魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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改訂版です。
これに伴い前話の最後も変更してあるので、ご了承ください。

感想の返信が滞っており、申し訳ありません。
一応目は通しているのですが、することが多く返信にまで時間が取れません。

先週は投稿した分を削除してしまったので結果的に一週間開くことになりましたが、基本的に何かあった時は活動報告に何か書いているので、そこをご覧ください。


第42話

生徒会室へと流れ込む、大量のサイオンの波。

 

この独特のノイズのようなサイオン波。

これはまさか――。

 

「キャスト・ジャミングか……!」

 

キャスト・ジャミング。

ある特定の条件を満たした特殊なサイオン波を大量に散布することにより、魔法式がエイドスに作用するプロセスを阻害する。

魔法師も理論上は使用できるそうだが無意識領域が拒否してしまうために実際は不可能で、希少な鉱物であるアンティナイトを用いるのが一般的だ。

 

現状では魔法師を封じ込めることのできる唯一の手段とされており、その有用性は測りしれない。

 

そしてキャスト・ジャミングによる魔法の阻害が続いている中で銃声が鳴り、放たれた弾丸は真っ直ぐに俺を目掛けて飛んできて――その全てが先の弾丸と同じ末路を辿った。

 

そもそも、キャスト・ジャミングの効果は「魔法式がエイドスに作用するプロセスの阻害(・・)」である。

極端な話、魔法が発動しづらくなるだけなのだ。

つまり、キャスト・ジャミングによる阻害をも上回る干渉強度を持ってさえすれば魔法は発動する。

 

まず、状況を把握したい。

だが残念ながら俺の[眼]はキャスト・ジャミングにより上手く発動しないので、周りの様子は掴めない。

 

「真由美さん、怪我はありませんか?」

 

「ええ、大丈夫よ。……敵の数は10。そのうち銃を持っているのは5人ね。アンティナイトを持っている1人以外は全員魔法師よ」

 

どうやら真由美さんの[マルチ・スコープ]は支障なく使えるらしい。

まあ、俺の紛い物と違って真由美さんの[マルチ・スコープ]は先天的なものだからな。

 

「ありがとうございます。ここから排除できますか?」

 

俺が外の敵を捕捉できない以上、真由美さんにやってもらうのがベストなのだが……。

 

「それはちょっと無理そうだわ。ごめんなさい」

 

申し訳なさそうに首を振る真由美さん。

 

「いえ、良いんですよ。索敵だけでも助かります」

 

さて、どうするか。

最悪扉を消して直接対峙するしかないんだが、今の状況は真由美さんが見える分こちらが有利だ。

それをどうにか生かしたいが……。

 

「――来るわ!」

 

真由美さんの警告に再び[加速]。

飛んできた弾丸の数は数え切れない。

どうやら相手の武器はアサルトライフルやその類らしい。

 

こうも数が増えては、一つ一つに照準を合わせるのは骨が折れるな。

俺と真由美さんがいる、その2m〜2.5m前方に生徒会室を2つに分割する領域を設定する。

そして、その領域を座標の変数として入力して魔法を発動。

その領域に侵入した銃弾は、一つの例外を残しその全てが固体の状態を保てなくなり、気化した。

 

残る一つは3m手前で停止させ、そのまま浮かせている。

 

「真由美さん、アンティナイト持ってる敵の位置は分かりますか?」

 

「えっと……右斜め前方、あっちの方向よ」

 

「ありがとうございます」

 

真由美さんの示す方向へ、即座に弾丸を飛ばす。

そして呻き声とともに、キャスト・ジャミングが止んだ。

 

これで、ようやく自分の[眼]で戦える。

 

さて、残る敵はどこかな……!?

 

外の様子を見ようとしたその瞬間、

 

ドゴンッ!

 

と音を立てて扉が吹き飛びこちらへ迫ってくる。

 

こちら側はあちらが見えている以上、視界を遮るものは不利にしかならないと悟ったのだろう。

ついでとばかりに加速魔法を掛けられて凄まじい速度で飛んでくる扉。

全く厄介なことだ。

 

「真由美さん、防御は俺がやるんで攻撃お願いします!」

 

「分かったわ!」

 

真由美さんの返事も確認したし、俺も自分の役割を果たそうか。

飛来する扉を[物質蒸散](ヒート・ヴェイパリゼーション)で消し去ると、その向こうから現れたのは無数の銃弾だった。

 

「――ッ!」

 

即座にそれらも気化させるが、その奥にも幾つもの魔法式が控えているのが見える。

ちっ、あれ全部防ぐのは面倒だな。

俺一人ならば避ければ良いんだが、真由美さんもいることだし。

よし、この距離ならばアレで全部吹き飛ばすか。

 

体内に保有しているサイオンを圧縮し、前方に向けて放出する。

並の魔法師の数人分にも及ぶ圧縮されたサイオンが、敵の展開した起動式、魔法式を全て吹き飛ばした。

 

――[術式解体](グラム・デモリッション)

 

射程が短いこと以外に欠点らしい欠点が無い、現在実用化されている対抗魔法の中では最強と称されている無系統魔法だ。

 

兄さんと同じように、司波龍郎から膨大なサイオン保有量を受け継いだ俺にもこれは使えるのだ。

 

用意していた魔法を全て無効化されて一瞬動きが止まる敵を、真由美さんの[ドライ・ミーティア]が次々に撃ち抜いていく。

 

このまま終わるかと思ったが、そうは問屋が卸さないらしい。

 

おそらくリーダーと思しき男が一人、真由美さんの亜音速にまで達する魔法を防ぎきる。

が、流石に2vs1では敵わないと悟ったのだろう。

 

後ろへ向かって床を蹴り、更に自己加速術式でも使っているのかその姿は一瞬で消える。

 

だが。

 

「――遅いよ」

 

俺も加速系統を得意とする魔法師である。

 

即座に慣性を消し、地面を蹴って加速すると次の瞬間にはその目前に迫っていた。

 

 

「――!?」

 

驚愕に歪む顔を見ながら顔を掴み、再び[術式解体](グラム・デモリッション)

継続して作用している加速魔法を吹き飛ばし、同時に自分も急停止する。

 

そして生徒会室の方へ蹴り飛ばすと、ちょうどそこに狙ったように(まあ狙ったんだけど)真由美さんの[ドライ・ブリザード]が直撃、意識を刈り取った。

 

男の意識が完全に落ちているのを確認して一息吐く。

 

ふう。

これでひとまずは終わり、かな?

 

先ほど真由美さんが倒した男達も纏めて縛り上げ、念の為に[領域干渉]で魔法を封じておく。

 

「取り敢えず、無事に終わって良かった――どうしたんですか?」

 

戦闘には無傷で勝利したにも関わらずどこか浮かない顔をしている真由美さんに首を捻ると、真由美さんははぁ、と溜息を吐く。

 

「備品、相当壊しちゃったわよね……」

 

「あっ……」

 

落ち着いてから改めて生徒会室を見回してみると、それはもう見るも無惨な状態だった。

 

壁や机、椅子は銃弾で穴だらけだし、そこらじゅうに薬莢が散らばっている。

扉の部分は無理矢理外されたような形跡があり、肝心の扉自身はどこにも無い。

まあ俺が消しちゃったから当たり前だが。

 

「それに、ほら……」

 

「あっ……」

 

真由美さんの示した方向にあったのは、粉砕されたコンピューターだった。

 

普段の仕事の内容は、基本的に全てコンピューターの中に保存してある。

一応持ち出し禁止となっているので、バックアップも含めて全てこの生徒会室にあるのだ。

 

そして現在。

今の戦いの余波を受け、バックアップも含めて殆どが損壊してしまっている。

 

運良く被害を免れたものもあるが、そんなものはほんの一部しかない。

 

どういう事かというと、生徒会の面々が新学期になってからこれまでにした活動内容、特にやりかけのデータが全て吹き飛んだのだ。

 

自分らが今までやってきたことの復旧作業もだいぶ面倒なことに違いないのだが、それはまあ自業自得というか、自己責任でしかない。

 

だが、そんなものは他のメンバーにとっては関係ない訳で。

 

「リンちゃんに怒られちゃうわ……」

 

「俺も服部先輩に怒られそうです……」

 

非常事態で仕方がなかったといえば仕方がなかったのだが、それでは収まらないのが人間というものである。

というか俺だったら怒るとまではいかなくても八つ当たりはしたくなる。

 

俺と真由美さんは顔を見合わせ、溜息を吐くのだった。




お読みいただき、ありがとうございました。

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