IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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筆が進まない状態で何とか更新です。
次回は何時更新できるか分かりませ…。


第66話「真実」

 

この世に神なんて居ない。と言うのは責任の言い逃れだろうか?仮にいたとしてもこれまで立て続けに起こった出来事を考えれば相当性根の腐った糞ったれな神様だと言うのは間違いないが…。

…注意力が欠けていた。事に至った原因はその一言に尽きる。動揺で精神が不安定だったと言うのもある。普段の自分なら必ず周囲に人の気配があるのに気付けた筈だ。しかしそんなものは言い訳でしかない。これは私の愚かさから招いたことだ。あの平穏を破壊したのは…。まだ何とか保てていたあの平穏に最後の一撃を加えて粉々に砕いたのは私なのだ。振り向いた先に居る者達の表情に絶望を刻んだのは私なのだ…。

 

「お前達…どうして此処に…?」

 

震えた声が自分の口から漏れ出す。どうして此処にいるのか?そんなものは彼らの性格を考えれば簡単に察する事が出来た。きっと私や本音の身を案じてお見舞いに来てくれたのだろう。お見舞いの品と思われる床に落ちたジュースの缶が物悲しく散らばっている。

今の話を聞いていたのか?頭に浮かんだその疑問は口から出る事は無かった。そんなもの彼らの顔を見れば答えは解りきっていた。

 

「今のどういう事だよ…?」

 

震えながらも何とか絞り出した小さな声で一夏は私に問うてくる。

信じられない。嘘だと言ってくれ。そう縋る様な彼等の眼を私は直視することが出来ず目を背けた。そして一夏達はその態度が問いの答えなのだと捉えその表情からは絶望の色が更に深みを増す。

 

「馬鹿な…」

「そんな…嘘でしょ?ほ、ほら!いつもみたいにケロっとしてすぐに元気になるんでしょ!? ねぇ!?」

「………」

 

必死に訪ねて来る鈴に私は何も答えない。答えられない。

嘘だったらどれ程良かっただろう。どれ程それを望んだだろう。しかし、現実は余りにも残酷で非情であった。

 

「あ…あぁ…っ」

「セシリア!? しっかりして!」

 

セシリアが顔を真っ青を通り越し真っ白にしてくらりと立ちくらみを起こしその場に崩れ落ちた。それを間一髪でシャルロットが慌てて抱き止める。

 

「…どうしてっ!」

「ぐっ…」

 

ズカズカと私へと詰め寄り床に散乱する缶を蹴とばすのを気にも留めず一夏は感情に任せて私に掴みかかってきた。私は肩に喰い込む指の痛みに表情を歪める。

 

「どうしてだよ…どうしてそんな…!」

「そ…れは……」

 

身体を強く揺さぶられるなか私の心もまた大きく揺れていた。今更黙秘も何もない。ならもう話してしまっても…。いや、軍に属する者として上からの命令に背くような事をする訳には…。そんな対極の感情が私の胸の中で渦巻いている。一体どちらが正しいのか。もう私には分からなかった。

 

「……すまない」

 

苦悩の末、選択したのは謝罪だった。

今更黙秘する意味なんて無いだろう。しかしそうなってしまったのは私の失態。自分で犯した失態を言い訳にこれ以上命令に背くのは軍人としてあってはならない。そして何より今の一夏達の状態は危うい。何がきっかけで暴走するか分からない。今真実を教えるのは危険に思えたのだ。

 

「っ……何で…ミコトが…っ!」

 

私の謝罪に一夏はキッと私を睨むとするりと肩を掴んでいた手を解き力無くガクンと膝をつき項垂れる。そんな彼に私はもう一度「すまない…」と謝った。

周りを見渡す。皆誰もが俯き泣いていた。そんな彼らにかけてやる言葉さえ思い浮かばず、ただ謝る事しか出来ない自分の情けなさにキュッと唇を噛み震える拳を握りしめ哀しみに暮れる彼らを見ている事しか出来なかった。

 

「ねぇ…」

 

すすり泣く声で満ちる病室にぽつりと重く沈んだ声が響く。

その声の主は簪だった。私は簪に目を向けるとその表情を見てゾクリと寒気が奔った。彼女の表情からは一切の感情が感じられず、眼鏡の奥にあるその瞳は普段なら透き通る美しい紫色の輝きを放っている筈だと言うのに、その輝きは無く曇りまるで沼のように濁り私と本音を映してのだ…。

 

「本音も…?」

「っ!?」

 

凍えるような声で名前を呼ばれ膝を抱えて俯いていたのほほんさんはビクリと身体を震わせる。

 

「本音もこの事知ってたの…?」

「………」

 

虚ろな瞳でそう問われ本音はまるで怯えるように顔を背けた。

 

「ラウラさんと二人で病院に残っていたのもそう言うことなんでしょう?」

「違っ…本音は…!」

「ラウラさんは黙ってて!」

「…ぐっ!」

 

本音を庇護しようと私は割って入るが、ヒステリックな彼女の気迫に負けて私は押し黙ってしまう。

 

「可笑しいと思ってた。ミコトみたいな特殊な事情な子が更織の家の人間と相部屋だなんて偶然にしては都合が良すぎるって…」

 

一夏や箒。そして今だに気を持ち直していないセシリアを除いた代表候補生の面々が表情を強張らせる。更織の素性を知ってから誰も口にはしなくともミコトと本音の関係には疑問を抱いていたのだろう。

 

「如何して黙ってたの…? ねぇ、何でなの…?」

「………」

 

本音に視線が集まる。本音は簪に問い詰められ何も言えずに目に涙を溜めながら唯黙っていた。

何も言える筈が無い。私はずっと本音が皆に真実を告げられないのを苦しんでいるのを見てきた。本音が皆を裏切っているみたいだと辛そうにしているのを知っているのだ。そして実際にこうやって問い詰められている。

 

「っ!黙ってちゃ何も分からな―――」

「そこまでよ。簪ちゃん」

 

何時までも黙っている本音に痺れを切らせた簪が感情に任せて手を上げようとしたその時、凛としてそして冷たい声が病室に響き振り上げられた簪の手がピタリと止まる。

 

「お姉ちゃん…」

 

簪は声がした方へ振り返り声の主を睨むと憎らしそうに喉の奥底から振り絞られた声でそう呼んだ。しかし、睨まれた本人はそんなもの気にもせずに表情をピクリともさせずに受け止め向き合う。しかし、その目は肉親である妹に向けるような物ではなく、まるで機械の様な感情を感じさせない冷たいものだった…。

 

「お姉ちゃんも知ってたんだよね?」

「ええ。本音ちゃんに指示を出したのは私だもの」

 

誤魔化そうとも悪びれようともしないで更織楯無は自分が命令したと素直に認める。それが気に入らなかったのだろう簪は更にヒステリックさが増して声を張り上げた。

 

「如何して!?何で私にも教えてくれなかったの!?私だって更織の―――」

「分かってたからよ」

「…分かってたから?」

 

訝しげに簪は眉を顰めると楯無は小さく溜息吐いて頷く。

 

「ええ。こうなると分かってたから」

 

楯無はそう言って今の私達の有様を冷たい瞳で見渡す。

 

「ミコトちゃんはもう長くない。それを知って貴女…貴方達はいつも通りに振る舞えた?無理よね?ミコトちゃんを気遣って自然体で振る舞えずに居心地の悪い日常になっていたでしょう。それだとミコトちゃんの残りの人生を最悪なものにしてしまう。だから教えなかったのよ」

「そ、そんなこと…」

「あるわよね?今のこの状況こそがまさにその証明じゃない」

「それは!……と、突然知らされたから混乱して!」

「簪ちゃんは普段の本音ちゃんを見たことある?」

「…えっ?」

 

突然の質問に簪は困惑する。そんなのいつも一緒に居るのだから当たり前ではないかと思っているのだろう。話を聞いていた他の皆も似たような表情をしていた。

 

「本音ちゃん。ミコトちゃんの傍でいっつも笑顔だった。本当はすっごく辛いはずなのに…。弱音を言うこともあったけれど、ミコトちゃんの前ではそんなところ絶対に見せなかった」

 

楯無の言葉に私は思いを巡らせる。学園での日々その記憶の中の本音はいつもミコトの隣に居てどれも笑顔を浮かべていた。幾ら記憶の断片を探ってもミコトの前で悲しい表情を浮かべて所など一度たりとも無かった…。

なんて強い少女なのだろう。改めて私は思う。これまでミコトが笑って平穏な日々を送れたのは彼女の献身があってこそだと。彼女が居なければあの温かな日々は存在しなかっただろうと。

 

「突然知らされたから混乱したって言ったわよね?本音ちゃんはそんなことは無かった。ミコトちゃんの事を聞いて最初は複雑そうだったけれど、ちゃんと真実と真っ向から向き合ってこれまで頑張ってくれていた。ずっとミコトちゃんの傍で笑っていてくれた。ラウラちゃんだってそう。出会い方は最悪な形だったけれどその後はミコトちゃんのずっと傍で彼女を守ってくれていた。ミコトちゃんの事をバラしてしまう重大なミスを犯してしまったけれど、それ以上の事を彼女達はしてくれたわ」

 

楯無の私や本音に対する評価はまさに絶賛するものだった。しかし、私と本音の表情は暗い。楯無は私達を庇ってくれている様だったが、それは逆に私達にとって辛いものでしかない。幾ら言葉を並べても一夏達を騙していたのは変わりないのだから…。

 

「もう一度聞くけど貴女に同じことが出来たと思う?私は思わないわ。今のこの状況を見るとね」

「……!」

 

そう断言されると最早何も言えなくなり簪は苦虫を噛み潰した様な険しい表情で押し黙ってしまう。

 

「楯無先輩!その言い方はあんまりじゃないですか!?」

「理由を求めらてそれに応えただけなのに酷いも何もないでしょう?あのね一夏君。答えを求めてそれが自分の都合が悪かったら駄々を捏ねるのは子供のやる事よ?」

「それは!……それはわかってます。わかってますよ。嫌ってくらいに…」

 

一夏の歯を喰いしばり拳を握りしめるその姿はまるで自分を責めているかの様だった。彼が今何を思うのかそれは私には分からない。しかし、そんな顔をする彼等が責められているのをただ黙って見ているのだけなのはとても私には出来なかった。

 

「…更織楯無。それ以上はやめて貰おう。一夏達を煽る事に何の意味がある?この事態は私の愚行が招いたことだ。責めるのであれば私だけにしろ」

「ラウラちゃん…」

 

一夏の前に庇う様に立ち楯無と対峙する。

楯無の言う事は何一つ間違ってはいない。それは私も理解している。しかし、教えられずにいた一夏達の気持ちはどうなる?何の変哲の無い日常がミコトにとって掛け替えの無い僅かな時間で、なんとでも無い会話や言葉がミコトにはとても重いものだったと知らされた彼らの気持ちは?その辛さも私は理解できる。短くとも長い時間を彼らと一緒にミコトと過ごしてきたのだから。

 

「………」

「………」

 

ぶつかり合う二つの視線。互いに言葉は発そうとはしない。ただ睨み合い長い沈黙が続く。

そして、その長い沈黙が数分程経過した頃だろうか。息苦しいこの空気を破ったのは楯無の方だった。

 

「……はぁ」

 

楯無はやれやれと言った感じにため息を吐いた後、緊迫した空気は霧散して部屋中に圧し掛かっていた重圧はスッと軽くなる。

 

「…そうね。私も少し大人げなかったわ。ごめんなさい」

 

自らを省みる様に額を扇子で軽くコツンと叩くと、彼女は薄れ人形のような冷たい仮面は剥がれ今は苦笑を浮かべる。

 

「私も動揺してたみたい。楯無らしからぬ行いだったわね」

「お姉ちゃん…」

 

そう言って奴はもう一度深く溜息を吐く。頭にのぼった血をクールダウンさせているのか。奴の言う通り奴もまた冷静さを欠けていたのかもしれない。普段の更織楯無ならこんな無防備な姿を人前に晒す筈が無いのだから。

 

「確かに言い方が悪かった。でも本心であるのもまた事実よ。貴方達には本当に申し訳ないと思ってる。私も織斑先生もね」

「千冬姉?」

 

教官の名前が出てきたことに一夏が反応する。

 

「それはそうでしょう。織斑先生は一夏君のお姉さんであり貴方達の担任なのよ?貴方達が気付いてないだけで陰からずっと見守ってくれてる。そして見守ってきたから分かるの。貴方達がどれだけ苦しんでるのかも。そんな貴方達をただ見てるだけしか出来なくて自分達の無力さが悔しかった…」

 

『………』

 

全員が目の前に居る楯無を見て戸惑う。

更織楯無は素の顔を見せはしない。生活では常に生徒会長としての仮面を被っている。ふざけた様な振る舞っているが実際にはそういう風に振る舞っているに過ぎない。更織楯無が素の表情を見せたことなど殆ど有りはしない。けれど今の楯無のその表情は本当に無念そうで、普段決して見せる事は無い弱さを曝け出していたのだ。

 

「知らない苦しみ。伝えられない苦しみ。それぞれ違う苦しみを抱えてる。それを言い訳にするつもりはないわ。納得出来る筈が無いもの」

「…分かりませんわね」

「ちょっとセシリア。アンタ大丈夫なの?」

「ええ、もう大丈夫ですわ…ありがとうございます」

 

なんとか精神を持ち直したセシリアに鈴は心配して支えようとすると、セシリアはそれを手で制し自らの足で立って楯無を見据える。

 

「IS学園は中立の筈です。ですが先程から話を聞いていたらどうも貴女は…いいえ、学園はミコトを贔屓している様に見えます。生徒を守るのは学園の義務です。ですが一人の生徒に度が過ぎていますわ。確かにミコトさんはギリシャの代表候補生。他の一般生徒とは違って特別です。ですがミコトさんは何かしらの問題を抱えているのを学園は理解していたご様子。そんな人間を学園が受け入れるのはとても考え辛いですわ。政府から圧力が掛かっていたとしても入学前から学園に住まわせると言うのは他の国からの見れば贔屓しているように見えます。それはもう中立とは呼べないでしょう」

「そう、だよね…。僕も学園に守られている立場にあるけど、それはあくまで規則でそうなっているからと言う理由であって積極的に学園が庇ってくれている訳じゃないのに…」

 

セシリアの疑問も当然だった。楯無の説明を聞けば誰もがミコトが特別扱いされていると思うだろう。それは多くの生徒が通う学園の中で一人だけ特別扱いすると言うだけで教育機関的に問題はあるが、世界各国から推薦された生徒が集まってくるIS学園では国際問題にもなりかねないのだ。そんな危険を冒してまでミコトを贔屓する意味は何か。セシリアはそれを問うていた。

 

「もちろん反対する声は多くあったわ。学園に何のメリットもないもの。それどころかデメリットしかない」

「では何故?」

 

セシリアは更に踏み込んで問い詰める。ミコトの詮索は禁じられているのを承知のうえでだ。

再び沈黙が訪れる。セシリアはじっと楯無を睨みつけて返答を待った。

 

「……分かったわ。話しましょう」

 

…そして、暫し黙り何かを考える素振りを見せた後、楯無はセシリアの要求を了承した。

 

「お、お嬢様!?」

「おい。それは!?」

 

黙って見ていたが流石にこれには私や本音も驚いて口を挟んだ。自分が言えた立場ではないが暗部の人間が機密情報を進んで漏洩させるなど何を考えているのだ。

情報を漏らした者は当然罰せられ、情報を知った者も制約を課せられて自由を奪われる。最悪消されてしまう可能性だってあるのだ。セシリア達代表候補生はともかく一夏や箒と言った一般人にそれがどれだけ重大か分かってはいない。

 

「でも話は学園に戻ってからよ。ここだと何処に耳がある分からないから」

「あっ、おい!待て…!」

 

楯無は聞く耳を持たずで病室を出て行き。セシリア達もその後を追って出て行ってしまう。

 

「あう~…いっちゃったよ~…」

「ああっ!くそっ…!」

 

唖然と本音は部屋を出ていく彼等を見送り、部屋に取り残された私は頭を抱えて悪態をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第65話「真実」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

学園に戻って俺達が連れて来られたのは生徒会室だった。

窓から見える外の景色は既に陽が落ちて真っ暗で校舎も皆既に下校したのか不気味なくらいに静まり返っていた。

 

「これでよしっと…」

 

生徒会室に入って早々に楯無先輩は窓のカーテンを閉じ出入り口のカギを閉めて外部から生徒会室を完全に遮断した。俺たち以外の人間に話の内容を聞かれないためだろう。今の学園が酷い混乱に陥っている。楯無先輩がこれから何を話すのかはまだ分からないがミコトの寿命の事を知られればどうなるか分からないのだ。

 

ミコト…。

 

ミコトの寿命は短い。それを知らされて俺はいまだに信じられないでいた。いや、正確には信じたくなかった。一緒に生徒会室まで来た皆の表情も浮かないものできっと同じ心境なのだろう。

 

「…うん?どうしたの皆。ほら座って座って。あっ、虚ちゃんお茶お願いね」

「畏まりました」

 

立ち尽くす俺達を楯無先輩は座る様に促した。ケラケラと笑う楯無先輩はいつもの調子に戻っているように見えたが、やはりその笑顔は何処か固くいつもの完璧な生徒会長を演じ切れていない様に思えた。

少しして虚先輩が紅茶の入ったティーカップを人数分トレーに乗せて戻ってきた。丁寧にテーブルの上に並べられるティーカップ達。それが全て並べ終えると虚先輩も「どうぞ」と俺達を椅子に座る様進めてくると、そこで俺達は漸く椅子に座り不満そうにしていたラウラも椅子に座った。

 

「…さて、何処から話したものかしら」

 

全員が座るのを確認すると楯無先輩はそう話を切り出した。

 

「……本当に教えるつもりか?」

 

いまだに納得していない様子のラウラがそう訊ねる。隣に居るのほほんさんも不安そうな表情だ。

 

「ええ。それにここまで知ってしまったのならもう全て話してしまった方がマシでしょう。何も知らず終りを迎えるよりかは…ね」

 

楯無先輩の言葉に全員の表情が曇る。

『終り』。その言葉の意味は何を指しているのか俺でもすぐに分かった。その言葉がミコトの『死』を意味する事を…。

 

「勿論知る以上はそれ相応の制約は課せられる事になるわ。それを覚悟して上での要求よね?」

「当然ですわ」

 

目尻を釣り上げ鋭い視線で俺達を見回して楯無先輩はそう問うと、楯無先輩の真正面に座っていたセシリアは真っ向からその視線を受け止めて迷いの無い顔つきで力強く頷いて見せた。それに続いて俺達も同じような面持ちで頷く。

 

「どうかしら?彼等はそう言ってるけど?」

「………」

 

楯無先輩の言葉にラウラは険しい表情を浮かべて暫し沈黙した後、ギロリと効果音が付きそうな程に鋭く俺を睨んできた。

 

「…一夏」

「な、なんだよ?」

「これから知る事は糞みたいな現実だ。現実はどうしようもなく理不尽で、抗えなくて、逃げたくても何処までも追いかけて来る。それでもお前は知りたいか?」

 

紅く輝く眼光が俺を射貫く。深紅の瞳は押しつぶされてしまいそうと錯覚してしまう程の気迫を放っていて、俺は思わずその瞳から目を逸らしそうになるが歯を喰いしばりぐっと耐える。ここで目を背ければラウラは決して認めてはくれないだろう。目を背けずにまっすぐラウラを見て俺は俺は意思を伝えた。

 

「ああ、知りたい。それがどんなに残酷な現実でも、知らなくて後悔するよりずっと良いと思うから…」

「…そうか」

 

俺の言葉を聞いてラウラはそう一言だけ返すと俺から視線を外して目を瞑り黙ってしまった。

 

「ラウラ…?」

「私はもうこれ以上何も言わない。好きにすると良い」

 

戸惑う俺にそう言うと今度こそラウラは何も言わなくなってしまった。

 

「さ・て・と、ラウラちゃんも文句無いみたいだし……話そっか」

 

楯無先輩の表情から笑顔が消える。

異議を唱える者は誰も居なくなった。それを確認すると楯無先輩は遂にミコトの隠されていた真実を語り始めた…。

 

「始まりは何時からなのか…。私からすれば去年の12月だけれど、ミコトちゃんからすればもう少し前かしら」

「12月…所属不明のISが学園に墜落してきた事件ですわね?」

「あら?知ってたの?」

「はい。黛先輩から教えていただきました」

「そっか薫子ちゃんから聞いたんだ。まぁ去年からいる生徒は皆知ってるからね」

「えっと…その所属不明機が墜落してきた事件って言うのは?」

 

セシリアと楯無先輩だけで話が進んで知らない俺達は置いてけぼりになってしまっている。一体その墜落事件と言うのは何なのか。ミコトと何が関係していると言うのだろう?

 

「去年の12月、IS学園に所属不明のISが学園のグランドに墜落すると言う事件があったの。表向きはとある国による新型機の性能テスト中に起きた事故と言うことになってるけれど真実は違う。本当は亡命するためにIS学園に逃げてきた機体とそのパイロットが力尽きて墜落したの」

「亡命って…」

 

いきなりきな臭くなってきた。しかし、この場でそんな話をするということはその機体に乗っていたパイロット言うのは…。

 

「そのパイロットってまさか…」

「もう想像はついてるんじゃない?そう、その所属不明機のパイロットはミコトちゃんよ」

 

明かされた秘密に俺達はやっぱりそうだったのかと思うと同時に困惑する。

 

「…聞いた話ではミコトも去年の12月頃からIS学園に滞在していたと聞く。確かに今の話と照らし合わせると辻褄が合うが…」

「でも亡命って…。ミコトはギリシャの代表候補性なんでしょ?なんでアイツそんな大それた事したのよ?」

 

鈴の疑問は俺達全員が抱いたものだった。

ミコトはギリシャの代表候補に選ばれるほどの人間だ。そんなミコトが亡命? 一体何があってそんな事になったのか。明かされる情報に謎はが解けるどころか深まるばかりだ。しかし、次に楯無先輩から告げられた真実に全員が驚愕することになる。

 

「ミコトちゃんはギリシャの代表候補生じゃないわ。それどころかギリシャの国籍すら持ってないの」

 

『なっ!?』

 

ミコトがギリシャの代表候補生ではなかった。その事実に俺達は言葉を失う。

ミコトの素性は謎ばかりで俺達はミコトについて知っている事はほとんど無い。しかしその実力は本物でミコトが代表候補生だと言うことを誰も疑いもしなかった。

だがミコトは代表候補生ではなかった。ギリシャの国籍すらも無かった。俺達が知るミコトの情報は偽りで。なら、ミコトは何者なんだ…?

 

「ミコトちゃんが何者なのかって顔ね。まぁそう思っても無理もないわ。…ここからが本題」

 

楯無先輩は生徒会長用の立派な造形をした机の引き出しから何やら封筒を取り出すとそれを俺達の前に置いた。自然と俺達はその封筒に視線が集まる。余程大切な物が入っているのか厳重に封をされている。

一体これは何なのか。訝しげに目の前に置かれたソレに首を傾げると、楯無先輩は話を続ける。

 

「『白騎士事件』以来、世界はISの存在に釘付けになった。どの国も他国よりも優れたISを開発するために莫大な金と労力をつぎ込んだ。あらゆる研究が行われ、あらゆる技術が生み出された」

 

皆それぞれ待機形態になっている自分のISに視線を落とした。どの機体も特色を持ち独自の技術で造り上げられたものだ。

 

「多くの国々がISの開発に躍起になってる中、ある国はISの開発ではなくISに搭乗するパイロットの研究に焦点を当てたわ。その国の名前はギリシャ」

 

ギリシャ。ミコトの故郷と言うことになってた国だ。楯無先輩はミコトはギリシャの出身であることを否定したが、やはりギリシャが深く関わっていると言う事か…。

 

「ギリシャの技術力は他の国と比べて劣っていた。ISの開発なんて到底無理だった。だからある科学者がこう提案したの。『だったら最強のISではなく最強のパイロットを生み出せば良い』って…」

 

ドクンッ…。

 

『最強のパイロット』。その響きに嫌な胸騒ぎを覚える。

最強のパイロットと言われて誰もが最初に思い浮かべるのはモンド・グロッソ優勝を果たした織斑千冬だろう。だが、この時の俺は思い浮かんだ千冬姉の顔が何故かミコトと重なって見えたのだ。

 

…なんだ?この嫌な感じ…。

 

胸の中がざわざわして気持ち悪い。如何して千冬姉とミコトの顔が同時に思い浮かんだ…?

 

「最強のパイロットなんてポンポン生えて来るものじゃない。厳しい訓練の末にやっと一人前のパイロットになれるの。勿論才能にだって左右される。だったらどうやって最強のパイロットを生み出せば良い?彼等が考えた末にある計画を立ち上げたわ。その計画の名前は『クローン計画』」

 

ドクンッ…。

 

『クローン』と言う単語に胸のざわめきが更に増す。

 

「そう、彼等が出した答えは簡単―――」

 

楯無先輩は封筒の封を開けて勢いよく逆さまにした。

封筒からバサバサと落ちて散らばる無数の書類と写真。その偶然俺の目の前に落ちてきた2枚の写真に俺は手を伸ばす。

 

ドクンッ…。

 

……………え?

 

ドクンッ…。

 

心臓の音が五月蠅い。呼吸が乱れる。手の震えもやばい…。

 

ドクンッ…。

 

何だ?何でなんだ…?

 

脳が理解を拒んでいる。目に映るものが信じられなかった。何故なら手に取った写真に写っていたのは…。

 

ドクンッ…。

 

「―――最強のパイロットの遺伝子からクローンを生み出せば良い」

 

千冬姉とミコトだったのだから…。

 

バンッ!!

 

「なんだよこれ!?」

 

写真を怒りに任せて机に叩きつける。

何だこれは?こんな非人道的な事が許されていいのか?しかも、よりにもよって千冬姉の遺伝子を使ってこんな事を…!

 

ふざけるな…。ふざけるなふざけるな…!!

 

「見ての通りよ。クローンの素体となったのは貴女の姉である織斑千冬。そして、その遺伝子で生まれたクローンがミコトちゃんなの」

「ざけんなっ!こんな事許されていい訳が…!」

「待って一夏さん。まだお話は終わってませんわよ」

 

興奮する俺を止めたのはセシリアだった。

セシリアは…いや、よく見れば俺を除いた皆は俺とは反してとても冷静な様子で話を聞いていた。ミコトがクローンだったと言う事実に全く動じていないかのようだった。

 

「…皆は予想は出来てたみたいだね?」

「そんな予感はしてはいました。信じたくはありませんでしたが…」

 

箒はなんとか声を振り絞って答える。

膝の上で握りしめられていた拳はふるふると怒りに震えて今にも爆発しそうな感情をなんとか抑えているように見えた。

 

「もしかしてって予想はしてたけどね…」

「うん。当たって欲しくなかったけど…」

 

鈴達もミコトがクローンである事を疑念を抱いていたと言う。しかし言葉に反してその表情はそうであった欲しくなかったと悲痛なものだった。

 

「一夏君だって違和感を感じた時が何度もあった筈よ?」

「それは…」

 

無いと言えば嘘になる。今までにミコトの容姿に関して違和感を感じたことは何度かあった。でもそれはきっと気のせいだって…。

 

「そんなはずないって無意識に目を背けてたんじゃない?」

「っ!?」

 

楯無先輩のまるで俺の心の中を見透かしているような指摘に心臓が跳ね上がる。

 

「…楯無会長。話が逸れていますわ」

「あら、ごめんなさい」

 

セシリアが話を戻すように要求する。セシリアは「いいからさっさと話せ」と言わんばかりに鋭く楯無先輩を睨んでいたが、楯無先輩はそれを華麗にスルーして話を戻す。

 

「さっき一夏君が許されないと言ったけれど。勿論許されなかったわ。内部の人間がこの計画の情報をリークしたの。世界はその真偽とその計画の即停止を要求した。ギリシャ政府は計画の存在を否定。証拠隠滅ためクローンを製造していた研究所をその研究所に居た研究者やクローン達諸共地図から抹消した」

「抹消って…」

「ええ、察しの通りよ。クローン計画に関わる者は全て……殺された」

 

『………っ』

 

殺された。その言葉に全員が顔を顰める。確かに人の道を外れた研究をしていたとしても、人が死んだと言う事実は聞いていてあまり気持ちの良いものではなかった。

 

「あれ? ち、ちょっと待ってください。クローンも全て殺されたんですよね? ミコトは? ミコトは生きてますよ?」

「研究所襲撃の混乱に乗じてリークした人間がミコトちゃんをイカロス・フテロに乗せて逃がしたのよ。……自分の命と引き換えにね」

 

そこで楯無先輩が話を始めてから初めて感情を露わにした。彼女は哀しそうにリークした人間の死を悼んでいるようであった…。

 

「…そのリークした人って何者なんですか?」

「君達もよく知ってる人物よ」

 

楯無先輩の返答に訝しんだ。俺達が知っている人物…?

 

「…クリス・オリヴィア」

 

『っ!?』

 

楯無先輩から告げられた名前に全員が目を見開き耳を疑った。

俺達はその名前を耳にしたことがある。ミコトがよく嬉しそうに語っていた人物の名前で…。そして、ミコトの母親の名前だ…。

 

「それって…!?」

「うん。ミコトちゃんのお母さんよ。彼女はクローン計画に関わる研究者でミコトちゃんを監視員を担当していたの。ミコトちゃんと過ごしていく内に彼女は自分のしている事に疑問を抱くようになった。このままで良いのか。クローンの寿命は短い。このまま研究所に居てもミコトちゃんは短い人生を実験のためだけに利用されて死んでいくだけ。この子の人生をそんな無価値ものにして良いのか。彼女は悩みに悩んだ末、彼女を研究所から逃がす計画を企てた。そして、その計画の際に彼女はミコトちゃんを逃がすために命を落とした…。彼女は最後の別れ際ミコトちゃんに自分が迎えに来るまで研究所には戻ってくるなと言ったそうよ。たぶん自分の死を悟らせないために嘘を吐いたのね。ミコトちゃんに最後まで笑っていて貰うために…」

 

そう言って楯無先輩は悲しそうに目を閉じた。死んだミコトの母の冥福を祈る様に…。

 

「なんで…何で一緒に逃げなかったんですか?ISなら一人くらい抱えて逃げることぐらい…!」

「少しでもミコトちゃんの生きれる可能性を増やす為よ」

「どういう事ですか?」

 

分からない。ミコトを良く知っているのなら自分が死ねばミコトが悲しむことぐらい分かっていただろうに。

 

「…もし、仮に彼女がミコトちゃんと一緒に脱出してIS学園にたどり着いたとしましょう。その場合、絶対に学園は二人を受け入れなかったわ」

「ど、どうしてです!?」

「ミコトちゃん一人でも問題なのに非人道的な計画に関わっていた研究者なんて受け入れる訳ないじゃない」

「ぐっ…」

 

何も言い返せない。楯無先輩の言う事は全て正しく合理的だった…。

 

「彼女はそれも見通して自らの死を選んだ。すべては愛する娘の為に」

 

ミコトの母親の死に様に俺達は哀しむ当時にその母親としての強さに目頭が熱くなる。自分の娘の未来のために自らの命を投げ捨て、自分の娘の笑顔の為に自らの死を隠した。なんて…なんて強い人だろう。

クリス・オリヴィア。彼女は間違いなく母だった。血は繋がっていなくとも彼女はミコトの母親だったのだ…。

 

「彼女は非人道的な研究に携わっていた研究者かもしれない。けれど彼女は確かにミコトちゃんの母親だった。娘の幸せを願って自分の命を省みずに娘を自由な空へと逃がしたの」

 

ミコトの母親の死がどうして死んだのか。それがずっと気になっていた。でもまさかこんな悲劇が起こっていただなんて…。

 

「研究所から脱出した後ミコトちゃんはIS学園に向かった。この先はさっき話したわね」

 

ここからの所属不明機墜落事件に繋がるわけか…。

 

「グランドに墜落したミコトちゃんをIS学園は保護したけれど直ぐに問題が発生した。ミコト・オリヴィアの処遇をどうするかという問題がね」

「まぁ、亡命なんてしてきた人間を中立のIS学園が受け入れる訳ないわよね…」

 

鈴の言葉に楯無先輩は「ええ」と頷く。

 

「ミコトちゃんに処遇について会議は揉めに揉めたわ。当然反対の割合の方が多かった。だけど簡単のミコトちゃんを学園から放り出す訳にもいかなかったのよ」

「ミコトの生い立ちが特殊だからですか?」

「組織なんて物はそんな情が溢れる場所じゃないわ。たった一人の人間の為に組織を危険に晒す事なんてしない。問題がミコトちゃんだけならとっとと見捨てたことでしょう。でもそれは出来なかった」

「それは何故です?」

「ミコトちゃんが乗ってきたIS。イカロス・フテロがあったから。これがあったから委員会はおいそれと処分が下せなくなってしまったの」

 

イカロス・フテロの存在が委員会は処分を下せなくなった?イカロス・フテロの所有権はギリシャにあるのだから返却して終りなのではないのか。そう俺は思ったのだがそうなると今ミコトが所有しているイカロス・フテロは何なのかと言う話になってくる。一体どんな問題が発生したのだろう。

 

「イカロス・フテロはギリシャに返せばいい話じゃないんですか?」

「そう言う単純な話では無いの。今現在ISは467機存在していて各国平等に分配されて、それはそれぞれの国によって管理されているわ。そして、その管理・運用がアラスカ条約に反していないか監視するのがIS委員会。此処までは授業で習ったわね?」

 

全員が頷く。

 

「では、何故その国に管理されている筈のイカロス・フテロがIS学園にあるの?それはイカロス・フテロが盗まれたと言う証明に他ならないわ」

「あっ…」

 

そこで俺は理解する。

 

「分かった?そう、ISが盗まれたことを認めると今度は管理責任能力が問われてしまうの。そうなればその国が所有しているISの所有権すらも取り上げられてしまうでしょうね。だからギリシャはイカロス・フテロの受け取りを拒否したの。それにイカロス・フテロのパイロットはミコトちゃんに設定されてる。ギリシャはクローン計画の存在を否定しているため、仮にイカロス・フテロを受け取った場合クローン計画の存在を認めてしまうことになるの」

 

そうか。だからギリシャはイカロス・フテロを何が何でも受け取る訳にはいかなかったのか。受け取った場合国の立場が底辺に落ちてしまうから…。

 

「委員会がイカロス・フテロを返却しようとしてもギリシャは断固としてそれを拒否。ISの処遇が決まらないためそのパイロットの処遇も決まらずに会議は停滞したわ。でも、そこに現れたのは織斑千冬だった」

「千冬姉!?」

 

突然出てきた姉の名前に俺は驚いた。

 

「ええ、一夏君のお姉さん。彼女は会議室に突然現れてこう断言したそうよ『私が全責任を取る』って」

「千冬姉が…」

 

千冬姉がミコトを庇ってくれた。その事実に嬉しくて堪らなくなり思わず笑みをこぼしてしまう。やっぱりあの人は世界一の俺の自慢の姉だ。

 

「幾ら元ブリュンヒルデとは言っても今は一介の教師。そこまでの発言力は無いわ。でも後ろ盾に理事長先生。あともう一人とんでもなく意外な人物が出てきたの」

 

意外な人物。誰だろうと首を捻っていると楯無先輩の視線は箒へと向けられる。え?いや、まさか…。

 

「篠ノ之束。箒ちゃんのお姉さんね」

 

『ええーっ!?』

 

本当にとんでもない人物の名前にラウラやのほほんさんを含めた全員が驚きの声を上げた。

 

「ああ、この話は本音ちゃん達にもしていなかったわね」

「聞いてないよー!」

 

ぶんぶんとだぼだぼな袖を振り回して抗議するのほほんさん。どうやらこの話はラウラやのほほんさんにも知らされていなかったらしい。

 

「ていうかあり得ないよ!アイツがそんなことするなんてー!」

「まったくですわ!あんな外道がそんなことする筈がありません」

「ああ!あの人が他人の為に動く筈が無い!」

 

酷い言われようだ。しかも身内である箒にまでこんなこと言われるとは…。束さんが聞いたら泣きそうである。

まぁ、意外と言うのは俺も同意する。あの人は『他人』には好きとか嫌いとかではなく無関心なのだ。関心を持たないから何もしない。興味も無い。そんな束さんがミコトの為に行動を起こしたのは驚きだ。

 

「私も驚いたわ。篠ノ之博士の性格は私も耳にしていたから。でも事実よ。彼女は会議室に乗り込んでこう言ったの『認めないと全てのIS爆破しちゃうよー?良いのかなー?』ってね」

 

『うわぁ…』

 

束さんの発言に全員がドン引きした。

25にもなる大人がなんて子供染みた脅し文句だろう。しかしあの人ならやりかねない。ていうか絶対にする。

 

「流石にそんなことされたら堪ったものじゃないと委員会もミコトちゃんの保護する事を決定。こうしてミコトちゃんは正式にIS学園の生徒になったと言う訳」

 

ミコトのIS学園入学にそんな秘話があったとは…。

 

「でも、どうして千冬姉はそんな無茶をしたんです?」

 

自分のクローンなんてあまり気持ちの良い物じゃ無い筈なのに、如何して自分の立場を危うくしてもミコトを助けたのだろう?

 

「…あの人にも色々思うところがあったんでしょう。それに、託されたから」

「託された?」

 

彼女は頷く。そして机の引き出しから一枚の便箋を取り出して本当に大切そう丁寧に取り扱いながら俺にそれを渡してきた。

 

「クローン計画の情報と一緒にクリス・オリヴィアがミコトちゃんに渡した手紙があるの。それがその手紙…」

 

―――この子を 守って。

 

その手紙にはたった一言だけそう書かれていた…。

 

「これは…?」

「クリス・オリヴィアが残した手紙よ」

 

何度も何度も書き直した跡がある。それに、この染みは…きっと涙の跡だ。

 

この手紙を見るだけでミコトのお母さんの手紙を書いてる姿を思い浮かべる事が出来る。きっと書きたいことが沢山あったんだ。もしかしたらミコトに遺したい言葉もあったのかもしれない。どんなに言葉を並べても足りなくて…。辛くて、悲しくて…。

だから、願いだけ言葉を記したんだ。ミコトを助けてほしいと…。

 

手に水滴が落ちる。何だと思い顔に手を触れると俺は涙を流していた…。俺だけじゃない。皆も泣いていた…。

 

「すごいよね。たった一言だけなのに、この人がどれだけミコトちゃんを愛していたのかが伝わってくる。私も織斑先生も本音ちゃんもラウラちゃんもこの手紙を見てしまった。そして託されてしまった。だから自分が出来る事ならなんだってするし、してみせる」

 

それを聞いて今までの彼女達のしてきた事を思い出していた。どれもミコトに思い出を作ってあげようと努力していた。どれもミコトを守ってみせると努力をしていた。今思うと彼女達の異常なまでにミコトに尽くしていたのはそう言う事だったのかと納得出来てしまう…。

 

「貴方達には本当に申し訳ないと思ってる。何も知らない貴方達に辛いものを背負わせてしまって…」

 

辛かった。何も知らないのが辛かった。

でも、俺達は知ってしまった。クリスさんの願いを、想いを…。

 

「もうミコトちゃんの命は短い。最初は寿命も3年の予想だった。でも度重なる事件でそれも一年、そして更に短くなってしまった」

 

脳裏にあの激しい戦闘の光景が浮かぶ。あれがミコトの寿命を縮めたのだ…。

 

「どうする事も…出来ないんですか?」

「…出来ない」

 

もう残された時間は少ない。その残酷な事実に心が折れてしまいそうになる。でもそれはもう許されない。俺達は知ってしまったから…。

 

「だからお願い。最後にミコトちゃんが笑って逝けるように、幸せだったと言えるようにしてあげて…」

 

彼女は頭を下げてお願いする。俺達は頷く事しか出来なかった。

 

俺達に一体何が出来る?何をしてやれる?思い浮かべる事出来たのは、それは最後まで笑顔で居よう。そして最後は笑って見送る。それだけのことだった…。

 

それは諦めかもしれない。でも俺達が最後にしてやれることはこれだけしか残されていなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ミコトの容態は危険な状態が続いて面会は今後も許されることは無かった…。

 

 

 

ミコトが学園に戻らぬまま日々は過ぎていった…。

 

 

 

そして、運命の日。キャノンボール・ファストの日がやって来たんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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