3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第15話 3歳児はふてくされる

 

「それにしても、キミは俺に続いてくりむにもバトルで勝ったんだな」

 

 

 ポケモンセンターにいつまでもいるのはなんなので、レッドのヒトカゲとくりむちゃんのフシギダネの治療が終わってから、一緒にポケセンを出てトキワシティ北にあるトキワの森に向かって歩いていた

 

 レッドはしっかりとヒトカゲに無理させてごめんな、と謝っていたので何よりだ。

 

「まぁね。レッドさんと戦う前はグリーンとも戦ったよ。たぶんもうニビシティに向かっているはず」

 

「グリーンにも会ったの!? そっかー。お兄ちゃんとグリーンにも勝ってるなら、私が負けちゃうのもしかたないかぁ」

 

 くりむちゃんもため息を吐く。そりゃあオレンちゃんに勝った程度で調子に乗られちゃこっちもたまったもんじゃないよ。

 レンジのポケモンはタマムシマンションの近くでずっと修業を積んでいたし、許可を得てエリカ様のポケモン達と組手をしていたんだから。

 そん所そこらのトレーナーと戦っても負ける気は全くしない

 

 

「ねえ、二人とも、今日の予定は?」

 

 何とはなしに聞いてみた。トキワシティはサカキがジムリーダーを務めている関係で開いている時間は少ない。

 

 数週間は帰ってこないかもしれない。

 

 ならばトキワシティに居る理由もない

 

 まぁ、ゲームの頃と違ってトキワシティも充実しているから別にトキワシティに泊まってからニビシティに行ってもよさそうだ。

 

 俺なら完全にスルーしてニビシティに行くけど。

 

 

「そうだなぁ、せっかくの旅だし、トキワシティを満喫したいってのもあるけど、俺はこのままトキワの森で珍しいポケモンとかを捕まえようと思う」

 

 

 とはレッドの弁。

 トキワシティの珍しいポケモンねぇ。

 

 あ、ピカチュウか。ピカチュウに違いない。

 

 

「私もトキワの森に行こうかな。オニスズメを捕まえたから、こんどは別の場所で手に入るポケモンも見てみたいもの!」

 

 

「そっか。トキワの森は広いから、気を付けてね。数日程度で森を抜けられたらいいね」

 

 

「え? そんなに広いの?」

「そりゃ広いよ。道は入り組んでるし虫ポケモンはわんさか出るし、草むらだらけだし、進もうと思っても進めないだろうね。僕も入ったことは無いけどさ。」

「うへ~、虫ポケモンかぁ、苦手だなぁ………。でも、行ってみようと思う。今日のところの拠点はトキワシティにして、日帰りで行ける場所まで。」

 

 

 くりむちゃんは眉を寄せる。女の子らしい一面じゃねえか。かわいい。

 

 

「一日じゃ抜けられないのか………でも俺も行ってみるよ。そして、しばらくはトキワシティを拠点にして、森の入り口で修業を積んでからトキワの森を抜けようと思う。それから虫ポケモンもいっぱい捕まえて、トレーナーと勝負して、そのままニビジムを突破だ!」

 

 

 レッドは拳を振り上げて元気よく歩き出した。

 

 

「ふーん。じゃあ、僕も途中まではご一緒しようかな。お夕飯までにウチに帰るって約束してるからそれほど長く一緒に居られるわけじゃないけどさ。」

 

「えー、あなたも行くの?」

 

 俺もついて行こうとしたら、くりむちゃんが不快そうにそう言った。

 正直すぎだろ、この子。

 むっとした。

 

「あっそ。キミは僕のことが嫌いらしいけど、その正直すぎるところは直した方がいいよ。それで相手がどれだけ不快な思いをするのか、考えてみろ」

 

 

 おいどうしたオレンちゃん。“自分の事を棚に上げてんじゃねーぞ”だって? 知るか!

 お前は黙って寝ていろ。後で代わってやるから。

 

「ブイ………」

 

 そしてイーブイ。お前もお前で“お前がそれを言うか………!”って眼をするんじゃない

 こちとらちゃんと自覚してんだよ。

 

「じゃあね。僕は一人で行くよ。」

「あ………」

 

 自分の失言で人を傷つけたことに、後悔の色を見せるくりむちゃん

 

 トキワの森に出るポケモンもすべてわかってる。

 捕まえるべき主なポケモンはビードル・キャタピー・ピカチュウだ。

 

 ゲームではなく現実であるため、ピカチュウを見つけるまでに時間はかかるだろうが、それでもかまわない。

 ピカチュウはオレンちゃんの手持ちに入れる。

 

 正直なところ、伝説のポケモンなんかよりも“ラッキー”“ガルーラ”“ケンタロス”といった出現率の低いポケモンの方が俺に取っちゃ珍しいのだ。

 

 伝説のポケモンなんて、いつでも取りに行ける。そんな考えだ。

 

「まって!」

「なに。僕は居ない方がいいんでしょ。邪魔なんでしょ。その方がうれしいんだろ。よかったね、ガミガミ説教する奴がいないから楽に旅ができるよ。色仕掛けもし放題だ。好きなだけ脱げばいい。僕はもう知らん。」

 

 

 くりむちゃんが呼びとめてきたけど、そんなん知らん。

 トキワシティ北に向かって歩みを進めた。

 

 もう出てくるポケモンのことで頭がいっぱいだ。

 

「ごめ―――」

「ウインディ! トキワの森まで連れてって!」

 

 聞く耳持たない。

 ボールを真下に投げ、出てくると同時にウインディの背に乗り、そのまま走り出してもらった。

 

 

               ☆

 

 

「くりむ」

「………うん。レンジ君にちゃんと謝らないとね………」

 

 私は、自分の失言でレンジ君を傷つけてしまったことを、後悔していた

 

「彼はね、本当にポケモンのことが大好きな子なんだ。だからこそ、飛び級なんかしてトレーナーになっているんだよ。彼のポケモンは強かった。すごく頑張って育てたんだろうね。だから、ズルしてリーグに挑戦しようとしたくりむが許せなかったんじゃないかな」

 

「………」

 

「それにね、レンジは俺の“カゲどん”が弱っている状態でバトルに繰り出した時、俺に向かっても説教をしたんだよ」

「………お兄ちゃんにも?」

「ああ。ちゃんとポケモンのことも考えてやれってさ。レンジはね、口は少し………いやかなり………めちゃくちゃ悪いけど、間違ったことは言わないよ。彼は本当にくりむのことを心配して色々言ってくれているんだよ」

 

 俯いている私の頭をポンポンと撫でるお兄ちゃん。

 私はゆっくりと顔を上げると

 

「………。あやまってくる」

 

 私がバッジを集めるのを面倒くさがってあんなことをしていたけど、それは確かに努力をしていた彼に対する冒涜だ。

 

 明らかに一緒に居たくないと態度で示されてしまえば、私ならどう思うだろうか。

 

 すごく、悲しくなる。

 

 それに、レンジくんはまだ3歳なのだ。

 ポケモンと一緒とはいえ、そんな彼が一人で森に行くというのは、危険すぎる

 

 だというのに、私のワガママのせいで、彼を傷つけ一人で行かせてしまった

 

 

「行っておいで。俺も一緒に謝ってあげるから」

 

「………うん」

 

 確かに私は口が悪くて説教くさいレンジ君のことを好きになれそうにない。

 でも、私がまいた種だ。私がケジメをつけないと

 

 

 

                  ☆

 

 

 なんでかなー。

 レンジがふてくされて“オレンちゃん”に変装したおかげでわたし(・・・)が前面に出てきちゃった

 

 そうです、今のわたしはオレンちゃん。

 

 気持ち悪いよね。二重人格ってわけじゃないのに、エリカ様に調教(?)させられたおかげでオレンちゃんの時はオレンちゃんで別人になっちゃうんだ

 

 不思議な感じ。

 

 水色のカチューシャを付けてスカートを穿けばすぐに人格を入れ替えられるよ。

 

「みゅー♪」

「よしよし、わたしも会いたかったよ、ミニリュウ」

 

 といっても、さっきから会ってるんだけどさ。

 レンジの姿でだけど。

 

 なんで同一人物だと認識してくれないのかしら。ウチのミニリュウは。

 

「さて、トキワの森攻略に移りますか。」

 

 正直、トキワの森攻略はレベルが12を超えたくらいから進めたいところなんだよね

 

 安定してビードルやキャタピーを一撃で狩れるから。

 

 でも、ミニリュウがそのレベルになるまでに時間がかかる。

 タマムシに戻ってパワーレベリングすればいいかもしれないが、それは最終手段だ。

 

 今はまだ―――

 

「ミニリュウ、でんじは!」

「みゅー!」

 

 この子に同レベル対で戦える実力を付けさせたい。

 

「よくやったね、ミニリュウ。キャタピーゲットでいい感じ!」

「みゅー♪ みゅー♪」

 

 とりあえず手に入れたキャタピーにまひなおしをふりかける。

 この調子でビードルも捕まえよう

 

……………

………

 

 

「ああ! ミニリュウ!」

「みゅふ………けふっ」

 

 そう思っていたらビードルに毒針を喰らってビクンビクンしている

 ピンク色の肌は無事だが、白いお腹が薄紫色に変色してしまっている。

 明らかな毒の状態異常だ

 

 ビードルは無事に捕まえることが出来たのはいいものの、トキワの森はコレが恐い。

 

「脱皮できる? 大丈夫?」

 

「みぅ………」

 

 

 もごもごもぞもぞとミニリュウが動くと、ぺりぺりとミニリュウの皮が剥がれて、その奥から健康な血色のミニリュウが顔をのぞかせた。

 

「みゅー♪」

 

 なぜ毒の状態異常が脱皮で治るのだろうか

 ポケモンって不思議だ。

 

 というかそもそもミニリュウの特性は“だっぴ”ではなく“ふしぎなうろこ”であり、状態異常になったら防御のステータスが1.5倍になるという物だったはず。

 この子はもしや天才なのでは?

 

 子供の竜だから普通に脱皮もするか。ゲームじゃないんだし。

 

 体力がなくなってきたミニリュウにオレンの実を食べさせる。

 傷跡も脱皮ついでに綺麗になったが体力までは戻らないからね。

 

 そのきれいなピンクの肌に傷が付いても大丈夫。

 キミはかわいいまんまだ

 

 

「チュッピィ?」

 

 そんな中、背後に何者かの気配が!

 

「むむ? 先手必勝! 行け! モンスターボール!」

 

 サイドスローで振り向きざまに投擲。命中。

 

 アンドGET!

 

「ピカチュウゲットでナイストゥミーチュー!」

 

 うむ、いい感じのキメ台詞がしっくりこないよ!

 

 トキワの森入り口ですべてのポケモンを捕まえることが出来てしまった。

 

 キャタピーたちのレベル上げはレンジに任せるとしよう。図鑑埋めはレンジの仕事だ。

 わたしは気ままに旅をしよう

 

「さて、そろそろタマムシシティに戻ろうかな。どうせ明日も仕事だし。」

 

 

 そういえば、トキワシティのポケモンセンターの北にも、トレーナーズスクールってあったよな。

 一度顔出ししてみたいな

 

「出てきて、ピカチュウ。」

「ピカッチュ!」

 

 ボールから出てきたピカチュウは、いきなりの出来事に困惑し、人間であるわたしを警戒しながらほっぺの電気袋をビリビリと帯電させている

 

「ピカチュウ。このモモンの実をお食べ。甘くておいしいよ」

「ピカ? ………チャー♪」

 

 あかん、かわいい。

 甘いモノというのは、やはりポケモンにとってもおいしいモノであるらしい。

 つまりだ。味覚は人間に近しいものがある。もしくは人間よりも鋭いと言ってもいいくらいかもしれない。

 だから、ポケモンフーズなどという物よりも人間と同じような食べ物の方がポケモンも喜ぶだろう。

 しかしながら、食費という物も馬鹿にならない。ごめんよ、いつもいいものを食べさせてやれなくて。

 ちゃんと毎日味を変えるように工夫しているし、わたしのご飯も分けているけど、もっと五感全てで食事を味わいたいよね。

 

 わたしにもっと甲斐性があったらよかったんだけど、月8万の講師の仕事ではそれもままならないんだ。

 

「ピカピカ、ピィカッチュ」

「もっと? いいよ。たんと食べなさい。」

 

 ピカチュウの餌付けにも成功である。

 

 

「みゅー!」

「ミニリュウも? はい、どうぞ」

「みゅー♪」

 

 毒は脱皮で治っているのだが、それでもモモンの実はおいしいからね。というか、特性上はミニリュウは“ふしぎなうろこ”の為、体内に少し毒が残っている可能性もある。ミニリュウにも食べてもらうに越したことは無い。たべちゃいな。

 果物は食べてしかるべき。

 バッグの中で腐らせるより百倍マシだ。

 

「ブイブイ!」

「イーブイも? はいどうぞ………ってそれはカゴの実だよ。しぶいよ?」

「ブイー!」

「そっか。そりゃ渋い趣味してるね。召し上がれ。」

 

 イーブイはわたしが取り出したモモンの実ではなく、バッグの中を漁ってカゴの実を取り出した。

 イーブイは渋さがたまらん! と言った表情でカゴの実を食す。

 いやぁ、わたしは食べたくないなぁ。

 渋いもん。

 

 しかしなんというか、イーブイの毛並に艶が出ている。

 ポロックは無いのに美しさに磨きがかかっているようだ

 なんでやねん。キミはかわいさでしょう。

 

 ぷんぷん

 

 それにしても………

 

「ピカ?」

「ピカチュウはかわいいなぁ」

「ピカッチュ♪」

 

 てれてれと頭を掻くピカチュウ。

 アニメでピカチュウがメインの訳も分かるよ。かわいいもん

 

「ブイー!」

「おふっ」

「ピカァ!?」

 

 ピカチュウの頭を撫でたり愛でたりしていたら、イーブイさんに捨て身タックルを喰らって数メートルほどぶっ飛んでしまった。

 嫉妬かいハニー。でも愛情をタックルで表現するのはやめてほしいカナ

 

「………(フンス)」

 

 そのままわたしのお腹の上に乗っかるイーブイ。

 つまり、わたしは常にイーブイの尻に敷かれる運命にあるのですね

 

 

「きゃあ! さっき何か落っこちたような音が聞こえた!」

「そうだね、近くみたいだ。見てみよう」

 

 むむ? こちらが楽しくお食事会を開いていたら、背後のくさむらから人の声が。

 

 というかレッドとくりむちゃんの声だ。

 

 そう気づいたとたん、()がビクリと反応する。

 ええい、レンジは寝てなさい。口悪い癖に臆病ってなんだよおまえ。

 だったら最初から嫌われるような発言をすんじゃねえよ、アホ。

 

 どうせ今はオレンちゃんなんだから、レンジがばったり出会うこともないってば

 

 

「あれ? オレンちゃん? なんでこんなところに倒れてるの?」

「あ、くりむちゃん! へへへ、イーブイに捨て身タックル喰らっちゃった。」

「そ、それ大丈夫なの!?」

「割と平気だよ。」

「そっか………」

 

 

 レッドもくりむちゃんもわたしがレンジだと気付いていない。

 そんなに雰囲気ちがうの?

 髪の色も一緒だよ? ただ髪型をかえてカチューシャをしてスカートを穿いただけだよ。

 

「くりむ。その子は?」

「あ、この子はオレンちゃん。私が初めてバトルした女の子だよ。そしてこっちが私のお兄ちゃん。」

「そうか、この子がくりむが言ってた女の子か。くりむのことをよろしく頼む」

「オレンです。よろしくー。それで、なんでくりむちゃんがここに?」

 

 自己紹介も済んだところで本題に入る。

 

「あ………うん。人を探してるんだけど、オレンちゃんと同じような年でオレンジ色の髪の男の子を見なかった?」

「ふに? なんで?」

「なんというか………私、彼にひどいことを言っちゃったから、謝りたくて………」

 

 

 だってさ、レンジ。よかったね

 と言っても今はわたしが前面に出ているから直接謝らせることは出来ない。

 

「見てないよ。わたしはずっとこの子(ミニリュウ)とポケモンを捕まえていたからね」

 

「みゅー♪」

「ピカチュー!」

「ブーイ!」

 

 元気はいいことだ。

 餌付けしたピカチュウも“ぼくのことだね!”みたいに返事をしておられる

 

「そっか………もうちょっと探してみる。じゃあね」

 

 

 ここに居るのに………ちょっと罪悪感が。

 

 くりむちゃんたちはトキワの森の奥に進んでいき、やがて見えなくなった

 

 

 


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