3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第12話 3歳児は敗北を知る

「先手は貰うよ! ミニリュウ、“でんじは”!!」

「りゅー、みゅうー!!」

 

 FRRGの女主人公であり、現主人公レッドの妹、“くりむちゃん”とのバトルが始まった。

 

 こちらの手札はミニリュウのみ。今のわたしは“オレンちゃん”。

 イーブイは“レンジ”のポケモンなので使いません。

 

 覚えたての補助技である電磁波をフシギダネに放つ

 

 

「ダネー!」

「ああ! フッシー!」

 

 電磁波をもろにくらったフシギダネは身体がしびれてうまく動けないようだ

 痺れる身体に鞭を打ってフシギダネは足を踏ん張る

 

「頑張って、フッシー! 体当たり!」

「ダ、ネ、フッシャ!」

 

 どかっ!

 

「みゅー!」

 

 くそっ! フシギダネの体当たりに、ミニリュウは吹き飛ばされてしまった

 ミニリュウは耐久力がない。だが、フシギダネにも攻撃力はそんなにない

 

「大丈夫か! それなら、にらみつける!」

 

「みゅっ!」

「ダネェ!?」

 

 ミニリュウに睨みつけられて少しだけ怯えてしまうフシギダネ

 こんなんで本当に相手の耐久力が下がるのか疑問だが、下がっているのだろう。

 

「たいあたりよ!」

「ダ、ネ………」

 

 慌ててくりむちゃんが指示をだすが、フシギダネは身体がしびれて動けないようだ。

 電磁波がいい感じに仕事をしてくれている! これなら貰った!

 

「まきつく!!」

「みゅー!」

「ダネー!」

 

 

 まきつくは相手に巻きついて1ターンに8分の1ずつダメージを与える技だった。

 これならあと5ターンあれば倒せると、そう思っていたが、そうは問屋が降ろさなかった

 

「みゅー!」

「んなぁ!?」

 

 フシギダネに巻きつけられるほど、ミニリュウの身体が大きくないということだ。

 ゲーム時代と現実は違うのだ。もちろん、ターン制ですらない。

 

「首! 首に向かって巻きつく! 自分の身体が入る場所を探して!!」

「みゅうー!」

 

 わたしの指示に従い、ミニリュウは即座に首に向かって巻きつくを行使する

 ミニリュウが覚えている技は“でんじは”“まきつく”“にらみつける”のみ

 

「ダ、ダネェ………」

「そのまま締め上げて!!」

「みゅぅうー!!」

 

 フシギダネが苦しそうにもがくが、ミニリュウは離さない!

 

「やったか!」

 

 このままいけば勝てる。わたしは勝利を確信して声を上げる

 

「フッシー! “やどりぎのたね”!」

「フッシャー!」

「みぎゅぅ………」

 

 フシギダネの背中の種からポンと小さな種が吹き出し、ミニリュウに付着。

 それは小さく成長し、ミニリュウの体力を奪う。

 

 寄生樹!?

 つまりフシギダネのレベルは最低でも7を超えている

 ミニリュウのレベルは5だし、トキワシティに行くときにレベルを上げてきたのか!

 

 不覚!

 

 こちらが巻きつくで継続ダメージを与えても、あちらの寄生樹継続ダメージがそれを回復してしまう。しかもこちらの体力を奪われるおまけつきだ!

 

 巻きつく単体のダメージは高くない。体当たりの方が高いくらいだが、ミニリュウの身体では体当たりなど柔らかすぎて意味をなさない。

 

「たいあたり!」

「ダ………ダ、ネェ!」

「みぎゅ!」

 

 首元に巻きついたミニリュウを地面に叩きつけるように体当たりをかましたフシギダネ

 まだミニリュウに体力は残っているのだが………

 

「だめだ、降参! まいりました!!」

 

 相手の動きが鈍くなっても寄生樹をどうにかできる力がなかった

 負けが確定したこの試合。続ける意味は無い。

 これ以上ミニリュウが傷つく前に降参した方がいい

 

 こちらが負けを認めると、ミニリュウに宿った寄生木が腐るようにボロボロと崩れた

 

「やったぁ! 勝ったよ! フッシー!」

「ダネダネ!」

 

 なんといっても、こちらに攻撃技が無いのがつらい

 

 ミニリュウの巻きつくだって、実際継続ダメージの方がダメージ多いし、だから睨みつけるをやったんだけど、それでも大してダメージにならないもん

 

 こんなことなら技マシンを使っておくべきだったか………

 

「お疲れさま、ミニリュウ。」

「みゅう………」

 

 ぐてっとフシギダネの首で力無く項垂れるミニリュウ

 ポテリとおっこちて白いおなかをこちらに見せる

 

「みゅー! みゅー!」

 

 じたばた、じたばた。

 あらやだかわいい

 

「おいで、ミニリュウ」

 

 それからくるりと体を反転させ、にょろにょろとわたしの足から這い上がってきたので、抱き上げて頭を撫でてあげた。

 

 仕方ないよ。今はまだ弱いかもしれないけどさ。お前の将来は立派な600族。

 カントー地方で最強のポケモンになるんだ

 

 一緒に頑張ろうな

 

 ミニリュウを手当てした後は残った体力でわたしのリュックの中に入る。

 ボールに入るのは嫌らしい。外の世界に興味津々だから、それも仕方ないことだ。

 

「やったぁ! 初めてトレーナーと戦って勝ったよ!」

「おめでとう、くりむちゃん!」

 

 何気に初めてトレーナーと戦って、初戦で負けた。

 ちなみに賞金取引は存在しなかった。

 

 初めはゲームみたいに賞金取引があるのかと思っていたが、おばあちゃんに確認してみたところ、それは互いに合意がなければできないそうだ。

 まぁ、そりゃそうだろう。そんなのが横行してたら町中スキンヘッドと暴走族ばかりで溢れてしまう

 

 一方的にけしかけても、違法となる。

 ちなみに暴走族などは脅して無理やり合意を得る場合もあるからやはり要注意だそうだ。

 

 賞金取引システムは一応動いているけど、合意が必要。これ豆な。

 

「あー、悔しい! でもわたしたちももっと強くなってくりむちゃんに勝つから、覚悟しててね!」

 

「えへへ、受けて立つよ! そういやさっきグリーンがポケモンリーグに挑戦するって言ってたっけ………ズルい! 私も挑戦したい! オレンちゃん、また会おうね! 私はもう行くわ」

 

 ポケモンリーグはバッジを集めてからじゃないといけません。

 でも、そんなことを知らないグリーンとレッドとくりむちゃんは、ポケモンリーグの受け付けがある場所まで行っちゃうんだよなぁ

 

「頑張ってね! わたしはもう少し修行を積んでから、いろいろな場所を見て回りたいんだ。くりむちゃんのこと応援するよ!」

「えへへ、ありがとう、じゃあねー!」

 

 転がってきたモンスターボールを拾ったことから始まった不思議な縁。

 これからも幾度となく会うだろうライバル。

 

「楽しくなってきた………いろんな茶々を入れてやろう」

 

「ブイ?」

 

 

 ゲーム知識を活かしたアドバイスをふんだんに使って、彼らを導いてやろう

 

()は性格が悪いからね」

 

 我ながら気が狂っていると思うよ。

 キヒヒと笑う俺を見たイーブイは、首を捻っていた

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

「オーキド博士!」

「む、なんじゃ、キミはどこの子かな?」

「こういう者です」

 

 わたしはバトルが終わってすぐにオーキド研究所に行って、オーキド博士にトレーナーカードを見せる

 

「おお、キミが噂の最年少トレーナーのオレンくんかね」

「はい。というか、知ってたんですね」

「うむ。キクコから電話で面白い子がリーグに来たと言っておったぞ」

 

 キクコさんと電話する仲なんですね

 でもオーキド博士は既婚者です。浮気はすんなよ。博士。

 

 キクコから話を聞いているってことは、俺が本当は男だってこともIDを二つ持っていることも知っているのか。

 

 だったらいいか。

 

「えい」

 

 頭の上に飾ってあるリボンを取っ払う。

 ついでにその場で女装も解いて比較的身軽な男装に着替えた。

 やはり、性別についても知っていたらしく、オーキド博士から特に反応はなかった。

 ちょっとさみしい。

 

「といっても、僕はともかく、“オレンちゃん”はまだ初心者だし、パートナーになるポケモンがミニリュウだけしか居ないから、オーキド博士からもらえないかなーって思って来たんだけど、無駄足だったかな」

「すまんのう。将来有望な孫とその幼馴染にすべてのポケモンを渡してしまったんじゃ」

「タマゴとかは?」

「タマゴもないのう」

 

 そりゃ残念だ。

 エリカ様からフシギダネのタマゴを貰うか。

 残りは………グリーンとレッドに交渉してタマゴができたら譲ってもらおう

 

 

「それで、そんなキミがなぜ研究所に? 親御さんは?」

「いないよ。元々捨て子だからね。一人で来たんだ。この研究所に来た理由は、簡単に言えば“ヒトカゲ”“ゼニガメ”“フシギダネ”のいずれかが欲しかったからなんだけど………ついでだしいいか。ミュウに関する情報が欲しいからかな?」

 

 なんせアレは幻のポケモンだ。

 図鑑の完成には必要のない個体だけれど、できればすべてを集めたいと思うのが貪欲な人間、レンジである

 

 映画の特別前売券で配信とか舐めんな。ねェよ。

 だったらどこかに居るはずだ。情報を得るなら研究所。

 

「どこでミュウの存在を?」

 

 孫を慈しむような優しい目から、真剣みを帯びた眼力でわたしを睨むオーキド博士。

 眼力がすごい

 

「グレン島のポケモン屋敷に、“ミュウツー”に関するレポートがあったからね」

 

 ゲーム時代の知識だ。

 どうせそのレポートには科学者であるフジ老人と同じく科学者のカツラ。ポケモン研究者のオーキド博士も絡んでいるんだろう。

 ちゃんとわかってる。

 推論が間違ってたらごめん

 

「………なるほど。キミを年齢通りの子供と侮るのはよした方がよさそうだね」

 

 オーキド博士のセリフににやりと笑ってみせると

 

「………“最果ての孤島”、でしょ?」

「そこまで知っておったのか………」

「行き方はわかんないけどね。」

 

 それはミュウをゲットするために、ポケットモンスターエメラルドで手に入れられる古びた海図で聞くことが可能になる、孤島だ。

 

「シオンタウンのフジ老人がミュウツーを生み出してしまったことも知ってるし、ハナダの洞窟の奥深くにミュウツーが居ることも知ってる。情報を悪用するつもりはないよ。一目見るだけでいい。幻のポケモンなんだ。いい記念になるじゃん」

 

 実際、前世の俺にとっては、幻のポケモンなどいくらでも手に入った。

 映画も見たし、配信ポケモンは逃さず、アニメのシリアルコードもきっちり入力した。

 

 だから、正直珍しくもなんともない

 

 スマホのポケモン図鑑も、一応見て撮影するだけでも図鑑は埋まる。

 だけど、それはプライドが許さないため、捕まえられるポケモンはできればすべて捕まえるつもりだ

 できなければしょうがない。

 

 ミュウツーは主人公たちに任せるさ。ならばミュウを見てみたい。そう思うのは当然だった

 

「さすがに場所を教えるわけにはいかんのじゃ。すまんのう」

 

 教えるわけにはいかんと。つまり、知っているのか。

 なるほど。いいこと聞いた。

 

「そっか………僕がポケモンリーグのチャンピオンになっても?」

「そのくらいの実力が付いたのならば、考えてみよう」

「ありがとう。まぁでもチャンピオンになる気は無いし、無理かな。」

 

 

 情報もちゃんと手に入ったし、もう充分か。

 レンジで生活費を稼ぎながら、オレンちゃんで午後や休日に旅をする。

 

 

 今のところ、この生活でこの世界を面白おかしく生きて行こう。

 

「参考までに、どうやってその情報を得たのか教えてほしい。ミュウは人目に触れてはいけないポケモンなのじゃ」

 

 あー、そうか。迂闊なことを聞いたな。

 幻のポケモンの存在を知っている3歳児。その情報の出所を特定しないと、ミュウに危険が及ぶのは当然だ。

 

「その前に、オーキド博士は生まれ変わりって信じる?」

「何を言っているんじゃ?」

 

 いぶかしげに眉を寄せるオーキド博士

 

「まあ聞いてよ。信じてもらえなくてもいいし、戯言だと笑ってもいい。だけど、ここまで異端な3歳児が居たんだ。話くらい聞いてもいいでしょ。………僕は一応、カントー・ジョウト・ホウエン・シンオウ・イッシュ・カロスの6つの地方で手に入るすべてのポケモンに関する情報を持っているんだ。その数は720匹。それ以上はまだ知らないけど何処で見つかるか、分布もわかるし、伝説や幻のポケモンも、姿形なら今ここで絵に描くこともできる。」

 

 そう言って、記憶を掘り起こしながら“ミュウ”の絵を簡単に書き記してみる。その隣には“ビクティニ”その周囲に“ラティオス”や“ラティアス”

 “シェイミ”や“セレビィ”、“マナフィ”、“ジラーチ”といった伝説級や幻の配信ポケモンが輪をなして遊んでいる絵を鉛筆画で書き記した

 

 ついでと言った感じに別の紙に自分の知りうるブイズの進化系統。イーブイ8変化も描いておいた。

 

「ブイブーイ!」

 

 我ながらいい感じの絵だ。

 イーブイは俺の描いたイーブイ8変化をじっと見つめ、自分の未来の姿に思いをはせているようだった。

 

 やりこんだからね。分布だけじゃなく、図鑑の説明も完璧だ。

 

 うむむ? 特にニンフィアをじっと見ている気がする。興味があるのかな?

 でもポケパルレはないよ?

 

「むぅ………明らかに3歳児の絵ではないのう。しかも、文献に残るポケモンとも似ておるようじゃ」

 

「その点も踏まえて聞いてよ。絵を見てわかるとおり、僕はただの3歳児じゃない。ポケモンに関する知識があるからね。僕は旅をしながらすべてのポケモンを捕まえるつもりでいるよ。」

 

「ふむぅ………して、その知識はいったい誰から教えてもらったものなのじゃ?」

 

 興味があるのは当然だ。誰だって知りたいはずだ。この伝説や幻のポケモンの所在や姿形を知っている俺の正体も含めて。

 

「僕はね、別の世界で死んで、気づいたときにこの世界に居たんだ。僕がこの世界に来たのはほんの半年前。その時にはすでに僕にはすべてのポケモンに関する知識があったんだ。嘘じゃないよ。まぁわかると言っても見かける場所と名前と姿形、どんなタイプか。どういう特徴があるのか。そのくらいしかわからないけどね。」

 

「………。」

 

「だから、誰かから教えてもらったわけじゃないんだ。もしもオーキド博士が悪用するのなら、僕もオーキド博士に教えたりはしないよ。その点、オーキド博士は信頼できる人だと思うから」

 

 

 ゲームの中では人格者だったからね

 

「なるほど………それを信じるにはいささか判断材料が足りないが、そうでなくてはミュウの居場所を知っていた理由もわからん。レンジくんがむやみやたらとその知識を披露しないのであれば、問題あるまい。今までその知識を人に言ったことは?」

「ありません。普通のポケモンに関する知識なら子供たちに教えました」

 

 即答する。

 

「そういえば、トレーナーズスクールの講師もしておるんじゃったか。なるほど。正直、研究者としてキミの持つ知識にはものすごく興味がある。しかし、我々の都合でそれを強制するわけにもいかないし、レンジくんにも知らない情報はあるじゃろうしのう」

 

「僕も強制されたら自害してやろっかなー♪ って思ってたから何よりだよ。んー、ポケモンも“最果ての孤島”への行き方の情報ももらえないんじゃ、ここに居る意味ないや。僕はもう行くよ。くれぐれも、レッドやグリーン、くりむちゃんに“レンジ”と“オレンちゃん”が同一人物だって教えないでね。なんだかんだでこの二重生活を満喫してるからさ」

 

「ほっほっほ。おかしな趣味をしておるのう。安心しなさい。ワシはただの研究者じゃからのう。トレーナーの事情はなんも分からんわい」

 

 それならよかった。

 本当は色違いのミニリュウをオーキド博士に自慢したかったけど、研究者のことだ。眼の色を変えて研究させてくれと言ってくるに違いない。

 

 突然変異の色違いはなぜ生まれてくるのか。そういった論文の発表とかに使われてもたまったもんじゃないしね

 

 

「たぶんまた来るよ。じゃあね、オーキド博士。僕が知識を持ってることは秘密でね!」

 

「いつでも来なさい。気が向いたら、力を貸してくれると助かるわい」

 

 三歳児に何言ってんだか。

 気が向いたらね。

 

 

 


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