MOBILE PHONE。それは22世紀半ばを過ぎた現代ではなくてはならないもの。

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MOBILE PHONE(仮)

 

 

 

 おまえは植物の心のような人生でも目指しているのか?

 

 

 

 新井(あらい)(あおい)は中学3年生のとき、担任の先生からそんなことを三者面談の折に言われたことがある。

 その担任の先生は葵が小学生の頃に亡くなった父の友人で、葵とも中学に入る前から知り合いだった。

 近所に住んでいたことから早くに父を亡くした葵と葵の母のことを何かと気にかけてくれていた恩人でもあり、葵もプライベートでは“おじさん”と呼ぶくらいには親しい間柄だった。

 実は正直なところ、葵はてっきりおじさんが母と結婚して“お継父さん”になるのではないかと小学生の頃は思っていて、母が自分の会社の上司を再婚相手として連れて来たときは思わず唖然としてしまったことがある。

 まぁ、大人の恋愛関係については子どもの自分にはわからないこともあるなのだろう、とその時は何事もなかったかのようにスルーしたが。

 

 しかしおじさんが継父にならなかったとはいえ親しい間柄に変わりはなく、新しい継父の心情に配慮しておじさんが家に来ることは滅多になくなったが、葵がおじさんがコレクションしている古いマンガ目当てにおじさんの家に訪れる程度には関係を保っていた。

 そんなおじさんから冗談気味とはいえ、そんな中二病患者と思われているかのように言われたのは葵には不可解だった。思わず学校で“おじさん”と呼びかけるぐらいには。

 というか母は古いマンガネタは知らないんだから、母にもわかる言葉で言って欲しかった。

 

 

 それはともかくとして、葵はそんな人生なんか目指していなかったし、中二病を患っているわけでもない……と自分では思っている。いや、患っていないと思いたい。深い絶望はいらないけど激しい喜びなら欲しいとは思うが。

 むしろ何故そんなことを言われるのかが不思議だった。

 まぁ、確かに同年代と比べたら大人しいというか達観している部分があるだろうとは自分でも思ってはいた。草食系というか僧職系というか。

 しかしそれは別に狙ってやっているわけではなくて、それが葵の素なだけだ。

 

 甘いものは苦手だから積極的には食べない。

 外で遊ぶより家の中で本を読むのが好き。

 汚いものには触れたくないから服は汚さない。

 本があるので別におもちゃはねだらなくてもいい。

 部屋が散らかっているのは落ち着かないからちゃんと片づける。

 

 そんな生活を保育園の頃からしていたために、周囲から大人しい子どもと見られていたのは事実だ。

 他の子どもが甘いお菓子やジュースをねだったり、外で遊んで服を泥だらけにして帰ってきたり、おもちゃが欲しいからと駄々をこねたりおもちゃを散らかしっぱなしにしたり、歯磨きはしたくないし風呂にも入りたくないと親の手をかけさせる中、葵がそんな子どもだったので母が他の親から手間がかからなさそうということで羨まれたりもしたこともあった。

 だけど葵としては自分が好みの生活をしているだけで、別に何かについて我慢しているつもりだったわけではなく、褒められるようなことをしているつもりもなかった。

 むしろ反対の生活を送れと言われた方が嫌だったろう。

 

 しかし葵の母はきっとそんな生活をしていた葵のことを、独りで頑張っている母のことを慮ってワガママを言いたいのに我慢している子ども、とでも思っていたのだろう。

 父が死んでから母は生活費を稼ぐために仕事をしていて忙しかったので、葵は小学校の頃からいわゆる鍵っ子だった。朝は葵が起きる前から仕事に出ていた母が作っておいた朝食を食べて学校に行き、夜は母が仕事から帰ってくるまで家で待っていた。

 葵はそんな暮らしでも特にワガママを言った覚えはない。当時に感想を求められたとしても「お母さんも大変だから」で終わらしていただろうし、何よりそれが自らの“普通”だと思っていたのだから不満が出るはずもない。

 母を擁護しておくと、母は高給取りで会社も土日祝日の休みはシッカリしていたので、休みの日は頻繁に遊園地やテーマパークに連れていってくれたり、平日も会社帰りにケーキを買ってきてくれたりもしていた。

 同じ学校の友人に聞いても明らかに一般家庭とは違う頻度でだ。でもそれはそれで逆に困ったことでもあった。

 

『ケーキじゃなくて煎餅がいい』

『あら、別に遠慮しなくても大丈夫よ』

『いや、真面目に』

『大丈夫大丈夫。あなたが心配することなんてないわ。

 紅茶も入れたわ。さ、一緒に食べましょう』

『…………』

 

 正直なところ、母の気持ちは空回りをしていたと思う。

 子どもながらも母が気を遣ってくれていることはわかっていたので、母の善意を無にするようなことはあまり強くは言わなかった。だって「いらない」とか言ったら母が寂しそうな顔するのだから。

 もちろん遊園地とかは楽しかったし、ケーキとかも高級店で買ってきてこともあって、甘いものが苦手な葵でも美味しいと感じるぐらいには美味しいことは美味しかった。まぁ、そのことについて友人に相談したら「じいちゃんちに行ったらよくあること」で終わらせられたが。

 

 そういうことなら確かに葵は遠慮する子どもだっただろう。

 母の善意を無に出来なかったという意味で。

 

 母が再婚するときも特に何も言わなかった。

 葵が小学校1年生のときに父が死んで、中学1年生のときに母が再婚した。そのときについでに母の再婚と同時にケーキを押し付ける、もとい譲ってあげる義妹も出来た。

 でもそれだって新しく出来る継父と義妹に問題があるように見えなかったから言うことがなかっただけであって、問題があるような人達だったら葵はちゃんと反対していただろう。

 母は丸6年も独身だったのだし、当時まだ30代前半という若さだったので新しい恋を見つけてもいいと思っていた。継父は良い人そうだし義妹も可愛い。

 特に反対する理由もなく母の新しい恋を祝福して、新しく出来た義妹を愛でることにした。

 

 

 だけど母も新しく出来た継父もおじさんも、そんな葵のことを何故か放ってはおけないらしい。

 母はいつまで経っても我慢してる子供と思い、

 継父は親子になってから2年半以上経つのに出会った頃と態度が変わらないので、まだ葵が壁を作っているのではないかと不安になっていて、

 おじさんは中二病に罹患したのではないかと疑ってくる。

 

 言っちゃ悪いが最近はそんな彼らのことをうざったいと思う気持ちはあった。癒しは義妹だけだ。

 不満があるならちゃんと言うだろう。今は別に不満がないから何も言ってないだけだ。

 あえて今ある不満を言うとするなら、母の再婚によって名字と名前が1字違いの身になったぐらいだ。大抵の人に自己紹介をすると「ん……?」と怪訝な顔をされる。別におかしい名字や名前というわけではないのだが、やはり名字と名前が1字違いというのは珍しいのだろう。

 それはともかくとして絶対に欲しいものがあるならちゃんと言う。今は別に絶対に欲しいとまで思うものがないから何も言っていないだけだ。

 

 

 そして葵の機嫌を取るため、というわけではないが両親は欲しいものはないかと未だに何かと聞いてくる。

 葵の高校合格が決まったので高校合格祝いも兼ねているのだろうか、今回は特にしつこい。

 普段なら義妹と一緒にどこかに遊びに行く費用を出してもらうぐらいで落ち着くのに、今回に限っては義妹に関係なく葵個人の欲しいものを聞いてくる。

 いらない、と言ったとしても、いつまで経っても欲しいものがないか聞かれる気がするので、もう両親の納得するような高校合格祝いをリクエストすることにした。

 

 することにしたのだが……さて、困ったな、と葵は思った。

 欲しいもの……欲しいもの……欲しいもの。それも両親が納得する葵個人のためのもの。

 

 現金?

 ……即物的で個人的には最も楽な選択肢だけど、流石の葵でも高校合格祝いとして現金をねだるようなことは出来ない。

 

 新しい本?

 いや、マンガのような個人的なものはともかく、値段の高いハードカバーの真面目な本は普段から買ってもらっている。それでは今回の高校合格祝いとしては納得してくれないだろう。

 

 新しいゲーム?

 1本だけではなく数本も頼めば値段的には納得してくれるかもしれないが、積みゲーをしない葵の性格を知っている両親ならきっと適当に言ったことがバレてしまう。それに義妹も結局一緒にするのだから、葵個人のためのものとは思ってくれないだろう。

 

 新しいパソコン?

 パソコンなら中学入学時に買ってもらったものがある。3年近く前の機種だがまだまだ性能的には充分だし、個人的にものを粗末にしようとは思わない。

 それにようやく今のパソコンを使い慣れた頃なのに、ここで新しいパソコンにしたらまた慣れるまで時間がかかってしまう。性能的にそんなに変わっていないのにわざわざ慣れるまで苦労しなきゃいけないのはゴメンだ。別に困っていない現状なら新しいパソコンは必要ないだろう。

 

 新しいケータイ?

 これも中学入学時に新調したばかりだ。今使っている機種の後継機ともいえる新機種が出ていることは出ているが、別に今のケータイで不自由はしていない。

 というか新機種に不具合があるようなニュースを見た覚えがある。これこそ止めておいた方がいいだろう。

 

 それなら電子書籍というのはアリか?

 母の“小さい頃は電子書籍ではなく紙の本を読むべき”という方針で、今まで購入した本は全て紙製の本だ。

 本棚の容量もそろそろ怪しくなってきたことだし、持っている本の電子書籍化を頼んでみるのも……いや、まだ小学4年生の義妹のことがある。義妹も本を読むのだから、電子書籍にするのは止めておいた方がいいだろう。

 

 もしくは服?

 そういえば高校は私服なので、これからは冠婚葬祭があっても中学のときのように学生服でOKというわけではなくなった。

 おじさんが30半ばでようやく恋人が出来たみたいだし、そのうち何かの式に出ることもあるかもしれない。そのための礼服を買ってもらうというのもいいかもしれない…………が、それも高校入学祝いとしては微妙か。それにまだ身長が伸びるかもしれないし。

 いや、値段が6桁までいく礼服なら両親も納得してくれるかもしれないが、そんな高価な服では葵の方が気後れしてしまう。そもそも礼服なんて年に数回着るか着ないかわからない代物だし、社会人になってからならともかく、学生である現在ではそんなものに金をかけるなら別なものに使いたいと思ってしまう。

 とはいえ他に候補がなければこれでいいかもしれない。

 

 ……フム、やはり困ったな、と葵は思った。

 これが高校ではなく大学の合格祝いなら自動車運転免許の取得費用を出してもらうか、いっそのこと自動車本体をねだるという手があっただろう。

 しかし未だ今年で16歳になるという身では年齢的に運転免許を取得することすら出来ない。原付バイクというのも考えたが、入学する高校が原付バイクを禁止している。

 いっそのこと「彼女が欲しい」とか冗談めかして言ってみたいが、それをすると何だかお見合いの釣書を持ってこられそうな気がヒシヒシとするのでやめておく。継父の顔が広いというのは頼りにはなるが、こういう時には困りものだ。

 こう考えると高校生というのは中途半端だ。小学生や中学生までのような子どもではいられないし、逆に大学生のような大人に近い身にはなれない。

 

 それにしても現金もダメ。本もダメ。ゲームもダメ。パソコンもケータイもダメ。それならどうしたらいいかと迷っていた葵に、ようやく解決策が思い浮かんだ。

 そうだ。せっかく仮技校に入学するのだから、それにあったものにすればいいんだ、と。

 

 

 葵が春から入学するのは仮技高、正式名称は“仮想現実応用技術専門高等学校”。その名の通り仮想(ヴァーチャル)現実(リアリティ)技術を専門に学ぶ高校だ。

 

 21世紀初頭に娯楽作品で多く見られた、電脳空間に作り上げたアバターに人の意識を送り込んだと錯覚させる程のV(ヴァーチャル)R(リアリティ)技術、通称ダイブ式VR(VRは省略されることが多い)が実用化されるようになってから約半世紀。

 実用化当初のダイブ式VR技術は民間では主にエンターテイメント方面に多く利用されていたが、次第に21世紀初頭にネットゲームのやりすぎで死亡した人間が出たのと同様にダイブ式も様々な問題を社会に引き起こしていった。

 例えば

 

『日に30時間の勉強という矛盾のみを条件に存在する知力!

 電脳空間時間で10数年! その拷問に耐えれば君は天才を超える!』

 

 のようなキャッチコピーがスパルタで知られていた進学塾で使われるなどだ。

 このようにダイブ式が人間の脳に直接電気信号を送り込んで仮想空間を認識させるという方法を利用して、仮想空間で認識出来る時間の流れを遅くして長時間勉強させるスパルタ進学塾や仕事をさせるブラック企業が蔓延したため、すぐさま国による規制が入ることとなった。

 何しろ現実空間での1時間が電脳空間での24時間としたとしても、現実空間時間での7時間を電脳空間で仕事をさせても当時の法律上では何の問題もなかったためだ。

 とはいえそんなことをしたら現実空間時間での2時間も経たないうちに脳に異常が発生してしまうが。

 

 法律でダイブ式が規制されたことによって、まず心身が発達していない未就学児の使用は原則禁止。小・中学生も年齢によって月辺りの使用時間が厳しく定められている。

 何しろダイブ式は脳に直接電気信号を送り込んで仮想五感を脳に認識させるだけでなく、脳と現実空間で実際に身体に与えられる情報をシャットアウトし、更には現実の身体が不必要に動かないように骨格筋を弛緩させるなど、人体に様々な影響を及ぼすからだ。

 まぁ、脳は覚醒状態で身体は睡眠状態、簡単に言ってしまえばレム睡眠、夢を見ている時の身体に近い状態に強制的にするので不眠治療なんかに役立った別面もあるが、心身が発達していない子どもが長時間ダイブすると心身の成長に著しい阻害が見られたため、ある程度心身が発達するまではダイブすることを禁止することとなった。

 もちろん高校生以上も月単位ではなく日単位での使用時間の規定がある。

 

 他にも電脳空間を構築するサーバーは国有の物を使用し、私的サーバーの使用は法律違反となっている。

 そしてサーバーに接続するときは国民総背番号制によって個人に振られた国民ナンバーが必要であり、その国民ナンバーごとに使用時間などが厳しくチェックされている。

 これはブラック企業による電脳空間上での長時間労働は禁止されているし、当初は現実空間と電脳空間における時間倍率差をつけるのは禁止する動きもあったのだが、

 

『電脳空間で仕事して早く終わらせて、さっさと子どもたちが待っている家に帰りたいんだよ!』

 

 という声も少なからずあり、労働者の余暇の増加によって促進される経済効果も無視出来ないものがあったため、電脳空間の不正使用を厳しくチェックすることで心身への悪影響を最小限に抑えることで規制に対する賛成派も反対も一先ずは妥協した。

 そのため電脳空間と現実空間の時間倍率差は一般企業では最大4倍、要するに現実空間の1時間が電脳空間における4時間までしか延長出来ないように規制されてはいるが、その倍率差は各個人の裁量に任されている。

 なお、電脳空間で仕事をして現実空間での時間を増やすか、現実空間で仕事して電脳空間で余暇を過ごすかも各個人の裁量に任されているが、家族持ちは前者、独身者は後者を選ぶのが多い。

 

 駆け足で説明したが、2179年現在でそのように一般家庭の生活にも密着しているVR技術を学ぶのが仮想現実応用技術専門高等学校だ。

 そして葵は春から高校生になるが、高校生はダイブ式の使用時間規定が大幅に緩和される時期でもある。

 中学生の頃は月単位での使用しか認められていなかったため、あまり身近な物とは思えていなかったのですっかり頭に思い浮かばなかった。

 

 例えばダイブ式のMMORPG。現在までにファンタジーからSFまで様々な種類のMMORPGが発売されている。

 他にもディ○ニー、ジブリやバンダイナムコといった企業が電脳空間上に作り上げたアミューズメントパークや、動物園や水族館、観光名所を体験出来たり、電脳空間ではどれだけ食べても実際のカロリーを取らないことを利用したレストランなど、VR技術には様々な可能性が広がっている。

 せっかく高校生になってダイブ式VRを自由に使えるようになったので、それならばVR技術に関連したものがいいだろう。となると葵が選ぶのは……。

 

 

「……ん、決めたよ」

「あら、本当? 何がいいのかしら?」

「何でも言ってくれ、葵君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動(MOBILE)電話(PHONE)がいい」

 

 

 

 

 

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 別に彼らが悪いというわけではなかった。

 時は22世紀を少しまわった頃、携帯電話業界は未曽有の技術進歩の停滞に見舞われていた。そこで彼らはただ行き詰り、停滞することによって生じていた業界の澱みを何とかしたいと思っただけだった。

 

 

 話の前に簡単に携帯電話の歴史を語ると、携帯電話の前身は第二次世界大戦中にアメリカ軍が使用していた双方向無線機だと言われている。

 その当時の技術ではまだまだ装置を小型にすることは出来ず、人の手では持てないためにリュックサックのようにして無線機を背負い、固定電話と同型の受話器を用いて無線通信を行っていた。

 もちろん今のように何百km離れた場所にも通信が届くわけではなく、あくまでその装置本体が電波を発信出来る範囲までしかない。要するに大掛かりなトランシーバーだ。

 そして戦争が終わり1960年代になると両手で持てるぐらいに、1970年代になると頑張れば片手で持てるぐらいには小型出来たが、それでもまだまだ重いために実用には適さない製品にしかならなかった。

 1979年に世界で初めて日本が携帯電話を商用化したが、商用化といっても自動車に乗せる車載電話機としての商用化であり、現在のような個人で持ち運べる携帯電話ではない。また車載電話機を導入する費用も通信する費用も従来の固定電話の費用の数十倍という有様であり、通信エリアも都市部のみに限られていたため使用者は極僅かでしかなかった。

 ようやく1985年には個人で持ち運べる携帯電話も出来たが、重量が3kgもある肩にかけて使用する“ショルダーフォン”という有様だった。

 

 やはり一般的にも携帯電話が普及し始めたのは1990年代になってからだろう。

 それまではと違いシャツの胸ポケットにも入るぐらいに小型化され、費用もそれまでに比べると随分と抑えられた。

 また二十一世紀に入ってインターネットが普及すると、携帯電話からもインターネットに繋げることが出来るようになるなど、通話のみだった今までの携帯電話から多機能を備えた携帯情報端末に進化を遂げた。

 

 それに加えてここまで携帯電話の発展がされたのは、携帯電話を必要としていたのが物資が溢れていた先進国のみならず発展途上国もだったからだろう。

 従来の有線固定電話では通信を行うためには、当然だが電話回線を通信局とユーザーの間に繋げなければ話にならない。何しろ()()電話なのだから。

 しかし一般家庭一軒一軒に電話回線を敷設するのは多大なコストがかかる。先進国はそれまでのインフラの蓄積があるために特に大きな問題にはならなかったが、他のことにもコストをかけたい発展途上国にとっては死活問題だ。

 そこで活躍したのが携帯電話。

 携帯電話なら国土をカバー出来るだけの無線基地局を建設し、その基地局同士を有線で繋ぐ必要はあるが、一般家庭一軒一軒に電話回線を敷設するのに比べたらかかるコストは段違いだ。

 なのでむしろ携帯電話とは有線固定電話が普及された先進国よりも、インフラの整備がされていない発展途上国にこそ必要な物だった。

 

 

 そのような事情で世界的に普及し、発展していった携帯電話だったが、二十一世紀の初頭を過ぎた頃になるとその発展が停滞していくこととなる。

 

 まず携帯電話のソフトウェアは2010年代で進化を止めたと言っていいだろう。

 もちろん2010年代以降から何の変化もなくなったというわけではない。ただ携帯電話が情報処理装置としての一面も持ったことから、ユーザーの好みに合わせて携帯電話にアプリケーションソフトウェアをインストールするという使用方式が一般化したためだ。

 最初の携帯電話は通話機能のみの単一仕様。それから電話帳の登録や留守番電話機能などが追加されていき、そして遂にはパソコンと同じようにアプリケーションソフトウェアを利用した操作方式へと進化した。

 しかしそれでソフトウェアの発展は止まってしまった。

 いや、正確に言うなら個々のアプリケーションソフトウェアは進化・洗練化されていったが、制御ソフトの基礎的な概念の発展は止まったと言うべきだろう。

 新たなアプリケーションソフトウェアが開発されることはあっても、新たな制御ソフト自体の概念が新たに作られることはなくなった。

 

 そしてソフトウェアだけでなく、ハードウェアの発展も停滞した。もちろん構成部品の小型化、省エネ化はまだまだ進められてはいる。

 ディスプレイもスマートフォンのような手に持つハンドタイプから専用眼鏡に映像を投影するウェアラブル式に進化した。

 携帯電話本体自身はカバンや胸ポケットなどに入れたまま、電話本体と専用眼鏡を無線通信で接続。視線入力デバイスや眼鏡のツルを利用した骨伝導イヤホンなどで、電話本体を直接触らずとも携帯電話を操作することが可能なお手軽さが受けている。

 また、高価な情報処理端末本体と比較的安価な情報出入力制御端末を別にすることによって、携帯電話を落として壊したりすることが少なくなったのも普及の要因の一つだろう。

 その後に空間投影式、そして最終的には脳の視覚野に電極アレイを取り付けて直接情報を脳へと送り込む人工視覚システムを応用した直接伝達式へと発展していった。

 しかし空間投影式は周囲の人間の邪魔になるので早々に廃れてしまったし、直接伝達式は脳の視覚野に電極アレイを取り付ける手術が必要なので一般的ではない。一度取り付ければ携帯電話以外の機械でも利用出来るが、そこまで踏み込む人間は極僅かだった。

 とはいえ、ここ30年ほどで大掛かりな装置が必要とはいえ電脳空間にフルダイブして遊べるVRMMOも商用化されたので、もう少し技術が進歩すれば脳に電極アレイを取り付ける手術が必要のない小型の直接伝達式も開発されるのだろう。

 

 このような進化を遂げてきた携帯電話だったが、現在は進化が止まってしまっていた。

 ソフトもハードも進化していくことは進化していくが、それはあくまで従来の能力が強化・洗練されるだけであって、まったく新たな発想に基づいたパラダイムシフトはここ数十年発生していなかったのだ。

 

 ただし技術者や企業を擁護しておくと、21世紀半ばを過ぎた頃に大規模な太陽嵐が発生。世界規模で電子機器を壊滅させただけでなく、癌患者を増大させるなどの人類自体にも多大な被害を与えたその太陽嵐の凄まじさは赤道直下でもオーロラを観測出来たほどだった。

 そして最終的には第三次世界大戦をも引き起こす発端となった大混乱まで発展したために、太陽嵐の発生から30年近くの間は技術革新どころではなくなった世界情勢が影響していることは付け加えておく。

 

 しかしそんな日々の中、22世紀を少し過ぎた頃に日本のとある会社のとある技術者のとある一言によってパラダイムシフトが起こることになったのだ。

 

 

 

 

 

「……そーいえば携帯電話(モバイルフォン)モバイル(MOBILE)って、モビルスーツのモビル(MOBILE)とスペルが一緒ですよね」

 

 

 

 

 

 少しばかりの沈黙の後、「「「「「ガタッ!!!!!」」」」」と音を立てて数人が席から立ち上がった。

 

 こうしてダイブ式VRを利用し、電脳空間に作成したアバターにではなく、現実空間に作製した人間大のロボットに人の意識を飛ばす機動(MOBILE)電話(PHONE)が誕生することとなった。

 

 

 

 

 

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「へぇ、MPを買ってもらうことになったのか?」

「まぁね」

 

 北海道札幌市清田区。

 200年前は札幌市内なのに地下鉄も通っていなかった不便極まりない僻地だが、流石に22世紀後半になると地下鉄が開通している。

 しかも僻地だったために開発の余地があったのが幸いして22世紀に入ると宅地開発がさらに進み、それに伴い様々な施設が建設されるなど比較的賑わっている区となっている。

 

 そして葵はおじさんと呼んで慕っている中学時代の担任でもある中学教師、安田悟の自宅を訪れていた。

 訪れていたというか勝手知ったる他人の家とばかりに悟が留守中の間に入り込んで、悟が趣味でコレクションしている古いマンガを読み漁っていた。

 死んだ葵の父と悟の仲が良かったのも、この古いマンガ好きという共通の趣味があったからだった。葵もその影響を受けてか古いマンガが好きでこうして勝手に悟の家に訪れては悟コレクションを読んでいる。

 

「相変わらず葵ん家は金持ちだなぁ。

 MP本体だけならともかく、LSS(生命維持装置(Life Support System))カプセルとか無線送電とかの初期設備費用も含めたら最低でも自動車ぐらいの値段するだろ。俺みたいな薄給の地方公務員じゃ気楽に買えないぞ。

 それで本体は何買うんだ?」

「普通の汎用型、それこそ古いモデルでいいとは思っているんだけど、今年がガンダム放映200周年記念の年だから主役級のモビルスーツのMPが抽選販売されるって噂があるんだよね。

 4月7日のガンダム放映200周年記念特番で発表されるんじゃないかって話だから、とりあえずそれまでは待つかな」

「は? 主役級のMPなんかガチでワンオフだろ?

 10年ぐらいに仮面ライダー初号のMPが1体だけ発売されたとき、10万通以上の応募があったって聞いたぞ」

 

 悟はマンガだけではなく古いアニメのコレクションも趣味だった。

 

 

 機動電話だがほとんどの日本人はM(エム)P(ピー)と呼ぶ。

 なにしろ携帯(MOBILE)電話(PHONE)とスペルが一緒なので紛らわしいからだ。人によっては義体やモビルスーツ、アーマード(A)トルーパー(T)と呼んだりすることもあるが。

 というか『これは電話じゃねぇっ!!』という意見が大多数なのが原因なのかもしれない。

 

 ちなみになぜMPが電話扱いなのかというと、人間とMPを接続する通信網の構築を電話会社が担っているからだ。

 そして今までの携帯電話を指す言葉は“ケータイ”が主流となっている。

 

 

 MPがここまで一般に普及する要因となったのは3つ。

 

 まず1つが量子通信技術の発達。

 この技術により従来の無線通信とは比較にならないほどのデータ量をほぼタイムラグなしで長距離に、しかも通信が切断されることなく転送することが出来るようになった。

 MPは操縦者とMP本体との間で常にデータ通信を双方向で行っており、そのデータ量は莫大のものとなる。

 もし量子通信技術がなければMPの能力は現在のものよりも数段制限されたものになっていただろう。

 

 次に核融合発電の実用化、および無線送電技術の発達。

 MPの開発者が困ったのはMPの動力源だった。

 いくら科学技術が進み省エネが洗練された上に人間大の大きさのMPといっても、MPの動かし方次第や搭載しているセンサー類などによって電力消費は激しくなるが、従来の発電機やバッテリーでは重量や体積の問題でMPの性能を発揮出来ないものとなっていた。

 しかし核融合発電によって無尽蔵ともいえる電力を賄えることが可能になったことからその状況が一変する。無線送電は元の電力の半分も送電出来ないのだが『なら200%の電力を送電すればいい』との頭の悪い言葉で解決したのだ。

 

 そして最後にスーパーコンピューターの安価化。

 MPに限らずダイブ式のVRの運用には多大の計算能力が必要だ。それが何万人もの人間が同時に使用するというのなら尚更の話だ。

 21世紀中盤になると“集積回路上のトランジスタ数は18か月ごとに倍になる”というムーアの法則の限界に達してしまい、数年の間はコンピューターの情報処理能力の進化が止まってしまったが、これは量子コンピューターへの移行がされていくことで解決された。

 スーパーコンピューターの運用には多くの電力が必要だが、それは核融合発電によって解決されている。

 また、電力の消費には熱の発生がつきものだが、それは多くの企業が北海道などの日本の中でも寒い地域にデータセンターを設置して冷房代を節約する方法が取られている。

 気温だけを考えればアイスランドなどのもっと寒い地域があるが、流石に他国にデーターセンターを移すとなると国によるダイブ式VRの管理に不都合が出るために北海道に多く作られることとなり、葵の継父はこの事業によって財を成すことが出来た。

 

 

「新井の家は葦乃(あしの)が継ぐから、自分は外に出なきゃいけないからね。

 だから食いっぱぐれない職を手にしなきゃいけなかったから、MPの操作練習を自家用MPで出来るようになるのはありがたいし」

「……案外、お前は葦乃(義妹)ちゃんと結婚しそうだけどな。そもそも外に出るのを麻子()さんと桐彦(継父)さんが許すか?

 確かに仮技高を優秀な成績で卒業出来れば、海資でも軍でも選び放題だろうけどよ」

 

 

 MPは様々な分野に用いられているが、やはりその中でも恩恵を一番受けているのは日本海底資源採掘公社と日本軍だろう。

 核融合発電によって火力発電用に石油を輸入する必要はなくなったが、日本に必要な資源は石油だけではない。いや、石油も化学繊維などの石油製品製造に必要なのでまだまだ輸入する必要がある。

 他にも食糧や鉱石など様々な物資を輸入しているが、量に限界はあるとはいえ毎年生産出来る食糧の類はともかくとして、鉱石の類は22世紀に入ると採掘国からの輸入が難しくなっていった。

 これは第三次世界大戦の混乱の煽りを受けて鉱石の採掘・輸送に問題が生じているのではなく、採掘出来る陸上の鉱石自体が枯渇していったためなので、無資源国であり加工貿易国である日本にとっては致命的な事態だった。

 

 しかしこのことを早くから予想していた日本政府は、自国の排他的経済水域の海底資源の採掘を国策として昔から取り組み始めていた。

 何しろ日本の排他的経済水域は世界でも10位以内に入るほど広く、火山活動が活発なために海底熱水鉱床も多くあるので資源埋蔵量としては世界屈指のものを誇っている。

 とはいえ海底資源を採掘するのには多大なコストが必要であるため、陸上の鉱山から資源を採掘出来ていた時代には割に合わないことから21世紀の間は海底資源の採掘は見送られていたが、陸上資源の枯渇と採掘技術の発達による採掘コストの低減次第によって22世紀に入る頃になると採算が取れる事業となった。

 

 さて、そんな状況で何故MPが海資や日本軍で活用されているかというと、一言で言えば“人件費の削減”に尽きる。

 海資だけではなく日本軍でも同様の話なのだが、先進国で何かコストがかかることをしようとすると人件費がコストの内訳の中の多くを占める。

 例えば飲食店では原価3割、人件費3割、家賃や電気代などの経費3割で、儲けが1割程度しかないと言われているし、日本軍も21世紀前半の自衛隊時代では国防費の4割強が人件費を占めていた。

 金がなければ人間は生活出来ないので仕方がないと言えば仕方がないのだが。

 

 しかも海資の仕事は海底資源の採掘。つまり仕事先は大海原なので、一般企業のように朝出社して夜帰宅するなんて生活は出来ず、一度海に出たら数カ月は陸には戻れない。

 周りは見渡す限りの大海原。遊ぶ場所なんぞあるわけはなく家族ともTV電話で話すときぐらいしか会えない。しかも人間が生活するためには物資が必要なので、何か月かごとに生活物資を船で大量に輸送しなければならない。

 要するに船乗りと同じような生活を送るのだが、こんな仕事内容では特別手当でも出さないと人が集まってくれないのだ。

 

 日本軍も第三次世界大戦の結果、隣国の某共産党が崩壊したため世界最大の人口を誇る国が分裂。終いには内戦や紛争が頻発したために難民が発生。海路を渡り、多くの人間が日本に亡命しようと試みた。

 とはいえ禄に整備もされていない漁船で亡命を試みたせいで大多数は海の藻屑と消えてしまったが、それでも日本が養うには難しいぐらいの多くの人間がやってきた。

 日本としても多くの人間を受け入れることは出来ないのでほとんどを人間を強制的に帰国させたのだが、外国からの非難の他にも問題が生じた。

 それは“難民による日本国無人島の不法占拠”である。

 

 かねてからイチャモンをつけられていた尖閣諸島のような地理的に重要な島ではなく、地図を見ても名前がないような無人島に難民が侵入。そのまま島に住み着いてしまう事態が多く発生した。

 日本軍も早くから離島防衛の算段はつけていたが、それはあくまで日本国民が住んでいる有人島を防衛するためのものであり、無人島に黙って人間が住み着くような事態は想定していなかった。しかも見つからないように隠れ住むので、最長の不法滞在記録は10年にも及ぶこともあった。

 

『長い間住んでいたのだから、この島はもう私達のものだ!』

 

 という寝言をほざく不法入国者を叩き出すこと数百回。

 日本政府も何とかしようと考えたのだが、対応策としては無人島を頻繁にパトロールするか、もしくは島を開発して有人島にするかぐらいだ。

 だが、いるかどうかわからない不法入国を探しに無人島をパトロールするのも、無人島を有人島にするのもどちらにしろ金がかかる。

 有人島にするには民間人を呼び寄せてを島に永住させるか、日本軍を駐屯させて警備に当たらせるかのどちらかだが、人間が住むにはインフラが必要だし島では生産出来ない生活物資の輸送も必要だ。民間人を住まわせるには元無人島に住みたいと思わせるぐらいのインフラや手当が必要だし、それが日本軍だとしても離島手当などの本土に住む軍人とは別の特別な手当が必要となる。

 いや、そもそも日本には本州や四国、九州、北海道などの大きな島を含めて3000以上の島があるのだ。無人島が1つ2つなら日本軍を駐屯させるのでいいかもしれないが、全ての島に人を住まわせるの予算がいくらあっても足りない。

 

 

 しかしそんな状況に登場したのが機動(MOBILE)電話(PHONE)

 

 先にも言ったがMPは現実空間に作製した人間大のロボットに人の意識を飛ばす形となるので、操縦者は現地に行かずともMPを操縦出来る。もちろんダイブ中は人間本体が無防備になるために安全が確保された建物内でダイブすることとなるが、それでも歴史的な自然災害やその建物を狙ったテロが起きない限り安全は確保されている。

 つまり危険手当やら出張手当やらその他諸々の特別手当が一切合財必要なくなるということだ。

 そしてMPが戦闘で壊れたとしても操縦者には被害はないので死者が出るわけはないので、遺族に対する年金などの恒常的な経費も必要ない。しかも操縦者は仕事が終われば普通に街に帰るので、消費者としての行動も期待出来るのだ。

 

 また、無人島や海底資源採掘所にMPを配備すること自体も、人間を派遣することに比べると非常に低コストとなる。

 人間を派遣すると生活物資の輸送や、先にも言った特別手当の支給が必要だが、MPを配備するのに必要なのは極論を言えば最低3つしかない。

 MP本体、そして無線送電システムと通信網の構築だ。

 

 そもそもMP本体自体が戦車や戦闘機などに比べると安価である。

 鉄より軽くて強く、弾性に富んでいる炭素繊維で構成されている骨格。生体筋肉に比べて単位面積当たり数十倍の出力を誇るCNT筋繊維で出来た人工筋肉。光学、振動などの様々な信号を検知するセンサー類。

 このような物で構成されているMPだが、ロボットとして一番重要で高価な物。即ちMPの動きを制御するコンピューターはMP自体には搭載していないため安価な造りとなっている。

 制御に関しては量子通信によってリアルタイムで本土と通信。MPから本土に設置してあるスーパーコンピューターを通して操縦者が反応しやすいように処理をしつつ情報を送信し、その情報を元に操縦者が指令を出してMPを操縦する。

 また、技術の発達により携帯電話の無線基地局と同じように数十kmのエリア内なら送電も通信も出来るので、無線送電システムも通信網も無人島1つにつき1つずつ用意する必要はないので、運用に必要なインフラ整備自体にも費用はそれほどかからない。

 

 そしてもう1つの利点。それは1人の操縦者で複数のMPを操ることが出来る、ということである。といっても、これは同時に複数のMPを操縦するということではない。

 例えば無人島警備のために配備されたMPだが、まさか警備のために24時間中ずっと操縦者がダイブしているわけではないのだ。

 何しろ警備対象は不法入国者がいつ来るかどうかもわからない無人島。24時間中ずっと警備しているのではなく、1日、もしくは数日おきに島内をMPで巡回して不審者がいないかどうかの確認をすればいいだけなのだ。

 これが人間を派遣して巡回するとなると多大な費用がかかるが、MPなら1日に1島巡回するとしても週休5日制なら1人で1週間に5島は巡回出来る。いや、小さな島だったら1島の巡回に1日もかからないだろう。

 

 そしてもし巡回中に不法入国者を発見したら直ちに応援を要請。日本軍が強制帰還させるために船でその島まで向かってくる間、MPは不法入国者の拘束にかかる。

 拘束する時は銃火器類は使わずに拘束する。これはいくらMPを配備しているとはいえ、銃火器類を無人島に放置しておくわけにはいかないからだ。

 そもそもMPの身体能力は軽く人間を上回っているため、銃火器類を使わずとも素手の人間相手なら数十人を相手取れるから銃火器類は必要ないとも言える。

 例えもし不法入国者が軍人崩れで何らかの装備を使ってMPが破壊されたとしても、日本国軍の装備・財産を破壊したテロリストとして不法入国者を処分する名目が得られるので、どちらに転んでも問題はない。MPを破壊されたら再配備する必要があるので破壊されないことが望ましいのだが。

 

 海資でも同様だ。もちろんMPだけに採掘現場を任せることは出来ないので最低限の人数は生身の人間が必要だが、それでもMPを使うことによって危険な作業は生身の人間がする必要がなくなる。

 それに海中施設に人間が入るときは減圧症の問題を解決するために施設内の気圧と海中の水圧を同じにする飽和潜水という技術が用いられているが、生身の人間を高気圧に慣れさせるためにはゆっくりと長い時間をかけて加圧していく必要があり、海上に戻るときも同じく長い時間をかけて通常気圧に身体を慣れさせる必要がある。施設のある深度にもよるが、どんな深度でも入場時と退場時に必要な時間は、両方合わせると安全のためには半日は必要となるだろう。

 しかしMPなら減圧症の問題がない上に、そもそも呼吸をしないMPには酸素が必要ないので生命維持自体には気を払わなくて済むのだ。他にも資源の採掘により有毒ガスの発生が起こったとしても自然破壊以外には問題がない。

 このように海中での作業を人間に代わってMPが行うことで、危険手当や事故があったときのための生命保険料などを節約することが出来るようになったのだ。

 

 このような状況なのでMPの操縦技能を持っている人間は就職先は引く手数多となっている。

 仮技高を卒業した後に防衛大に進んで日本軍を目指しても良いし、大学で専門知識をつけて海資に進んでもいい。

 警察や消防、一般企業も危険な作業はMPで行うことが一般化しているのでそちらの方面に進むのもいいだろうし、仮技校で習得するVR技術はMPの操縦技術に限らないので別の道を模索することも出来る。

 将来、新井の家を出ることになるであろう葵にとっては理想的な進学先だった。

 

 

「それでMPはどのモビルスーツにするんだ? やっぱり一番好きって言ってたΖガンダムか?」

「いや、MPは空飛べないからねぇ。せっかくΖが抽選に当たったとしてもウェイブライダーが使えないんじゃ魅力半減だし、次に好きなキュベレイもファンネルを使えないしねぇ。

 だから応募するとしたらジ・Оかな。隠し腕とかカッコいいよね」

「また場所取りそうなものを……」

「いいじゃん、どうせ当たらないんだろうからさ。当たったらラッキー程度でいるよ。

 そっちにかまけて授業についていけなくなったら困るしね。まずは学校優先でいくさ」

 

 

 2179年3月23日。地球温暖化のために桜の開花時期が200年程前に比べると1ヶ月ぐらい早まったが、それでもまだまだ北海道には桜が咲く様子は見られない。

 リアル三国志をしている隣国などがあるが、日本は不法入国者が頻発している以外は概ね平和。

 そんな日々の中、新井葵は高校生としての新たな生活をもうすぐ踏み出すこととなる。

 

 

 

 







 お久しぶりです。嘴広鴻です。
 随分と長い間ご無沙汰しておりました。

 やはりオリジナル作品というのは難しく、あーでもないこーでもないとちょっと書いては止めてまた書いては止めて、という日々を過ごしていたらいつの間にか年が明けていました。三人称の書き方も難しいです。
 尻切れトンボで終わってしまいましたが、とりあえずオリジナル作品のプロットというか方向性が決まりましたので、プロトタイプという形で一度チラシの裏に投稿することにしました。
 おそらく機動(MOBILE)電話(PHONE)というネタを使っておられる作者の方は他にいないと思うのですが、もしおられるようでしたら作り直しますのでメールか感想掲示板で教えてください。
 いや、いないとは思うんですよ。"機動電話"でググっても中国の携帯電話関連のサイトばかりでしたので。


 ……我ながら何でこんな駄洒落みたいなネタを思いついたんだろうか?


 まぁ、機動(MOBILE)電話(PHONE)以外は攻殻機動隊の義体とかガンダムBFとかSAOなんかを混ぜたモノ…………のような感じになってますかねぇ? 自分でもよくわかりません。
 でも個人的な意見としては攻殻機動隊、もしくはSAOのような電脳世界云々が実現するのは難しいと思うんですよね。技術的な問題ではなくて“人間の脳がそこまで器用になれるのか?”ということ観点からですが。
 ちなみにこの作品のコンセプトとというか書こうと思ったキッカケは

“SAOのようなVR技術が発達した近未来が舞台の作品はあるけど、そういう作品は電脳世界が舞台になるのがほとんどで、その近未来の現実世界自体を舞台にしたらどういう作品になるのだろう?”

 という考えからでした。…………でもそれって攻殻機動隊?
 もしかしたら自分が読んでないものでそういう作品もあるのかもしれませんけど、自分が書くとこういう感じになるかな? ということです。
 正直、思いついたネタを死蔵するのはもったいないという想いで書いたため、ここまで書くだけで力尽きてしまいした。この続きを書くかどうかはわかりません。書くとしたら三人称じゃなくて一人称にしようかな。

 ともあれ短い作品でしたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
 それと科学技術に関しては本当に適当に書いていますので、ツッコミを入れて頂いても修正はしないと思いますのでご了承ください。


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