魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第44話

さて、時はあっという間に過ぎ。

もうそろそろ九校戦に参加するメンバーを選出しなければならない時期が来た。

 

放課後、俺を含める生徒会のメンバー+αは、全員が生徒会室に集合していた。

 

「さて――今日の議題は、いよいよ迫ってきた九校戦に参加するメンバーの選出です。正確には、その候補の抽出ね」

 

まずは会長として真由美さんが切り出す。

それを受けたのは市原先輩だ。

 

「とはいえ、本戦のメンバーを決定するのはそう困難なことではありません。基本的には昨年の種目とその結果を参考にして、今日中に仮決定までは終わらせたいところです」

 

「ということは、私は去年と同じようにバトル・ボードとミラージ・バットだな?」

 

「いや、それは良いんだけれど……摩利、仕事は?」

 

当然のようにその場にいる渡辺風紀委員長(・・・・・)に真由美さんがツッコミを入れる。

 

「ん?構わないだろう。私の仕事は今日は無い」

 

「……達也くんが『部屋が散らかって片付けてもキリが無い』と言っていたけれど?」

 

「仕方ないだろう。私が片付けようと思ってもあいつの数倍時間が掛かるんだ。世の中には、やらないほうが良いこともある」

 

「……まあ良いけれど」

 

何処と無くげんなりとした様子の真由美さん。

きっと心の中で、「うわっ……摩利の女子力、低すぎ……?」とか思っているのだろう。

 

がわ首を振って気を取り直す。

 

「私も去年と同じで良いわよね?」

 

「そうですね。あとは、十文字会頭もそれで良いでしょう。服部君はどうしますか?」

 

「それで構いません」

 

その後も、本戦に出場する候補の選出はスムーズに行われた。

 

「さて、本戦のほうはこれぐらいで良いとして……君たちはどうする?」

 

服部先輩に問われたのは、俺と姉さんの二人。

つまり、一年生だった。

 

「深雪さんは、一つはアイス・ピラーズ・ブレイクで決定でしょう」

 

真由美さんの断定口調だが、異論のある者はここにはいない。

何せ無意識に冷却魔法を発動させてしまうほどだ。

振動減速系の魔法が得意なのは、言うまでも無いことである。

それを最も生かせるのは、アイス・ピラーズ・ブレイクだろう。

 

「もう一つは、他の皆さんとの兼ね合いですね。恥ずかしながら、同学年の女子の得意な魔法など親しい友人のものしか把握しておりませんので……」

 

「女子なら……実技試験では、上位なのは北山さんと光井さんかしら」

 

何やら端末を見る真由美さん。

おそらく今回の試験の結果がそこに表示されているのだろう。

 

「北山さんは振動系が得意なので、一つは私と同じアイス・ピラーズ・ブレイクで良いと思います。光井さんは得意なのが光学系の魔法なので、九校戦に向いた得意魔法はあまり……器用に満遍なく高い魔法力を持っているので、どの競技でも優勝は十分に狙えるかと思いますが……」

 

困った顔を見せる姉さん。

 

「うーん、まあその辺は本人と相談ね。和也くんはどうする?」

 

「そうですね……取り敢えず、モノリス・コードには出ます。あとは、アイス・ピラーズ・ブレイクでなければなんでも良いですよ」

 

俺の言葉に疑問を感じたのは渡辺先輩だった。

 

「何故アイス・ピラーズ・ブレイクだけ避けるんだ?別に振動系が不得意というわけでも無いだろう」

 

「たしかに仰る通りですが……俺も一応成績はトップなので、優勝は必須です。でも、流石にアイス・ピラーズ・ブレイクで一条の[爆裂]には勝てませんよ」

 

ああ、と納得する渡辺先輩。

 

[加速]を使うならばともかく、同じ条件からならば勝てるかどうかは微妙なところだ。

我が第一高校の優勝の為には、俺が出場する種目全てでの優勝が期待される。

そんな博打に出て負けたら目も当てられないだろう。

勝てる確証のない勝負は基本的にはしない主義なのだ。

するしかないのなら話は別だが。

 

「それはモノリス・コードならば勝てる、ということか?」

 

「当然です。[爆裂]の封じられた一条など恐るるに足りません」

 

同様に俺の[物質蒸散](ヒート・ヴェイパリゼーション)も封じられているのだが、まあこの条件ならばちょっと優秀なだけの魔法師の卵一人に、俺が負けようはずもない。

 

逆に、今俺以外であいつと勝負になりそうな一年生の男子など兄さんや俺の部下の二人以外にはいないはずだ。

 

それに一条将輝に宣戦布告をした以上、一種目ぐらいは直接勝負しないと怒りそうだし。

 

あと、俺がチームの一員としてその場にいないと森崎達の怪我を防げない。

確かにあいつのことはお世辞にも嫌いじゃないとは言えないが、それとこれとは話が別だ。

命の危険すらある大怪我を負う事故を防げる可能性があるのに黙って見ているわけにはいかない。

助けないことによるメリットは何も生まれず、デメリットしかないのならば尚更である。

 

「まあ、俺の出る種目は絶対に優勝しますよ。第一高校と四葉家の誇りに掛けて。我が全身全霊を以って第一高校の総合優勝を真由美さんに捧げることを誓いましょう」

 

「う、うん……ありがとう……」

 

不意打ちに少し顔を赤く染める真由美さんであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「……はあ、夏前だというのに熱くてかなわんな。司波、少し温度を下げてくれるか?」

 

「……そうですね。冷やしましょうか、300度ほど」

 

一方、その他のメンバーはいい加減に慣れて完全に冷めきっていたという。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

さて。

九校戦もそれなりの数の事件が起きる。

 

会場へ向かう途中のバスで対向車線から車が突っ込んでくるのを皮切りに、渡辺先輩のバトル・ボード中の件、先に挙げた新人戦モノリス・コードでの件、小早川先輩や姉さんのCADに電子金蚕を仕込んだ件、などなど。

 

抜けはあるかもしれないが、大体こんなものだろう。

 

「俺の知っている歴史だと、大まかにこんな感じなんだけど」

 

『なるほどな……』

 

俺と兄さんは現在、四葉の秘匿回線を使って通話していた。

 

『とすると、やはり俺が技術スタッフの一員となるのが一番良いみたいだな』

 

「そうだね。CADに細工をされる以上、それが最適だと思うよ」

 

渋々、といった表情の兄さんに、思わず苦笑いしながら頷く。

 

たとえどれだけ目立つのが嫌だったとしても、全てにおいて姉さんの安全が優先される。

ならば、兄さんが技術スタッフにならざるを得ないのは分かりきったことだった。

 

『モノリス・コードは任せるが、構わないか?』

 

「うん、大丈夫。その代わり、うちの生徒のCADに細工をされるのは全て頼むよ?俺ではどうにも出来ないから」

 

『そこは適材適所、俺の領域だからな。……委員長のはどうする?』

 

兄さんの言葉に思わず苦い顔になる。

それに関しては、まだ対策を思いついていない。

 

最悪外から干渉して止めるしかないのだが、それは最後の手段だ。

 

だが、まさか第七高校のCADを競技前に見せてもらえるはずもない。

 

さて、どうしたものか……。

 

「手段としては、柴田さんの『眼』で事前に精霊を見つけてもらって開始前に係員に知らせるか、兄さんが開始前に[分解]するか。それぐらいしか思いつかないな」

 

『後者はあまりお勧めしない、というかぶっちゃけ厳しいんだが。しかし、前者にしたってそもそもどうやって美月に眼鏡を外させるんだ?』

 

「そこはほら、兄さんお得意の話術でうまく言いくるめてさ」

 

『お前は俺をなんだと思っているんだ……』

 

呆れたように溜息を吐く兄さんに、思わず笑みが浮かぶ。

 

「一応、会場へ向かう道中で起こる件を絡めて話をすれば行けると思うよ」

 

『まあ、それはどうにかするが。……ああ、その自爆テロのことだが。どっちが[術式解体](グラム・デモリッション)を撃つ?』

 

「うーん、俺はこの前真由美さんに見られたからどっちでも良いんだけど……」

 

『じゃあ、お前がやってくれ。わざわざ新たに俺の手の内を明かす必要はないからな』

 

どうせモノリス・コードに出て使うから関係ないんだけどね?

とは言わないが。

森崎たちを助けたらどうなるかわからないしな。

 

「了解。それじゃ、今日はこんなところで。おやすみ」

 

『ああ、お休み』




お読みいただき、ありがとうございました。

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