魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第41話

「随分と人が集まりましたね……」

 

「ええ。それだけ、この討論会が注目されているということでしょう」

 

開始時刻の直前。

準備が整った俺は、真由美さんと共に会場に集まった生徒たちを見ていた。

 

「そして、この場に集まっている生徒は二科生だけではないわ」

 

「一科生も関心があるということなのでしょう」

 

「そうね。それならば、きっとこの学校はもっと良くなるわ」

 

小さく言い聞かせるようにそう呟き、準備が出来たと告げる司会に答えてステージ上へと歩を進めた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

討論会は、概ね「学内の差別撤廃を目指す有志同盟」、通称同盟の疑問、質問に対して真由美さんが答える、といった形で進んでいった。

 

しかし、所詮彼らは寄せ集めの上中身のないスローガンを掲げているだけの集団であり、さらに言うならば大した準備もできないままにこの場に引っ張り出されたのだ。

 

一科生と二科生の差別に見えるようなところを指摘しては、真由美さんの具体的な数字を持ち出した反論にあって撃墜されていた。

 

やがて、半ば真由美さんの演説会と化していく中で、次第に一科生は勿論二科生も同盟ではなく真由美さんの言葉を支持するようになっていった。

 

ただ「これは差別じゃないのか」と生徒会側を批判するだけで具体的な解決策は何も出さない同盟と、「問題なのは一科生と二科生の意識の壁である」として差別意識の克服を訴える真由美さん。

 

どちらの言葉が心に届くかは、明白であった。

 

そして最後にこの学校に唯一、一科生と二科生を差別する制度として残っている「生徒会長以外の役員の指名に関する制限」。

 

これの生徒会長退任時の総会で撤廃することを公約として宣言し、満場の拍手をもって公開討論会は終了した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「お疲れ様でした、真由美さん」

 

「ありがとう、和也くん」

 

壇上から降りた真由美さんに労いの言葉を掛ける。

 

「ひとまず、何事もなく終わって良かったわね」

 

「今のところは、ですがね。どうもこの場に壬生先輩が居ないのが気に掛かります」

 

「確かに。……そういえば、わたしと交渉をしていた生徒も一人もいないわ」

 

「実働部隊、ですかね……?」

 

などと予想を述べた瞬間。

会場に轟音が響く。

 

あちこちで悲鳴が上がる中、配置されていた風紀委員たちが統率のとれた動きで次々と同盟のメンバーを拘束する。

 

続いて窓を破って飛び込んできた紡錘形の物体は、その瞬間掻き消えた。

言わずもがな、俺の魔法である。

 

同時に、音の振幅を増大させる魔法を使いながら指を鳴らす。

これは、俺がひとまずの安全を確認し領域干渉を解除するときの合図として事前に決めておいたものだ。

追加で混乱する生徒たちを静める効果も期待しているが。

会場に響き渡る音に、狙い通りに会場のざわめきも一瞬収まる。

 

その隙を見逃さず、真由美さんが声を張った。

 

「皆さん、落ち着いてください!只今、我が校は外部からの襲撃を受けています。ですが、それらは概ね風紀委員と部活連の執行部により鎮圧されました。重傷以上の怪我を負った生徒も今のところは報告がありません。ここは風紀委員が警護に当たっているので、申し訳ありませんが安全が確認されるまではここで待機をお願いします」

 

そう言ってからマイクを置き、渡辺先輩に「後は頼んだわね」と告げて真由美さんと俺は会場を出て行った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「さて、第一陣は鎮圧されましたか。さすがですね。どうやら用意された状況には強いようだ……では、突発的な状況にはどうですかね……?」

 

男は、暗闇で嗤う。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

数分後。

俺と真由美さんを始めとした、一部を除く生徒会の面々が生徒会室に集まっていた。

 

現在、校内では風紀委員、部活連の執行部などが散らばり行動している。

それらの情報を全て一度ここに上げ、全体を統括する役割を果たすのがここだ。

 

現在は真由美さんに市原先輩、それに中条先輩がそれに当たっていた。

俺はその護衛だ。

 

戦闘も得意な服部先輩には実働部隊として動いてもらっている。

姉さんは兄さんと一緒のはずだ。

 

公開討論会の場にいた人のうち警備に当たっていた風紀委員を除く全員は端末の電源を切って貰っていたので俺は直接は聞いていないが、侵入者の存在を知らせる警報が鳴ってからおよそ30分。

事態は終息に向かっていた。

 

「敵の戦力はこちらの当初の予想を上回ってはいましたが、十分想定の範囲内でした。警報のお陰で多くの生徒がCADを使用して戦えたこともあり、重大な怪我人は出さないまま終わることが出来そうです」

 

「それは良かったわ。後は安全を確認できれば……」

 

と、俺の端末が着信を知らせるコール音を鳴らす。

 

「ん……誰だ?」

 

ディスプレイには「秋野陽太」と表示されていた。

剣道部への潜入を命じた、オーフェン構成員の一人だ。

 

「どうした?」

 

『敵に別働隊の存在を確認しました!これから侵入するようです!目的は将来有望な人材の抹殺。つまり、生徒たちの殺害です!人数は10人ほどですが、実力は恐らくまともな戦闘訓練を受けていないうちの生徒よりは格段に上です!』

 

「何っ!?」

 

まずい。

まさかそこまで本腰を入れてくるとは!

纏まっているところは平気だろうが、安全確認のため風紀委員たちは散らばって動いている。

そこを各個撃破されたら……。

わざわざ時間差で来るのはそれが狙いか!?

 

とにかく、今の状況はまずい。

一刻も早く対処しなくては。

 

「了解した。何か分かったらまた連絡してくれ」

 

『分かりました』

 

通信を切り、何事かとこちらを見つめる三人に内容を伝える。

 

「第二陣が来るそうです。しかも今度は本腰を入れて、10人ほどの精鋭が」

 

事態を把握した一同の顔に、緊張が走る。

 

「風紀委員など散らばって動いている生徒たちを討論会の会場へ集めます。市原先輩は現場の指揮を。中条先輩はその補佐をお願いします」

 

「分かりました。行きましょう、中条さん」

 

「はい!」

 

「真由美さんは散らばっている風紀委員たちへ指示を。その他への連絡は俺がします」

 

「分かったわ」

 

それから近くにいるはずの修斗へ連絡する。

 

『もしもし?』

 

「第二陣、それもそれなりの手練れが来る。市原先輩たちが討論会の会場へ向かうから、その護衛を。終わったらそのまま生徒の保護へ移ってくれ」

 

『……ボスは?』

 

「ここで真由美さんの護衛をする。どのみちここに情報が上がってくるから動けない」

 

『承知した。気をつけろよ?』

 

「分かってる」

 

通信を切った。

 

そしてそのまま十文字先輩へ通信を入れようとすると、再び陽太から連絡が入る。

 

「どうした?」

 

『申し訳、ありません!!先ほどの情報、どうやら嘘だったようで……!!』

 

向こうの息が荒い。

まるで、戦闘でもした後のような……!?

 

「まさか、勘付かれていたのか!?」

 

『特定は、されてなかったみたいですが。先ほど入れた通信でバレまして。ハァ、ハァ……逃走中です』

 

思わず舌打ちをする。

が、何かがおかしい。

敵の頭、司一はこんなに頭の回るやつだったか?

 

それに何かが引っかかる。

そんな嘘をつく意味が……。

 

「それで、嘘だったっていうことは?」

 

『ああ、そうでした。別働隊の目的は、どうやら……生徒会長の殺害のようです。もっとも、ボスもリーダーも居るんですから、大丈夫、でしょうけど……』

 

……それが狙いか!!

 

「お前も生き延びろよ!」

 

そう言って通信を切り、真由美さんの方を振り向く。

 

戦闘態勢に入るために左手に握っていたCADをポケットから取り出し、真由美さんに危機を伝えようとしたその瞬間、俺の目に映ったのは――穴が空いた扉と、真由美さんに迫る銃弾だった。

 

「真由美さん、伏せて!!」

 

指示を出すが、反応するより恐らく銃弾がその身を貫く方が早い。

ならば止めるしかないだろう。

 

意識と無意識を[加速]させる。

途端にスローモーションのようになる世界。

俺の肉体も同時に遅くなっているから、CADの操作は出来ない。

 

だが、問題ない。

この魔法に、CADの補助など必要はない。

使うのは俺の最も慣れ親しんだ魔法。

 

[物質蒸散](ヒート・ヴェイパリゼーション)

 

弾丸を構成する金属は、加速された熱運動により結合を保てなくなり、気化。

その後周りの空気によって常温近くまで冷やされて、金属の粉末へと化した。

 

ひとまず周囲の状況を確認しなくては。

生徒会室とその周りにしか展開していなかった[眼]の範囲を拡大しようとした、その瞬間。

 

――生徒会室を、サイオンの奔流が駆け抜けた。




お読みいただき、ありがとうございました。

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