3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第4話 3歳児は怯えるピッピを手に入れる

 というわけで、翌日のタマムシジム。

 

「きゃー! かわいー! エリカさんの妹さんですか?」

「ええ。オレンちゃんと言います。オレンちゃん。ご挨拶を。」

「………初めまして、オレンと申します」

「きゃー! すごく礼儀正しい子ですね!」

 

 ドレスを着てタマムシジムへと向かった俺とエリカ様。

 そこで待っていたのは、花園だ。

 

 しかし、女装して綺麗におめかしして、エリカ様の妹としてジムに来たわけだが、案の定俺のことを女の子だと誤解したジムトレーナーの方々に、もてはやされ、俺はもううんざりだ。

 

 さんざんかわいいかわいいともみくちゃにされても、素直に喜べない。

 

 まぁ、おねーさん方の膝の上に座って後ろから抱きしめられたら背中の感触がえらい気持ちがいいのは確かなんだけど、俺は男なのだ。

 なんともいえない居心地の悪さが存在していた。

 

「エリカお姉さま。仕事は………」

「そうでした。ついついオレンちゃんのことをみんなに自慢したくて連れてきちゃいましたが、オレンちゃんにもちゃんと手伝ってもらうことがあるんですよ」

 

 一向に話が進まないので俺の本来の目的である、お金を稼いでおばあちゃんを楽にさせるためにどうしたらお金を溜められるか。

 その結果であるエリカ様のお手伝いにやって来たのに、どうしてこうなってしまうんだ。

 

 

「今日はジムで生け花教室をするのです。その準備をてつだってもらいたかったのですよ」

 

「いけ、ばな?」

「ブイ?」

 

 まさかの生け花教室だった。

 エリカ様に抱かれているイーブイは生け花が何なのかわからない様子で首を捻る

 

「はい。タマムシジムは生け花教室も行っていますので。月水金の午前中は生け花を生徒たちに教えることになっているのです。その準備が大変でして………オレンちゃん、手伝ってくださいね♪」

 

「………はい。」

 

 

 なんというか………もっとこう、草タイプのポケモンのトレーニングとかしているかと思ったら、生け花教室のセッティングだった。

 

 いや、不満はないよ。手伝うって言ったから全力で頑張るけどさ、もうちょっとこう………バトルとかなかったものかなと。

 

「オレンちゃんも一緒にやりましょうね♪ 私がおしえてあげますよっ」

 

 エリカ様が手取り足取り………

 俺の後ろから手を取って剣山に花を活けるエリカ様の胸が背中越しに―――

 

「頑張ります!!!」

 

 ええい、頑張るぞ! それがご褒美だ! 桃源郷だ!

 手取り足取り腰とり教えてもらうんじゃー!

 

「ブイ………」

 

 こらイーブイ。俺の足を踏むんじゃない。

 

 

                    ☆

 

 

 生け花教室も終わり、今度はタマムシジムでトレーナーと戦うことになった。

 

 エリカ様は『ラフレシア』『キレイハナ』『フシギバナ』『ウツボット』『モンジャラ』『ナッシー』といった草タイプを好んで使う。

 戦うトレーナーの力量によって、進化前である『クサイハナ』や『フシギダネ』などを使うこともあるそうだ。

 

 それに、エリカ様が使用するポケモンは3体のみ。

 さらに『キレイハナ』はジョウトのポケモンである故、カントーを巡っている若者のジムバトルで出すわけにはいかないそうだ。

 

 そりゃあジムバッジは挑戦者にあげるためにあるんだから、本気のエリカ様が強いのは当然だ。

 

 

 今回のトレーナーは短パン小僧のアツシ。

 

「フシギダネ、“ねむりごな”です!」

「ダネフッシャ!」

「チュ………くぅ………」

 

「ああ! コラッタ!」

 

「続いて“はっぱカッター”です!」

 

 あえなくフシギダネのねむりごなに当てられて眠ってしまったコラッタは、続くはっぱカッターにてあえなくダウン。

 勝者はエリカ様だ。

 

「よく育てられていますが、まだまだですね。草タイプのポケモンには炎タイプのわざと虫タイプの技。氷タイプの技。そして飛行タイプの技が有効です。草タイプは毒タイプとの複合系が多い傾向にありますので、エスパータイプも有効な一手となるでしょう。対策を練って、もう一度いらしてくださいませ」

 

 ここはタマムシジム。草タイプのポケモンで戦うことが判っているのだ。

 

 挑戦者側は圧倒的なアドバンテージを得ているから、対策はしやすい。つまり、エリカ様たちジムリーダーは普段から不利なバトルを要求されているということだ。

 

 エリカ様だって、本当は草タイプ以外のポケモンも持っている。

 パソコンの中にピッピやラッキー、シャワーズやブースターも居ると言っていた。

 だが、ジムの制約によって草タイプや草タイプの技を繰り出すポケモン以外を出すことができないのだ。

 

 それでも、トレーナーとしての腕は確かなので、並の相手ではエリカ様には全く歯が立たないのだ。

 

「ありがとう、ございました。」

 

 バッジを手に入れることができなかった短パン小僧のアツシ君には残念だが、キミには才能が足りない。

 

 コラッタ一匹でエリカ様に挑むのは無謀もいい所だ。

 

 とぼとぼと帰路に着くアツシくん。

 

「さて………将来はトレーナーになりたいレンジさん?」

「はい」

 

 ふと、エリカさんが俺のことを呼ぶ。

 オレンちゃんと呼ばないことから、まじめな話をしているのだとわかる。

 俺もエリカ様の眼を見て返事を返した。

 

「今の戦いでわかったと思いますが、ポケモンバトルでまず大事なことはなんでしょう」

 

 エリカさんは人差し指をたてて、僕に言い聞かせるように囁いた。

 

「タイプ相性です」

「正解です。さすがですね、では、ここにラフレシアが居ます。私の相棒です」

 

 俺がエリカ様の質問に答えると、満足そうにうなずいて手持ちのモンスターボールからラフレシアを目の前に出す

 

「ラッフー!」

 

 

「この子のタイプはなにかわかりますか?」

「草、毒タイプです」

 

 さらに質問を出すエリカ様に応えると、またも「正解です」と言って嬉しそうに頷いた

 

「ではレンジさん? あなたなら、ラフレシアを相手にどう立ち回りますか?」

 

 それに対して、僕は腕を組んで考える。

 

「立ち回る以前に、7番道路にポッポとガーディを捕まえに行く。後はピジョンに進化するくらいまで育てたら火と飛行の技でゴリ押しすれば………多少技の練度や僕とのコンビネーションが悪くても、勝てなくともいい勝負は出来るはず。」

 

 “痺れ粉”などの粉系の補助わざは飛行タイプの“かぜおこし”で適当に分散させればいいしね。

 主に飛行タイプで臨むのがいいはずだ。

 さすがにエリカ様のポケモンとレベル差があるので、ピジョンで勝てると断言はできない。

 

「なるほど、たしかにその通りです。トレーナーは特定のタイプでしか戦えませんので、タイプ相性をきちんと把握し、その上でわたしに勝ってこそ、レインボーバッジを受け取るにふさわしい人物になるのです。その点で言えば、用意周到に準備してから望むレンジさんの方が、先ほどの彼よりもレインボーバッジを手にする資格がありそうですね」

 

「………そっか。ありがとう」

 

 バッジを手にする条件の一つが、タイプ相性をしっかりと把握しているかを問われているわけだ

 草タイプに対して、なにが弱点なのか。こちらはどのタイプで臨むのがいいのか。それがわからない者に、バッジを持つ資格はないということだ。

 

 

「では次に、コラッタで臨めば、どう対処しましたか?」

 

「コラッタで?」

 

「ええ。ジム戦ではなく、トレーナーと戦う場合は、どんな相手を使って来るかなんてわからないでしょう?」

 

 それは、考えたこともなかったけど………

 

「小回りの利くスピードを活かしながら、“しっぽをふる”で防御力を落として、“いかりのまえば”で体力を削って、“とっしん”か“ひっさつまえば”でKOかな? そううまくいくとは限らないけどそれができなければ、その時に考えるよ。」

 

「言い解答ですね。この場合は、とにかく“考える”ことが重要なのです。ポケモン勝負は絶対ではありません。草タイプのポケモンでも戦い方しだいによっては炎タイプに勝つときだってあります。明確なビジョンを持つことは、すなわち成長につながります。レンジさんは将来、いいトレーナーになりますよ」

 

 エリカ様にお墨付きをもらっちゃった。えへへ

 なんか自信が出てきた。何でもやれそうな気がする!

 

「今日はここまでです。『オレンちゃん』今日はジムに来てくれてありがとうございました」

「こちらこそ、勉強になったよ。ありがとう、エリカお姉さま」

 

 く、一気に自分の今の現状………女装している現実に戻された。

 エリカ様はいたずらっぽく笑って俺の頭を撫でると

 

「………いつか、本当にオレンちゃんと………本気で戦ってみたいですね」

「僕は絶対に超えてみせるよ、エリカ様を」

 

 

 

 エリカ様は俺にとっても越えなくてはならない壁だろう。

 バッジを手に入れて、いつかはワタルを倒してチャンピオンになるんだ。

 

 それから、別の地方にも行ってみたいしね

 

 

                   ☆

 

 

 エリカ様のジムを後にして帰路に着く。

 エリカ様からもらったお小遣いは5,000円だ。

 3歳児が持つには大金だが、生活費としてはいかんともしがたい。

 

 本当だったら、バトルを見学させてもらった入り生け花教室で教えてもらった俺の方がお金を払わないといけないはずなのだ。

 感謝こそすれど、文句は何一つない。

 

 おばあちゃんは自分に甘えてくれと言っていたが、甘えるつもりは一切ないため、イーブイのポケモンフーズを買うお金なども自分で捻出しなければならない今、俺にできることといったら、やはりパチンコしかないのだ。

 

 

 

「イーブイ」

「ブイ?」

 

「今からまたゲームコーナーに遊びに行くよ。ついてきて」

 

 

 ロケットゲームコーナーはゲーム時代とは少し違って、クレーンゲームや音ゲーなどもある。

 クレーンゲームの中には、ピッピ人形やピカチュウ人形などが置いてある。

 だが、俺は換金できるゲームしかしない。

 

 なぜなら、お金が必要だからだ。

 

「おう、坊主………? 坊主だな。 おかあさんとは仲直りできたのか?」

 

 スロットのコーナーに行くと、昨日のスキンヘッドのおっちゃんが出迎えてくれた

 ゲームコーナーの中は音がうるさいほど鳴っているので、割と大声での会話だ。

 

 二日連続でここにいるけど、おっちゃん、仕事は無いの?

 ああ、トラックの運ちゃんなの? だから空いた時間にパチ打ってるんだね

 

 ちなみにおっちゃんが一瞬疑問形になったのは、おそらく俺がまだ女装しているからだと思う。

 エリカ様のお古の着物だよ。この簪(かんざし)もかわいいでしょ、えへへ………はぁ。

 

 ドレスから着せ替えられたけど、どこからどうみても七五三だよね。

 びっくりだろ。コレ、下着つけてないんだぜ。

 ブーラブラだよ。

 

 

「おかげさまでね。今日はそのお礼を言いに来たの。おっちゃんが居てくれてよかった」

「ブイ!?」

 

 またもイーブイが『うそこけ!』と言いたげな視線を寄越してきたが、こういうのは相手に気分を良くしてもらうための嘘だ。こういう技術を覚えないと、社会に出てもやっていけないぞ。

 デートをすっぽかして待ち合わせ場所でばったり出くわしてそこでようやくデートの存在を思い出しても何食わぬ顔で『ごっめーん遅刻した♪』と反射的に言えるくらいのずぶとさでなければならないんだ

 まぁ、そんな男は死んでしまえと心から思えるんだけどね。

 

「おう、仲直りできなたら何よりだ。それにしても、嬢ちゃん、女の子だったんだな。坊主なんて言って悪かった」

「ううん。いいよ。あと僕は男だから、坊主でもいい。この格好はちょっと家出をしたバツでママに………ね」

 

 そうした作り話に、おっちゃんは苦笑いでなるほど、と言った。

 イーブイはちょっと冷めた目で俺を見つめる。『うそつき』と、そんなことを言っているような目だった。

 

 

「また隣で打っていい?」

「おう、かまわねーぞ」

 

 スロット台に座ると、イーブイは俺の膝の上に飛び乗って、丸くなった。

 まぁ、打ってる最中はポケモンにとっては退屈だからね

 

 

 残りのコインの枚数は122枚。

 どれだけ増やせるかとチャレンジしてみたものの、今日はダメな日だったらしく、30分で全部スッてしまった。

 ざんねん。日を改めた方がよさそうだ。

 

 

「うお! きたきたきた!!」

 

 だが、俺の隣のスキンヘッドのおっちゃんは当たり目が続出しているらしく、30分で5,000枚近くコインを増やしていた

 

「すげえやおっちゃん! 頑張れ!!」

「まかせとけ!」

 

 結局、おっちゃんは13,000ほど元を増やして、ホクホク顔でスロットのコーナーを後にした

「おう坊主。付き合ってくれた礼だ。なんでも好きなもんを一つだけ奢ってやるよ」

 

 

 俺のスロットの成績は散々だったが、おっちゃんが勝っていたのでありがたく奢られることにした。

 

 本当ならば『ケーシィ』が欲しい所であるが、レベル上げをする時間がない。テレポートしか覚えていないケーシィを仲間にするのは、もう少し俺のイーブイが育ってからの方が望ましいだろう。

 

「ピッピが欲しい!」

 

「いいぜ、オレから坊主にプレゼントだ。」

 

 

 さすがにポリゴンやカイロス、ストライク、ミニリュウなどのコインの枚数が多いポケモンをねだるのは見ず知らずのおっちゃんには厳しいものがある。

 他のポケモンよりも安い、ピッピを所望することにした。

 

 このピッピって、どこから手に入るポケモンなんだろう。

 

 オツキミヤマから手に入るポケモンなのかな?

 ロケット団がオツキミ山で乱獲したものをこの場で売っている可能性が出てきた

 

 係員の人にモンスターボールを手渡されたおっちゃんは、そのままモンスターボールを俺に手渡してくれた

 

「ありがとう。」

「おう、じゃあな。」

「ブーイ!」

 

 そうして、おっちゃんと俺は別れた。またすぐに会えそうな気もするけどね

 

 それにしても、わりと簡単に777が出るスロットだけど、コインが50枚で千円。一枚25円という高い値段だから無くなるときはすぐになくなってしまうんだ。

 

 さらにそれを換金する方法が、一度わざマシンを買わないといけないという点。

 コイン3000枚でアイアンテールを買ったが、3000枚×25円で75,000円必要であるということ。

 しかし、アイアンテールの売値は1,500円である。

 そのことから考えるときっと仕入れの原価は1,000円程度、いや、もっと低いだろう。

 それが、現金換算すると75,000円に化けてしまっている。

 

 つまり、タマムシのゲームコーナーで換金をしようとしても、いくらコインを稼いでこちらも儲けが出たと言っても、コイン交換所を利用するというその行為のおかげで、最後に笑うのはロケット団であるという点だ。

 なかなかにゲスい商売である。

 

 こちらが『777』を量産してコイン交換所で交換するればするほど、ロケット団は儲ける仕組みになっているんだ。

 その後にコインを景品にして、新たにコイン500枚の為に10,000円払えばほら、もうこっちのマイナスだ。

 

 だからこそ、ロケットゲームコーナーでは『777』が出やすくなっているんだ。

 

 

 世の中そう簡単にはことは進まないよね。

 嘆息しつつ、コイン交換所から出る俺とイーブイ。

 

 タマムシデパートの向かいにある噴水広場にて、ボールから出したピッピを召喚する

 

「出てきて、ピッピ!」

「ピィ………」

 

 コイン交換所のおねーさんから頂いたピッピは、案の定、人間に対してひどく怯えた表情をしていた

 

「………やっぱりか」

 

 手に入れたピッピは、怯えた様子で俺を見つめ、後ずさる

 おそらく予想通り、ロケット団がオツキミ山で乱獲したピッピに違いない。

 

 ピッピの出現率は相当低いはずだが、数の暴力でロケット団が見つけて一網打尽にしたのだろう。

 

 ピッピは人気のポケモンだし、飛ぶように売れたはずだ。

 実際、俺もピッピを購入して、眼の前にいるのだから。

 

 

 俺が一歩近づくと、怯えたように後ずさって体を震わせる

 

 そんなピッピを、俺は優しく抱きしめた。

 ピッピはその瞬間、びくりと大きく体を震わせた

 

「ロケット団に無理やり連れてこられたんだよね」

 

 ブルブルと震えるピッピの背中を、優しく撫でる。

 

「怖かったよね」

 

「ピッピィ………」

 

「仲間にも会いたいよね………」

 

「ピィー! ピッピィー!」

 

 仲間ともども連れ去られらことを思い出し、泣き出してしまうピッピ

 俺の服をギュッと握って涙を零すピッピの背を撫でながら、更に俺は続ける

 

「………俺も、もう二度と親にも友達にも会えないんだ。キミの気持ちは痛いほどによくわかる」

「ブイ………」

 

 

 足元のイーブイは、俺のことを見て『うそつき』という非難がましい目ではなく、俺が本気で言っていることが伝わっているのであろう、ピッピによりそって優しく声を掛けていた

 

「ここにはキミをイジメるような人は居ない。少しずつでいい。俺と仲良くしてくれないか?」

 

 やさしく。やさしくそう言って、ピッピの身体を離してから顔を見つめ、ピッピとしばらく見つめ合った。

 

「ピッピッピィ!」

 

 眼を赤くしたピッピは、『こちらこそ仲良くしてね』と俺の胸に顔を埋めてきた

 

 

 

 こうして、新たにピッピが仲間になった

 

 


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