この日の川神の空はとても澄んでいた。文句の言いどころもないほどの晴天だった。冬も終わり春に入ったことを教えてくれるような暖かさ、そのまま横になっていると眠くなって寝てしまいそうだった。
そんな晴天の中『武神』こと川神百代はいつもの通学路の途中にある川原で寝転がっていた。
「あー暇だなぁ。最近骨のある挑戦者も少なくなってきたし…退屈だぁぁ。今日に限って大事な客人来るとかでジジィも戦ってくれないし…。そうだ!弟でも誘って遊ぶかな♪」
この最強たる『武神』が最強だからこそ孤独の道に進まずにいられるのは、弟こと直江大和やそのほかのメンバーを含む風間ファミリーによる精神的支えが大きい。
なぜ彼ら風間ファミリーがこの川神百代といつも一緒にいるかというと…それはまた機会がある時に話すとしよう。
風間ファミリーは百代を除く全員が同学年であり、今年中学校を卒業したばかりである。つまりこの物語の主人公である零斗とは同学年ということになる。
しかし百代だけは皆よりも1つ年上で既に高校1年生というわけである。
その年にして既に『最強』という文字を持て余している時点で実力の高さを物語っていよう。
ちなみに風間ファミリーの皆は既に百代と同じ川神学院に入学する予定である。
prrrrprrrr
「なんだよ、こんな時に限って弟出ないじゃないかぁ…。うぅー!暇だぁー!!…まぁいいや、このまま一眠りしてからうちに帰るかなぁ」
そういって百代はそのまま目を閉じ夢の世界へと旅立っていった。
一方川神院では―――
とある一室にて川神院総代である川神鉄心と自分のチカラについて学び、そして扱おうとする少年久良零斗が話合っていた。
「いいか久良零斗、お主のチカラの正体がわかった。よく聞いておれよ。」
「わかりました。どんなチカラであろうと扱って見せますよ」
そういうと零斗は決して本物には程遠いが限りなく近い笑顔を鉄心に向ける。
「うむ、いつかそれも治るといいのじゃが…では伝える。お主のチカラの正体はのぉ
気じゃ。」
「…気…ですか?」
鉄心は頷く。
零斗も武を学んでいるだけあって多少なりの気の応用は出来た。
それに気というものがどういうものかもよく理解していた。
だからこそ零斗には自分のチカラの正体が気だとは理解出来なかった。
通常気は壁を越えたものが使っても気絶まで追い込むだけで人を殺すなんてことは不可能である。
そう考えた所で鉄心はさらにこう言った。
「恐らくお主が考えている通り普通に気は体や道具、技などに纏わせて攻撃することは出来るが気のみで人を殺めるなんてことは到底できはせんのじゃ。」
「で、ではどうして僕はそんな気で…人を絶命にまで追い込むことができたんですか。」
そういうと鉄心は考え込み何かを己の中でまとめたのかまた喋り出した。
「そうじゃ、わしもそこが疑問だったのじゃがのぉ…もしかしたらお主の気は普通の気とは違うのかも知れん。」
「普通の気とは違うって…それはどういうことなんでしょうか。」
「うぅむ…わしもハッキリとしたことは分からんが恐らくお主の気は何かに纏わせて使われるような普通の気とは違い、気そのものが攻撃手段となるほど危険な物なのかも知れん。もしくはさっきまでここにいた京極のように、言葉に気を載せただけで人の命を絶やすことが出来るかも知れんのじゃ。それにお主の気は…気だけで言えば既にわしらの様な壁を越えたものの匹敵するレベルじゃ。」
「それは本当ですか?」
「ここで、わしが嘘を付くように見えるかのぉ?」
「いえ、そういうわけではありません。あくまで最終確認なだけです。」
本来であればこの様な事を聞けばいかに自分の持っているチカラが特殊で強大で凶悪な物かを知るだけで人は混乱するだろう。
だが彼だからこそ、感情を失った零斗だからこそ平然とそのまま聞き認めることが出来たのかもしれない。
強さを求める人物がこれを聞いたらどれだけ羨むことだろう。
これを聞いてどれだけの人が僕を化け物だと認識するのだろう。
そしてどれだけの人間がまた僕の前から去っていくのだろう。
感情を失った彼が考えても無駄だった。
どれだけ考えようと分からない。理解できない。
そんな壁にすぐにぶつかってしまうのだ。
そして彼は分からないこそすぐに切り替えた。
「鉄心さん、いや川神院総代川神鉄心様…僕に…私にこの気の扱い方を教えてください。」
彼はそう言うと鉄心に頭を下げた。
一室がまた静寂に包まれる。
「うむ。そういう約束じゃからこのわしが直々に気の扱い方を教えるとしよう。だが一つ条件がある。」
「条件、ですか?」
「そうじゃ、この気については今後扱えるようになるまで一切他言無用。そしてこれからは一人の門下生としてこの川神院に住んでもらう。例え気の扱い方を覚えたとしても体の基礎が出来ていなければ元も子もないからのぉ。ほっほっほ。」
そういうと鉄心の険しい表情はまるで孫を見るかのように優しい表情へと変わって行った。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします!」
「うむ、では早速じゃがこのメニューを今からこなしてくるのじゃ。」
「…ハハハッ、鉄心さんも人が悪い(笑)」
そう言いまた作り笑いを浮かべた。
「ついでにじゃがこれは川神院総代としてではなく一人のジジィとしての言葉じゃ。きっとこの町にはお主を良くか悪くか必ず変えてくれる。だから精一杯頑張るのじゃ。」
「はい、僕もきっとそうなると信じています。」
この時ばかりは鉄心にも彼の言葉が本当なのかどうかは分からなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
prrrprrrprrr
ピッ「ん~もしもし~?」
『もしもし?姉さん今何してんの。』
「何って昼寝してただけだぞ~」
『昼寝って…昼に電話かけてたみたいだったけどもしかして特に用事もないのにかけてきたの?』
「まぁな~、ふぁ~~」
『ったく、人は入学用の課題を進めてるって時に姉さんときたら…まぁ用事ないんだったら切るよー』
「いや待て弟」
『…なんだよ姉さん。』
「用事なら今できたぞ♪」
『えっ…ま、まさか…』
「そのまさかだ♪今からちょっと遊ぶぞ♪」
『えっうそっ嘘だよね?姉さん?え?マジ?嘘でs(ピッ』
「さ~ってと!晩飯前にちょっと軽く動いてきますかねっと!」
そう言って百代は走り出していた。
トットットット
「何だったんだ今の人。すごいジャンプ力だなぁ。」
そう言って夕ご飯前のランニングに勤しみながら零斗の中で百代の第一印象は「すごいジャンプをするお姉さん」という微妙なものに決まったのだった。
勿論そのあと先に帰ってきたワン子こと川神一子が新しい家族にびっくりしたことも百代が零斗を新しいオモチャに定めたことも言うまでもない。
チカラの正体は精神的に効くものにしたかったのですが言霊も既に他の方が使ってますしそう考えたら『気』これしか出てきませんでしたw