、穏やかな表情で二人を宥める。

 

「ほら、叔父上をそんなに困らせてはいけないよ。大丈夫、一回りしたら帰ってくるから」

 

それから俺と姉さんに目を向ける。

 

「ではお嬢様、行ってまいりますので。和也様も」

 

「ああ」

 

軽く頷いてみせると、兄さんは会場を出ていった。

因みにお嬢様の対義語はお坊っちゃまなのだが、そう呼ばれるのは恥ずかしすぎて死んでしまうので人前では名前に様付けで呼んでくれと言っている。

 

「亜弥子も文弥も和也君や達也殿のように落ち着いてくれると助かるのだが……おっと、すまん。今のは忘れてくれ」

 

俺は思わず目を見開いてしまう。

叔父上が兄さんのことを話題に出すのは珍しいことだ。

しかも俺と同列に並べた上で褒めるとは……。

突然のことに驚いてしまったが、後半部分には首を傾げることで応える。

 

「はて、何のことですか?私は何も聞こえませんでしたが……何か仰いましたか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

ふっと笑う叔父上。

 

しかし俺、こんなことをしているから桜井さんには時々狸みたいと言われるんだろうなあ……。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

次の日、俺たちは沖へとセーリングへ出ていた。

 

近くに台風並みの巨大低気圧が来ているとは思えないほど穏やかな海でしばらくはセーリングを楽しんでいたのだが、やがてその平穏にも終わりが来る。

 

始まりは通信機器の不調からだった。

外部との連絡が完全に途絶えたのだ。

そして次は不審物の飛来。

何とか魚雷だったっけか。

 

完全にこちらに、というか日本に喧嘩を売ってるとしか思えない行為だ。

生憎ここには一流の魔法師が何人も乗っているんですがね。

それでも奇襲ならば効果はあったのだろうが、残念ながら兄さんの[精霊の眼(エレメンタル・サイト)]は掻い潜れずに察知されてしまう。

 

「――魚雷が接近しています。お嬢様、此方へ。和也様は……」

 

「あれを捕まえてみるよ」

 

ここには今普段使い用のCADしか持ってきてないが、これでも十分だ。

 

まずは振動系減速魔法[凍火(フリーズ・フレイム)]で魚雷の推進装置を沈黙させる。

しかしこれでは加速度がゼロになっただけで速度自体はまだゼロになっていない。

なので今度は加速系統の魔法で進行方向とは反対方向に加速度を与える。

これによってようやく魚雷は停止した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

俺が無傷で手に入れた魚雷は国防軍に提出した。

あの魚雷の種類は発泡魚雷。

そういえばそういう名前だったような気もするな。

これによって兄さんの予測は確かな証拠を以って彼らにも示されたということになる。

 

昨日ここまでわざわざやってきた風間大尉も同じようなことを言っていたからな。

 

そういえば魚雷に対応した時俺は得意系統でもない減速魔法を幾つか使ったが、これはあの魔法があの状況で最も適していると思ったからだ。

 

得意な加速魔法は攻撃には使い易いのだが、防御側に回ると使い道がなくなってしまうのには本当に困ったものだ。

 

まあ俺の強みは満遍なく全ての系統を人並み以上に使えるということだ。

勿論その道の一流には敵わないが、十分実用範囲である。

 

原作でも一度出てきた、振動系統の魔法の[氷炎地獄(インフェルノ)]はどちらかというと減速が主だから得意分野の魔法ではないのだが、普通に使えるように頑張って練習したから得意系統に匹敵するレベルの仕上がりだ。

練習した理由?

そんなの名前が格好いいからに決まってるでしょう。

言わせんなよ恥ずかしい。

 

閑話休題(それはさておき)

 

本日、俺たちは沖縄舞踊だか何だかを見にいくらしい母上たちとは別行動で国防軍の基地へと向かうことになっているらしい。

 

他人事口調なのは、俺が行かなかったからである。

何をやっているのかというと、数日後に向けてちょっとした訓練の仕上げだ。

沖縄戦の際に必要になるだろうと予測される魔法が幾つかあるので、その完成度を少しでも上げているのである。

 

兄さんと共に参戦するつもりの俺は、今回の件で大勢の敵兵を殺すことになるだろう。

殺しは既に体験している。

自分から快楽的に誰かを殺すのはともかく、自分と敵対する相手の殺害は俺は必要なこととして受け入れている。

 

未だ前世の価値観は俺の人格の大部分を占めているものの、四葉として過ごしてきた12年間で染まってしまった部分も多い。

昔から他人にはひどく無関心だった俺だが、今世になってその傾向はより強まったと言える。

 

自分、或いは親しい人達のためならば、その他の有象無象ならば例え100人殺すことすらも厭わない。

四葉の次期当主として、そういう人格が創り上げられたのだ。

 

今回の戦いは母上と姉さん、そして桜井さんを守るための戦いだ。

ならば俺は例え100人だろうと1000人だろうと、この手をどれだけ血で濡らそうとも目的を達成してみせよう。

 

それが、俺という人間の生き方だ。




お読みいただき、ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。