風の聖痕~和麻のチート伝説~   作:木林森

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ようやく続き書けました。えらく長くなってしまって申し訳ないです。


綾乃ちゃん戦う。出ずっぱりな頼道さん。再会和麻くん。

「うわっ、と!」

 

黒い風術師はいきなり綾乃に向けて風を飛ばした。もちろん綾乃はすぐにやられはせず、横に跳躍してかわした。

そして、既に手の上に出していた炎を放つ。しかし、相手の周りの風の壁に遮られる。

 

「ぅえ!?」

 

綾乃は驚いた。確かにそこまで威力があったとは言えないが、それでも炎術が風術によって防がれるなんて、有り得ない。力関係はこっちの方が上だ。なのに防がれたという事はつまり

 

(私の炎よりあいつの風の方が強いって事よね...?うわぁ...勘弁してよ。そんな理不尽な存在和麻さんだけで十分よ)

 

冷静に考えてる最中でも相手は風を飛ばしてくる。その度に綾乃はかわし続けるが、それもいずれ限界がくる。いつまでも避けているわけにはいかない。

綾乃はまた炎を出す。今度はさっきのとは比にならない威力だ。

 

「オラァッ!!喰らいなさい!!」

 

綾乃は華の女子高生とは思えない声を出しながら炎を放った。しかし、また防がれてしまう。だが、さっきとは違い向かってきた炎に対して、自分が周囲に出している風を集中させた。

つまり、周りの風が薄くなっている。

という事は

 

「今なら私の炎が通るって事よねぇ!!」

 

相手を懐に潜り込み、体に炎をぶつけた。

 

「よし!これでどうよ!」

 

相手はぶっ飛び、地面に倒れる。が、またすぐに風が飛んで来た。

 

「っ!チッ!」

 

綾乃もまたそれを避ける。

相手を見ると、どうやらダメージはほとんど受けていないようだ。

 

(やっぱりダメか。まあ、そう簡単にはいくと思ってないけど。ていうか、あいつ妖魔よね?気配が人間のそれじゃ無いんだけ、ど!)

 

相手もさっきより威力のある風を放ってくる。速度も上がっていて、風が綾乃の二の腕を掠める。

それに舌打ちをしつつ避ける。途中相手のニヤニヤしている顔を見てイラッときた。

 

「舐めてんじゃないわよ!!」

 

今度は手からではなく、周りにいくつもの炎の球体を生み出す。そしてそれらを発射した。

 

ドドドドドッ!!

 

相手に全弾命中したが、それで倒したとはもちろん思っていない。

しかし、目眩まし程度にはなっただろう。そう思い、綾乃は次の行動に移る。

 

――パンッ

 

手を合わせゆっくりと離すと、手から炎を纏った刀が現れる。名は『炎雷覇』。神凪家の代々伝わる神器である。

綾乃はそれを一振りして、構えをとる。

 

「悪いけど滅させてもらうわよ」

 

相手に接近し炎雷覇を振り下ろす。だが、やはり相手の風に阻まれる。

しかし、今度は炎雷覇という神器を使っている。さっきまでのただ炎をぶつけるのとはわけが違う。

 

「アアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

炎雷覇の炎が激しく燃え盛り、相手の風を押し退けていく。

そして、そのまま風を打ち破る。

相手は自分の風が破られた事に驚愕している。その隙を逃すほど綾乃は甘くなかった。

 

「ハアッ!」

 

そのままの勢いで炎雷覇を渾身の力で一閃する。相手はその場に崩れ落ちた。

ふーっと、息を吐いて落ち着く。綾乃は炎雷覇をしまって、倒した男について考える。

 

(あいつって風を操っていたんだから風術師よね?だけど確かに妖魔の気配はあった。術士が妖魔にとり憑いたって事なの?でも、あんなに強い風術師は私知らないわ。少なくとも炎術と真っ向からやりあえる程の人なんて。もしかして、あれってただの妖魔じゃ無い?)

 

唸りながら思考するが、はっきりとした答えが出てこない。それにイライラしながら、ため息を吐く。

 

(考えてても仕方ない。お父様に報告して協力を仰ごう。もしかしたら、こういった存在がまだ他にもいるかもしれない)

 

その時だった。

 

ザシュッ

 

背中を何かで斬られたような痛みを襲う。

 

「ガアッ!」

 

綾乃はたまらずその場で膝を付く。傷の痛みに耐えながら後ろを向くと、さっき倒したはずの男が立っていた。

さっきまでのようなニヤニヤした顔ではなく、怒りの表情で綾乃を見下ろしている。

だが、相手も無傷ではなく所々に火傷を負っている。

 

(......っ!炎雷覇でも倒せないっていうの!?本当勘弁してよ)

 

なんとか立ち上がり再びお互いに対峙する。

綾乃が立ち上がるのを待っていたのか、立ち上がった瞬間にまた相手は風を飛ばす。

 

綾乃はそれに反応してまた避ける。背中の傷は比較的浅かったためなんとか反応できたが、しかし完全とはいかなかった。相手の風が今度は太ももを掠めた。それにより少しバランスが崩れ、地面に倒れる。

 

そんな綾乃に追い討ちをかけるように風を飛ばす。倒れている状態から、風を避ける事はできない。

相手は自分の勝利を確信したかのように口を歪める。

だが、その表情はまたもや驚愕に変わる。

 

綾乃が風に手を向けた瞬間、風が燃え消えた。見ると、綾乃の炎が先ほどとは違う色に燃え盛っている。

まるで太陽のような輝きを放つ朱金の炎。

 

「まさか、これを使うことになるなんてね...」

 

背中の傷が痛み、フラフラと立ち上がる綾乃。朱金に燃える炎を向けながら、相手を睨み付ける。

 

「対和麻さん用の秘密兵器だけど、あんたに使ってやるわ。感謝して燃え尽きなさい。私の神炎で!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在神凪邸はピリピリとした空気に包まれていた。それは今朝流れたニュースが関係している。

公園で起こった殺人事件。被害者は神凪の分家の者だった。

分家とは言え神凪の一員。それが殺されたとあっては黙っていられない。

 

「今日皆に集まってもらったのは他でもない。結城と大神の者たちが殺された件についてだ」

 

神凪の屋敷にある会議室。宗主の重悟は重々しく議題の内容を話し始めた。

誰も言葉を発しない。異様なまでに重い空気が場を包む。長い沈黙が続き、ようやく分家の一人が口を開く。

 

「......この事件について風牙衆が調べていたはずですが、それの成果は出たのですか?」

 

風牙衆の長、兵衛が目の前にいるがそれを無視して分家の男は、重悟に尋ねる。

重悟はそんな男の態度に少し眉をしかめて、ため息を吐いた。

 

「そうだな。兵衛。お主達風牙衆が調べた情報はどの様なものだ?」

 

兵衛はゆっくりと口を開く。

 

「犯人は風術師です」

 

ざわっ

 

その場にいた神凪の人間に動揺が走った。

 

「貴様ら!我ら神凪に牙を向いたというのか!!」

 

別の分家の男が兵衛に怒鳴る。

 

「いえ、私達風牙衆の者達ではありません。そもそも私達では神凪の皆様に敵いませぬので」

 

怒鳴られた兵衛は取り乱すこと無く冷静に応える。

 

「では、誰が殺したというのだ!!」

「風術師で一番強いのは貴様ら風牙衆だろう!」

「もし下らぬことを言うのればここで燃やし尽くすぞ!!」

 

分家全員が怒り、怒鳴り散らす。

会議室が非常にうるさくなってしまい、厳馬や重悟は眉をしかめる。

 

「静まれ」

 

その一言で部屋が静まり返った。

声を荒げたわけではない。怒鳴り付けたわけでもない。でも、誰もその一言に逆らえなかった。

 

「先代...」

 

重悟は先ほどの言葉を放った人物へと目線を向ける。そこにいるのは、神凪の先代宗主である神凪頼道だった。

 

「いい年した大人がぎゃあぎゃあ騒ぎよって、みっともない。少しは大人しく相手の話を聞かんか愚か者共」

 

もう既に八十近い年齢の老人だが、それを思わせないような体格をしている。筋骨隆々とまではいかないが、引き締まった体をしている。

そして、その眼力は老人が持っているものではない。先ほどのように一言で大の大人達を黙らすほどの迫力も兼ね揃えている。はっきり言って普通の老人とはとても言えない。

そんな人物に睨まれ叱責されると、大抵の者は萎縮して何も言えなくなる。

 

「では兵衛、続きを話せ」

 

そして、それは兵衛も例外ではない。頼道に続きを促されただけでも恐怖で体が震えている。

しかし、恐怖で押し黙っているわけにもいかない。兵衛は必死に自分を内心で叱咤しながら口を開く。

 

「はい...。此度の殺人事件の犯人は...」

 

兵衛は一端息を整える。そして、ゆっくりと犯人の名を告げた。

 

「和麻です」

 

その一言は、先ほどよりもその場にいた者達を動揺させた。

 

「なんだと!?あの無能が我ら神凪の人間を殺したというのか!」

「しかも貴様らが扱う下術で殺されただと!?そんな馬鹿な話があってたまるか!!」

 

分家の人間達はまた騒ぎ始める。同じような行動をして、先代宗主の頼道が苛立つのは当然だった。

 

「お主らは二回も同じことを言わんとわからんか?いい加減にせんと今この場で貴様らを殺すぞ」

 

更に迫力が増して、分家の人間達に言葉を叩きつける。

ほとんどの者達は黙り込む。しかし、一人何かに耐えられないように体を震わせ、反抗するように口を開く。

 

「先ほどから黙っていれば偉そうに!先代宗主だか何だか知らんが、炎術も使えない分際で!」

 

そう吠えた男の目の前の畳が抉れた。

頼道の方を見ると、大声を出した分家の者に向かって手を突きだしている。

 

「弱い犬ほどよく吠えよるわ。偉そうに、じゃと?力が全ての神凪家じゃろうが。それで?今この場でわしに勝てるやつはどれだけおるというのだ?」

 

その問いかけに答えられる者はいなかった。

それもそのはずで、この頼道という男は炎術を使うことは出来なくとも、それを圧倒する能力を有しているからだ。

その能力で他の宗主候補であった兄弟を差し置いて、神凪の宗主になった男だ。

もちろんその能力だけでなく、いろいろと策を講じたりもしたが、それでもその強さは神凪の人間は皆認めている。あの厳馬でも勝てないほどの強さを持っていることを模擬戦とはいえ示したのだから。

 

「して、兵衛。和麻が犯人だという証拠はあるのか?」

 

頼道は話を本題に戻すために兵衛に和麻が犯人である根拠を尋ねる。

 

「先ほども言った通り我ら風牙衆では神凪の術者には敵いません。ですが、和麻は既に子供の頃からこの家のどの人間よりも強かった。神凪の人間を殺すことは容易かと思われます」

 

「しかし、それは和麻が神凪の人間よりも強いという話であって、犯人である証拠では無いだろう?わしは和麻が犯人だという証拠はあるのか、と聞いたんじゃが?」

 

頼道は、無駄な話はするなと兵衛を睨んだ。

頼道の眼力に恐怖を覚え、「申し訳ありません」と頭を下げる。

 

「確実な証拠とは言えませんが、最近かなり強い風の精霊の力を感知していました。風牙の者にこれほどの力を持った者はおりません。更に言えば日本には我々以上の風術師は存在しません。また、新たに風牙衆以上の風術師が現れたという情報もありません。つまり、これは海外からやって来た風術師の仕業。我々は海外の術者も調べ、そして、ある情報を掴みました」

 

兵衛は一端話を切って、軽く一息を吐いてから再び話を始めた。

 

「《和麻という凄腕の風術師がいる》という情報です。そして、神凪の方が和麻と仕事で会った。これら二つを合わせて、私は此度の殺人事件は和麻の仕業であると確信しました」

 

ハッキリと兵衛は断言した。

先ほどまで頼道に対して恐怖に震えていたが、その震えも今は全く無い。

それほどまでに堂々とした態度で言ったのだ。

この場にいたほとんどの人が、兵衛の話を信じた。

自分達が見下している風牙衆の人間の話を受け止めるのは癪だが、しかし、兵衛の話は納得できるし、何より神凪の人間たちにとって和麻という存在はとても忌々しいものだ。

炎術を扱えないのに自分達よりも強いという事実が、神凪の人間たちには耐えられなかった。和麻と年が近い者達は特に。

つまりは和麻を潰す大義名分が欲しかった。その考えは兵衛の話を信じることに拍車をかけた。

 

「成る程な。確かに筋が通っておる」

 

頼道は兵衛の話に一応納得しておいた。だが、完全に信じた訳ではない。何か裏があると頼道は思っている。が、今ここでそんなボロは出さないだろうし、後で聞いたとしても口は割らないだろう。

ならば、形だけでも納得して兵衛を泳がしておいた方が良いかもしれない。

頼道はそう考え、

 

「わしは、和麻を犯人と決めうって動いても良いと思うが。どうじゃ?」

 

と重悟に提案する。

 

「父上!ですが、まだそうと決まったわけでは...!」

「ほとんど決まったようなもんじゃがの。まあ、宗主はお前じゃ。お前が決めよ」

 

勝手に場を仕切り、宗主である重悟を差し置いて話を進めておきながら、最終的な判断は重悟に任せる。かなり傍迷惑な行為だ。

しかし、重悟は何も言えない。あの場では頼道が適任だった。自分がやっても良かったが、頼道のように恐怖政治みたいな真似が自分にはできない。

頼道のやり方は、神凪が風牙に下らない因縁をつけない為の処置でもあった。最近の神凪の術者、特に分家の若い衆は、かなりしょうもない事で風牙の人間を傷つける。きっと今の報告だけでも風牙の人間を傷つけようとするだろう。

 

風牙の人間が目立っていた。

 

たったそれだけの理由で人を傷つけるような事をする馬鹿な人間は存在しない。今日日小学生でもしない。

でも、神凪の人間はやるのだ。それほどまでに、どうしようもなく馬鹿でクズで愚かな一族に成り下がってしまった。

マシな術者も居るがそれは基本宗家の人間のみだ。勿論分家にも力に驕らず、しっかりと常識を弁えている者もいる。しかし、少ない。圧倒的に少ないのだ。

これが今の神凪家の実態だった。

 

重悟は神凪の未来を憂いながら、とりあえず結論を出した。

 

「まだ、和麻を犯人と断定できん。しかし、一度話を聞いておかねばならんだろう。和麻をここに連れてきてくれ」

 

頼道はため息を吐いた。

 

(そんな言い方をすれば、勘違いする連中も増えるだろうに)

 

重悟は強さも申し分ないし、カリスマ性もある。しっかりと物事を考えて決定することができる。しかし、いかんせん少々甘すぎる部分がある。

 

(わしが原因なのかもしれんなぁ)

 

頼道が宗主の時は、今のように恐怖で従えさせていた。敵も味方容赦はせず、神凪も風牙も同列に扱った。

今まで神凪が風牙にやってきたようなことを頼道が、全員にした。それだけだ。しかし、それだけで恐怖を与えるには十分だった。

神凪の人間はもちろん不満に思っていた。その不満を風牙にぶつけたかったが、それもできないでいた。頼道が言った言葉。

 

『風牙を傷つけるようなことがあれば殺す。そのまた逆も然り』

 

神凪の者達が風牙に手を出すのを禁止し、風牙の者達は神凪に復讐したりすることを禁じたということだ。

その言葉によって、神凪は風牙に手を出すことはできなくなってしまった。実際手を出した神凪の一人を頼道は殺している。粛清であり見せしめだ。

重悟はそんな父を幼い頃から見てきたため、頼道を反面教師に育ってきた。

そして、今の重悟になった。別に悪い訳ではないが、神凪の人間も風牙の人間もほとんど疑わない。そんな調子ではいずれ痛い目を見るだろう。人を信じる事は大切だが、信じるべき対象を間違えてしまった。今の神凪と風牙を信じてしまっては、終わりだ。重悟の友である厳馬も堅物なだけで役に立ちはしない。戦うことしか出来ない人間だ。

まだ、綾乃と煉の方が二人よりマシかもしれない。と言っても神凪家が良くなるとは思えないが。

目の前にいる重悟。そして、部屋を見渡し、神凪の人間、兵衛、まだマシな神凪の人間、厳馬、そして最後にまた重悟を見る。

 

(神凪はもうダメじゃな...)

 

心の中でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っりゃあああああああああっ!!」

 

紅い神炎を纏った炎雷覇を正体不明の妖魔に切りつける。

かなり効いているらしく、先ほどまでとは違い、明らかにダメージを喰らっている。

綾乃は好機と思い、そのまま一気に畳み掛けるように妖魔へと切りかかる。

しかし、妖魔も黙ってはいない。風で綾乃を吹き飛ばす。

綾乃は飛ばされるが、またすぐに攻め立てた。妖魔は風を飛ばすが、綾乃は全て炎雷覇で叩き斬っていく。そして、妖魔へ猛攻を続ける。

綾乃は短期決戦を狙っていた。何故ならこの神炎は五分くらいしか出せない。力を溜めた神炎で一気に焼き尽くすという手段はあるが、溜めるのには時間が掛かるし、そんな時間を目の前の敵が許すとは思えない。

だから、超近接戦闘で相手に反撃の隙を与えないように連続で攻撃する。

敵の妖魔は確実に自分より格上だ。勝利の道筋なんてものは見えやしない。ダメージを与えているが何か決め手に欠けている。なら、連続で攻撃して削りきるか、運よく致命傷を与えるか。どっちかしか無い。

元々考えて戦うようなタイプじゃない。しかも、格上と戦ったのは和麻だけで、それ以外は全部自分より弱かった。

対和麻に備えて鍛えていたが、やはりまだ足りていなかったのだろうと実感する。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

妖魔が怒りのまま叫び、綾乃が炎雷覇を振り上げた一瞬の隙に風を束ねて綾乃にぶつける。至近距離にいた綾乃に避ける暇などなく、そのまま直撃してしまう。

 

「ガハッ...!」

 

吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。そして、綾乃はそのまま動けなかった。

敵に反撃されないように攻撃する。言うのは簡単だが実際はかなりしんどい戦い方だ。しかも相手は綾乃よりも強い。そして、綾乃は神炎を使いながら戦闘していたため、消耗も激しかった。更に、敵の攻撃を受けてしまったせいで、さっきの戦闘での集中力や気力などといったものが途切れてしまった。敵の攻撃の重さが原因でもあるが、綾乃自身もう限界だった。

荒い息をしながら、朦朧としながらも妖魔へと顔を向けると、あちらも立ってはいるもののボロボロだった。体のあちこちが焦げていて、フラフラとした足取りだった。しかし、何やら体が震えている。体を抱きしめ唸っている。そして、そのまま飛び去っていった。綾乃は何がなんだか分からず、頭の上にハテナマークを浮かべながらも安堵の息を漏らした。

 

(何かよく分からないけどラッキーだったわ)

 

すると、

 

 

 

ザリッ

 

 

 

公園の地面を歩く音が聞こえた。そして、そのまま綾乃の方へと歩いてくる。

今の綾乃は何もできない。

 

(何?誰?また敵?もしそうだったら冗談じゃ無いわよ!)

 

綾乃は焦るがどうしようもない。足音がどんどん近くなる。

そして、綾乃のすぐ近くで止まった。

 

「よぉ。えらく強くなったじゃねーか」

 

そんな言葉が聞こえた。

見ると、一人の青年が立っていた。

特に珍しい顔立ちという訳ではない。確かにイケメンの部類には入るが、そこまで目を引く程ではない。言ってしまえばありふれた日本人の顔だ。

でも、綾乃はその顔を知っていた。あの敗北から一回も忘れたことはない。目の前の青年の顔は昨日のように思い出せる。

 

「か、和麻さん...?」

 

 

 

 


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