3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第27話 3歳児は社会の厳しさを学ぶ

「今日はピクニックにいきますよぉ~♪」

「うわーい! エリカお姉さま大好きー!」

「わたくしもオレンちゃんが大好きですー!」

 

 

 レンジが無茶したあの日から、エリカ様が極端に過保護になった。

 

 

「ちゃんと手をつないでいてくださいね」

「大丈夫ですよ」

 

 極端すぎるほどに

 

 

「あ、小石が落ちています! オレンちゃん、気を付けて」

「うん」

 

 むしろ

 

「はいオレンちゃん、あーん」

「あーん」

 

 鬱陶しいほどに。

 

 

「………どうしてこうなった」

 

 

 もちゃもちゃと栗羊羹をたべながら、天を仰いで呟くのだった。

 

 

 

 

                  ☆

 

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「オツキミ山でピクニックなんて、久しぶりです♪」

わたし(・・・)はオツキミ山初めてです、エリカお姉さま」

「うふふ、それならオレンちゃんにはいっぱい教えてあげますね」

 

 

 オツキミ山。

 FRLGではロケット団が化石の噂を聞きつけて内部をウロウロしている状態だったが、もちろんロケット団はそれだけのためにオツキミ山にいるわけではない。

 

 カタカタと、レンジのモンスターボールが揺れる。

 

 オツキミ山はピッピの故郷だ。

 

 おそらくだけど、ロケット団に乱獲されて、ロケットゲームコーナーに景品として売られた。

 

 悪の芽は摘んでやらねば。

 

「エリカ様。ピクニックもいいけど、手持ちのポケモンは大丈夫?」

「ええ! 何が起こってもいいように、ピジョット、キュウコン、ラフレシア、ガラガラ、ハピナス、シャワーズを連れてきています!」

 

 

 思ったよりもガチ使用。草ジムリーダーとは思えないラインナップだ。これ完全に旅パですわ。

 

「す、すごいですね………」

「それもこれも、オレンちゃんが無茶をしないためです!」

 

 

 腰に手を当ててわたしの額をツンとつつく。

 

「フィーア」

 

 そんでもって、わたしの手首に巻き付いた触手がキュッと締まる

 

 

 ニンフィアも心配して引っ張ったらしい。

 

 心配してくれるのはうれしいけど、束縛されるのを嫌うレンジには窮屈すぎるよ

 あのアホはいつかストレスで飛び出しちゃうかもしれないよ

 

 

 もちろん、わたしもレンジと同一人物だから窮屈と感じているのだけどね。

 

 

 レンジが無茶してピジョットが大怪我をした。

 無茶ばかりするレンジを心機一転するために、エリカ様がわたしをピクニックに連れてきてくれたのだけど………

 

 

 タイミングが素晴らしいよ、エリカお姉さま。

 おそらく、原作と同じタイミングだ。

 

 

 

「あ、見えてきましたよ、ポケモンセンター!」

 

「失礼します」

 

 そんでもって、オツキミ山の麓にあるポケモンセンターに入るわたしたち。

 

 コンビニ感覚で利用できるからいいよね。

 入り口に新聞が置いてあったので、なんとなく手に取ってみる

 

 

『ハナダシティの民家に窃盗!?』

 

 という見出しだった。

 

 ああー、ロケット団員が壁破壊してわざマシンを奪ったっていうアレかな

 懐かしいな。

 

「なにみているのですか、オレンちゃん」

「ん、新聞ですよ、エリカお姉さま。ハナダシティで窃盗ですって。物騒ですね」

 

 ちなみに今のオレンちゃんの格好は、エリカお姉さまとおそろいの、上が黄色、したが赤の袴姿だよ。

 もちろん、オレンちゃん用のカチューシャもエリカお姉さまとおそろいなの。

 

 だからかな、言葉遣いもおしとやかになってしまうのよ

 

 

「もう、ピクニックに来てそんな物騒な事にまた首を突っ込もうとするのですか? ダメですよ!」

 

 ぷんぷんと頬を膨らませるエリカお姉さま。

 そのお顔も大変麗しゅうございます。

 

「でもほら、ここにまたロケット団の仕業かって書いてある」

「あ………本当ですね。最近活発になっているという非合法の組織でしたね。たしか、この間レンジさんが巻き込まれたあの事件の時も」

「うん、ロケット団がラッキーを無理やり捕らえようとしていたんだ」

 

 

「セキチクの次はハナダシティ………タマムシにもロケット団が居るのかもしれませんね。注意しなければ………」

 

 

 眉を寄せて新聞を見つめるエリカお姉さま。

 残念ながら、タマムシ地下に、ロケット団アジトがあるのですよ。

 

 タマムシシティは治安が悪いからね。

 

 暴走族はいるし、パチ屋あるし。

 

「あ、ほら、エリカお姉さま。バックナンバーでオツキミ山のことも新聞に載ってますよ!」

 

 それにエリカ様が責任を感じてはいけない。

 話を逸らすためにわたしは過去の新聞を手に取ってみた。

 

「あ、本当ですね………オツキミ山で化石が発見される………。おお、それはすごいですね! 現在ニビシティの博物館で展示されている化石はオツキミ山で発掘されたものなのですね」

「大昔に滅んだとされたポケモンかぁ………エリカお姉さま、どんなポケモンなのでしょう?」

「うふふ、見てみたいですね」

 

 

 過去に滅んだポケモンに胸を躍らせるエリカ様。

 わたしも大昔のポケモンに会ってみたいなぁ。

 カブトやオムナイト以外にもわたしの知らないポケモンがいっぱいいたんだろうなぁ。

 

 

「さあ、休憩もこの辺にして、コレを飲んだらそろそろ行きましょうか」

 

 

 エリカお姉さまが自販機でサイコソーダを買ってわたしに渡してくれた。

 ひんやりしてのど越しがあって最高だね。

 

 ビールだったらもっとよかった。

 

 

 でもさすがに3歳児ボディにビールは無理だ。肝臓が持たない。

 

 

「そうですね。ところで、オツキミ山って中が洞窟になっているのですよね!」

「ええ、そうですよ。行ってみます?」

「行ってみたいです!」

「うふふ、もしかしたら化石が見つかるかもしれませんね♪」

 

 

 エリカお姉さまと手をつなぎ、ポケモンセンター内のごみ箱にサイコソーダを放り込む。

 オツキミ山内部ではズバットが居るから、気を付けて進まないとね。

 

 3歳児は血液の量は少ないのです。

 

 

「お嬢ちゃん、化石を見に行くのかい?」

「ふに?」

「はい?」

 

 

 と、そこで声をかけてくるおじさんが現れた

 

 

「あなたは?」

「ふふふ、そんなあなたに朗・報です!」

 

 あかん、聞いてない、このおじさん

 

 

「お嬢ちゃん、あ・な・た・が・た・だけに………! いいお話がありまして」

 

 

 あ、このいい文句。知ってる

 

「おじさん、くわしくきかせて!」

 

 知っててなお、わたしはこのおじさんから話を聞く。

 

「秘密のポケモン コイキングが、なんとたったの500円! どうだい、買うかい?」

 

 

 そういって、おじさんはID登録のされていないモンスターボールを差し出してきた

 

「行きましょう、オレンちゃん。ID登録なしにポケモンを捕らえるのは違法ですよ。このおじさまの話を聞いてはいけません」

 

「そお? 残念だねえ」

 

「ごめんね、おじさん。わたしたちはもうコイキングもっているの」

 

 

「ちぇ、そうなんだ。世間知らずのお嬢さんかと思ったのに………」

 

 

 ごめんね、そういうのは主人公たちにやってちょうだい。

 そんで社会の厳しさを学んで騙されてちょうだいな。

 あー、もしもここでコイキングを貰ってたら、名前を『サシミ』にしてたのに。

 

 

「あ、そうだ。オレンちゃんの手持ちにもコイキングを入れておこうっと」

「パソコンの中ですか? では、待ってますね」

 

 

 エリカ様は椅子に座って待つことに。

 

 その間にわたしはスマホからコイキングを取り出すと、オレンちゃんの手持ちに入れた。

 うーん。じゃあこいつの名前はサシミだね。

 

 

「おまたせしました、エリカお姉さま」

「あら、早いですね。では行きましょうか」

「はい!」

 

 

 

 

 

                  ☆

 

 

 オレンちゃんの手持ち

 桃ミニリュウ

 ピカチュウ

 フーディン

 刺身

 

 この4匹だ。

 

 ちなみにニビジムを終えたあと、バタフリーはスマホに戻しました。

 お役目終了です。

 

 ニンフィアはレンジのポケモンなのでカウントしません。

 なんというか、共有ポケモンって感じはするけど、IDはレンジのだしね。

 

 

 刺身はレンジのIDだけど、なんとなくおじさんの話を聞いて手持ちに入れたくなったんだ。

 

 ちなみに、トレーナーズスクールの講師をしているお金をほとんど使って、学習装置も購入したので刺身(コイキング)のレベル上げもサクサクだね

 

 

「洞窟の中って意外と明るいのですね」

「まあ、一階は照明がついていますからね。オレンちゃん、足元に気を付けて歩くのですよ」

「わかっています、エリカお姉さま」

 

 

 エリカお姉さまに手を引かれて洞窟を歩く

 

 

 途中に看板が!

 

『ズバットの吸血攻撃に注意!!』

 

「こわいですね………わたしは体が小さいから、ズバットに吸血されたら一瞬で干からびちゃいます………」

「その時はわたくしがオレンちゃんを守りますよ」

「フィーア!」

「みゅー♪」

 

 不安がるわたしをエリカお姉さまが胸をドンと叩いて任せなさいとお姉さん風を吹かせる

 同時にニンフィアがキュッと手首を締めて、背中のリュックからミニリュウが顔を覗かせる。

 

「頼りにしています!」

 

 

 というと、エリカお姉さまは口元をω(こんなふう)にして得意げに笑った

 

 

 

「ええっと、たしかこっちだよね………」

 

「どうしたのですか、オレンちゃん」

 

「あ、あった。梯子だ!」

 

 わたしが指さした先にあったのは、梯子。

 

「地下への入り口ですか………地下はさすがに照明がないかもしれないですよ」

「まあ、行ってみようよ」

 

 

 と、梯子を下りていく。

 もちろん、エリカお姉さまが先に下りて、わたしが後から行く感じだね。

 わたしが手や足を滑らせても対応できるように、エリカお姉さまは先に行ったのだ

 

 

「うー、確かに暗いね………あ、パラスだ」

「本当ですね………」

 

 

 懐中電灯を片手に地下通路を進んでみる

 

 

 パラスをゲットしながらも、滴る地下水を踏みしめて先に進む

 

 

「なんだかこうしていると、ジムリーダー以前に冒険していた頃を思い出します」

「へえ、エリカお姉さまにも冒険時代があったのですね」

「それはありましたよ。実家が厳しい家でしたので、つい飛び出してしまう、おてんば娘でした」

「ふふ、そんな感じがします」

 

 袴の袖を口元に当てて上品に笑うわたし。

 これって洞窟の装備じゃないよね。

 

 袴だよ?

 

 

「あれー? そこにいるのって」

 

「おや?」

 

 

 栗色の髪を揺らして、バタフリーのフラッシュを明かり代わりにこちらに歩いてきた、くりむちゃんが現れた

 

 この主人公感。覇気を感じる………!

 

 

「こんなところで奇遇だね、オレンちゃんはニビシティでの修業はおわったんだ」

「えへへー、私のフッシーもフシギソウに進化したからね! これからハナダシティに行くところなんだ!」

 

 

 ぐっとモンスターボールを突き出すくりむちゃん

 

 

「おお! おめでとう!!」

「あー! そういうオレンちゃんも、その子は………」

「ああ、この子はね、ニンフィア。イーブイの進化系なんだぁ」

「かわいいーー!!」

 

 ぎゅーっとニンフィアに抱き着くくりむちゃん

 

 そうだろう、かわいいだろう。

 毛並みのケアは毎日欠かさずやっているからね。

 肌触りふわふわ、ほっぺはプニプニ、抱きしめてわしゃわしゃ

 それを気持ちよさそうにされるがままのニンフィアたんだ。

 

 ニンフィアの毛の一本まですべてわたしのものだ。

 

 

「オレンちゃん、お知り合いですか?」

「あ、うん。この子はわたしの友達でライバルの、くりむちゃん」

 

「くりむって言います、キレイなお姉さんですね! 二人ともそっくりでかわいらしいです!」

 

 

 いや、そっくりって言ってもさ、服装だけよ?

 

>服装が全く同じなら似てるように見えるもんだろ

 

 あらレンジ。起きてたの。

 

>ずっと起きてるわ

 

 

「あらあら、うれしいですねえ~♪」

「傍から見たら姉妹に見えるんでしょうね、エリカお姉さま」

「あら、わたくしはオレンちゃんと姉妹だと思っておりますが、違いますか?」

「………違わないかもしれないですね」

 

 

 もはやエリカお姉さまはシスコンの域に達している

 そんでもってわたしもエリカお姉さまが大好きだ。相思相愛だね

 

>代われ

 

 やだ。

 

「フィーア………」

 

 そんな悲しそうな目で見つめながらわたしの足を踏まないで、ニンフィア!

 

 

「どうも、ウチのオレンちゃんがお世話になっております。わたくしが姉のエリカと申します」

「タマムシシティのジムリーダーなんだよ」

「ええっ!」

 

 正しい姿勢でキレイなお辞儀をするエリカお姉さまを、今度はわたしがくりむちゃんに紹介する番だ。

 この方がジムリーダーだと知ったくりむちゃんが驚いた表情でエリカお姉さまを見上げた

 

 

「オレンちゃんってジムリーダーの妹さん!?」

「え? あ、うーん………」

「はい! とっても優秀な妹なのです。将来はわたくしのジムを継いでほしいのですが………」

 

 

 わたしが応えあぐねていると、答えおったわこのお姉さま!!

 男やっちゅうに。

 

 

「エリカお姉さま、わたしはすべてのポケモンをもふゅもふゅするモフリストを目指しているのです。ジムは継げません」

「あら、てっきりわたくしはポケモンブリーダーかポケモンレンジャーを目指しているのかと思っておりました」

 

 きょとんとエリカお姉さま。

 

 ふに? いや、まぁレンジの知識と身体能力をフル活用すればレンジャーもできなくはないけど、一番大事なのはもふゅもふゅすることだよ?

 

 でも―――

 

「それもいいですね、今度資格をとってみます」

「自由ですね、オレンちゃん」

 

 クスクスとエリカお姉さまが笑う。当たりが洞窟だから暗いのに、その笑顔がまぶしすぎて直視できない!

 

「ほへー、すごいんだね、オレンちゃん。将来の夢まであるなんて………」

「ま、まあ、ね」

 

 そんで純粋に尊敬のまなざしを送るくりむちゃんも直視できない!!

 こっちはなんか後ろめたさで!

 

 

               ☆

 

 

 

 

「さて、オレンちゃん。こんなところで再開してなんだけど、立ち話はこの辺にして」

 

 くりむちゃんはモンスターボールを握りしめ、好戦的な瞳でわたしを射抜いた

 

「さっそくバトっちゃう?」

「バトっちゃおう!」

 

 

 バッと距離を取るくりむちゃん。

 トレーナーは目と目があったらそれはバトルの合図だ。

 

 洞窟の中という狭く暗い環境でのバトル。

 気を引き締めていこう

 

「あらあら、この雰囲気、懐かしいですわね~♪ それでは、わたくしが審判を務めさせていただきますっ!」

 

 

 エリカお姉さまが審判を買って出てくれた。これは野良バトルとしてもやりやすいね

 

 

「ふふふ、実はわたしは秘密のポケモンを500円で譲ってもらったの。この子でオレンちゃんをメッタメタに張っ倒してあげるんだから!」

 

「「………」」

 

 

 絶句。言葉が出なかった。

 わたしとエリカ様は一瞬視線を合わせると、冷や汗を垂らす。

 

 

「いけ、おうさま!!」

 

 

 勢いよくくりむちゃんがボールを投げ―――

 

 

 

 ポンッ!!

 

 

「コッコッコッコ! コキッ!」

 

 

――――ビタビタ、ビタビタ、ビターン

 

 

 

「す………すでに社会の厳しさを買わされたところだった――――!!?」

 

 

 

 


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