3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第5話 3歳児は野生のガーディに勝利する

 ピッピを手に入れて数日が立った。

 未だにお金を稼ぐ方法は確立していない。

 

 ピッピとイーブイの食費でエリカ様の手伝いやスロットで稼いだ俺のお金も、すぐに無くなってしまった。

 

 甘えたくないと言っていた手前。俺の食費はおばあちゃんが負担している始末。

 

 時々エリカ様にジムに呼ばれることもあるが、エリカ様だって17歳。大量のお金を扱っているわけではない。

 そのため、最初の日以降エリカ様からはお金は貰っていない。

 

 

「こうなったら………」

 

 貧乏人の最終手段。

 ニャースを捕まえて“ネコにこばん”で小銭を増やしまくるしかないのだろうか。

 

 しかしなぁ、そのみつかるお金って『自分のレベル×攻撃回数×5円』という何とも虚しい数だったはずだ。技を覚えるのがレベル30だということを考えると、一回の戦闘で手に入るのは300円程度なのか。

時給で考えたら多いのかな。しかし、ニャースをそこまで育てるのも面倒くさいな。

 しかし、ニャース以外に“ネコにこばん”を覚えるポケモンはいない

 

 

 ニャースの特性は、ものひろい………。きんのたま、5,000円

 

 いや、ネコにこばんで本当にお金が手に入ったら物価がエライことになる。

 “ネコにこばん”で生計を立てられるほどに。

 それならもう“ネコにこばん”や“ものひろい”には期待できないな。

 

「おい、オマエ!」

 

 じゃあ、どうやってお金を稼げばいいんだ?

 3歳児にできる事なんて、全然ないぞ!?

 

 

 職業斡旋所に行っても、3歳児なんてどこの会社もお呼びでないのだ。

 

 つまり、3歳児にできるお金を儲ける仕事なんか無いということだ。

 このままではおばあちゃんに迷惑ばかりかけてしまう。

 

「きいてんのか、おまえだよ!」

 

 だが、お金を稼ぐ方法を確立せねば、おばあちゃんに迷惑をかけ続けることになってしまう

 それは避けたい。

 

 せっかくイーブイとピッピが居るんだ。なんか商売とか………

 

 できないよなぁ。思いつかん。

 

 俺のツンデレイーブイと甘えんぼピッピにできることと言ったら、その愛くるしさで俺を癒してくれることくらいだ。

 金儲けの話はできん。

 

 うーむ、早い所仕事をみつけなくては。

 とはいえ、3歳児にできることは果たして見つかるかどうか………

 

 今のところ、ピッピとイーブイの食費で手一杯だから、ポケモンを増やすわけにもいかない………。はて、どうしたらいいだろうか。

 ポケモンマスターへの道は険しいな。

 

「きけっつってんだろ!」

 

「あいたっ!」

 

 

 痛い! なに! いったい!

 

「ずっとムシしやがって、ナメてんのかおまえ!」

 

 

 顔を上げると、拳を握りしめた少年が居た。

 年の頃は5,6歳といったところだろうか

 

 その近くには、その友人であろう少年が一人。気の強そうな女の子が一人。

 計三人の子供がいた。

 

「ん? なに? どうしたの?」

 

 俺は訳が分からなといった表情で彼らを見るが、そんな俺のことを、彼らは不愉快そうに見下ろしていた

 

「おまえ、さいきんタマムシシティにきたんだろ?」

 

「うん? んー、そうなの、かな?」

 

 最近タマムシシティに来たと言えば来ただろう。

 だが、街の主要な建物の場所については確実にわかるほどやりこんでいたし、15年以上昔から。この街に着いては知っているつもりだ。

 

 しかし、現実になったこの世界は初めてと言えるだろう

 

「うん。最近来たね。それがどうかしたの?」

 

「そのくせに、さいきんエリカさんのジムにいってるらしいな!」

 

 あかん。話しがかみ合っていない。

 子供は苦手だ。

 

 さっき俺がぽかりと殴られたからか、ベルトに固定したイーブイとピッピのポンスターボールがカタカタと怒って動いている

 

 俺は何ともないから、おとなしくしてなさい

 

 

「それが?」

 

「オマエ、ナマイキなんだよ!」

「そーだそーだ!」

「エリカさんはめったにおめにかかれないのに、ズルいのよ!」

 

 

「ふむ?」

 

 

 よくわからんが、俺のことが気に入らないらしい。

 

 俺自身は、イーブイを勝手に持ち出してスロットで儲けようとしているだけのただの3歳児なんだけどなぁ。

 

「それに、10さいにならないとポケモンをつれていくのはダメなんだぞ!」

「そーだそーだ!」

「ポケモンを持ってるのなんかズルいー!」

 

 

 ああ、なるほど。

 彼らの気持ちはすべて女の子が代弁してくれていた

 

「うーん。僕もトレーナーじゃないけど、一応ポケモンを育てるくらいはできるから、一概には言えないんだけど、みんなも自分の家でポケモンを飼ってるんでしょ?」

 

 ほぼ確実にご両親はポケモンを持っているはずだ。

 彼らが居ないと、この世界は成り立たないのだから。

 

 パソコンを管理しているのが実はポリゴンやメタグロスだということは、研究者の間では常識だ。

 他にも、仕事と密接に関わっている。ワンリキーやゴーリキー、カイリキーなども建築業や土木関連で大いに人間を助けているのだ

 

「それと同じだよ。ポケモンの散歩は、僕の仕事。出てきて、イーブイ。ピッピ」

 

「イーブーイ!」

「ピッピィ!」

 

 出てきたイーブイとピッピは、元気に返事をして、俺に突進してきた。

 そのまま押し倒される

 

「ぐえ」

 

 やっぱり3歳児の体力ではポケモンの力には敵わないな

 

 俺からどいたイーブイとピッピは、俺を守るように前に立って、少年たちを睨みつけた

 

 ピッピはだいぶ俺に慣れてきたらしく、心を開いてくれた。

 仲間に会えなくて寂しくなっていたところで、おばあちゃんが飼っているピッピに会わせて、おばあちゃんのピッピとすごく仲良くなったんだよ。

 おかげでピッピもすぐに元気を取り戻したんだ

 

 それからというもの、ピッピは俺に甘えてくる。

 そのたびにイーブイが俺の足を踏んでくるけど、イーブイとピッピの仲も良好だ。

 

 とはいえ、二匹とも俺のことが大好きらしく、俺がピンチの時は率先して俺を守ってくれるんだ

 

 今はまだ力のない進化前のポケモンだけど、それでも俺はこの子達が俺の為に行動してくれることがうれしくて仕方がない

 

「さいきんきたくせにナマイキなんだよ。ポケモンもちあるいて、じまんしてんのか!?」

「そーだそーだ、じまんしてんのか!?」

「あたしもポケモン持ちたいのに! あんたばっかりズルい!」

 

 

 しかし、俺の言った理屈など、子供の屁理屈の前には無力である。

 

 うらやましいと、最近来たばかりの俺ばかりがいい思いをしていると勘違いしてるんだ。

 ほんとう、勘違いも甚だしいよね。こっちは生きることに必死になるしかないというのに。

 

「めんどうくさ………」

 

 思わず本心が口から出てしまった

 

「あん? なんつったおまえ!」

「ハヤト、めんどくさいっていったぞ、そいつ。」

「ほんとナマイキね!」

 

 

 それを聞き逃さなかった三人の子供は、さらに俺に突っかかって来ようとする

 

 臨戦態勢のイーブイとピッピ。

 こういう場合は………

 

 

「逃げの一手に限る! 行くよ、イーブイ、ピッピ!」

 

「ブーイ!」

「ピッピィ!」

 

 

 すたこらさっさと噴水広場から離れて逃げます。

 

 ゲーム時代の頃と比べて街がとても広くなっているが、大方の構造は同じだ。簡単に逃げられるだろう。

 

「あ、まて!」

「はなしはおわってな――」

「にげるなんてズルいわよ!」

 

 

 三人の声を後ろに残して、俺は走り出した。

 

 

 7番道路に向かって。

 

 

              ☆

 

 

「初めてタマムシシティから出たなぁ。おっと、草むら発見。」

 

 

 7番道路はたしかセシナの実が落ちていたはずだ。

 

 

 出てくるポケモンは………

 

 ポッポ・ロコン・ガーディ・マダツボミ・ニャース・ナゾノクサ

 この6体のはずだ。いずれもレベルは18~21くらいだろう

 

「うっわー、思ってたよりもだいぶ広いな」

 

 タマムシシティが現実になってかなり広くなったことは知っていたが、7番道路も、草原みたいになっていた。

 たしかあのエリアってちょっと草むらが生えているだけの、3秒で素通りできるような場所じゃなかったっけ。

 

 それがこんなに草原になっている。

 

 まぁ、当然か。この世界は人間よりもポケモンの方が圧倒的に数が多いのだ。そして、そのポケモンは生きている。

 ゲーム時代のようにポップするわけではないのだ。

 それ相応に広くなっていて当然だ。

 

 というわけでさっそく草むらに突入。

 

 お? ラッキー。スーパーボールを拾った。

 誰かが捕まえ損ねたボールだな?

 

 ポイ捨てはいかんが、有効活用させてもらおう。

 

 ゲーム時代には無い落し物なども存在する。

 こりゃあ逆にゲーム時代の落とし物がすでに取られているパターンもあるだろうな

 

 

 

「オン!」

 

 地面を見ていたら、前方から声が聞こえてきた。

 顔を上げると、そこには―――

 

「おっと、出てきたな、ガーディ。行けるか、ピッピ。」

「ピィ………」

 

 怯えるピッピ。当然だ。ピッピはLv.8

 スマホで確認したガーディのレベルは18なのだから。

 

 ガーディは出会ってそうそう臨戦態勢だ。

 さすが野生のポケモン。こちらが仲良くしようと思ってもそううまくいかないな

 

「よし、いったん下がって見てろよ。眼を逸らすな。イーブイ。行けるな?」

「ブイ!」

 

 唯一対抗できるのは、レベル25のイーブイだけだ。

 レベルという概念を理解しているのか怪しい世界で、レベルを把握している俺はきっと有利のはずだ。

 おそらく、このスマホで確認できるレベルというのは、目安みたいなものと思っていいはずだ。

 

「ガウ!!」

 

 そうこうしている内に、ガーディが“ひのこ”を吹いてきた

 

 

「ブイー!」

 

「大丈夫か、イーブイ!」

「ブイッ!」

 

「よし、“スピードスター”!」

「ブーイ、ブイー!!」

 

 ひのこを喰らってのけぞったイーブイだが、ダメージは少ないらしく、すぐに反撃に移る

 イーブイが吠えるとイーブイの周りから星形のオーラのようなものが現れ、ガーディに襲いかかった

 

 スピードスターは絶対命中である。

 躱そうとしたガーディに命中。レベル差もあり、ガーディは息が切れている

 

「ガウ! ガァアアアア!!」

 

 最後のあがきとばかりにガーディは“かえんぐるま”でこちらに向かってきた

 

「イーブイ、“すなかけ”!」

「ブイ!」

 

 

 地面の砂をガーディに掛けて命中率を落とし、視力を失ったガーディは失速。イーブイは襲い掛かる“かえんぐるま”を躱してガーディは木に激突してしまった

 ここいらの木は燃えにくい木だったんだな。かえんぐるまがぶつかったにもかかわらず、焦げ跡も付かなかったぞ

 

「トドメの“とっしん”!」

「ブーイ!」

 

 ドゴン! という大きな音が響いた。

 

「わふ………」

 

 見ればガーディは眼を回して気絶していた。

 勝利である。

 

「よくやったぞイーブイ!」

「ブイブイ!」

 

 トレーナーとしての初勝利である。

 本当ならばゲットしたかったんだけどな。野生のポケモンってのは凶暴らしい。

 やはり3歳児の身体では危険だな。

 ポケモンバトルに巻き込まれたらひとたまりもないだろう。

 なるほど。10歳からトレーナーになる資格がもらえるっていうのは、こういうことか。

 

 自分の体格よりも1人分ほど大きいガーディを倒し、イーブイは興奮した様子で俺に飛びついてきた

 

 ピッピも嬉しそうだ。

 そんな二匹を撫でて時間を過ごし、だいぶ落ち着いたところで

 

「街に戻ろう」

 

 

 イーブイも少し怪我をしたみたいだしね。

 

 

          ☆

 

 イーブイをポケセンに預けて30分でイーブイは帰ってきた。

 平気? そっか。じゃあ帰ろっか。

 

 俺はピッピとイーブイと一緒に並んで帰路に着く。

 

「あ! おまえ! やっとみつけた!」

「さっきの!」

「なんでかくれるのよ、ズルいわよ!」

 

 

 帰路に着く、茜に染まる街路抜け、幼き童の、妬み声あり。

 レンジ。心の短歌。

 

 

 なんなのこの子たち。暇なの?

 

 なんで俺につっかかってくるかなぁ。

 この子達と話そうとすると疲れる。

 

「というわけで、サイナラー!」

 

 三十六計にげるにしかず。

 3歳児の身体では子供の喧嘩に、しかも三人相手でも勝てる気がしない。

 なにせ、相手は俺よりも体格が優れているのだ。

 

 ならば逃げの一手こそが最善である。

 怪我するのは痛いのだ。

 

「あ、まて!」

「にげるな!」

「ズルいわよ!」

 

 ズルくないです、作戦ですー!

 

 

 


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