3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第10話 3歳児はミニリュウとタツベイを手に入れる

 エリカ様とおばあちゃんに事情を離して、ポケモンセンターに泊まることになった。

 エリカ様は俺がタマゴの前から離れないと電話で聞くと、ジムを放り出してポケモンセンターに来てくれた。

 

 おばあちゃんは心配していたけど、「エリカが近くにいるなら大丈夫ね。きっと大丈夫よ」と言って俺をそっとしておいてくれた

 

 しばらくしてイーブイとピジョットを連れてポケモンセンターにやって来たジュンサーさんにもいろいろ聞かれたが、タマゴのことが心配で、すこし上の空だった。

 

 それでもきちんと受け答えはしたはずだ。

 このタマゴが、どうしてこの状況になったのか。

 トレーナーカードを提示してから包み隠さずジュンサーさんに報告すると、「あなたは適切な行動をしたわ。頑張ったわね、小さなトレーナーさん」と言って、最後に俺の頭を撫でた後、ポケモンセンターを後にした。

 

 あの後、マサヨシがどうなったのかは知らない。

 知ろうとも思わない。

 

 タマゴにヒビが入ったのは夕方だ。

 現在は、もう夜の9時だよ。

 

 あれから、ずっとタマゴの中から動いている気配はあるのだが、どうにも時間がかかるようだ。

 当然だ。本来ならまだ孵化するようなタイミングじゃないんだから。

 

 身体は出来ているとはいえ、未熟のまま孵化の作業をしているのだ。

 ミニリュウにとっても、孵化は大変な作業だろう。

 

「がんばれ………」

「がんばってください………」

 

 タマゴのヒビがさらに大きくなる

 

 しかし、そこから先に進まない。

 

 エリカ様は、飽きもせずにずっと俺に付き添ってくれた。

 5時間以上、俺と一緒にタマゴを見てくれている。

 

 だが、それでも集中力というのは途切れてしまうものである。

 

 それから、更に1時間。

 

 

「――さん、レンジさん」

「ぅえ?」

 

「さすがに、ずっと見張っているのは疲れますよ。お風呂に行きましょう」

 

 

 どうやら、すこし意識が飛んでいたらしい。

 エリカ様に揺すり起こされて、寝てしまっていたことに気付いた

 

 ブルブルと頭を振って眠気を追い出す。

 しかし、頭が回らない。

 

「うん、ちょっとお風呂でリフレッシュしたほうがよさそうだ。僕も疲れた………」

 

 

 さすがに、5時間以上タマゴの孵化作業を見守り続けていたら、当然疲れてしまう。

 それはしょうがない。

 

 だったら、すこしでも力を抜くために、一度ここを離れてリフレッシュした方がいい。

 

 

 

                  ☆

 

 

 

 エリカ様に連れられて、お風呂でリフレッシュするが、俺は着替えも何もない事に気付いた

 当然だ。俺は元々外で遊んでいただけなのだし、泊まることなど想定していなかったのだから。

 

「もっかい同じの着ればいいか………」

 

 今は、そんなことよりも、タマゴの方が心配だった。

 

「ダメですよ、レンジさん。着物は清潔にしないといけないのです。こんなこともあろうかと、一度私の部屋からレンジさんのお着替えを用意してこちらに来ていたのです。さ、こちらに着替えてください」

 

 エリカ様の部屋から持ってきた服って………女物しかないじゃん

 

「でもま、この際なんでもいいや。早く様子を見に行かないと………」

 

 エリカ様と二人でお風呂に浸かってさっぱりし、エリカ様が用意した服を着て、すぐに元のタマゴの部屋に戻る。

 この際、レンジでもオレンちゃんでもなんだっていい。

 あの子が心配なんだ。

 

「あ………さっきよりちょっと欠けてるんじゃない?」

 

 見れば、タマゴのヒビ割れていたところが剥がれ落ち、中の“ピンク色”の尻尾がチラッと目に映った

 

「ん? ピンク? ミニリュウって青色だよね………やっぱり、落ちた衝撃でどこか怪我しちゃったのかな………」

「でも、血の色じゃなさそうですよ?」

 

「うーん、ジョーイさん呼ぼうか。」

「そうですね………」

 

 

 タマゴにヒビが入った衝撃で、どこか異常が出てしまったのかもしれない

 急いでジョーイさんに知らせて、こちらに来てもらった

 

「みゅー………」

 

 タマゴの中からくぐもった声が聞こえてくる。

 体力が足りないのか、少し元気がなさそうだ

 

 

 ナースコールでジョーイさんを呼ぶと、すぐにジョーイさんが来てくれた

 

 

「オレンちゃん、どうなさいました? あ、もうすぐ孵りそうなんですね? 明日の朝になっても出てこないようなら人工孵化をさせようと考えていましたが、どうやらその心配はなさそうですね」

「うん。どうしたらいい? なんだか元気もなさそうだし………」

「体の色も、なんだか普通のミニリュウと違いますし………早く孵った弊害でしょうか………。」

 

 

 ジョーイさんのスルースキルがすごい。

 

 いつのまにか俺が女装して“オレンちゃん”になっていても、すぐに順応して“オレンちゃん”と呼んでくれた

 

 別にうれしくない。

 

 なんでそんな、レンジとオレンちゃんを別人として考えるのだろう。

 俺は一人なのに。

 

 

「怪我は………たいしたことはなさそうですが、しばらく様子を見ましょう。この子の色は………もしかしたら、色違いのミニリュウかもしれませんよ。」

 

 ジョーイさんのセリフにハッとする。

 そういや、ミニリュウの色違いの色って、ピンクじゃなかったか?

 

 じっと小さな穴の開いたタマゴを見てみると、

 

「みゅー」

「あ………」

 

 ピキッとまた一つ、タマゴが欠けた。

 その穴からくりくりとした、小さなおめめとバッチリ目が合った。

 

 口元をタマゴにようやく開いた穴に持って行き、パリパリとタマゴの殻を食べ始める

 

「タマゴの殻って食べられるんだ………」

「意外と栄養は多いですからね。産まれてすぐにする行動で、本能的にこうするポケモンは非常に多いんですよ」

 

 

 小さな身体で一生懸命タマゴを食べる姿を、しばらく眺める

 

 

「あ、色違い………」

 

 ミニリュウが卵の殻を食べ続け、ようやく見えてきたミニリュウの姿は、全体的にピンク。

 そう、ワタルからもらったミニリュウのタマゴは、色違いのミニリュウだった。

 

 まさか………国際孵化………?

 

 チャンピオンならば外国に渡ることもあるだろうし、可能性が無きにしも非ず………。

 

 ラッキーだったと考えよう。高個体値でかつ、色違い。

 

 タマゴにヒビが入った衝撃で産まれるのが早くなってしまったが、それでもこの子は元気に生きている

 怪我がない事に安心して、自然と涙が零れてしまった

 

「よかった………本当に、無事でよかったよぉ………」

 

 へなへなと力が抜けてしまい、床にへたり込む

 あぁ、緊張の糸が切れると、本当に腰が抜けて立てなくなるんだね、初めて知ったよ………。

 

「オレンちゃん、本当によかったですね!」

「うん………」

 

 俺を抱き上げたエリカ様。俺はエリカ様の着物に顔を埋め、声を押し殺しながら、涙を流し続けた

 

 

                ☆

 

 

 さて、困ったことが起きたぞ。

 

「みゅー♪」

 

 色ミニリュウが産まれて1週間。

 仕事も休んで献身的にミニリュウに尽くしていたのだが………

 

 

「みゅー! みゅー! みゅー!!」

 

 

「はぁ、なんでダメなんだ?」

 

 

 ミニリュウは“オレンちゃん”のことが大好きで、自分の親だと思っているようだ。

 

 だが、ひとたび俺が着替えて“レンジ”の姿でミニリュウの目の前に表すと、途端に不安になって“オレンちゃん”を探すのだ。

 

 おーい、同一人物だよー?

 匂いも同じなはずなのに………髪型と服装を変えただけで、ミニリュウに認識されなくなってしまった

 

 

「どうしてくれんのさエリカ様! 僕このままずっと女装し続けるなんて嫌だよ!」

「うふふ、いいじゃありませんか。このままオレンちゃんとして生きましょうよ」

「嫌だってば! それに、僕は“オレンちゃん”だけじゃダメなんだよ!」

 

「タッベーイ!」

「ブイブーイ!」

「ピックシー!」

 

 

 ミニリュウが産まれた3日後にはタツベイも無事に孵化した。

 

 この子はちゃんと“レンジ”のことを認識してくれるのだが………。

 逆に“オレンちゃん”のことを他人だと思っている。

 

「どうすんの、この袋小路!! 本格的に二重生活をしないといけないの!?」

 

 体の弱いミニリュウを放っておくわけにもいかず、ミニリュウが安心できる女装“オレンちゃん”で接し続け

 ミニリュウに構いすぎないように、適度に男装“レンジ”でタツベイと遊ぶ。

 

 ミニリュウとタツベイの中は良好。

 ミニリュウは♀でタツベイは♂

 

 ちなみにタツベイは色違いじゃなくて、普通のタツベイだ。

 

 俺はもう、タツベイとミニリュウに合わせて着替えるのが面倒くさくて面倒くさくて………

 

 まぁ、タツベイの方は“オレンちゃん”を見ても不安がることは無いし、むしろ女装している方が、お世話が楽だと感じているのは、もう末期なのかもしれない

 

 

 ミニリュウとは違って比較的に元気なタツベイに、イーブイとピクシーが積極的にかまってくれているため、俺はミニリュウのお世話に集中できる。

 

 現在はイーブイとピクシーを相手に頭突きの練習中だ。

 

 そんな彼は厳選中なだけあって、かなりの高個体値。

 

H・31

A・31

B・31

C・28

D・31

S・31

 

 

 まさかの5Vである。

 しかも特攻も気にならないレベルである。

 

 対するミニリュウ

 

H・0

A・31

B・15

C・31

D・31

S・31

 

 

 体力がまさかの逆V

 防御力も低い。

 紙耐久のミニリュウだ。

 

 もしかしたら、体力が低いのは普通の孵化よりも早く産まれてしまった弊害かもしれない。

 

 表示されていないだけで、もしかしたらマイナスという可能性もある。

 

 ミニリュウの体調がよくなってくれれば、もしかしたら、体力も回復したらいいなと思う。本当はVだったりして。

 

 

「でもま、元気になってくれてなによりだよ」

「そうですね………」

 

 

 よいしょっと男装を脱いで女装に着替える。

 もはや抵抗なんて無い。

 

 フリフリのカチューシャとエプロンドレスを着て、と。これでよし。

 

「みゅー♪」

「タッベーイ!」

 

 ミニリュウがベッドの上から身体をくねらせて、俺に喜びを表現して見せる。ほっこり。

 ミニリュウがオレンちゃんにしか反応しないのであれば、ミニリュウのモンスターボールにオレンちゃんのIDを書きこんで、正式にオレンちゃんのポケモンにするだけだ。

 

 それにしても、目の前で着替えているのに、なぜ気づかないのだ。

 

 実はアホの子なのか?

 

 ねえイーブイ。どう思う?

 

 あ、顔を反らされた。

 

 そんなに雰囲気が違うのかな。

 

 ミニリュウのピンクの頭を撫で、タツベイのゴツゴツした頭を撫でる。

 

「みゅー♪」

「べーい♪」

 

 気持ちいいか。かわいい奴らだ。

 だけど、俺だってさすがにずっと付き添ってやれるわけじゃない。

 

 ミニリュウは体が弱くて、点滴したり、検診を受けたりしなければならない。

 だが、俺にだって仕事がある。

 

「ミニリュウ」

「みゅ?」

 

「明日は、夕方にもう一回来るから、寂しいだろうけど我慢してね。」

「みゅー………」

「タッベィ!」

 

 落ち込むミニリュウ。それを励ますタツベイにほっこりだ。

 

「大丈夫。タツベイが近くに居てくれるし………」

「ブイブーイ!」

「ほら、みんなの頼れるおねーさんの、イーブイも一緒に居てくれる。だから、がんばろ?」

「みゅー!」

 

 瞳に涙を溜めながら、コクリと頷くミニリュウ。

 偉いよ。もう立派なドラゴンポケモンだ。

 

 ポンポンと優しくミニリュウの頭を撫で、部屋を出た。

 

 

「よし、今日から学校に顔を出さないと、さすがに迷惑が掛かっちゃうね」

 

 

               ☆

 

 

「あ、レンジ!」

「あのタマゴはだいじょうぶなの!?」

「シンパイしたんだから!」

 

 

 ちゃんと男装に戻ってトレーナーズスクールに顔を出せば、ハヤト、ケンジ、サナエちゃんの三人が心配して駆け寄ってきた

 

「うん。無事に産まれたよ。ただちょっと身体が弱いみたいで、今はまだポケモンセンターから出られないんだ。」

「そうなんだ………」

「かわいそう………」

「………」

 

 みんなもミニリュウの無事を祈ってくれていたんだ。

 きちんと生まれてきてくれてほっと息を吐いた

 

「みんなも、心配してくれてありがとう。今はイーブイ達がついててくれるから、大丈夫」

「そういや、いつものイーブイがいないな」

「そういうことだったんだ」

「イーブイをつれてこないなんて、ズルいわよ! でも、しかたないわね」

 

 ズルくないです。

 俺だって心苦しいんだからね。

 

 

 

「………レンジ。」

「………あのタマゴは無事?」

 

 フゥとランも心配そうにこちらに向かってきた

 

「うん。ちょっと身体が弱いけど、おおむね大丈夫な感じ」

「そっか。それならよかった。」

「安心したわ」

 

 この子達も当事者だからね。心配するのも当然か。

 

「ねえ、そういやマサヨシは? あいつに一言謝ってもらった後、ぶん殴って頭踏みつけないと気が済まないんだけど」

 

 トレーナーズスクールに到着してからというもの、マサヨシの姿を見ない。

 どこ行ったんだアイツ。

 

 ミニリュウの前で土下座させてやりたいのに。どこ行きやがった

 

「マサヨシは………引っ越したよ」

「はぁ?」

 

 引っ越した? そんな急にか?

 

「あんなことをしでかしたんだ。」

「ポケモンのタマゴを叩き割ろうとするなんて」

「マサヨシにトレーナーの資格はないよ」

「そんな奴がこのトレーナーズスクールに来ても」

「白い目で見られるだけだから」

「だから、ジョウト地方に引っ越しをしたんだって」

 

 フゥとランが交互に喋るからそれに合わせて俺も視線を動かさないといけないので、首が痛い

 チッ、マサヨシは逃げやがったのか。いつか、見つけたらリアルファイトでボコボコにしてやる。

 

 訴訟起こして金をもぎ取ってやろうかと思ったが、あの卑怯者のことだ。きっとあの手この手を使って逃げるだろう。

 

 フゥとランも、ジュンサーさんから事情聴取をされて、マサヨシ側について俺を貶めようとしていたことを話すと、やはりというかなんというか、こっぴどく叱られたそうだ。

 そりゃそうだ。

 

「まぁいいや、あんなクズはもう知らん。ほら、みんなも席についてー! 今日はポケモンの進化について教えてあげる。出てこい“ロコン”“クサイハナ”“ウツドン”!!」

「コーン!」「ナー…」「ばうーん」

 

 だが、フゥとランにはポケモンに対する愛情があるはずだ。

 なんてったって将来のジムリーダーなのだから。

 


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